第20話エリックside


 「ボガート」は、悪戯好きの家妖精。

 元はケルトの神話で、ボーガン、ボガトなど色々な呼び方をされるらしく、一部地域では、橋の下に住み着いて橋を渡る人間は挨拶をしないと不幸になるという伝承もあります。また、ボガードに名前を与えるとトンデモナイことになるという話もあるほどです。妖精と言うより妖怪では?


 


 

 *******



 


「ボガート」


「え?」


「馬鹿のあだ名よ。イートン校時代のね。丁寧に接しないと不幸が訪れる、ロイドに名前を覚えられると理不尽な目にあうと言われ、『伝説のボガード』と裏で囁かれていたみたいなの」


「なに、その都市伝説的なあだ名」


「それだけ関われば厄介な相手だと思われていたみたいだわ。当然、彼らはその情報を家族や親族に伝えているはず。姉や妹がいるなら直の事だわ。だからね、エリック。この国の社交界で馬鹿の所業を知らないレディはいないの。まかり間違って馬鹿と親族にでもなれば不幸が訪れる事が分かって結婚を認める人間はいないわ」


 ロイドは人外の扱いになっていたようだ。

 知らなかった。


「あーー。でも……令嬢じゃなくて仕事の出来る女性ならどうかな? 自立している女性で、仕事のパートナー的な関係での夫婦なら上手くいくんじゃ……」


「一つだけ言っておくけど、私ならどんな美形でもロイドのようなアホはお断りよ」


 酷く冷たい口調で言い放たれた。

 ああ、そうだ。姉御も「仕事のできる女性」の一人だ。


「遊び相手ならともかく、恋人としても夫としても最低最悪のロイドと連れ合いになろうなんて奇特な人はマスミくらいだわ。まあ、顔は一級品だから『顔だけ男でもいい』って女性はいるでしょう。けどね、そんなバカ女でも一週間と経たずに白旗を上げるのがオチだわ。私だって自分の弟じゃなかったらとっくの昔に縁を切っているところよ。因みに、仕事が忙しい女は癒し系を求めるからロイドは範疇外じゃないかしら?」

 

「……そう……ですか……」


 ダメ出しを食らった。

 そうか……癒し系か……それはロイドにはムリだな。っていうか、癒しが欲しいならペットでも飼えばいいんじゃ?と思うが、目の前にいる姉御のことだ。きっと「馬鹿ね、誰が世話をするの?忙しいと言っているでしょ?構ってあげられる時間なんて少ないわ」とか言うんだろうな。


 なんだろう。

 溜息が漏れる。


 結局、ロイドの再婚は無理だということか。



 この時、俺は気付いていなかった。

 ロイドはまだ離婚していなかった事に。

 更には別居状態でもないと言う事に。


 妻が実家に帰ったと騒ぎ立て、離婚の危機だと大泣きするロイドのせいで判断能力と思考力が低下していたとしか思えない。冷静に考えたら分かる事がこの時は全く分からなかった。

 


 


 


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