第27話 とにかく丸く収める

「えっ、この首輪」


 びっくりしながらも、どこか嬉しそうな木之瀬さんはドMの中のドMよ。


「ごめん、最終収束が来る! まずは、事態を片付けよう」


 闇が、迫っていた。

 このままでは、みんな死ぬ。


 その時だ。


 ――ゴゴゴッ


 なんと、丁度良く青ゲートが二つ。

 部屋の真ん中に出現したではないか。


「よし! 脱出だ!」

「えっ……ミントは?」


 あー、そうだね。


「ミントちゃんどころか、木之瀬さんも、俺も、脱出はしません!」

「は? えっ?」


 うーん、忘れてますね。


「まずは山崎警部を帰らせます」

「あっそうだ! 山崎さん! 生きてるの?」


 生きてます。

 でも、血が足りないのか全然目を醒まさない。

 危険な状態です。


「それに、ミントちゃんのパパさん!」

「なんで!?」


 何でだろうね?

 俺は、ミントちゃんのパパさんを担いでここまで来たのだ。


 被せていた布切れを剥ぎ取ると、息も絶え絶えなパパさんが現れた。


 いやさ、ミントちゃんに看破が効かない可能性もあったのよ。

 嘘は見破れるけど、変身を解除出来るかはテストのしようが無いじゃん?


 で、保険としてミントちゃんのパパさんを入荷したってワケよ。


「俺はミントパパに殺されそうになってる。だから、ぶん殴って昏倒させて、内臓はグチャグチャ、だけど治療はしない」

「な、なんで?」


 木之瀬さんの疑問に答えずに続ける。


「病院じゃ何ヶ月も治療が必要だろうし、下手したら死ぬかもしれない状態だ」

「そんなの!」

「こうなれば、絶対に回復魔法が必要になる」

「回復、魔法?」


 俺はあの危険な魔法を他の誰かに渡したくないのだ。


 だから、このままミントちゃんと木之瀬さんと三人で二層に突入する。


「木之瀬さんには回復魔法を取って欲しい、ミントちゃんには是が非でも協力してもらう」

「う、うん、解った……」

「う、ぐ……」


 あ、なんかパパさんはギリギリで意識があったようだ。

 一部始終を見て貰った感じかな。


 実際、そんな狙いもあった。

 実の娘がキラーであったと、認識して貰いたいと思ったのだ。


「あんたの娘のしたことだ、後で責任はとれよ」

「あ……う」


 返事もできないか。


 とりあえず、山崎警部と、パパさんを送り返す。

 青いゲートはサヨナラバイバイだ。


 さて、後は赤いゲートを探すだけだが。


「出たよ、赤いゲート」


 木之瀬さんが指差す隣の部屋に、赤いゲートがせり上がる。


 ……今回、滅茶苦茶デレてるじゃん。


「でも、一個だけだよ!」

「きっと、大丈夫」


 だって、三人でパーティーを組めるのに二層挑戦のために丁度良く赤ゲートを三つ見つけるなんて無理だろ? 赤ゲートは数が少ないもの。


 スマホで確認。


≪ 二層ゲート ≫

 二層への挑戦権を得るための赤いゲート。

 潜ると二層準備室へ送られる。


 ※パーティー全員での参加となります。


 やっぱり。

 あっ、ヤベェ! 俺達パーティーじゃないわ。


 後からパーティーに入れないかとスマホを見れば、どうも出来そうにない。


「あれ?」


 ただし、表示を見ると、俺と、木之瀬さんと、ミントちゃんは、既に一つのパーティーに加入していたのだ。

 それも、木之瀬さんと山崎警部のパーティーは解散状態になっている。


 これは?


「そうだ、隷属の首輪だ!」

「あっ!」


 木之瀬さんは恥ずかしそうに首輪を押さえる。

 そうだ、首輪は二つ。パーティーは三人。

 パーティーメンバーを奴隷にする事を言っていたのだ、あの石碑は。


 で、最後には刺されちゃうワケね。

 身につまされる。


 それにしても、首輪が役にたつとはね。


「じゃあ、行きますか」


 ミントちゃんの治療をしながら、俺達は二層へと旅だった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 俺達は二層への準備スペースに転移していた。

 時間は一時間以上ある。


 だって、そうだ。

 あのときだってかなりの待ち時間があった。

 それが今回は、最終局面が始まった途端に二層に入ったのだ。


 だから話し合いの時間はたっぷりある。


「パパさんの命が惜しければ、絶対に協力して貰う」


 顔も戻って、すっかり美少女を取り戻したミントちゃんに俺は宣言。


 ちなみに、脱糞までしていたので、キラーの時に着ていた服はブカブカだし全取っ替え。

 そんで、ミントちゃん自身が持っていた、学校のセーラー服に着替えて貰った。


 多分だけど、ヤバくなったらミントちゃんに戻って、何食わぬ顔で帰還するつもりだったのだ、この糞アマは。

 ちなみに、下着の替えは無かったので現在ノーパンである。ドキドキするね。


 で、そんなミントちゃんの仏頂面が崩れない。


「死ねばいい、あんなクズ」


 パパさんに素っ気ないのだ。


「命懸けでキミを助けにこんな所まで来たんだぞ? マジで愛されてるじゃん」

「そうだよ、パパさん凄いんだよ、傭兵まで雇って……」

「ソレが! 嫌!」


 ミントちゃんの、苛烈な反応。

 ……これ、まさか。


 いやさ、おかしいと思ってたんだ。あのパパさんの入れ込み様。


「まさか、パパさんに、レイプされてた、とか?」

「…………」


 黙ってしまった。

 心配そうに木之瀬さんが訊ねる。


「そうなの? ミントちゃん」

「ち、ちがう」


 すると途端に、否定した。

 でもな。


「看破!」

「あっ、う、私は……あのクズに、犯されて、いた」


 おー、やっぱり。

 それで男嫌いになってしまったのか。可愛いじゃん!


