大阪のホテルで開催されたマスコミ協議会で毒物を使った集団中毒死事件が発生する。朝夕デジタル新聞社の敏腕記者・大神由希は事件を追いかけるなか、政府の陰謀に巻き込まれていく。独裁政権と戦うジャーナリストの奮闘を描いた現代サスペンスです。
マスコミ界の重鎮を狙った集団中毒死事件は世間の注目を集める大事件にも関わらず、何故か警察からは捜査情報が出ない。地道な裏付け調査を主張する大神ですが、業を煮やした上司の先走りで誤報の片棒を担がされてしまう。それはマスコミを規制しようと企む下河原総理の罠で、信じていた報道の力を利用された大神の胸中が痛々しいです。
一方、後輩記者の橋詰は、各地でマスコミ関係者を襲っている『民警団』へと潜入し、団体が与党『孤高の会』の私兵となっていることを突き止めるも、正体がバレて制裁を受け、そのまま帰らぬ人となってしまう。
頼れる後輩の死にショックを受け、誤報を伝えたことで世間の非難を浴びることになった大神ですが、それでもジャーナリズムの精神を貫き、独裁政権を企む政府の陰謀を暴くために暗闘を繰り広げる展開が手に汗握ります。
物語が進むにつれて、権力と暴力で日本を裏から牛耳ろうとする権力者たちの本性に背筋が寒くなり、国民の耳目であるマスコミが封じられ、社会全体が暗澹としていく世界観が恐ろしくなります。権力の恐ろしさと報道の自由の大切さを描いた社会派小説です。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=愛咲優詩)