第32話 とにかくデスゲーム
「あー、良い天気だなぁ」
「死ね! 死ね! 死ね!」
昼休み、学校の屋上で、空を見つめながら。
俺はミントちゃんにしゃぶらせていた。
「ねぇ、ミントちゃん、結局あの謎の魔法使いって誰だと思う?」
「ひるふぁ! くふ!」
知るか! クズ! って?
まぁ……そうだよな。
「あ、出すから、飲んでね」
「ぐべっ、糞! カス! 苦い!」
堪忍な。
顔をドロドロにして、それでも気になる事をミントちゃんは言い出した。
「んぐっ! でも、この学校の人間だと……思う」
「ちゃんとゴックン出来て偉い!」
「死ね!」
まぁまぁまぁ。
「それ、どう言う意味……」
「私だって、当てずっぽうで何人も殺したわけじゃ、ない」
「ソレって……」
「変身魔法があるってのは、噂に聞いてた」
え? ソレって?
つまり、火球を取ったヤツはミントちゃんがデスゲームに参加する前に攻略を終えていたのだ。
「だとしたら、相当ヤバいね……」
「ネジが外れてる、あんたと同じぐらい」
酷い言い草ではあるが、その通りだ。
だって、ハードモード攻略後、俺は慌てて魔法を選択しようとした。
あの黒いローブの謎の人物に、先に回復魔法を取られたらコトだからだ。
でも、違った。
俺たち三人が慌てて魔法を選択しようとした時に、黒ローブのスキル取得は既に完了していたのだ。
選択に、一切の迷いが無い。
しかも、取ったスキルが凄い。
≪ 魔法強化 ≫
魔法の必要精神力を半分にし、魔力補正を二倍にする。
ヤバすぎる。
だってこのスキル、既に魔法を取った上でしか効果を発揮しない。
だから一個目に取るってのはあり得ないだろうが、だからと言って二個目に取るか?
しかも、一個目は火球だぞ?
火球にどんだけ命を懸けてるんだよ。
あの馬鹿みたいな威力の火球の、更に上を求めている。
ちなみに謎の威力に関しては、回復魔法を使い込むにつれて解って来た。
超ゆっくりと、気合いを入れて呪文を唱えると、威力が増すのだ。
もちろん、その分、精神力は使うし、疲れるが、既にあの威力だぞ?
アイツは核兵器でも目指しているのか?
そう考えると、あいつは部屋の外で魔法をじっくり準備して、ここぞと言うタイミングで放って来た事になる。
「何がしたいんだよマジで!」
俺がそう言うと、ミントちゃんは目を伏せて、長い睫毛を揺らしながら絞り出すように言った。
「心あたり、ある……」
「実は、俺も……」
この学校の先輩で、名の知れた変人だ。
黒いローブを着てるなんて、あいつしか居ないもん。
自称、≪図書館の魔法使い≫
はー、関わり合いたくない。
今は、忘れよう。
と、そこで屋上の扉、ドアノブがガチャガチャと捻られる。
「木之瀬さんが来たみたい」
「私が開ける!」
ミントちゃんはミニスカートをフリフリ、パンツ丸出しで駆け出した。
カチャリと内側からロックを開けると、ひょこっと木之瀬さんが顔を出す。
「こんにちわー、本当に屋上入れるんだね」
「うん、鍵貰ったし」
コレが権力だ!(パパさんの)
木之瀬さんは、二限からちゃんと来てくれた。
俺の首は、繋がったのだ!(物理)
「ごめんね、親の説得に時間掛かっちゃって……」
「そりゃ、そうだよ」
結構な人数が転校していった。
そんな中、木之瀬さんは事件の中心人物である。両親が心配するのも当然。
「はは、そうだよね、でもミント、凄い格好だね」
「ぐっ!」
触れられたくない所を突っ込まれ、ミントちゃんは顔を赤くした。
「それは、奈々も!」
「うん……そうだよね、でも、チョーカーって事で何とかならないかなって」
木之瀬さんは気まずそうに首元を撫でる。
そうなのだ、
なんとなんと。
木之瀬さんは、首輪を付けたまま登校してきた。
ミントちゃんも渋い顔だ。
「無理、ある」
「でもさ、首輪にしては細いし、なんとか……ならないかなって? 親には本当に怒られちゃったんだけど」
「そりゃ、そうだよ……」
俺も、ビックリした。
ドMにも程があるでしょう。
「言ってくれれば外しに行ったのに」
「ううん、いいよ。それにこの首輪、絶対に自分で外せないワケじゃないし」
そうなのだ。
この手のアイテム。普通は自分で外せないモノじゃん?
