第25話 とにかく看破せよ!

 俺は木之瀬さんを探して迷宮を彷徨った。


 それはもう、猛烈にダッシュして、次々と部屋に飛び込んだ。

 換金アイテムや回復薬を大量ゲットし、怖い人達に絡まれてもガン無視して駆け抜けた。逃げられない時はぶん殴って黙らせた。


 それでも、見つからなかった。


 最後の最後、コレで見つからないとマジでヤバいな。そろそろ最終局面だなって所でようやく見つかったのだ。



 だから勿論、先客がいた。



「あなたは! あなただけは! 絶対に許さない!」

「許さないなら、どうするって言うんだい?」


 部屋の中では、木之瀬さんとキラーが切り結んでいた。

 完全に、クライマックスって感じだ。俺のようなモブ顔が入り込む余地はない。


 久しぶりに見る木之瀬さんは、少し様子が変わっていた。


 あんなにキラキラして可愛らしかった瞳が、鋭く険しい。

 セーラー服は煤汚れて見えたし、手足にはサポーターをつけている。


 彼女なりに、戦うつもりでここに居るのだ。


 なんかこう、良く解らんけど感動してしまった。

 彼女なりの覚悟がある。

 甘い気持ちでデスゲームに再挑戦しているワケじゃないんだ。


 と、扉のそばに昏倒している人が居た。

 え? 誰?

 二人に気が付かれないようにそっと確認すると、警部さんだった。


 刺されている。

 キラーにやられたのだろう。俺の時と同じだ。

 ほとんど死にかけている。


 俺は静かに部屋の外へと引っぱり出すと、回復薬で治療した。

 傷はすぐに塞がって失血は収まったが、目を醒まさない。血を流しすぎたのだろう。


 回復薬、飲ませた方が良いかな?

 どうやって? おっさんに人工呼吸? そこまでしたくないなぁ。


 困っていると、木之瀬さんとキラーの戦いは激しさを増していた。


「殺します! あなただけは、私の手で!」

「ふぅん? 僕を殺すとミントの事は解らなくなるけど、良いのかな?」

「構いません!」


 木之瀬さんに断言され、キラーは苛立ちを顕わにする。


「じゃあ! 何のためにこんな所まで、キミは来たんだ!」

「それは……あなたを殺すため!」


 憎しみが籠もった目で、キラーを睨む。


 マジか。

 あの優しかった木之瀬さんが!?


