第9話メシマズ ~一日目の夕食~
はぁ~……。
昼は恐ろしい目にあった。
その後、気が付いたらベッドの中にいた。多分、ミス・マープルが運んでくれたんだろう。
≪旦那様、お昼は失礼を致しました。お夕食が出来上がりましたのでどうぞこちらに≫
気付いたらもう夕食の時間か……。なんだろ?昼間の食事が強烈すぎて今日一日なにも出来なかった。それにしても夕食かぁ。昼はアレだったからな。嫌だけど一応聞かないと。心の準備が……。
「ゆ、夕食は何かな?」
≪はい、今夜は魚料理に致しました≫
魚料理か。
まあ、流石に肉料理のようなことは無いだろう。
きっと魚のフライとかそんなところかな? それなら問題ないだろうと思い、ホッとしたのも束の間。
≪今日のお食事はスコットランドの伝統料理“スターゲイジー・パイ”です≫
はて?
パイ?
夕食なのに?
ティータイムの間違いじゃないの?
いや、そもそも夕食は「魚料理」だって言っていたから魚を使用しているんだろう。え?パイに魚?それはどんな組み合わせ?いやいや、その前に「
「ねぇ、マープル。俺、イギリス料理に疎いんだ。スターゲイジー・パイってどんな料理?」
≪はい、簡単に言いますと魚のパイです≫
そのままだと!!?
えっ!? 何それ? どういう事だ!?
テーブルの上にドンと置かれるパイのようなナニカ。パイ生地から魚の頭部がいくつも上を向いて突き出していた。パイというからにはオーブン料理なんだろう。たしかに香ばしい焼き魚の香りもする。臭いだけなら食欲をそそる。そう……料理自体をみなければ。魚の顔がキモッ!
≪本日はニシンを使用しています。さあ、召し上がって下さいませ≫
「いやいやいや!ちょっと待って!!なにこの料理!?なんで魚の頭が沢山突き出てるの!?」
≪はい、それは魚達が星を仰ぎ見るためのポーズです≫
魚達が空を見るためにこんな形になるのか!?
意味わかんないんですけどぉーーーー!!
「ミス・マープル、魚は海に生きる生物だから星を仰ぎ見たりしないよ?その前に死んでるから見えないし!」
≪いえいえ旦那様、こちらはそういった意味あいの料理でございます。この国に飢饉が起きた時、嵐の中トム・バーコックという一人の勇敢な漁師が海に出て魚を獲ってきたことを記念する料理なのです。彼の英雄的な行為を讃えるために考案されたとも伝え聞いております≫
「そうなの?!でもこれ食べる人いないよね!!」
≪いいえ、漁師トムの功績をたたえる祭には必ず食べる習慣でございます。各家の家庭料理とも申しますでしょうか≫
嘘だろ!!?
食べれるのコレ?
見た目で既にアウトなんだけど?
ていうかどうして魚のパイにしようなんて思いついたんだ!!普通に塩焼きでいいじゃないか!!!
魚の顔の目がリアル過ぎて怖いよ!
≪旦那様、遠慮なさらずにお食べになってくださいね≫
遠慮じゃなくて無理なんですけど。逃げたい。でも逃げられない。まるで監視するかのような目に、俺は覚悟を決めた。自らフォークを手に取り、一口サイズに切り分けて恐る恐る口に運ぶ。
「……まっずぅ」
星を見上げる死んだ魚のパイを一切れ食べるのに精一杯だった。
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