ミントちゃんなんて、鼻で笑いながら自分で外してて、ビックリしたね。
きっとアレだ、この首輪をしてない時点で翻意ありと見なすと、まぁそう言う使い方なんでしょう。
だからあんまり意味無い。
あと、アレだ。
このアイテムだけ、換金アイテムと同様に現代に持って帰って来れたのも気になる所。
あんまり考えない方向で行こう。深みにはまる。
「えーと、一応、外そうとすると何か嫌だなって気になるんだけどね」
「私は、そんなに……」
「そうなんだ」
奴隷ちゃん二人でイチャイチャしている。
イイネイイネ。
「そんなモノ付けてると変な人に襲われるって、私はもう心配いらないから大丈夫だって言ってるんだけど……」
「そりゃそうだよ」
信じられるハズがない。
スキルの存在なんて。
そう思っていたら、木之瀬さんはとんでもない事を言い出した。
「あ、そうだ! 篠崎くん、ちょっと私を殴ってみてよ」
「え? なんで?」
「なんで、ってスキルのチェックだよ」
「えぇ?」
そう、木之瀬さんが取得したスキルは≪鉄壁≫だ。
≪ 鉄壁 ≫
使用すると、一定時間物理攻撃への耐性を大幅に高める。
そして≪強撃≫
≪ 強撃 ≫
気合いを入れて、普段の何倍もの威力の一閃を放つ。
どちらもゴリゴリの剣士向けスキル。
木之瀬さんは剣士の適性だったのだ。
使っていた武器からして、そりゃそうなんだけど。
「ねぇ! ねぇ! 殴ってみてよ」
「うーん」
ミントちゃんを殴るのは良いけど、木之瀬さんを殴るのは気が引ける。
それに、だ。
「ミントちゃんは、良いの?」
「回復魔法もあるし、なんとか耐えられる」
いや、なんで自分が殴られるより辛そうなんだよ。
「はぁ、じゃあ……」
「あっ! 顔にね、本気で! 本気で殴ってみて!」
えぇ?
まぁ、解りましたよ。
「行くよ!」
拳を握り締め、脇を締め、腰を落として、腹に力を溜める。
やってやる!
俺だって、最近は空手を習っているのだ。
「せいっ!」
――グチュ
拳が顔面にめり込んだ。
ポタポタと鼻血を垂らし、木之瀬さんはたたらを踏む。
「あっ、ぐっ、ちょっと失敗しちゃった」
……いや、木之瀬さん。
今ワザと喰らったよね?
どー考えても、ワザと喰らったよね? ドMだよね?
