第12話 とにかく交渉しろ
次の部屋は、何と言うか隠し部屋っぽい場所だった。
別に金銀財宝がざっくざっくと言うほどではないのだが、何と言うか、当たり前みたいに貴金属が落ちている。大豊作だ。
「まさか……」
良く考えれば、柱を駆け上がらないと入れない扉って、普通に考えて隠し部屋じゃないか?
だとすれば、まずい。
他に出口がない袋小路の可能性がある。
俺達は、闇に飲まれてゲームオーバーだ。
「まずい、出口を探そう!」
「大丈夫だよ、ここ、穴が開いてる」
「よかった」
壁に人が一人くぐれるぐらいの穴が開いていた。
……いや、待てよ。コレもまた隠し部屋っぽい。
単純に、入り口が一つじゃなかっただけじゃないのか?
他の誰かが開けた様にも見える。
だが、考えても仕方が無い。
「とにかく、急いで使えそうなモノを探そう」
ARで確認すると、換金アイテムだらけ。
だが、こうなってしまえばもう換金アイテムは無視だ。薬か武器、防具なんかを見つけないと。
細かい怪我をしていて、また一つ回復薬を使ってしまった。
残り一つ。心許なくなってきた。
「ねぇ! この腕輪DEF+4だって」
「そういうのをアイツらジャラジャラつけていたんだろうな」
思い返せば、アイツらの体は固すぎた。あのギロチンですら断ち切れぬ程に。
それでも、スカイフィッシュにはあっさりと殺されたんだから。闇に飲まれたらお終いだ。
と、その時、机の上に立派な宝箱を見つけてしまう。
開けてみると、残念ながら中身はただの換金アイテムだった。
「でも、凄い王冠だ。コレ一つで今までの換金アイテムを上回りかねない」
だったら、今まで集めたお宝をコレに置き換えるのも有りか?
いや待て、この辺りで換金アイテムは全部捨てるべきか? もうお宝に目が眩む相手も居ないだろう。
カバンには重量軽減があるとはいえ、持ち歩くリスクの方が上回っている。
だが、惜しい。
それほどに美しい。もっと良く見たい。
そう思って、王冠に手をのばす。
すると、その手が取られた。
キレイに投げ落とされて、地面を転がされる。
「動くな」
そして、抵抗する間もなく首筋にナイフを当てられた。
「おら、嬢ちゃんもや、武器を捨てえ」
小狡そうなおっさんだ。
マジかよ、人質にされてしまった。
守るどころか、とんだお荷物。
だがな。
「おい、嬢ちゃん? どうした? コイツ殺すぞ!」
「…………」
木之瀬さんは、止まらない。
まるで動じない。
ただ無言で剣を構え、すり足で近付いてくる。
怖い……
そうだ、この状況。
フィクションなら「篠崎くんを離して!」とか言って武器を手放す所だが、このデスゲームでそんな事をしても意味は無い。
武器を捨てたら二人とも殺されるだけである。おっさんが見逃してくれたとしても他の怪物に殺される。
「なんや、嬢ちゃん気合いはいっとるな」
「そりゃそうだろ、こんな状況で人質にとっても意味ねーじゃん」
首筋にナイフをあてられ、次の瞬間カッ切られるかも知れないと言うのに、俺はふてぶてしい事を言ってしまう。
俺を心配して、武器を捨てる意味がまるでないからな。
逆に木之瀬さんが人質にとられても、俺の選択だってあんまり変わらないだろう。
「それにしたって、もうちょっと動揺してもええやろ!」
「それは、確かに」
思わず関西弁のおっさんに同調してしまう。
いやーここまでで絆を深めたと思ったのになー。
そんで、当の木之瀬さんは、まるで笑って居ない。
無表情で、言い放つ。
「どうせなら、二人まとめて斬っても良いかなって」
「なんやそれ、彼女さんおっかへんな」
まぁ、彼女じゃないしね。
「待ちーな! 交渉や!」
関西弁のおっさんは手を突き出して待ったのポーズ。
「あんさんら、見たところルーキーやろ? 交渉といこうや!」
ルーキーだと? つまり……
「ああ、ワイはこのゲームのベテランや」
……そんな予感はあった。
そう、このゲームには経験者が混じっている!
つまり、正真正銘、このゲームは帰って来られるゲームなのだ。
アイツら半グレ三人組もきっとそうだった。
「交渉ってなんだよ……」
しかし、俺らは薬も武器も足りない。
出せるモノが殆ど無い。
「あんさんらが持ってる換金アイテムあるやろ? ソレをよこしぃ」
ん? なんで換金アイテムを? この終盤で?
「なにもタダとはいわへん、薬がないんやろ? 防具だって分けたってもかまへん」
何でだ? 意味が??
「おい、換金アイテムなんざ持ち帰らなくても、回復薬ひとつで元が取れるだろうが!」
俺がそう言うと、おっさんは鼻で笑った。
「だからルーキー丸出しやって言うてるんや」
そして、おっさんは驚きの事実を口にした。
「このゲーム、持って帰れるのは換金アイテムだけや」
「…………」
絶句した、中々意味が飲み込めなかった。その可能性に思い至らなかった。
そうだったのか。
でも確かに、言われてみれば腑に落ちる。
魔法のカバンも、回復薬も、木之瀬さんが持つクリスタルソードみたいな武器だって、俺達が知らない技術で出来ている。ひとつだって持ち帰れば大騒ぎになる。
だから、換金アイテムなのだ。
ソレしか持ち帰れないようになっているのだ。
売る方だって簡単だ。
金銀宝石、果ては曰く付きっぽい王冠まで。
潰してしまえば金の塊に過ぎないし、親の形見だとか言えば、換金出来ないワケじゃない。
もちろん、下手を打てば目を付けられるだろうが、捌けるヤツなら捌けるだろう。
だからこそ、このおっさんや、半グレ共のようなヤバいヤツらの金づるとなっていた。
売る方だって都合が良い。変なモノを売れば大騒ぎになる。
下手に突っ込まれて、デスゲームでバンバン殺して手に入れましたなんて言えるハズがない。
自殺志願者である羊に混じって、狼どもが混じっていた。
だとしたら、交渉の余地は十分にある。
「いや、要らねぇよ。ルーキーだからな、換金アイテムは要らない。命以上は望まない」
「よっしゃ、交渉成立や」
おっちゃんは、俺をあっさり解放した。
まぁ、そうだ。
こうなってくると、俺らにおっちゃんを殺す選択肢は無い。
帰還の方法を知っているのだから。
でも、とりあえず木之瀬さんには謝っておこう。
「悪い、人質になった上に、金目の物を渡すことになってしまって」
「ううん、いいよ。別に」
あっさりとしたもんだ。
この部屋の分だけだって、下手すりゃ億にも届く金額になるはずだ。
ソレを全部手放してしまうなんて。
解っていても中々割り切れるモノでは無い。おっちゃんは目を細める。
「あんさんらはまた、ワケありみたいやね」
いいえ、ワケなしです。
俺は、五秒で済む説明を開始する。
五分間の悲劇だ。
「そらぁ災難やな、知っとる限り最短記録やん」
でへへ、褒められた(褒めてない)
話に依ると、このデスゲーム。開催日時は毎週固定らしい。
日曜日の午後、5時頃開始。
で、俺は丁度その時暇だったので、デスゲームにいきなり参加になってしまった。
「普通は、その前のミッションで初期アイテムが手に入る。そんで開始までの5分で持ち込む装備を決められるんや」
そうなの?
じゃあ、いきなり最強装備で殴り込む事も可能なのか?
「そうや、換金アイテム以外は持ち帰れないが、
「あ、あげませんよ!」
「いらんいらん、おっちゃんもうコレで引退や」
話を聞くと、おっちゃんは借金があるのだが、今回の探索で返済が完了しそうとの事だ。
「最近は、物騒な奴らも紛れこんどる。この辺が引き際や」
「ああ、俺も半グレ三人組に追いかけられた」
「あーあいつらか、撒いたのか?」
「いや、殺した。木之瀬さんが」
「え! そんな事言うんだ!」
木之瀬さんはジト目で睨んでくる。
だって、3の2じゃん。1はスカイフィッシュ。俺? 0だよ!
「あぁ、アイツら死んだか」
「今更引退取り消しってのはナシだぜ?」
「あんなしょーもない奴らにビビるワケあらへん、ワイが怖いんわキラーや」
キラー、半グレどもは、その名で俺達を呼んだ。
「キラーはな、収束する最終局面でフラリと現れて、ゲートから帰還しようとする奴らを片っ端から殺していくんや」
「ゲート? 最終局面?」
また解らない言葉が出て来た。
「ま、その辺は進みながら説明したる。進むんや」
おっさんはニカッと笑った。
「覚悟しい、いよいよ始まるで、その最終局面が」
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