第29話 とにかく攻略だ

「うへへっ! ミントちゃんウンコまみれ!」

「死ね」


 ピラミッドに雪崩れ込んでの乱戦。


 人間に戻ったミントちゃんは臭かった。

 ウンコまみれの女の子って、上級者向けだよな。


 まぁ、アレよ、蟻のウンコってそんなに、だからね。

 見た目は猫砂みたいな感じ。

 匂いもフェロモン系の特殊な匂いです。


 いや、全然落ちないんだけどさ。

 三回洗濯しました。


 さて、この乱戦をどうするか?


「うぉぉぉ!」


 狙いは一点、宝箱だ。俺はピラミッドを駆け上がる。

 今回も祝福メイス級の武器が出たら流れが一気に変わる!


 ――シュゥゥゥ


 しかし、リッチが立ち塞がる。


 今回のボスであるリッチは、レイスと全く行動パターンが異なる。


 アレだけの騒ぎでも全く釣られず、ピラミッドを守っている。


 レイスであんだけ強いのに更に上だ。

 何をするか解らない!


 俺は初手から聖水をぶっかけた。

 コイツも死者だ。


 動きが止まる。


 この隙に!

 俺は頂点付近の祭壇まで駆け上り、宝箱を開けた。


≪ 悲哀の短剣 ≫

 ATK+37


 聖銀で打たれた聖属性の短剣。

 死者を滅ぼす力を持つ。


 ※不意を突いた際に追加ダメージ



「ミントちゃん!」


 ぶん投げた短剣をミントちゃんは華麗にキャッチ。

 更には振り向きざまに、一閃。

 レイスのアゴをざっくりと斬り裂いた。


 銀の短剣と二刀流がカッコイイ。


 いやー頼もしい!

 彼女なら木之瀬さんを守ってくれるだろう。


 そんな風に、ミントちゃんの勇姿をみていた時だ。


「え?」


 リッチが俺の横に現れた。

 突然に。


 ――キィイィィ!


 直後、甲高い、悲鳴。


「うあっ……」


 体が闇に飲まれる、気力が、削られる!



 叫びの効果は、俺だけじゃなかった。

 ミントちゃんが蹲る。木之瀬さんまで。


 これは、生きる希望を削る叫び。


 生きていたくない。

 死んだ方がマシだ。

 せめて、楽に終わりたい。


 後ろ向きの思考が駆け巡る。


 生きる気力をゴッソリと削る叫び声。

 こんな……こんな攻撃があるのか!



 そうだ、俺は死ぬために生きていた。

 ここで死んだって良い。

 どうやって死ぬか? そればかりを考えていた。



 かつての俺は、そうだった。




 でもな!


 今は、違う!



「あんなモン見せられて、死ねるかー!」


 ミントちゃんと木之瀬さんの濃厚エッチ!

 録画に必死で! まだよく見れてません!


「せい!」


 俺はメイスでリッチをぶっ叩く。

 大ダメージだ。


 見れば、木之瀬さんとミントちゃんも復活していた。


「奈々と、もっとエッチな事、する!」

「篠崎くんと、あの、色々……」


 うーん、欲だ。

 欲ってのは生きる事。


「俺達は負けない!」


 凄んで見たけど、全然良いシーンにならねぇわ。

 ヒデェありさまだ。


 ――シュゥゥ、チチチチチ!


 そんでリッチ君さ。

 この展開だよ?

 普通は「ば、馬鹿な!」とか言いながらやられる場面じゃん?


 お構いナシってのはないよ。


 雷撃とか火球とか、氷結とかさ。

 ガンガン投げ込んでくるの。

 殴ったのは悪かったけどさ、ガチギレは無いじゃん。


 近づけねぇんだけど!


「クッソ強い! 助けて!」


 俺は泣き叫んだ!

 しかし、現実は厳しい。


「無理! レイスが多過ぎ!」

「私の攻撃、全然効かないよぉ!」


 うーん、ダメみたいですね。


 え? コレ死んだ?


 頼みの蟻さんもリッチには全然向かって行かないんですわ。

 レイスの足止めにしかなっていない。


 アテが外れたね。


 無理これ! 弾幕で圧倒されている。


「クソッ!」


 さっさとリッチを倒して終わりにするつもりが、近づく事も出来ないとは。

 せめて魔法を防ぐ障害物が欲しい。


 だが、ここはピラミッド。そんなモンは有るはずがなく。

 なく……?


 いや、待てよ。


 俺はピラミッドの頂点に駆け上がった。


「ここなら!」


 ゲームとかで、柱をグルグル廻ってボスの猛攻に耐えたりするじゃん?

 そんな感じで、ピラミッドの頂点を周りながら時間を稼ごうとしたのだ。


 ――シュゥゥ、ォォォ!


 でも、ダメだった。

 範囲攻撃だ。


 闇の波動みたいのがリッチの周辺を渦巻き、ゴリゴリと生命力が削られていくのを感じる。

 目が霞む。気が遠くなる。


 これ、無理だ。


 最悪、俺が死んででも二人を生かす方法ないかな?

 そんな事まで考えそうになった時。


 ヤケクソが顔を出してしまった。


「看破!」


 こんなに強いのはズルだ!

 ズルだからなんか看破出来るハズ! そう思った。


 結論から言うと、リッチに効果は無かった。


 ただし、頭痛もなかった。


 発動した。

 発動は、したのだ。


 消えたのは、ピラミッドの頂点。キャップストーンと言われる尖った石。



 代わりに現れた台座には、一本の剣が刺さっていた。

 石碑と同じだ、隠しアイテムの類!


 ――これ! 絶対に、強い奴!


「木之瀬さん! コッチ! 剣を抜いて!」

「無理ッ、レイスが邪魔で、近づけない!」


 ダメだった。

 戦況が膠着していて、動く余裕がない。


 それに、当のリッチが頂上から動かず、魔法を撃ち下ろしてくる。

 まるで隙がない。


 その時だ。



 太陽が落ちてきた。



 ――ゴォォォ


「なん、だこれ」


 天井を見上げ、呆然と呟く。


 いや、違う、これは

 火球だ。

 巨大な火球がピラミッドの頂点に、落ちる。


 咄嗟に叫んだ。


「伏せろ!」


 途轍もない爆風が吹き荒れる。

 ――ア゛アァァァ


 伏せた俺の耳に、リッチの悲鳴が届いた。


 やったのか?

 今のは、誰だ? どこから湧いてきた?


 ……そうだ。


 取得済みだった魔法は、変身だけじゃない。

 火球だって取られていた。


 よくよく考えてみろ。

 あれだけ色々便利な魔法がある中で、あえて火球を取るってどんな奴だ?


 変人だ!

 紛れもなく!


 或いは、俺よりも!


 爆風に目を細め、部屋の中を眺めると、居た!

 部屋の隅に、真っ黒なローブを被った正体不明の人物が一人。


 いや、誰だよ!

 脈絡がなくて驚くわ!


 爆風が止むと、部屋を出て行ってしまった。

 いや、誰なの?


「篠崎くん! まだリッチが死んでない!」


 木之瀬さんの声に冷静になった。

 そうだ、スマホを。


 ピラミッドの頂点には、まだリッチの反応あり。

 そして、


≪ 光剣クラウ・ソラス ≫

 ATK+70


 神殺しの聖剣は、神々の戦争の名残である。

 神は人々に神殺しの武器を与えたが、

 戦争が終結すれば彼らから武器を取り上げた。


 輝く刀身は聖属性を持ち、魔法を斬り裂く。



 はい、インフレ。


「今ッ!」


 木之瀬さんが剣へと走り込む。

 そこにリッチが迫る!


 助けに、行かないと!


「カス! あんたは群がるレイスを何とかしろ!」


 ミントちゃんの声。

 いや、数が多いし、一人じゃ無理じゃない?


「レイスに、看破を使え」


 え? どゆこと。


「殺したレイスが、トカゲになった! あいつら≪変身≫してるだけ!」


 そう言う事?

 確かに、フレーバーテキストにはそんな雰囲気が。


「看破! 看破! 看破!」


 レイスが、リザードマンに変わっていく!

 そして、無力化だ!

 無抵抗な所をメイスで叩けば、終わり。


 くそっ! もっと早く気が付いていれば。


「看破! 看破! 看破!」


 連続使用、次々と無力化する。

 速攻で、片付いた!


 振り返ると、木之瀬さんが台座に刺さった聖剣を抜くところだった。


 眩しい。

 引き抜いた刀身は太陽の如く強烈な光を放っていた。


「やぁぁぁぁ!」


 リッチに、振り下ろす。


 ――アァァァァア


 見るからに、大ダメージそして。


「死ね」


 背後からミントちゃんがトドメを刺した。


 ソレで、終わり。


 俺達は二層(ハードモード)をクリアーした。

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