「早く! 早く治せ!」
そんで、ミントちゃんは慌てすぎ。
「ミント、大丈だから。あの、もう一回! 今度はちゃんとスキル使うから!」
「あ、うん」
俺はもう一度拳を振るった。
容赦はしない。
――ガキン
「ゲッ!」
俺の拳は一発でおしゃかになった。
中手骨が折れたのだ。
鉄壁の名にふさわしい。マジで鉄と同じぐらい固い。
「痛ぇ!」
「へへっ、凄いでしょ」
鼻血を出しながら、そんな事を言う。
「じゃあ、治療しよっか」
「お願い!」
俺が膝枕をすると、木之瀬さんは頭をのせて来た。
膝枕して貰うのも良いけど、するのも良いよね。
青春ってヤツだ。
俺は回復魔法を唱える。ゆっくりと。
「それにしてもさぁ、デスゲームって何だったんだろうね?」
木之瀬さんは過去形にしているが……
今でも週一でデスゲームは開催されている。
自衛隊員とか、追い詰められた異常者が参加しているらしいが、大半が死ぬからな。
以前の、死にたくて、無気力で、ルールを何にも知らない参加者が大半だった頃よりも、今はずっと難易度は上がった事だろう。
「≪回復≫ うーん、俺が思うにさぁ」
「なに? 何か解ったの?」
「あのレイスにしろ、リッチにしろ、あと一層のゴブリンだって、何かの儀式をしていたじゃん?」
「うん……」
「だから、俺達を生贄にして、何かを呼び出す触媒にでもしてたんじゃないかなって」
「え? じゃあ、なんで武器とか、換金アイテムとか、魔法まで貰えるの?」
「うーん」
思い出すのは、光剣クラウ・ソラスの説明文だ。
かつての神々の戦争で、神は人々に神殺しの武器を与えた。
でも、人間が神に反抗するようになって神殺しの武器を取り上げた。
「代理戦争なんじゃないかな、神と神の」
「え? だから、ゲームみたいな、ううん、神にとってゲームって事」
「うん、神にとってはアレでも平和的な解決方法なんじゃない?」
危険過ぎる武器を与えて、ガチンコで戦わせるよりも、ルールの範囲の中で戦って貰おうって所かなぁ……
「じゃ、じゃあ、あの光る剣って……」
「滅茶苦茶ヤバいよね、きっと想定外。バグアイテムみたいなモンだよ」
「えぇ~」
首輪もそうだけど、厄過ぎる。
想定外っぽい所がある。
「怖い……ね」
木之瀬さんはしみじみとそう言った。
でもなぁ、まだ巻き込まれそうな気がするよなぁ。
でも、俺達二人でイチャイチャしていると、ふて腐れたのがミントちゃんだ。
「ねぇ、奈々、もう良いよね、お昼休み時間ないし」
「えぇ……ホントに」
「やる! やるの!」
もう十分ぐらいしか無いけど……
まぁ、良いか。
ブルーシートを広げ、ミントちゃんは恥ずかしげもなく全裸になった。
「奈々も! 早く」
「えぇ……」
木之瀬さんは助けを求めてチラリとこちらを見るんだけど……
俺はスマホのバッテリーと容量を確認するばかり。
「あ、どうぞ、続けて!」
「そんなぁ……」
「早く!」
ミントちゃんに急かされて、木之瀬さんは渋々服を脱ぐ。
ミントちゃんと木之瀬さん、二人のJKが屋上で素っ裸って凄いな。
趣がある光景である。
「やらなきゃ、ダメ?」
「ダメ!」
「うぅ」
ミントちゃんは木之瀬さんに抱きついた。
命令で俺に抱きついた時と幸せそう感が全然違うのね。
「あ、ミントちゃん、ローション使う?」
「……使う!」
「えぇ?」
太陽の下、ヌルヌルで絡み合う二人がもう、凄いのだ。
俺は夢中でシャッターを切った。
「だめぇ、撮らないで」
「そうだ! カス! 撮るな!」
「いや、撮るでしょ」
俺はミントちゃんの成長をパパさんに届ける使命があるし。
「それ……後で私にも見せて」
そして、ミントちゃん、血は争えない。
「酷いよぉ……」
そう言う木之瀬さんの柔らかなおっぱいが、ミントちゃんの手で形を変える。
ふにふにと柔らかな弾力がスマホ越しにも伝わるようだ。
ローションまみれの肌に、弾ける汗。
たまりません。
「この、ピンクのブルブル、凄いよ! 私なんどもイッっちゃったの」
「そういうの、止めようよ!」
時間がないから、いよいよ二人はクライマックスである。
俺の動画容量も佳境だ。メモリ足りねー。
ってか、俺が使ったオモチャじゃん。
木之瀬さんに使う為に持って来たのかよ。
たぶん、自分で良かったヤツを選んで来たのだ。
そういうのもあるのか。
俺は妙に感心してしまったね。
