第6話 とにかくぶっ殺せ!
「木之瀬さん」
「はい!」
ゴブリンの群れに突っ込み、まずは一匹。拳の撃ち下ろしで沈める。
しかし、横を一匹に抜けられてしまう。
回し蹴りで背中を蹴ると、地面を転がったゴブリンに、すかさず木之瀬さんが追撃。
一方ですっかり囲まれてしまった俺は一旦逃げを打つ。
追って来たゴブリンは二匹。これは想定より少ない。
残りの四匹は木之瀬さんの方に行ってしまった。ゴブリンも俺なんかより可愛い女の子を相手したいらしい。ファックだね。
ゴブリン二匹を引き連れたまま、部屋をぐるっと一回り。
打ち合わせ通り、木之瀬さんは通路に引っ込んでいた。ゴブリン達は狭い通路に殺到している。
木之瀬さんが長剣のリーチで牽制すれば、棍棒と短剣しか持たないゴブリン達は近寄れない。狭い通路を回り込む事も出来ず、後ろがつかえて逃げる事も出来ない。大渋滞だ。
「オラァ!」
そこを、列の最後尾めざして、俺が背後からぶん殴る。
吹っ飛んだゴブリンの頭をサッカーボールみたいに蹴飛ばして、トドメ。
「痛ッ!」
背中をゴブリンに突っつかれる。二匹のゴブリンを引き連れたままだから仕方ない。足を止めた俺が悪かった。
振り返れば、ゴブリンが三匹に増えている。一匹余計に釣れた。なら、向こうは二匹。
あとは守りに徹すれば良い。
部屋の隅で、ガントレットで守りを固めると、三匹のゴブリンが殺到してきた。
大振りの棍棒を受け止めるとガァンと腕に衝撃。お返しにパンチをぶち込むが、その隙に別のゴブリンに脇腹を短剣で引っ掻かれる。痛ぇ!
「やぁぁ!」
と、木之瀬さんの可愛い声で、短剣ゴブリンが崩れ落ちる。
その背後には剣を構えてドヤ顔の木之瀬さん。そっちの掃除は終わったか。
残りは一匹。
どちらを攻撃して良いかキョロキョロしているゴブリンを蹴りで転がすと、顔面にパンチを振り下ろす。
全体重を乗せた拳はゴブリンの顔面にグチャリと埋まった。
一撃だ。ピクリとも動かない。
「す、凄いね」
「いや、ホント凄いぞ、このガントレット。ありがとな」
実際、雑魚処理の効率が跳ね上がった。攻めにも守りにも役に立つ。
コレがなかったら遥かに苦戦していただろう。
だけど、木之瀬さんは浮かない顔。
「ううん、違くてね……」
木之瀬さんは、真っ青な顔で、口元をヒクつかせていた。
「私もそんな風に殴られちゃうのかな……って」
……いや、殴らないよ。
死ぬでしょこんなん。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
部屋の中を一通り見て回って、安全を確認して一息。
「それにしても、しんどいねー」
「大怪我はないが、ギリギリだろうな。これ以上のリスクは取りたくない」
ゲームと違うのは、一度崩れると挽回出来ない所だ。
怪我をして地面に転がればタコ殴りにされて死ぬ。リカバリーは難しい。
起き上がりに無敵時間なんかないからな。
「怪我は大丈夫?」
「腕が痺れる。回復薬を飲んでみるが、良いか?」
「どうぞ」
薬は共有財産だ。緊急時ならそうも言ってられないが、一応お伺いは立てておく。
さて、香水瓶みたいな蓋を開け、中の青い水を一気飲み。
「…………」
「どう?」
「痛みが引いたような?」
背中の打撲も和らいだ気がする。脇腹を刺されたのは、そもそも浅かった。
思った以上に効果がある……かな?
そして、部屋やゴブリンの死体を漁った戦果は……
≪ 革のブーツ ≫
DEF+3
≪ 革の靴 ≫
DEF+2
サンダルだった俺は装備の更新は是非もないのだが、学校指定のローファーを履いていた木之瀬さんは戸惑った。
「必要あるかなぁ?」
「ステータスがあるからなぁ。普通の靴と違ってARが反応する」
「ローファー、一個しかないから、学校に行けなくなっちゃうんだけど……」
まぁ、なぁ。
しかし、命には代えられない。わざわざローファーを持ち歩くのは意味がわからん。
とりあえず、靴を履いてみる。
「なんか、ピッタリになるね」
そうなのだ、不思議パワーでサイズはピッタリに調整される。
俺はブーツ、木之瀬さんは靴にした。換金アイテムもせっせと拾う。
ここは円の内側だが、縁に居ると戦いに巻き込まれやすい。もう少し中心を目指し、先を急いだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「なんか、雰囲気あるね」
「絶対に、良いモノがあるんだろうが……」
次の部屋はデカかった。
なんせ、パルテノン神殿みたいのがそっくり部屋に収まっているのだから。
部屋を巡回するのは、またもやゴブリン。
しかし、数が多い。見えるだけでも十は居る。
「厳しいな」
「どうしようか?」
「ココで待機しかないだろうな」
恐らく、全部で二十は居るだろう。ボスが居たっておかしくない。
どうやっても、勝てそうにない。
歩くゴブリンをAR鑑定してみるが、どれもLv1。そこは安心だ。
ってか、Lvって何だ? こっちは幾ら敵を倒しても人間Lv1だ。
経験値とかそう言うので強化される世界ではないって事か?
