第16話 とにかく二層だ!

 え、ココ、どこ?


 気が付くと、俺は見知らぬ小部屋に居た。

 何も無い。でも、暗くない。あの変な魚も飛んでいない。


「ぐっ!」


 なのに、怪我はそのまま。意識だって朦朧とする。

 だけど、不思議な事に出血だけは収まっているようだ。


 天国? 俺死んだ? そのわりに殺風景じゃない?


 スマホ……を確認しようとして、なんとまぁ手に力が入らない。

 良く見ると、ほとんど千切れかけていた。


 もっと軽い物ならどうだ?


 ポーチから回復薬を出そうとして、上手く掴めずに落っことした。


 のたうつ様に小瓶を転がし、口で咥えて蓋を開け、飲み干す。


「ふわぁ」


 凄い効果だ、力が漲る。


 コレ変なヤク入ってないよな? いやこれ自体が変なヤクだわ。

 まぁ、良いか。


 おっちゃんに貰った回復薬は潤沢にある。


 出し惜しみはなし。

 俺は体のあらゆる所に回復薬を掛けた。


 合計五本。


 すると、何と言うことでしょう。死にかけの体はすっかり回復した。

 木之瀬さんに斬られた傷まですっかり治ってしまったのは、どうにも複雑だ。


 俺はアレで死ぬつもりだったのだけど。


「で、ココどこよ?」


 スマホを確認。

 まだデスゲーム中ならば、地図が出るハズだ。


「え?」


 しかし、表示されない。

 いや、正確には表示されるのだが、今居る小さな部屋しか存在しない空間なのだ。


「なんだここ??」


 いや、しかし、良く見ると表示がある。


≪ 二層準備中 ≫

 22:38


 時間が減っていく、残り22分?

 それに、二層?


 二層とは? 意味が解らない。

 じゃあなんだ? 俺達が駆け回ったあの広大な迷宮が、ただの一層目だとでも言うのかよ?


「あっ!」


 その瞬間に、腑に落ちた。

 俺は赤いゲートに入ってしまったのだ。


 闇に飲まれて、のたうち回って、闇の中で赤いゲートに飛び込んでしまった。

 おっちゃんは誰も帰った事が無い死への片道切符みたいに言っていたが、そりゃそうだ。

 あんな無理ゲーな一層を越えて、なお二層に挑戦って、死ぬに決まってる。


 ココは二層の準備を整えるまでの待機部屋なのだ。


「えぇー」


 たった一人でどうしろと?


 だけど、やるしかないんだ。

 最後の記憶が、泣き顔の木之瀬さんで終わるより、ずっと良い。


 俺は、座禅を組んで意識を集中。二層目の攻略に備えた。


 20分が経過。

 急に辺りが暗くなる。


「またかよ」


 再び、石棺の中。

 でも、もう慣れたモノ。

 俺は石棺の蓋を豪快に蹴飛ばして、爽快に目覚める。


 スマホを見ると、再び入り組んだ迷宮の地図が表示されていた。

 もちろん収縮までの時間もだ。


 ……最初は30分か。


「やってやるさ!」


 なにしろ、今度は潤沢な回復アイテムがある。

 やってやる! 俺はこの二層を攻略する!


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ダメだぁ!!」


 俺は、逃げ回っていた。


 二層は敵の種類が一変していたのだ。


 キシシッ!


 ゴブリンからリザードマンに。

 さながら二足歩行するワニってフォルムだ。


 ゲームでも、リザードマンってちょっと強い雑魚って感じあるよな。


 実際、強い。ゴブリンとは段違い。


 まず、デカい。

 攻撃も引っ掻きや、噛み付き、尻尾まで、なにかと多彩だ。

 もちろん、武器も使う。


 粗末な棍棒ではなく、ブロードソード。

 鑑定したらATK+8とかあった。


 俺のガントレットと同等だ。リーチは全然向こうが上。

 こりゃやばい。

 更に、雑魚も厄介だ。



 ――カチカチカチカチ


 アゴを噛み合わせる音に、恐怖が募る。

 音の正体は、足元を這い回る蟻。

 こいつがなんと、猫ぐらいのサイズがある。


 うざったいだけだった一層のコウモリとはワケが違う。

 油断すると足首をザックリ切られる。そしたら動けなくなってそのまま嬲り殺しだ。


 あまりにも危険だらけ。


「ほら! こっちだこっち!」


 だけど、俺だって逃げ回ってるだけじゃない。

 俺なりの必勝法みたいのを編み出していた。



 それは、コチラが低い場所で戦う事。



 普通、戦いってのは高い場所が有利だ。

 弓は勿論、近接戦闘でも上で戦う方が普通は強い。攻撃に自重が乗せられるからだ。


 でも、リザードマンは別だ。


 キシッ? シシッ!


