第14話 とにかくゲートを見つけろ
「じゃあ、篠崎くんはゲートを譲っちゃったの?」
「まぁ、そうなる」
おっちゃんは初めから、俺達を出し抜くつもりだったと思う。
だが、こっちは二人だ。片方だけ脱出しても意味が無い。
木之瀬さんだけでも帰すって選択肢は当然あった。
でも、その場合はおっちゃんと殺し合いだ。タダでは済まない。
だったら、戦意を見せず、距離をとることで防具を貰った方がマシだと判断した。
おっちゃんはそれまでも余った防具を分けてくれたが、虎の子はあの瞬間まで、外そうとしなかったから。
≪ 守りのネックレス ≫
DEF+8
≪ 力の腕輪 ≫
ATK+6
どちらもヤバい性能だ。
クリスタルソードで攻撃力は十分な木之瀬さんがネックレスを、俺は力の腕輪を装備した。
因みに、アクセサリーは二つまでしか装備出来ないらしい。
だから、少しでも数字が上のアクセサリーは貴重。
他のアクセサリーはDEF6、ATKは4までがMAXだった。
このレベルのアクセサリーが二つあればDEF+16になり、あとは良い靴などを合わせればDEF20を越える。
どうも、相手の攻撃力を越えるDEFがあれば、攻撃は中々通らないっぽい。
逆に言うと、ATKが+20もあるクリスタルソードは、細腕の木之瀬さんが使っても、バターみたいに人間を両断してしまうんだ。
これほどの剣は中々無いだろうし、このネックレスがあれば理不尽な死はまず防げる。
下手に戦うよりは良かったハズだ。
とはいえ、折角の生還のチャンスをみすみす譲ってしまったのは事実。
「ごめん、木之瀬さん」
「ううん、良いよ。どうせ私、ここに来るのを止めるつもりないし、強い防具が貰えて却って良かったかも」
「え?」
まだ参加するの? 来週も? このデスゲームに。
「だって、まだミントの手掛かりを掴んでないもん」
「でもさぁ」
どう考えても死んでるでしょ。
まず脱出方法が無理ゲーだ。
おっちゃんに譲ったのも仕方ないって思えるぐらい、アレは貴重な情報だった。
誰があんな金属棒に血を捧げようなんて思うのか。
むしろ、最初に気が付いた人がどうかしている。
「とにかく、話は後、とにかく先に進もう」
俺は木之瀬さんの手を引いて次の部屋へと走った。
また、遺跡が揺れたからだ。どこかにゲートが出現している。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「えいっ!」
木之瀬さんは走りながら、ゴブリンをなぎ払っている。
「はぁはぁ」
でも、流石にしんどそうだ。俺も辛い。
さっきから、振動はするが、ゲートが見つからない。
もう残りの部屋は5部屋あるか無いかだぞ? これ相当運が悪くないか?
すでに、周囲はゴブリンの死体だらけだ。
「こんな目にあっても、まだデスゲームに参加するの?」
「うん、あのね……」
息を整えながら、木之瀬さんの告白。
「ミントに告白されて、私、気持ち悪いって言っちゃったんだ」
「うーん」
無理もないのでは?
俺も友達にカミングアウトされたら冷静でいられるかわからない。
なんか、ミントちゃんのスキンシップはベタベタしてて、俺らみたいな百合スキーが盛り上がるぐらいだったから、余計にね。
「でね、初めからそう言う事が目的で近付いたんでしょ! って言っちゃったんだ」
「むぅ」
それも、無理はないのでは?
「でも、この前思い出したの。私ね、サッカー部の矢野先輩が好きで」
「あーそうなん?」
別に、ショックでもない。
矢野先輩はとにかくモテる。女子のアイドル的な存在で、いつもキャーキャー言われているからだ。憧れている女子はクラスにも多かった。
「矢野先輩はミントちゃんが好きだって噂があって、でね、私からミントに話し掛けたんだよ」
「あー」
うん、友達にどっちが最初に話し掛けたのかってあいまいになるよね。
「思い出してから、私酷い事言ったなって、謝ろうと思ったら、ミント行方不明で……」
「そうか……」
でも、諦めた方が良いと思うんだけど、木之瀬さんは諦められないらしい。
「ミント思い詰めてたから、このデスゲームね、クリアーすると魔法が手に入るって噂があったから、ミントずっと興味あってね……」
「あー」
でも、何度もクリアーしたおっちゃんも魔法は使えない。モンスター特有の技能だ。
メイジゴブリンの杖も、特に効果が無い。
夢見がちな女の子が騙されて、デスゲームに参加させられ、どうなったなんて想像したくもない。
「ホントはね、こんなゲームを開催してる人を私はやっつけてやりたい」
「それもまた、難しそうな気がするなぁ」
だって、人をいきなりワープさせてくる奴らだよ?
