第8話 とにかく逃げ延びろ

「この剣、凄いね」

「ああ、攻撃力が桁違いだ」


≪ クリスタルソード ≫

 ATK+20


 いやー圧倒的。

 錆びた長剣ATK+3でドヤってたのが懐かしい。


 こんな大仰な神殿を建て、コレを奉っていたのだ、アイツらは。

 納得の高性能。

 満足したから良いよね?


「行くぞ、ヤツらが戻ってくる」

「ちょ、ちょっと待って!」


 そうか、ミントちゃんの手掛かりを探すんだっけ?

 望み薄だと思うけどなぁ。こんなトコに女の子が来るかね?


 と、落ち着いたら体の痛みが気になった。


 回復薬は共有財産、良いかな? 良いよね?


「あ、右肩痛いから回復薬使うっす」

「いいよー」


 流石はコミュ障にも優しいギャル。いや、木之瀬さんは別にギャルじゃないけど。


 バチャバチャと振りかけると、傷は一瞬で塞がった。

 スゲーなマジで。


「篠崎くん、もうちょっとだけ、調べさせて」

「いいけど、急いで」


 木之瀬さんを急かすと、どうも祭壇を調べるようだ。

 なら俺は、ゴブリンの死体を漁る。


 両手剣は……見事にぶった切れてARにすら反応しない。

 あとは……


≪ ゴブリンナイト ≫

 Lv1 死亡


≪ 鉄の兜 ≫

 DEF+8


 いやぁ、まぁ、ソウダネって感じ。

 目玉は、鉄の兜。

 ゴブリンのお古ってのは頂けないが、被ってみる。


「ふむ」


 不思議パワーでサイズ調整されるからスッポリ収まったが、どうにも視界が遮られる。面頬を下げると、ほぼ何も見えない。

 こりゃ参ったね。


 でも、慣れた方が良いかもしれない。


「ねぇ篠崎くん。回復薬が落ちてたよ! それに、この石碑だけど開きそうな部分があるの、手伝っ……誰?」

「いや、オレオレ」


 オレオレ詐欺みたいになってしまった。


 威力を知ってるだけに、その剣突き付けられるとキュンとしちゃう。タマタマが。


「よ、よかったー、復活したのかと」

「まさか」


 慌てて面頬を上げると。ようやく俺だと解ってくれたようだ。

 どうもゴブリンナイト戦がトラウマになりかけていたらしい。


 あんなのがポンポン出たら堪らない。


 ――カンッ


 その時、頭を殴られたような衝撃。


 すっかり油断していたのも手伝って、ぺたんと尻もちをついてしまった。


「ふぇ?」

「なっ! なん? 嫌ッ! 篠崎くん」


 俺の頭に、矢が刺さっている!

 いやいやいや、


 違う。跳ね上げた面頬の隙間に刺さっているのだ。


 なんだ? ゴブリン? どこから?

 パニックに陥る俺達に、陽気な声が掛けられた。


「はーい、動かないでね」

「奪ったアイテムを置いて、失せな」

「面倒くせえから殺そうぜぇ」


 現れたのは、人間。

 それも三人!


 こいつら、ゴブリンの本隊が行った方から出て来やがった。

 つまり、あの大軍を釣り出した上、処理して来たって事だ。



 筋肉ムキムキ、タンクトップのアゴ髭。


 グレーのパーカー、眉毛無しのハゲ。


 黒地に金のジャージ、サングラスもじゃ頭。


 武器はそれぞれ、ハンマー。弓、剣である。


 かっこは半グレなのに、武器だけファンタジーで違和感凄いなオイ。


 弓を撃ったのはパーカーのハゲ。神殿の外から、中の俺に向かって、正確に頭を撃ち抜いたのだ。


 ただ者じゃない。弓道経験者か?


 それになによりヤバいのは、『このデスゲームで徒党を組んでいる』事だ。


 俺と木之瀬さんが目的と事情を摺り合わせるのにもかなりの時間が掛かったにも関わらず。


 つまり? この意味が解るかよ?



 コイツら、初めから三人で参加している!

 きっと、そうだ!



 コイツらは、このゲームのルールを知っている。


 初めからデスゲームだと知って参加したんだ! 殺す気で! 恐らく、脱出方法も!


 圧倒的な知識のアドバンテージがある。


 そして、そんな半グレのクソ共が三人!

 いや、まるで人の事言えないがな。俺もジャージだし。


 しかし、コイツら靴だけは中世みたいな……いや俺らもか。

 靴は出やすいのかな。


 いや、そういえば、ゴブリンメイジの服もアイテム扱いじゃなかった。

 そう言う事なのか? 服としての防具は存在しない?

 防具は靴や兜?


 それ以外は守れないのか?


 と。


「アレ? JKじゃん!」

「失せろっての嘘でーす、遊ぼうぜ」


 ヤバい、脳震盪で、動けない。

 やつらが、来る。


「篠崎くん! 大丈夫?」

「…………」


 心配する木之瀬さんには悪いが、俺は、いっその事、死んだふりを決め込む事にした。


「ねぇ! お願い! 返事をして!」

「あー彼氏君、死んじゃった? 代わりに俺達と遊ぼうぜ」


 ズカズカとやって来たのは、パーカーの眉無しハゲ! 弓持ちだ!

