第28話 とにかくハードモード

「私、汚されちゃった」


 なんか、光が消えた目で木之瀬さんがそんな事を言い出した。

 これが本当のレイプ目って奴か。


「大丈夫、奈々は綺麗だったよ」


 で、汚した張本人がそんな事を言い出す。


 ミントちゃんだ。


 溜まりに溜まった性欲が凄い事になっていた。時間内に収まりそうになかったので巻きでお願いした。

 なのに、木之瀬さんは浮かない顔だ。


「だってぇ、酷いよぉ。私初めてだったのに、初めてが、女の子と、撮影されながらなんて、酷いよぉ」

「撮影、クズだよね」


 いや、襲った奴が言ってもね。

 後でキミにはお仕置きするよ? バンバン殺してた奴が一番得する展開とかゆるさねぇからな!


 で、そろそろ二層が始まる。あと残り5分ってタイミング。


 スマホにアナウンスが、あった。


≪ 二層挑戦者の合計Lvが6を越えています ≫

≪ 二層をハードモードで起動します ≫

≪ ハードモードをクリアすると、二度とチュートリアルには参加出来ません ≫

≪ ハードモードクリアで、魔法・スキルは二つ獲得出来ます ≫

≪ ノーマルモードで既に魔法・スキルを所持している方は、一つの獲得となります ≫


 ……でね。

 いきなり木之瀬さんが要らなくなっちゃった。


 ごめーん。


 いやー、二つ目が貰えるのか。

 無制限に貰えるハズがないじゃん? 先着順だしね。


 まさか、ハードモードなんてのが有るとはね。


 これで、まだデスゲームに参加出来る理由も判明した。

 つまり、このチュートリアルは、ハードモードで二つ目の魔法を貰って本当の卒業なのだ。


 ……チュートリアルってのが気になるけどな。本戦? やりたくねぇよ。


 そして、気になる合計Lv6

 つまり、俺ら以外にも参加者が、居る。


 そうだ、二層経験者のミントちゃんと、俺がLv2、木之瀬さんがLv1。

 合計で5だ。6にはならない。


「とにかく、ハードモードの攻略を練ろう」


 だって、あんだけ強かったレイスがより強くなる。

 いや、他のモンスターが出るかも知れない。


 無理ゲーが加速する。攻略を練らないと。

 すると、ミントちゃんが控え目に手を挙げた。最優先でやるべき事が有ると言う。


「他に参加者がいるなら、聖水の取り合いになるかも」 

「え? 聖水?」


 いきなりエロトークは困るよ。


「は? 聖水ナシでどうやってレイスを倒したの?」

「それは、殴ってだけど?」


 そう言うと、ミントちゃんはジッと俺のメイスを睨んだ。


「それ、強過ぎ! どこにあったの?」

「ピラミッドのてっぺんだけど?」


 むしろ、コレがないと無理ゲーじゃない?


「は? あんなトコに突っ込んだの? 馬鹿なの」

「いや、その前に、聖水って??」


 聞けば、なんと、三角錐のピラミッドの角の方角。マップの隅に近い場所に、それぞれ三つの祠があるのだと言う。


「初回に挑戦したときは、レイスにダメージが通らずに諦めて脱出した。二回目は攻略法を探して、聖水を見つけたけど、途中で聖水が足りなくなって諦めた。三回目は開幕から外周の聖水を三つ確保に動いた。やっと成功した」


 との事。

 え? 聖水で、どうするの?


