スマホで簡単エントリー、最短5分でデスゲーム
ぎむねま
第1話 とにかくエントリー
『スマホで簡単エントリー、最短5分でデスゲーム』
何だよコレ。
吹いちゃったよ。どうにも負けた気分。
「しゃーねー、やってやるか」
謳い文句に免じてインストール。
怪しい野良アプリだからちょっと勇気が必要だ。
で、
こんなアプリをわざわざ探したのは、それだけ話題であったから。
最近、市内で行方不明者が続出している。その原因がこの手のアプリと、もっぱらの噂なんだわ。
「怪しいアプリは絶対にインストールしないで下さい、犯罪に巻き込まれる可能性があります」って回覧板で回ってくるレベル。
学校とか町内会でもやたらと注意喚起している。
どうも、死にたいとか、生きるのが辛いとか、そんなワードで検索していると、いつの間にかアプリに誘導されるんだと。
俺も試しに死にてーって気持ちをつらつら書き込んだら、堂々と広告に出て来やがった。審査はどうなってるんだよマジで。
アレか? 大手すら騙す闇の組織だったり?
「まぁ、マジでデスゲームが始まるとは思ってないけどさ」
そりゃそうだ。
恐らく、コイツの正体は俗に言う『自殺ゲーム』って呼ばれるシロモノ。
死にたいヤツらを誘導するのがこの手のアプリの正体だ。
具体的に言うと、『水を300ml一気飲みしろ』みたいな簡単な所から始まって、イタズラ書きをしろ! 万引きしろ! とかを経て、最後にはビルの6階から飛び降りろ! なんかの無茶なミッションで人を殺す。
聞いたことぐらいはあるだろ?
でも、それだけなら誰得アプリで済む。クソ悪趣味なイタズラだ。
死んだ奴の家族は堪ったモンじゃないけどな。
問題なのが『死ねなかった奴』だ。
ビビってミッションを守れなかった奴。
コイツらには、罰ゲームと称して、モンスターがけしかけられるんだと。
ソレが噂のキモだった。
こっからは完全に予想だが……
たぶん、アレだ。
モンスターってのは人間だ。
半グレのヤバい奴。
そうして闇バイトとかに引き摺り込むに違いない。
ガチで死にたい奴は無鉄砲で支配し難い。一方で扱い易いのは、死にたいのに死ねなくて、気が弱くて、自己嫌悪しがちな奴って寸法だ。
元々自殺したがってる奴が突然に居なくなっても問題になりにくい。樹海にでも行って一人で死んでるんじゃねぇかと捜索もロクに行われない。
そう考えると、良く出来ている。
海外に拉致られちゃったら、それこそデスゲームみたいなモンだろう?
ま、俺はハナからミッションなんてこなすつもりが無いんだが……気怠い日曜の午後、ちょうど刺激に餓えていた。
死にたいってのもあながち嘘じゃない。
なんか楽しい事ないかなとYouTubeをポチポチするだけの時間はあまりにも不毛。
俺の人生ずっとこんな調子じゃないかと思ってしまう。
リスクは承知の上。
万が一、死んだらソレまでよ。
だからベッドに寝そべりながら、軽ーい気持ちでエントリーボタンをタップ。
「さぁて、最初のミッションはどんなかな?」
まずは、1km走れとかだろうか?
GPSの許可もしたから、向こうサンも楽々確認できるだろうしな。
しかし、走るかな? 怠いなぁ
でも、最初ぐらいはこなさないと面白くないかね?
そんな事を考えてたら、スマホ画面に出たのは、コレだ。
『エントリー完了。あと5分でデスゲームを開始します』
「早くね??」
ガチの5分でデスゲームを始める奴があるかよ!
情緒、無し!
乱暴で笑うわ。
「4:45」
スマホのタイマーはどんどん刻まれていく。
なんか、思ってたのと違う。
アレ? これヤバくない?
だって、こんなんなら、誰も闇バイトになんて参加しないだろう。
やーさんみたいな人がGPS情報を辿っていきなり家に凸って来るのだろうか?
……だったらとっくに大問題になっている。
気弱で従順な奴を選定するもんだと思っていた。
あまりにも、不気味。
俺はスマホをポケットにねじ込むと、ベッドに寝転んで敵の狙いを考えた。
このアプリの作者は何がしたいんだ? 広告費だって馬鹿にならないだろうに。こんな雑にデスゲームと言われたって誰も信じない。
いや、開始と同時に○○に行けと命令してくるのか?
ポケットのスマホを取り出すと、もう残り10秒。
さぁて、何が出ますやら……
5
4
3
2
1
0
「ファッ???」
停電??
真っ暗だ、何も見えない。
これがデスゲーム???
いや、停電だろう。
しかし完璧なタイミング。なんてミラクル! 思わず笑っ……
……いや、違う!
空気が、かび臭い。
いまの一瞬で、ウレタンのベッドはゴツゴツの石に変わってしまった。
そっと、スマホのライトを付ける。
「!?」
俺の部屋じゃない!!!
石の中だ!
石の中に閉じ込められている!
圧倒的な閉塞感。
完全に、パニック。
スマホのライトだけが頼り。
見渡す限りの石だ、それも巨大な。
そっと指でなぞると、ざらざらしている。
足元を照らす……狭い。人が一人寝転ぶだけの空間。
滅茶苦茶に狭い!
閉所恐怖症ではないが、こんな所に突如押し込められれば、おかしくもなる。
「ぐおー」
助けを求めて、足で天井を蹴り跳ばした。
ガンガン蹴って、助けを呼ぶつもりだった。
ズルッ
すると、天井がズレた。
とたんに隙間から差し込む、か細い光。
「え?」
まさかと思い、足で天井をズラしていく。これ石の蓋だ!