「私の体は汚れている、だから、だから……」

「そ、そんなことないよ!」

「私は良いから! だから奈々には手をだすな!」


 そう言って、木之瀬さんを庇うように俺の前に立ち塞がる。

 うーん、困ったね。


≪苦痛よ!≫

「ぎゃん!」


 俺は首輪に苦痛を送る。

 たちまちミントちゃんは飛び跳ねて、苦しそうに地面をのたうち回った。


「篠崎くん! 酷いよ!」

「クソッ、お前は! やっぱり、カスだ!」


 まぁ、そうだけどさ。


「ミントちゃん、そんなに警戒しないでよ」

「ふっ、あの糞親父を殺してくれたのは感謝するさ! それに、親父もだ、犯されて汚されて、殺したいと思っていたが、お前に汚されるぐらいなら、あの糞親父の方がずっとマシだ! 残念だったな!」

「ミント、そんな……風に」


 木之瀬さんも同情的。

 いや、え? そうなの?


「えと、俺は、むしろ嬉しいっていうか、パパさんに感謝だな」

「はぁ?」


 なんか、凄い怖い顔で凄まれた。


 うーん、ミントちゃんは純潔を大切にし過ぎよ。

 いや、確かにキモオタはほぼほぼ処女厨だけど、この場合は別。


「父親にレイプされてた女の子って可愛くない?」

「篠崎くん……それは、倒錯しすぎだよ……」


 木之瀬さんにドン引きされてしまった。


 なんでや!

 童貞は、経験豊富な女の子にリードして欲しい。

 だけど、誰にでも股を開くビッチは嫌。むしろ、初めての恋人でありたい。


 そんな不可能を可能にする、ミラクルを叶えてくれるのが、父親にレイプされていた悲しい娘よ。


「気持ち悪い」

「ゲスが!」


 シンプルな暴言を二人から頂きました。

 俺はショックだよ。


 うーんミントちゃんは口が悪いなぁ。

 黙っていればダウナー系ロリッ子なんだけど。


 俺の癒やしはやっぱり木之瀬さんよ。


「じゃあ、木之瀬さんがエッチしてくれる?」

「えー? でも、時間あるもんね、うん、いいよ」


 そうなのだ、らぶらぶエッチの道は残されている。

 残されている、ハズだった。


 なのに、なのに!


「嫌だ! 絶対に、許さない!」


 ロリッ子がうるさいのだ。

 意地でも邪魔しようとしてくる。


≪苦痛!≫

「ギッ、こんなの!」


 死ぬ程の苦痛らしいのに、ミントちゃんは血走った目で立ち上がり、短剣を構える。


 なるほどね、コレが真祖の王の死因か。

 死ぬ覚悟があれば、命よりも大切なモノを守る為ならば、首輪に逆らうなんて何でも無いのだ。


 俺は苦痛を停止。


 さて、困ったぞ。これでは俺は全然エッチな事が出来ないではないか。

 ミントちゃんを暴力で支配して、好き勝手に嬲れば、木之瀬さんに嫉妬されるし。

 木之瀬さんとエッチしようとすると、ミントちゃんに殺される。


 ……普通の浮気とは全然違うけど、死ぬのは一緒。


 なーんてな!

 俺が困ると思ったか?


 何にも困らねーよ!

 だって、そうだろ?


 立ち上がって、拳を振り上げて宣言。


「篠崎禅! 主人として、二人に命じる!」


 するとまぁ、二人とも渋い顔。


「やってみろ! 殺してやる!」

「篠崎くん、そんなの……」


 俺は首を振る。


「三人とも、納得する道がある! 俺に、任せろ!」

「馬鹿か」

「そんなの……無理だよ」


 いや、ある!


「えー、藤宮眠兎さんと、木之瀬奈々さん」

「なんだ!」

「……はい」


「レズって下さい」

「は?」

「え?」


 意味解らんって顔するね。

 じゃあ、言い換えます。


 俺は咳払いをひとつ。


「藤宮さんは、木之瀬さんを襲って下さい」

「何?」

「篠崎くん何言ってるの?」


 いやコレで良いのだ。


「そして、俺はその様子をスマホで撮影します。コレで全員の欲求を満たせます」


 言い終わるや、ミントちゃんは凄い勢いで木之瀬さんに襲いかかった。

 後ろから抱きついて、胸を揉んで、耳を噛む。


「奈々! ごめん、私首輪で、命令されて……」

「うそ、さっき全然逆らってたし! ミント! なんで? 酷いよ! こんなの」

「木之瀬さん、コレが三人が救われる唯一の道なんだ。俺は撮影が出来て大満足」

「ちょ? わたしは? 私は全然救われてないよ! ひどいよ!」


 たしかに、そうだ。

 木之瀬さんはドM。


 だけど、女の子に襲われるのはどうも守備範囲外らしいです。


「えーと、約束したよね木之瀬さん」

「んっ、ミント! そこ摘ままないで! 篠崎くん! 約束って、何! 知らない」

「いや、したよ。どんなアブノーマルなプレイも受け入れるって約束したよ」

「え、コレ? コレがそうなの? 酷い! 酷いよ!」


 嫌がる木之瀬さんに向かって、俺は無言でシャッターを切った。

 ビデオも録画した。


 スマホは、偉大だ。

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