第9話 とにかく助けてくれ

「木之瀬さん??」


 なんで、まだこんな所に?

 通路を抜けた先の部屋、木之瀬さんはボサッと突っ立って、誰かと話していた。


 ……誰?


 いや、マジで誰?


 このおっさん、誰???


「篠崎くん! この人、警部の山崎さん」

「けいぶ?」


 オウム返しに聞いてしまった。

 だって、この場所と警察が、あまりにもマッチしないんだもん。


「君は、彼女の友達?」


 トレンチコートのいかにも警部っておっさんが訊ねてくる。

 うぐっ、こちとら先生と警察には苦手意識がスゲーのよ。


「は、はい! しのざきぜんです。あの! それより、追われてるんです」

「あぁ、聞いてるよ」


 いや、まったりしてるけど、こっちは殺されそうなんよ。


「オラ、テメェ」


 言ってるそばから半グレどもがやってきた。

 扉を壊してご登場。


 道中の扉を閉めたり、壺を転がしたり色々やったが、ソレほど引き離せなかった。

 ヤツらパワーが凄い。


「あー君達、良いかな。私はこう言う者だが」


 なんかおっさん、これ見よがしに手帳を出している。

 この状況わかってんのか?


 俺はこっそりと木之瀬さんに近付いた。


「どゆこと?」

「それが、警部さん、ミントちゃんの捜査をしてる人で」

「それで、このアプリに辿り付いたって?」

「そうそう」

「でも、え? 警部さんまだ状況が飲み込めてないような……」

「あのね、この近くに転移して、あんまり動き回って無いんだって」

「ラッキー君かよ」


 この手のサバイバルゲームは、収束地点がランダムになる。

 だから、開始時点から殆ど動かずに済むヤツだって当然出てくるんだ。このおっさんがそうらしい。


「一応、この部屋に居たスケルトンとかゴブリンは倒したみたいだけどね」

「まぁ、警官なら簡単だろうな」


 俺でも倒せるのだ。警官なら投げ落として一撃だろう。

 良く見れば、警棒代わりに棍棒を握り締めている。


 ……やばいな。つまり、アレだろ?

 銃は持ち込めて無いんだろ?


「まさやん、サツだぜ?」

「ゴリさん、ここでサツなんてどうでも良い。オイおっさん、そこのガキ寄越せよ」

「何言ってるんだ、馬鹿は止めろ」


 おぉー

 そりゃ、警察は真面目そうなJKを信じるよね。

 一方あいつらは、全力で半グレスタイル。どっちを信用するかなんて決まってる。


 木之瀬さんのセーラー服作戦が、まさかここで決まるとはね。


「どきな! おっさん! コッチは仲間が殺されてんだよ!」

「そこのJKが、仲間の首をカッ切りやがった!」


 半グレども、なんか、必死に状況を説明している。

 もちろん、警部さんは全く信じない。


 言うに事欠いて、セーラー服のJKが首ちょんぱしてるとは思わない。


 笑うよな。いや、笑えねぇ。

 言葉にすると木之瀬さんにスゲぇ事やらせてしまった感ある。


 しかし、不思議なのは半グレ共だ。


 いやさ、デスゲームじゃん? らしくないなって。

 警官なんて、問答無用に殴って殺すと思っていた。


 でも、そうか。


 デスゲームだろうが、ゾンビが溢れた世界だろうが。

 当たり前のように警察官が取り締まりを始めたら、そうなるか。


 突然に壊れた日常が、突然に復活したとしても不思議ではない。意気揚々とここで殺人を犯したら、次の瞬間に警察官が雪崩れ込んで来そうな錯覚。


 不思議空間だと思っていたデスゲーム会場が、日常に浸食された。


「君たち、どうだね? 彼らはそんな事を言っているが?」


 事務的に尋ねるが、木之瀬さんの返答はこうだ。


「そんな!」


 たった、それだけ、


 わたし、ショックです! って顔をするだけ。

 それだけで、警部は肩を竦めて、半グレ共に向き直った。


 いやさ、真面目で良い子だと思ってたけど、案外に木之瀬さんは図太くて、頼もしい。


「オイコラガキ! ふざけんじゃねぇぞ」

「止めなさい、そこまで言うなら見に行こうじゃないか」


 何故か、そんな話になった。

 今からさっきの神殿に戻って、死体を確認するんだと。


「君たちもついて来なさい」

「はい!」

「わかりました」


 俺達は元気よく返事をするが、そんな事は出来るハズないのだ。


 もう、そこは、


 そして、ここも、もうすぐ闇に飲まれるのだ。


「しゃーねぇ、まさやん、ちょっとてっちゃんのガラ持ってくるわ」

「あ、あぁ……」


 しかし、ルールを熟知しているはずの半グレどもまで、日常の気分で居る。

 迫る闇に気が付いてない? もしくは闇なんて危険じゃないのか?

 実は、闇に飲まれれば元の世界に帰れるとか?


 まさか! このルールであの闇が命に係わらないなんて、あり得ない!

 そんなヌルいルールなら、みんながこぞって参加する。


 馬鹿だから雰囲気に流されているだけだ。

 ソレを知ってか知らずか、


 ここでも動いたのは木之瀬さんだった。


「ごめんなさい、ちょっとおトイレです」


 小声で警部にそう言って、こっそり離脱する。もちろん俺も一緒だ。


「ちょっと待てテメェ」


 コレで済めば良かったが、勿論気が付かれる。


「キャッ! なんなの?」


 白々しくも、木之瀬さんはそう言って逃げる。俺も逃げる。


「待ちなさい! 待て!」


 警部は逃げようとするまさやん(黒ジャージ)に縋りついている。ナイス足止め。


「ゴラァおい! テメェら死んだぞ?」


 だから、追ってくるのはゴリさん。ムキムキタンクトップのアゴ髭だ。


「こっち!」

「うん」


 俺達は、なるたけ円の中心に向かうべく通路に飛び込む。

 木製の扉を開け、飛び込んだ。


 すかさず扉を閉める。


「オラァ!」


 そして、ゴリさんはハンマーで扉を吹っ飛ばす。


 ココに至るまで、扉に棒を引っ掛けたり、レンガを積んだり。何度もそうやって妨害したものだから、初手から扉の破壊を断行した。


「えいっ!」


 だから、ソコを狙った。

 木之瀬さんがクリスタルソードを振り下ろす。


 扉の横で、出待ちしたのだ。


「ぐあああぁぁぁ」


 ハンマーを撃ち下ろした直後、伸びきったゴリさんの両腕をいとも容易く断ち切った。


「くそぉ! テメェ」

「ゴリさん、大丈夫だ。薬で付くから!」


 警部を殺したのか、後から追いついたまさやんがゴリさんの両腕を治療する。


 ……狙い通りだ。

 下手に殺すより、怪我をさせた方が足止めになる。

 俺達はこの時、既に通路の奥へと走り込んでいた。

 コレで十分に、距離を稼げる。


 そのハズだった。


 通路の角を曲がる直前、

 最後の最後に後ろを確認して、失敗を悟る。


「死んだぞテメー!」


 既にゴリさんの腕がくっついていた。

 俺が思っていたより回復薬ってヤツは強力だったのだ。


 考えて見れば、すぐに傷跡が埋まる程の薬なら、キレイな切断面をくっつけてしまうなど朝飯前。クリスタルソードの切れ味が裏目に出た。


 鬼ごっこは、続く。

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