第51話容疑者5
その日、ロイドはご機嫌だった。
ストーカーと化した元恋人が亡くなったからだ。
(ほんとに鬱陶しい女だった。いなくなってくれて助かった。誰の仕業なのかは知らないけどいい仕事してくれる)
そんなことを考えながら、足取り軽く社交場へと向かう。
「あぁ、来たか。待っておったぞ」
ロイドを見るなり声をかけてきたのは、白髪交じりで年配の男性だ。クラシカルなスーツ姿がよく似合う彼は、イートン校の元学長。カーディ元学長その人であった。
「学長……」
「ははっ。もう学長ではない」
「はぁ……」
「久しぶりだな」
「ええ、学長もお元気そうで何よりです」
「ああ、君もな。最近、何かと騒がしいようだが。大丈夫なのか?」
「それはもう。ですが、珍しいですね。先生がそんなに心配するなんて」
「心配にもなる。君の所にはマスミがいるだろう?彼の身が心配だ」
「それならばご心配なく。マスミには指一本触れさせませんから」
「そうだといいのだが……それにしても今日は随分と上機嫌だね」
「分かりますか?」
「勿論だとも。さっきから鼻歌まで聞こえてくる始末だからな」
「これは失礼しました」
「別に謝る必要はないよ。むしろ私としては、その方が安心できるというものだ」
「それはどういう意味ですか?」
「言葉通りの意味だ」
「それはまた光栄なことですね」
「ところで例の件だが――――」
そうして始まった元学長の話を、ロイドは笑顔のまま聞いていた。
基本、相手の話を聞かないロイドだったが、数少ない例外がこの元学長だった。彼はマスミを大層気に入っている。それは学生時代から変わらない。マスミがイギリスに来てから半ば後見人のような立場で彼を見守っていた。マスミもイギリスの恩師であり、身近な「おじいちゃん」のような立場の元学長を慕っていた。
だからこそ、ロイドはカーディ元学長を「その他大勢」のうちの一人にはしなかった。それは彼にとっては無意識のうちに行われていたことでもあった。
こうしてロイドは、カーディ元学長との会話を終えた。
「では私はこれで」
「うむ。しっかり励みなさい」
「はい」
そしてロイドは会場へと入っていった。
彼の後ろ姿を、カーディ元学長はじっと見つめ続けていた。
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