ただ、木之瀬さんにはあんまりだった。
「もう、ヤだよ! こんなの!」
お気に召さないみたいですね。
まぁ、嫌々ってのも撮影しがいが……
そんな風に思っていたのだが。
ミントちゃんは作戦を変えたのだ。
「アイツ、酷いの、散々殴って、痛くて動けない私をこれでブルブルって刺激して、何度も何度も、無理矢理イカせてくるの、体力尽きて気絶するまで責めるの」
「そ、そんなの、酷い」
酷い、酷い、可哀想、と言いながら。
……はっきりと木之瀬さんは興奮し始めた。
自分の受けた暴力を話して、ドMの木之瀬さんを興奮させている。
……それで良いのか? ミントちゃん。
「やっ、そんなトコ」
「アイツは、こんなモンじゃなかった、血が出るまで……」
「えっ、ほんと?」
チラチラ期待の籠もった目で見てくるの、止めてくれませんか、木之瀬さん。
やらないよ。
純真で良い子の木之瀬さんを苛めるのは、期待されてもなんか無理だよ。
良心が咎めるんだよ。
その点、ミントちゃんは何しても良いから気が楽。
俺は容赦なくミントちゃんのお股を蹴っ飛ばす。
「オイ、そろそろ時間だよ」
「ギッ! もうちょ……っと!」
いや、時間だって。
「あ、そうだ、首輪」
「えぇ……」
木之瀬さんが付けてるなら、もうミントちゃんにも付けちゃおう。
ミントちゃんは渋るけど無視。
「まぁ、ただでさえ激エロなセーラー服に首輪まで付けたらギャグだけど、お似合いだよね」
「似合う訳ない……」
「でも、木之瀬さんとペアルックだよ」
「うっ……」
うっ……じゃないよ。
なんでそこに惹かれてるんだよ。
ミントちゃんは覚悟を決めて、首を差し出してきた。
付けろって事だな。
「じゃあ、付けるよ」
「う、ん……」
で、俺は素っ裸のミントちゃんに首輪を付けた。
うん、学校の屋上で素っ裸でヌルヌルの女の子に首輪をはめるって倒錯的ね。
「はい、付けた。コレで首輪に痴女みたいな格好でヌルヌルのまま午後の授業受けてね」
「死ね、クズ!」
「それで、奴隷にしてくださってありがとうございます、篠崎様って言って土下座して」
「するか馬鹿!」
≪苦痛≫
「ギッ! くそっ、もうやだぁ……」
泣きながらも、ミントちゃんは全裸に首輪ヌルヌル土下座を決めてくれました。
教えた通りの土下座の作法で、地面にグリグリと顔を押し付けながら。
「グスッ……奴隷にしてくださってありがとうございます、篠崎様……」
「うん、まぁ、良いだろう」
「ぎぃ……」
俺は容赦なく、その頭を踏みつける。
もう毎日土下座させすぎて、いつもの日課みたいになってきた。
だけど、ソレを見ていた木之瀬さんの様子がおかしい。
「う、酷い、ミントが悲惨なことに……うぅ」
酷いと言いながら、明らかに興奮してるし、なんならミントちゃんを羨ましそうにしている。
ドMだ……
なんだか、大変な事になってしまった。
ミントちゃんの頭を踏んづけながら、空を見上げる。
黒いローブの変質者もそうだけど、なにも終わってない気がする。
きっと、いつかダンジョンからモンスターが溢れ出したりして、大変な事が始まる気がする。
それに何より、チュートリアル。
そう、俺達が必死こいてクリアーしたのは、所詮はチュートリアルなんだ。
本当の戦いが、始まる。
きっと、チュートリアルで魔法やスキルを取得した者達で、新しい戦いが始まるのだ。
でも、大丈夫だ。
俺はデスゲームに始まる前とは違う。
退屈で退屈で、いつ死んでも良いって思っていた男はもう居ない。
決意を込めて、俺はミントちゃんを踏みしめる足に力を込めた。
「ぐびっ」
「ああっ! ミントが! ミントがグチャって」
木之瀬さんの、興奮した声。
まぁ、うん、なるようになるだろ。
この三人なら、どんなデスゲームも超えていける!
きっと、たぶん。
……俺が刺されなければ。
―― スマホで簡単エントリー、最短5分でデスゲーム 完 ――
ここまでお付き合い頂きありがとうございます。
当作品は、デスゲーム小説コンテストに応募しております。
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スマホで簡単エントリー、最短5分でデスゲーム ぎむねま @hat0mugi
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