第38話交換留学2


 イメージというのは大切だ。

 それは何も個人に限った話ではない。


 国や、組織だってそうだ。


 金持ちの国、経済発展が著しい国、軍国、平和の国……などなど。

 イメージだけで物事を判断してはいけないが、それでもその国の特色というものは出てくるものだ。


 アメリカを「自由の国」という人もいれば「差別の国」「分断の国」という人もいる。


 この国、イギリスも同じだ。


「紳士の国」という人もいれば「泥棒の国」「海賊の国」という人もいる。


 イメージ一つでこれほどまでに変わる。いい意味でも悪い意味でも――――


 少なくとも日本人のイメージするイギリスは「紳士の国」だろう。

 だからこそと言うべきか、ロイド・マクスタードの機械音痴にも驚かなかった。更に言えば彼の生活能力ゼロにも早々になれた。


 イートン校からの留学生と言うだけで聞かなくとも良家のお坊ちゃまである事は分かっていたからだ。立ち居振る舞いも洗礼されている上に綺麗なキングス・イングリッシュ。空気を読む日本人は彼をただの上級階級出身とは思わなかった。貴族階級出身、もしくはそれに近い人種だと判断した。それを聞いたイートン校の教員たちは驚きを隠せなかった。


「よく彼が貴族階級に近いと分かったね」


「上流階級である事は直ぐに分かりました。食事がとても綺麗でしたから。それでも貴族階級ではないかという疑問は偶々僕達の学校に公家出身の生徒がいたからなんです。彼女が言うには『ここまで綺麗なキングス・イングリッシュは珍しいわ。本人は一般市民だと言っているけれど両親のどちらかが貴族階級ではないかしら』と。それに――――」


「それに?」


「その女子生徒とロイドは少し雰囲気が似ていたんです。なので他の生徒も納得していました」


「雰囲気?」


「はい。二人とも感じが似通っていましたので彼女の言葉に納得しました」


 慧眼だ。

 教師達は日本人の観察眼に敬服した。

 ロイド・マクスタードの母親は貴族出身だ。


 その後も彼に日本留学の話を聞いた。







 




 

 ロイド・マクスタードが通った日本の学校は共学。


 そこで彼は大層モテた。女子に――――


 それを聞いた教師達は乾いた笑みを浮かべた。

 見てくれは超一級品。さもありなん。


 彼らが笑っていられたのはそこまでだった。

 マスミの次の言葉で凍り付いた。



「女子生徒たちは挙ってロイドに料理を習っていました」


「「「「「…………」」」」」


 教師達は沈黙した。

 言葉が出なかった。

 あの男に料理を習う?聞き間違いか?とさえ思った。

 しかし何度聞いてもその答えは同じだった。


「本当にマクスタードが教えていたのか?料理を?」

 

「はい、もちろんです。と言いましても、習ったのは女子生徒だけでしたけど」

 

「「「「「…………」」」」」

 

 再び沈黙が訪れた。

 教師の一人が耐えかねて声を上げた。

 

「ど、どうしてそんな事に!?」

 

「僕もよく分からないのですが、彼を貴族出身だと言った生徒が『素晴らしい腕前です。悪意なくあのような料理を完成させるなど早々できる事では無いです。後学のために是非習得したいものですわ』と言ってました」

 

「「「「「……」」」」」


 三度目の沈黙が訪れる。

 もう何も言えなかった。

 考えを放棄したとも言える。


 なにしろ、その女子生徒は彼の毒料理を分かった上で習得しようとしたのだから。


 イートン校の教師と生徒達を恐怖のどん底に堕とす話はまだまだ続いた。









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