第3話 とにかく殺人
「やだっ! 止めて下さい!」
そんな悲鳴が聞こえてきたのは、ゴブリンが開けようとしていた扉がやっぱり開かず、蝶番の部分に剣を突っ込んで無理くりこじ開けてる最中だった。
ぼろい扉はあっさり外れて、するりと部屋の中に忍び込む。
目立つ松明は一旦そのへんに転がして、先を窺う。
「良いじゃん、暴れんなよ」
「ダメです! なんで?」
「なんでって、死にてぇから参加したんだろ?」
「そんなッ! 違ッ、ココどこなんですか!?」
「知るかそんなコト! 金持ちのおっさんが死にてぇ奴を集めて殺し合いさせてるんだろ?」
「嘘ッ、だって、こんなの絶対に無理」
「無理でもなんでも、さっさと股開け」
おーおーやってんねー。
デスゲーム名物。とにかく女を襲い始めるモブ。
死ぬかも知れないって状況で、どうしてパコり始めるんだよリアリティねーよって笑って居たけど、居るモンだな。
そっか、そもそもが死にたい奴を集めてるんだ。死が抑止力にならない。
参加者にしてみれば、樹海代わりのダンジョン。
死ぬつもりで樹海に飛び込んだら、可愛い女の子が居たようなモンだ。そりゃあ襲うかな。
つまり、何しでかすか解んないヤベー奴しか参加してねーんだ。
はぁ、俺はなんでこんなデスゲームに参加してんだろ。ただただ退屈だっただけで、言うほど死にたくねぇよ。
あー良くない。
コレは良くない。
後ろ向きの姿勢良くないね。死ぬね、このままだと。
タダ死ぬだけなら良いけど、絶対につまらない死に方するね。
断末魔の言葉は「な、なんで?」とかになる。
テンションあげてこう。
ウッひょー! マジでデスゲームだ! 合法的に人が殺せるぜー
床屋にいってモヒカンにして貰おうっと!
ヨシッ! このテンションだ!
……いや、このテンションはマズいか?
まぁ、いいや。
だって、デスゲームに参加出来るなんて、人生に一度あるかどうかだよ?
一度だって御免だわクソ!
あ、だめっ! 冷静になるな!
もうね、こんなのに参加させられてる時点で既に殺されてるのも同義なんだって。
殺して良いのは、殺される覚悟がある奴だけだ。
逆に言えば、殺される覚悟があれば、殺したって良いんだよ!!
死んだつもりでぶっ込むぞ! ウェイ!
さぁ皆さんご一緒に!
ウェイ! ウェイ! ウェイ!
ウェイ! ウェイ! ウェイ!
ウェイ! ウェイ! ウェイ!
「ウェイ!」
掛け声と共に、俺は長剣をブッ刺した。
髪はボサボサ、ケツは丸出しの男の脊髄に。
「グビッ?」
良く解らん悲鳴を残して、男は死んだ。
断末魔までモブっぽい。
徹底してるよアンタ。ソコだけは尊敬出来る。
女の子を襲って、ケツ丸出し。背後からぶっ殺されるのは尊敬出来ないけどな。
やっぱ男なら、女の子を守って死にたいね。
いや、痴情のもつれで女の子に刺されて死にたい。
「だ、誰?」
そう、ちょうどこのぐらい可愛い女の子に刺されたい。
セーラー服に、ショートヘア、瞳は大きくクリクリしてて、手足はスラリと長いのに、おっぱいはもっちり。
理想のJKって奴だ。
まぁ、俺もDK(男子高校生)なんだけど。おっさん臭いと良く言われるがね。
めくりあげられたセーラー服からは、スポーツブラがチラリ。
良いね!
「助けて、くれたの?」
「ウェイ!」
「???」
ダメだ、ウェイ語が通じない。
俺にも通じない。
コレは陽キャにしか扱えない言語ですよ!
「あー、あー」
陰キャ特有の、声が出ない現象、ファックだね。
「邪魔したか?」
「ううん……こ、殺したの?」
JKは物言わぬ男をチラリと見る。
失血も少ないし、あっさりしたもんだ。人が死んだというのにね。
「殺した。話が通じるとは思わなかった」
インディアン、嘘つかない。
我ながら、なんでカタコトになってしまうんだろうね。陰だね。どうも。
JKは、死んだ男の顔を呆然と見ていた。
見る必要なんざないのにな。
襲われてたんだろ? ざまぁ見ろの精神で良いじゃんか。
そういうプレイだったらスマンこってす。
紛らわしいからデスゲーム会場の外でどうぞ。
文句を言われちゃ堪らない。
「で?」
「???」
「オタクは話が通じるタイプ?」
この期に及んで殺人はダメとか、文句を言われるならコレまでだ。どうせ、本人特定なんざ出来ないだろうしとんずらさせて貰う。
すると、JKはコクコクと頷いて、陰キャにも優しいギャル。コミュニケーションの兆し有り。
ってか、この制服……マズくない???
見覚えが凄いんだけど?
「もしかして、篠崎くん?」
はい、終わった! 俺の人生終わったよ!
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