考えてもわからない。
とにかく、待ちだ。
俺達は通路から顔を出せないでいた。
この手のゲームにはどうしたってこう言う時間が出来る。
と、円の収縮が始まった。
「マズいな……」
「端っこになっちゃったね」
ほとんど地図の真ん中まで来ていたが、どうも反対側に収束しそうである。運が悪い。
「人が雪崩れ込んでくる可能性があるぞ」
「領域外になりそうな人が、真ん中を目指して移動するって事だよね?」
「そうだ」
しかも、この大広間は色々な所から繋がっている。
乱戦になってもおかしくない。
と、いよいよ動きがあった。
ゴブリン達が向かって左の通路に駆けだしたのだ。
そちらも領域外に近い方角。
焦れた誰かが、大部屋のモンスターにちょっかいをかけたのだ。
「チャンスだな! 一気に通り抜ける」
「ちょっと待って! ここにミントちゃんの手掛かりがあったりしない?」
「どうだろう? なにかレアアイテムがあるぐらいじゃないか?」
この手のゲームは、いかにもな場所に貴重なモノがあるとは限らない。
ランダム要素が強く。凄い強いボスが、クソ下らないアイテムを守っていたなんて事は幾らでもある。
さすがに、レアリティが高いモノが出やすいみたいな補正はあったりするが、ソレだってどの程度信用出来るか……
「じゃあ、駆け抜けざまに中を確認。敵の残りが三以下だったら突っ込む。ソレでいいか?」
「うん! ソレで行こう!」
作戦は決まった、早い話が出たとこ勝負だ。どうしてもヤバかったら引き返し通路で戦う。
まずは敵の様子を確認。ぞろぞろと別の通路を目指して歩いて行く。
全員が、見えない場所まで姿を消した。
「行くぞ!」
ダッシュで駆け出す。
収束先を目指して反対側の扉を目指す途中で、神殿の中を確認。
二匹!!
「二匹だよ!」
「解ってる!」
前のめりだったのは木之瀬さん。我先にと飛び込む。
俺も追いかけるように神殿の中に飛び込んだ。
……まずいな。
飛び込んだ瞬間の感想が、ソレだ。
やはりと言うか、二匹とも普通のゴブリンじゃない。
まず反応したのは兜を被ったゴブリン。武器は両手剣。体格も良い。明らかに他と違う!
木之瀬さんも嫌な予感がしたのか、じわりと足を止めていた。
しかし、時間は掛けられない。
木之瀬さんの横を抜け、懐に飛び込んでファーストアタック。
いや……
ゾクリとした予感に歩を緩める。その瞬間、目の前を大剣が通過した。
凄まじい風斬り音。よたよたと大きく振りかぶるスケルトンとはまるで違う太刀筋。
たまたま、躱せた。
でもこれじゃ、次は躱せる気がしない!
大剣を躱せなかったらどうなる? 手足の一本失っても不思議じゃない。
怖い!
だけど!
偶然、初太刀を外せたチャンス。二度と来るとは思えない。歯を食いしばって踏み込む。
――ガァァン
ゴブリンの両手剣が二撃目を放つ直前。俺の拳が届いた。兜とガントレットがぶつかり鈍い音をたてる。
こうなれば、大剣など振り抜けない。
「やぁぁぁ!」
よろめいたゴブリンに木之瀬さんが追撃。上手い!
しかし、浅い。トドメには至らない。
俺も……
が、その時、真横から強い光。
振り向けば、目の前に、火の玉!
――ドォォン
ギリギリだ。今度もギリギリ。
ガントレットで弾いた火の玉が、パルテノン神殿みたいな柱に直撃し、爆ぜる。
なんだ? 横のゴブリン。司祭みたいな格好。
まさか???
魔法使いも居るのか?? ARで確認するまでもない。
メイジゴブリンって奴だろクソッタレ!
あんなのに当たったら二人とも火だるま。自由に撃たせてはダメだ!
「そっちは任せた!」
「う、うん!」
両手剣ゴブリンを木之瀬さんに託し、メイジゴブリンにダッシュ。
こういうのは、近付かれれば弱い。
――ギャギャッ!
しかし、メイジゴブリンは俺から距離を取ろうとする。
ひたすら敵に向かって来るモンスターばかりじゃないのか。
『ちゃんとしたAIを積んでいる』そんな風に考えてしまうのはゲーム脳だからか?
しかし、逃げるより追う方が速い!
その時だ。
全力で駆け出そうとした俺の足元。サクリと音をたて、何かが石畳を斬り裂いた。
矢?
「木之瀬さん! 神殿の外に弓持ちのゴブリンが残ってる!」
「えぇ?」
最悪だ! 全然二対二なんかじゃなかった。
射れる位置まで、俺を誘導しようとしている。
「柱の陰で戦って!」
「えぇ?」
難しいよな。木之瀬さんは弓の位置も解らないし。
俺だって、正確に把握したわけじゃない。
本当の死闘が始まってしまった。
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