 他のヤツらは周囲を警戒、遺跡を見て回っている。


 木之瀬さんは立ち上がって、剣を構えた。


「…………」


 何も言わない。


 俺との約束通りだ。

 何も言わず、斬る気でいる。


 でも、三対一だ。半グレ共の余裕は崩れない。


「マジかわよー、まさやん俺、このコとヤリたい!」


 馬鹿な事を言いながら、ハゲは完全に俺から目を切った。


 木之瀬さんにばかり注目し、俺には完全にノーマーク。


 なら、俺がやる。


 ゆっくりと立ち上がり、がら空きとなったハゲの腹に大振りの一発を叩き込む。


「オラァ!」

「ぐえ、オイ、テメェ!」


 ……なんだ? 固い! ぶ厚いゴムみたいな感触。

 嘘だろ? ゴツいガントレットで殴ってんだぞ? 三人の中で一番華奢に見えるのに。


 実はとんでもなく鍛えてるのか? だとしたら、自由にさせてはマズい!

 俺は必死にパーカーハゲの腰のあたりにしがみつく。

 しかし、パーカーの力は凄かった、長くは保たない。


「てめ、ふざけんじゃねーゾ」

「木之瀬さん!」

「篠崎くん!」


 俺の声に反応し、木之瀬さんは動いた。

 いや、初めから殺す気だったのだ。彼女はとうに覚悟を決めていた。


「やあっ!」


 ハゲの頭が、ポロリと落ちる。


 言うまでもなく、即死。

 死体はバタリと倒れてから、思い出したかの様に血を吹き出した。


 このクリスタルソードヤバい。

 怖気をふるう切れ味。


 だが、もちろん、その瞬間はヤツらにも見られていた。


「てっちゃぁぁん! クソッ! ごりさん! コイツら殺すぞ!」

「あいよ!」


 ヤバいぞ。

 確かに、コレで数の上では二対二。

 だが、無理だ。


 装備が違う。


 今気付いたが、コイツらジャラジャラと貴金属を身に付けている。

 半グレの格好に金属のチェーンとか、違和感が無いので気が付かなかった。


 アクセサリーは換金アイテムだけじゃないのか。

 なにかのバフがあると思った方が良い。なにしろコイツら、妙に慣れている!


 シロウト二人で敵う相手じゃない。


「逃げよう! 木之瀬さん」

「うん!」


 神殿を飛び出し、猛ダッシュ。


「てっめぇ! 逃がすかタコ!」

「ごりさん、女の子の剣に注意しろ、アレがお宝だ。一発でやられる」

「だからって、許せッかヨォ!」


 凄い早さで追いかけてくる。

 扉を開ける僅かな時間が、きっと取れない。


 だから、俺は叫んだ。


「よっさん! 援護頼む!」


 背後に向けて。呼びかける。


 勿論、よっさんなんて居ない。誰だよソレ?

 下手なハッタリ。


 それだけなら、下手くそなハッタリだ。


 ――ザンッ!


 しかし、俺とヤツらの間に矢が飛び込んで、石畳に突き刺さるなら、そうも言ってられないだろう?


「クソッ! 新手か!」

「良く見ろゴリさん、あれはゴブリンだ!」


 バレた! 一瞬で。


 そう、俺達は弓持ちのゴブリンを排除しなかった。

 どうも固定砲台よろしく動こうとしないので、後回しに探索をしていたのだ。


 上手いこと利用したつもりが、あっさりと看破されてしまった。


「開いた! 行こう! 篠崎くん!」


 その間に、扉は開いた。思ったより早い。

 錆びたりはしていなかったのだろう。


 木之瀬さんに続いて滑り込むと、俺は慌てて扉を閉める。

 思わず、口角がつり上がるのを自覚した。


 そうだ、ココが正に、俺がずっと憧れた場面。


「行って!」

「うん!」


 何度も言い含めたから、期待通り木之瀬さんは先に進んでくれる。

 良かった。これで、夢が叶う。


「オラァ開けろボケェ」


 木の扉をガンガンと叩く音。

 だが俺は腰を落とし踏ん張って、決して扉を開けさせない。


 そうだ、コレが俺が長年憧れていた。

 「俺に任せて先に行け」という状況だ。


 それで、女の子を守って死ねるなら、最高じゃないか。


「ぶっ殺されてぇのかオイ!」

「まさやん退けよ、俺がやる」


 しかし、扉の奥で不穏な気配。

 でもよ、覚悟を決めた俺は手強いぜ?


「ぶげぇ!」


 あっさりと吹き飛ばされましたぁ!!!


 ハンマーだ。

 ゴリさんと呼ばれたタンクトップのアゴ髭が、ハンマーで扉ごと俺の覚悟を吹き飛ばしてしまった。


「やべっ」


 勝てるワケが無い。パワーが違う。

 うーん、諦め。


 いや確かにね、ここは任せて先に行けをしたかったよ?

 でも、ただの無駄死にはキツいっス。


 扉もなしに通路で戦えばリーチ差がモロに来る。


 さっき言っていた事もキレイに忘れ。俺は木之瀬さんを追いかけた。

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