 いや……、前からザクザク殺してたな。

 でも、殺す覚悟は十分だった彼女であっても、殺す為にココまで来たってのは、らしくない。


 これにはキラーも困惑した。

 困惑し、苛立って、嘲笑する。


「まさか、あのクズを殺した事を根に持っているのかな?」

「あなたが、篠崎くんの何が解るの!」


 おっ? どうも俺の為に怒ってくれているっぽい。

 そろそろ出て行くべきか。


「ふん、あのクズなんてどうでもいいだろう? 殺して清々したよ」

「違う! 篠崎くんは、私が殺した!」

「へぇ!」


 そうだ、インタビューの時から、殊更に彼女は俺を殺した事を強調していた。


「助けて貰ったのに! 一緒に戦って、守って、守られて……」

「そんなのは、元の世界でキミを嬲る為だろう?」

「ソレだって! 私の為の嘘だった!」


 泣いていた。

 ボロボロと木之瀬さんは剣を構えて泣いていた。

 透明のクリスタルソードより、なお澄み切った涙が零れる。


「篠崎くんなら、きっと一人で脱出できた。私を守って死にたくないって、ハッキリ言われた!」

「やっぱり、クズじゃないか」

「それを私が、不安だったから! 二人で行こうと引き留めた!」


 泣いて、泣いて、しゃくり上げている。

 呼吸だってままならない。


 そんな木之瀬さんに、苛立たしげにキラーは言った。


「それが、なんだ、当たり前だろう?」

「当たり前、じゃない! 篠崎くんは最初から解ってた。最後の最後、二人に一人しか脱出できなくなるって。だから、あんな事言ったんだ」


 まぁ、バレるよね。

 本当に木之瀬さんをボコボコに殴るワケ無いしね。


「結局、篠崎くんの言うとおりになった。私を守ってボロボロになって、それなのに、ボロボロになった篠崎くんを私が殺した! この手で、殺した!」


 悔しそうに、悲しそうに、強く強く、剣を握り締める。


「やっと気が付いたの! 私、本当は矢野先輩の事なんて、好きじゃなかった。矢野先輩に憧れる自分が好きなだけだった」


 泣いて、泣いて、狂気すら宿った目で、向かい合う。



 ……そして、最後に、こう言ったのだ。



「私、馬鹿だ! 本当に好きな人の事、殺してから気が付いた!」


 そう言って、キラーに斬り掛かった。


「だから、絶対に許さない!」

「馬鹿な!」


 と、そんな様子をね、陰から見守った俺はね……

 困惑していた。


 え?

 好きな人って、俺の事じゃないよな? みたいなね……


 鈍感系主人公になろうとして、ダメだった。

 流石に人の道を外れてますよソレは。


 でもさ、この流れでさ、どのツラ下げて出て行けば良いんだよ。


 困惑しているのに、嬉しくて嬉しくて、ニヤニヤしている自分も居る。 

 あまりにもダサいでしょ。


 こう言う時はテンションを上げるんだ。

 空気を一切読めない男になりきる。


 笑いながら人を殺せるヤベェ自分を召喚するのだ。


 そうじゃないと、こんな空間に飛び込めないよ!


 YO! YO! YO!


 良い子のみんな! ご機嫌なビートを刻もうぜ!


 HEY! HEY! HEY!


 行くぜ? 行くぜ? 行くぜ!



「ニャー!」




 タマになりきって、切り結ぶ二人の間に飛び込んだ。


「…………」

「…………」


 めっっっっちゃ、気まずい!


 こっちを見るな!


「うそっ! 篠崎くん!」

「カス野郎が! 生きていたか!」


 感激に震える木之瀬さんと違って、キラーはノータイムで斬り掛かってくる。


 殺意が強いね、どうも。


「YO!」

「なっ?」


 俺はメイスを一振り、キラーの持つ短剣を弾き飛ばした。


「馬鹿なッ!」

「HEY! HEY! HEY!」


 そのまま、キラーの腕を叩いて骨折させると、俺より背の高いキラーの首を力任せに吊り上げた。

 相撲で言う喉輪だ。


「グッ、きさま!」

「篠崎くん? 本当に篠崎くんなの?」


 恥ずかしくて木之瀬さんの方を向けない。

 今までずっと立ち聞きしてましたってか? 言えるワケ無いじゃん。


「木之瀬さん、ちょっと待ってて、先にコッチを片付けるから」

「……う、うん」

「さぁて」


 改めて、キラーに向き直る。


「なんか言い残す事は?」

「死ねッ!」


 キラーは腰のナイフを引き抜いた。

 だが、ソレが俺に届く事は無い。


 だって、そうだ、俺には切り札がある。


 このために、この時に、コイツの為だけの、とっておき。


「看破!」


 俺は、キラーに、宣言した!


「本当の姿を現せ!」

「ぐっ、ゲッ」


 キラーが苦しみだす。


 すると、どうだ?

 首は片手にすっぽりと収まるぐらいに細くなった。

 身長は俺どころか、木之瀬さんよりもずっと小さくなってしまった。

 体だって華奢で、片手でぶらーんと余裕で持ち上がってしまう。絞められる直前の鶏みたいだ。


 顔立ちは可愛くて、異様なまでに整っている。お目々パッチリ睫毛が長い。西洋人形みたいであった。

 髪はウェーブを描き、キラキラと光を反射する。


 かわいいかわいい、女の子が、姿を現した。


 それも、アニメとかゲームの世界から飛び出して来たような、超絶美少女ロリっ子だ。


「ぐえっ、ぶ」


 体に力が入らないらしく、すっかり無力。

 首を絞めれば苦しそうにするのが可愛いね。


 手を離すと、べちゃりと地面に突っ伏した。


 木之瀬さんが思わずと、彼女の名前を呼ぶ。


「ミ、ミント?」


 それはまぎれもなく、藤宮眠兎の姿であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る