「ピラミッドを開けると、レイスはコッチを追ってくる。たった一人で」

「あ、うん」


 ソレは知ってる。酷い目にあった。


「だから、釣り出して、一対一にしてから聖水を三本つかってハメ殺した」

「ずっる!」


 聖水を使うと物理攻撃が通るようになるし、動きも止まるらしい。


「ハメじゃん」

「正攻法。アリをおびき寄せて乱戦する方がイカれてる」


 おっしゃる通りです。


「じゃあ、開始と同時に三方に分かれて聖水を確保って事で」

「それ、奈々が危ない、装備も揃ってないし……」

「やるよ! 私!」

「じゃあ、DEFが高いアクセサリーは木之瀬さんが装備して」

「うん!」


 そうして二層攻略が始まった


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「なんか、順調だね」


 木之瀬さんの言葉に、ミントちゃんと俺は肯く。


 聖水はあっさりと三本集まった。

 リザードマンはLv2になり強くなっていたが、逃げに徹しているので影響は少ない。

 ピラミッドの前の部屋で三人が落ち合う。


「じゃあ、開けるよ」


 このままレイスがLv2なだけならハメ殺して終わりだ。

 むしろ、他のモンスターに変わっている方が面倒。


 今回ばかりはレイスよ居てくれと祈る。


「コレは予想外」


 ピラミッド部屋にはレイスが居た。

 レイスが


 で、レイス達がピラミッドの頂上に何かを呼び出している。


≪ リッチ ≫

 Lv1


 死霊の神にして、万能なる存在。

 王の中の王は、不死を渇望し、全てを捧げ、放浪の果てに願いを叶えた。

 永遠の死の中にだけ、不死は存在する。

 終焉そのものになれば、終わりは来ない。


 弱点:聖

 耐性:物理



 いや、見た目からやばいのよ。

 外套を羽織った、骸骨。

 だが、スケルトンなんかとは存在の圧がまるで違う。


 無理ゲーじゃない?


 シャララーン!

 スマホが、鳴った。


 はい、ボス登場ね。知ってるよ。

 ピラミッドを囲む、無数のレイスが、こちらを睨んだ。


 そうなのだ、そしてコイツらは壁を貫通し、襲ってくる!

 逃げるしか、なくない?


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 結論からいうと、何とか持ちこたえている。

 無数のレイスってイメージよりは、戦えている。


 良く見るとレイスのフレーバーテキストも変わっていた。


≪ レイス(リザードマン) ≫

 Lv1


 死霊の神により、リザードマンが霊格を与えられた姿。

 地上に地獄が顕現してしまった。


 弱点:聖

 耐性:物理



 あっさりしたもんだ。

 同じに見えて、フレーバーテキストだけ違う別モンスターって居るよな。

 そんな感じでそこそこ弱体化している。


 いや、物理はほとんど効かないけどさ。


「固い! 強いよ!」


 特に木之瀬さんのクリスタルソードは聖水を掛けた上で通りが悪い。

 俺のメイスが頼り。


 で、ミントちゃんだけど。



 逃げた。


 逃げたんだ。



 アイツ! やりやがった!



 まぁ、良いけどさ。


「木之瀬さん! ミントちゃんが来るまで耐えよう!」

「ど、どういうこと?」


 いやさ、あのクレイジーサイコレズが、木之瀬さんを諦めるワケ無いのよ。

 俺?

 俺だけだったら一瞬で見捨てられてたと思うよ。


 むしろ、後ろから斬られてたまである。


 でも、今はそうはならない。

 今の状況は最悪だけで最高なのだ。彼女にとって。


 だから、きっと来る。


 しかし、やばいぞ! 保つか?

 前後左右から突っ込んで来るレイス。

 噛み付きを躱し、殴る。

 地面から突き込まれる針で、もう足はズタズタだ。


 もう、保たない!

 その時だった。


 俺は死を運ぶ津波を見る。

 それが唯一の希望なのだ。


「始まった!」


 通路に溢れ出す、蟻の大群。

 その先頭を走るのは妙に巨大な蟻であった。


 しかも、なんか大きい卵を咥えている。


 ミントちゃんだ!

 変身している! その手があったか!


「行くぞ! ピラミッドに雪崩れ込め! リッチを倒すんだ!」


 足に回復薬をぶっかけて。走る。

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