第42話交換留学6

 真澄の話を聞き終えたイートン校の教員たちは、後悔した。とてつもなく。それはそうだろう。「食中毒で相手を殺す」と宣言されたようなものだ。しかも改良するとまで言われた。


(((((恐ろしい。魔改造を得意とする国民性だ。きっと数年もしないうちにあの狂気の料理を見た目素晴らしい代物に変えているはずだ。ど、どうしよう……)))))


 教師と生徒の心は一つになった。

 そしてそれは確実な未来でもあった。


 だがそれ以上に恐ろしいのはニコニコと笑顔で告げる目の前の日本人だ。「ロイドは紳士です」「流石はイギリス。紳士の国は違いますね!」と言わんばかりのセリフを吐く。

 彼ほどではないにしても他の日本人学生も「イギリスは紳士の国ですね」という感じだった。嫌味でも何でもなく。本気で言っている。


(((((うちの国を本気で「紳士の国」だと心から思っているのは世界中探しても日本人だけだろう。間違いなく何らかのフィルターが掛かっているとしか思えない。でも正直、それでロイド・マクスタードの所業が「貴人ならでは」と納得してくれるのならそのままでいて欲しい!!!心からそう思う!!!)))))



 教員と生徒たちは考えた。

 

 この間違いを正してはいけない――――と。

 

 イートン校の教員と生徒たちは全力で「日本人が考えるイギリス男紳士」を演じた。それはもう、必死に!

 彼らが勘違いしている限り、イートン校の、引いては国の恥は表沙汰になることは無い。この勘違いのおかげで彼らの平穏な日々はまだ暫くの間続くことだろう。………………多分、きっと。なりふり構わない行動は功を奏した。きっと日本人にしか分からない些細な齟齬として闇に葬られたに違いないのだ。……きっと。おそらく。そうだといいなぁ……と願うしかない。

 

 こうして日本からの留学生たちは無事(?)終了したのである。




 


 


 なお、数年後に日本の資産家が結婚半年で亡くなる事を彼らは知る。

 若くして未亡人となった女性は、慎ましくおっとりとした旧家の女性だったという。

 それを知ったイートン校のOBたちは黙って彼女の前途を祝福したのは言うまでもない。


 余談ではあるが、カーディ学長はその後日本研究の第一人者となった。




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