 困っている。

 見るからに攻めあぐねている!


 アイツらは足が細い。

 ワニが無理矢理立ち上がったような生き物だから、尻尾まで使ってなんとか二足歩行している状態。


 そんな奴らが坂道を下る場合、どうなる?


 前脚に加重がかかる。バランスが崩れる。

 一番強力な噛み付き攻撃だって使えない。


 ギギギッ!


 しびれを切らし、尻尾で攻撃してくれば、しめたもの。

 ダッキングと言うよりほとんど寝転ぶ様にして回避。すぐさま、フラつく脚を殴って転がすと、口をヘッドロックで開かないようにして、喉を突く。


 ギーッ!


 やっと一匹!


 最初は上手くハマらず、諦めたリザードマンが帰ってしまったのだ。


「ダメだぁ!」


 時間が無限なら、こんな戦法もアリかも知れない。

 でも、こんなんじゃスグに闇に飲まれる。


 何か手は無いか?


 残されたブロードソードATK+8を摘まみ上げる。


 俺も剣を持つか? でもATKはガントレットと変わらないし、今更武器を変えるリスクばかりが上回る。DEFは下がるしなぁ……


 まぁ、持っておくか。

 と、リザードマンは更にアクセサリーも持っていた。


≪ 力の腕輪 ≫

 ATK+9


 おいおいおい!

 圧倒的じゃねーか二層のアイテム!


 強過ぎない? ATKが上がるアクセサリーはソレまで+6がMAXだった。

 二層のアイテムは一層とは格が違う……


 時間制限があるダンジョン。攻撃力が上がるアクセサリーは大歓迎だ。


 いやしかし、それでも足りない。

 毎回こんな事をしていては時間が足りない。


 二匹も三匹もリザードマンが居る部屋から、一匹ずつ釣り出して丁度いい地形まで呼び寄せて始末する? 絶対に無理だ。


 どうする? 何か無いか?


 ――ガチガチガチ

「うるせぇよ!」


 俺は足元にたかる蟻をブロードソードで一突き。

 乱戦で足を噛まれると厄介だが、さすがに一対一で後れをとる相手じゃない。


 シャララーン

 すると、スマホから爽やかなアラームが。


「なんだよ……」


 このデスゲーム、徹底的にゲーム感覚で人を小馬鹿にしてきやがる。

 苛立ちながらもスマホを確認。



≪ レベルアップ! ≫


 そーですか……


 自分で自分をAR鑑定すると、確かに人間Lv2 になっていた。

 アレかな? 二層で戦闘することがLv2の条件なのかな?


 どうも、急激に強くなるとかそう言うのはなさそうだ。


「あれ?」


 AR鑑定に記述が増えている。




≪ ブロードソード ≫

 ATK+8


 リザードマンが使う幅広の長剣。

 重量があるため、扱いは難しい。




 なんか、フレーバーテキストが増えている。


 だから何だよ……

 俺はこう言うの読まないタイプなんだよ。




≪ リザードマン ≫

 Lv1 死亡


 リザードマンは社会性モンスターであり、通常は群れで行動する。

 役職を持たない個体は脆弱で、与し易い。


 弱点 冷気

 耐性 電気




 いやー貴重な情報だなー(棒)


 クソの役にも立たねぇって事を抜かせばよぉ!

 冷気に弱いだって? 爬虫類だもんな、見りゃ解るわ! ドライアイスでもぶつけりゃ良いのかよ?

 で、もっと強いリザードメイジとか、リザードナイトも居るってんだろ?


 ただの悲報じゃねーか!


 クソッ! 次!


≪ ジャイアント ≫

 Lv1 死亡


 巨大な蟻。蟻塚から飛び出した個体は、餌を求め迷宮を彷徨う。

 社会性昆虫であり、非常に数が多い。

 フェロモンで敵と味方を判別している。




 はい、クソ情報。

 フェロモンを出せってのかよ。


 ん? この蟻、なんかアイテムを持ってるぞ




≪ ジャイアントのフン ≫

 巨大蟻の糞。

 フェロモンを発する。



 ……ウンコじゃねーか!


 いやね、さっきのさっきまでタダのウンコだと思っていた。


 まさかウンコがアイテムとはね。

 そんで、フェロモン??


 もしかして、コレ塗るのか?

 体に?

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