そうしてすっかり蓋をずらすと、固いベッドからゆっくりと身を起こす。
「マジ?」
そこは、俺の部屋じゃなかった。
遺跡みたいな石造りの狭い部屋の中。
光っていたのは壁。部屋全体がうっすらと光を放っている。
「なに? 何? なんでよ?」
スマホをポケットに仕舞い。ベッドから飛び起きた。
飛び起きようとした。
「うわっ」
躓いた、ベッドの縁。
そのままゴロゴロと転がる。
ガシャーン! と甲高い、破砕音。
何かが割れた。
「グベッ」
ひっくり返り、天地が逆さまになった目に映ったのは小さな祭壇。そして、奉られた石棺だ。
俺は、あそこから這い出したのか?
石棺に詰め込まれ、謎の遺跡に運ばれた? あの一瞬で??
どんな魔法だ!
よろよろと身を起こす。地面には俺が割ったツボの破片。そして……
「指輪?」
金の指輪。オモチャじゃない。
マジで金の指輪だ。ずっしりと重い。ちょっとしたお宝だ。
ゴクリと喉を鳴らし、並ぶ壺たちを見つめる。
これら全部に金の指輪が?
「おらぁ!」
次々と壺をひっくり返し、叩き割る。
普通なら、壺を割って中から出て来たアイテムを拝借なんてマネ出来やしない。
だが、ゲームのような遺跡の中、狂った現実感がそうさせた。
結局、壺はほとんど空っぽ、だけど。
「うひょー」
デカい金の腕輪が出たぁ!
こんなん数百万はするだろ! 勝ち組やで!
「…………」
高過ぎるモノが出て、急に冷静になる。
いや、おかしいだろ……意味解らねぇ。
コレ、ガチじゃん。
ガチのデスゲームじゃん。
お宝が転がる遺跡にぶっ込まれて、脱出を目指して殺し合いって奴じゃん。
そういえば!!
スマホは無事か? 壊れてたらシャレにならない。
「良かった!」
画面は割れていない。
でも、電波はナシ。もとよりこんな遺跡に電波が届くワケも無い。
気になるのはデスゲームアプリだ。
そこに記された表示は??
地図? それに、時間?
「マジかー」
混じりっけナシのデスゲームじゃん!
時間内に脱出しろってか?
もっとデスゲームの導入には情緒があるべきじゃん?
スマホをタップしたら遺跡にワープさせられてゲーム開始はお手軽過ぎんよ。
覚悟が全然決まってねーからよ。
時計のカウントは残り、20分。
20分耐えれば良い?
あり得ない! デスゲームだぞ?
ボーッと部屋に留まってクリアーなんて聞いたことも無い。
動き出さないと! なのに、何の武器も無いのがヤバい!
殺し合いバトルロイヤルなら勝ち目がない。
完全に初動ミス。
壺をひっくり返してお宝を集めている場合じゃ無かった。
「武器、武器は?」
なんなら棒でもいい。振り回せれば十分。
ここには何もない。祭壇と壺だけの小部屋。
簡素な木製の扉を蹴飛ばして、武器を求めて飛び出した。
「うっ」
眩しいほど、明るい。
飛び込んだ大部屋は、壁に並んだ松明がメラメラと燃えている。
取り外そうとしても、ダメ。
ガッチリ固定されている。
松明が燃えていると言う事は、人の手が入っているのか?
ココに来て、まだ俺には遠慮があった。
記憶喪失? 異世界召喚? 様々な可能性が頭の中をグルグルと巡って、さっき割った壺の心配をする始末。
「誰かー! 誰か居ますかー」
とにかく叫んでみる。
しかし、人の気配は無い。生活感が無い。
「あっ!」
人は居ないが、待望の武器が落ちていた。
しかもおあつらえ向き、ファンタジーな長剣。
「なんまんだぶ」
長剣は倒れ伏した骸骨の手に握られていた。人体標本みたいな綺麗なやつ。
「ふぇっ?」
お悔やみ申しあげながら、飛びついた俺の手は空振った。
たたらを踏んで、地面を転がる。
目の前で長剣が消えてしまった。
……いや、ある、そこに、在る!
浮いている。
剣がひとりでに。
その光景を、土下座の体勢でポカンと見上げる。
目の前で、長剣があるべき場所に収まった。
カタカタと音を立てて組み上がる、骸骨の手の中。
「マジ?」
ファンタジー・オブ・ファンタジー。
コイツはまさしくスケルトン!!
長剣の重さに振り回されるように、大きく振りかぶった長剣が、振り下ろされる!
「あぶし!」
後ろに転がって、避けた。
カァンと石畳を叩く長剣。
死を運ぶ冷たい金属の色。
「ひぇっ」
慌てて立ち上がり、もつれる足を回して逃げる。
どこに?
今来た道だ。
あの小部屋なら安全。
「なんで?」
でも、扉が開かない!!
そうだ、この手のデスゲームでは、スポーンした小部屋から出ると二度と入れないってのはままある。
コレがそういうタイプのゲームだったと言う話。
ゲーム? コレが?
馬鹿らしい思考だ。
いままでの人生の常識よりも、ゲームの知識に頼っている。
でも、ソレが良かった。
逃げ場が無い。
そう飲み込めたのが、却って良かった。
「や、やってやる! どうせ死にに来た様なモンだ!」
壁を背にして、構える。
カタカタと骸骨が迫っていた。
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