無理ゲーっしょ。
目標が大きいことは良いけれど、このままだと木之瀬さんまで死にかねない。
俺は彼女の肩を掴んだ。
「ミントちゃんの事は置いておいて、とにかく今は生き残らないと」
「そ、そうだね」
頷いた木之瀬さんは、バツが悪そうに上目遣いで俺を見た。
「あの、脱出したら、私、ボコボコに殴られちゃう、のかな?」
いやー、それはもうノーカンでしょ。
守るどころか、こっちが守られてるんだもん……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後も、ゲートは中々見つからない。
いや、正確には見つかるのだが、収縮に飲まれ既に闇の中というケースが多かった。
あのスカイフィッシュに切り刻まれながらゲートに入るのは難しい。
あまりにも運が悪い。
地震は先ほどからひっきりなしだが、良い感じのゲートがない。
良く考えると、このダンジョンは多層構造。
この階ではなく、他の階にゲートが発生している可能性が高い。
最後の収縮が始まる。
きっと、次の部屋が最終終息地点になるだろう。
そこにゲートが湧かなかったら終わりだ。
と、その時だ、通路のど真ん中、目の前に金属の棒がそそり立つ。
木之瀬さんは目の色を変えて走り込んだ。
「あっ! ゲート出て来たよ!」
「ダメだ、木之瀬さん!」
「なんで?」
慌てて手を掴んで止める。
だって。
「赤いゲートだ」
「……ホントだね」
赤いゲートは死への直行便。誰も帰った人は居ない。
おっちゃんはそう言っていた。
きっと、元の仲間が赤いゲートに飛び込んだのだ。
もし、最後の部屋に赤と青のゲートしかなかったら、どちらかはイチかバチかで飛び込むしかないからな……
そして、赤のゲートに入ったヤツは二度と連絡が取れない。
「行こう、次の部屋に」
「うん」
こういうのは、最終収束地点には必ずゲートがある。そう言うモンだ。そう信じて、最後の部屋にはいると、ソコには。
「あったぁ!」
ゲートが二つ。両方とも、青だ。
「良かったぁ」
「ホントになぁ」
ホッと一安心。
ヘナヘナと力が抜けていく。
でも、木之瀬さんはハッと何かを思い出した様に俺の事を見る。
「あの、本当に、私毎日呼びつけられて、ボコボコに殴られながらエッチな事されちゃうの?」
「いやいや……」
守るどころか、守られた。
むしろ、俺がボコボコに殴られる方だ。
……いや、それは結局、俺のご褒美か?
まぁ、いいや。
俺は彼女と一緒にこのダンジョンをクリアした。
その満足感で一杯。
「嫌だったら、その剣で俺の事を殺しても良いよ」
「えぇ……」
木之瀬さんは笑うが、本心だった。
冴え冴えとした青の美しい刀身に斬り裂かれて死ねるなら、悪くないと思える。
女の子を守って、守られ、何かを成し遂げた気持ちで死んでいけたら。
でも、木之瀬さんは呆れた様なため息をひとつ。
「しないよ。そんなの」
「そっか」
「でも、優しくしてね……」
「え?」
それって、らぶらぶエッチなら可って事デスかぁぁ???
やった!
急に、生きる希望が湧いてきた。
「じゃあ、行こうか!」
「うん」
俺は、急いでゲートへと駆けつけて。
「あれ?」
気が付いたら、腹から剣が生えていた。
斬られた? 木之瀬さんに?
――違う!!
腹に生えていたのは黒々とした禍々しい剣。
「うぷっ」
口から血を吐き出しながら振り返ると、ソコには知らない男が居た。
浅黒い肌に、ソバージュの爽やかなイケメン。歳は大学生ぐらいだろうか。
俺は、ムカついた!
「プッ!」
「グッ!」
瞬時に、口に溜まった血を吹き付けて、相手の目を潰した。
今の俺は、腹が引き裂かれて死ぬ直前。
でも、そんなのはどうでも良いだろう??
生き延びる事より、反撃にしか頭が行かないぐらいにムカついていた。
何がムカついたって、そいつがサッカー部の矢野先輩を更に一回りイケメンにしたような、スカした男だったから。
頭がカッっとなった。
もう、命なんてどうでも良かった、ただコイツをぶっ殺す事しか考えられない。
ショックでないと言いながら、俺は案外、木之瀬さんのカミングアウトにショックを受けていたらしい。
俺は、ムカつく優男を蹴っ飛ばす。
もちろん、剣で刺されたままだ。内臓までずるりと一緒に抜けてしまった。
「ぎげげぇ」
自分でも良く解らん悲鳴を飲み込みながら、俺はウエストポーチから回復薬をまとめて三本抜き取ると、腹の中にぶちまける。
「キャーッ!」
木之瀬さんの甲高い悲鳴をBGMに、俺は零れ落ちた腸を腹の奥へと押し込んだ。
「木之瀬さん!」
「な、なに? 大丈夫!?」
「先に帰って!」
「なんで?」
なんでって……決まってるだろ。
俺は、イケメン優男に向き直る。
「コイツが、キラーだ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます