番外編~在りし日の彼ら~
第43話不快な朝
ジリリリリリリリ!!!
その日の朝は爆音から始まった。
「……ん?……え?え?……なにっ!?」
リリリ……ガチャ!!
頭に割れるような音の正体はやっぱりと言うべきか目覚まし時計。それを横で眠っていた男が寝ぼけながらも時計を止めているのが目に映った。
(うっ!頭が痛い。あの不愉快な目覚まし時計の音のせいだわ)
寝起きにあの音はキツイ。
しかも彼女は昨夜の酒が残っていたせいか余計にだろう。
「あ……ごめんごめん。って……君、まだいたんだ」
隣の美男子は何気に失礼な事を宣った。
「え?」
「あれ?もしかしてまだ酒が抜けてないのかな?こんな時間だしな」
こんな時間とは言うがまだ朝の六時である。
「君、今すぐ着替えてさっさと帰ってくれる?」
「え?今すぐ?」
「うん、だってもう用はないでしょ?なら帰って」
彼は爽やかな笑みを浮かべているが、言っている内容は中々に酷い。夜を共にした相手にかける言葉とは到底思えない。昨日の甘い夜は一体何だったのか。
(はっ!? 急に何なの?一夜明けてこれ?)
彼女は理解出来なかった。
眠気など吹っ飛んだ。
人気絶頂の女優である自分にこのような態度を取る男は初めてだったのだ。
「あのさぁ、人の話聞いてた?さっさと出て行けって言ってんの。邪魔だからさ。俺もシャワー浴びて……いや、その前にこの部屋の空気の入れ替えしねぇと。あんたさ、その無駄にキツイ香水は止めといた方がいい。萎える」
「は?」
更に酷い一撃である。
女優の彼女はとことん自分の美貌と魅力を自覚していた。そしてそれらを武器にしてきた部分もある。そんな女性に向かって放った言葉は侮辱の一言に尽きた。
(ふ、ふざけないでよ!)
彼女が怒るのも当然である。
その日の着る物に合わせて香水を選んでいるのだ。それこそ細部にまで拘ってコーディネートしている女にダメ出ししたのである。
まあ、昨日の香水が刺激の強いものであったことは認めよう。それでも男とそういう雰囲気になることを想定しての判断だ。それがこうも裏目に出ようとは彼女自身想定していなかったに違いない。
傍にいる女の怒りを全く理解しない男はある意味強い。
この殺伐とした雰囲気に気付くことなく女を放っておいてシャワー室に入ってしまった。それが更に女の怒りポイントだとも知らずに。
双方がシャワーを浴び、身なりを整え終わった頃だった。
コンコンコン。
部屋のドアを叩く音が聞こえた。
そして、それに過剰に反応するロイドに女性は逆に驚いた。
(え?彼、誰かと住んでいるの?)
焦るロイドの姿はまるで浮気がバレた男そのものだった。
(ちょっと聞いてないわよ!恋人がいたの?!うそでしょ?!)
すわ修羅場か!!――――と女性が思った瞬間だ。
「おはよう、ロイド。起きてる?」
「お、お、起きてる!マスミ!ど、どうして?」
「うん、ちょっと早く帰ってこれたんだ。連絡はしたんだけど、ロイド全然でないし」
「えっ!? ちょ、ちょっと待って確認する!!!」
慌ててスマホを確認したロイドだった。
(あーーー!!電源切ってんじゃねぇか!!何やってんだよ僕は!!!)
「ごめん!電源切れてた!!」
「そうみたいね。お客さん来てたみたいだから僕も声かけなかったんだ」
「ごめん!!」
「そんなに謝らなくても大丈夫だよ。それよりも朝食どうする?」
「勿論食べるよ!!」
「わかった。お客さんはどうする?一緒に食べるのかな?もしかしたら、と思ったから今日は大目に作ったんだけど……」
「ああ、かえ…「お願いします!!」……て」
「わかりました。じゃあ準備しておきますからきてくださいね」
そう言って扉越しに会話していた相手は離れていったようだ。声からして男だ。恋人の可能性は消えた。
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