第5話 とにかく漁ろう

「んじゃ、まずは武器だな」

「武器……」

「そう、この手のゲームは物資を整えた方が勝つ」


 二人だから、もう一つ武器が要る。

 訳わからん状況だから仕方ないけど、話し合いに時間を取られすぎた。

 次の収縮が始まるまで、既に残り15分。


「武器なら、あるかも」

「え?」


 そういえば、なんかセーラー服に似合わない鞄を持っている。


「これ……」

「ちょ、ちょっと待って?」


 その前に、なんだよこの鞄。

 どう見てもサイズに見合わないモンが出て来たぞ?


「ミッションをクリアしたら貰えたんだけど……」

「え?」


 デスゲーム前の1km走れとか、そういうミッションで獲得出来るらしい。

 「革のカバンGET」みたいな表示が出るけど、それだけ。


 ずっと意味が解らなかったけど、石棺に一緒に入ってたんだとさ。


 酷くない?

 初期装備あるのかよ!


 最短5分でデスゲームに飛ばされた男。あまりにも不利。

 まぁ、正直、ミッションを投げられても律儀にこなしたかは怪しいところ。



 とにかくARで鑑定する!


≪ 革のカバン ≫

 容量Lv2



 マジックバックみたいなモンまであるのか!

 それこそゲームかWEB小説みたいなフザケた代物だ。


 俺は呆気にとられてしまった。


「不思議……だよね。不思議といえば、いつの間にか棺の中にワープしてたのが一番不思議だけど」

「違う」


 違うんだ、コレはもっとまずい。


「こんなモノが出て来たら大騒ぎになる」


 それこそ、使い切りの回復薬なんかよりもずっと。


「つまり、このデスゲーム、帰還者なんて一人も居ないって事になる」

「そんな!」


 だって、そうだろ?

 こんなカバンひとつで数百億円の価値が有る。

 ニュースにならないハズがない。


 流石に、堪える。死が確定した。

 覚悟していたつもりがショックだ。


 もう死んだつもりと言いながら、二人で脱出してらぶらぶエッチする展開に胸とか股間が膨らんでいた。


「でも、おかしくない?」


 しかし、木之瀬さんは首を傾げる。


「私、アプリからダンジョンに連れ込まれるって噂は聞いたことあるもん。誰も帰ってきてないなら、そんな噂が出回る方がおかしいし」

「そんなの、それこそデスゲームを仕掛けた奴が流した噂かも」

「金ネックレスが落ちてたから拾っちゃったんだけど。帰れないなら、こんな財宝を置いておくのもおかしいし」

「うーん」


 確かにそうか? 財宝なんか、餌にならない。

 誰も帰れないなら、意味がない。


「そんな事より、後ろ向き過ぎるのよくないよ。噂じゃ、ここをクリアーすると魔法が使えるようになるらしいよ?」

「魔法ぅ?」


 それこそ、帰って来れない証拠じゃないか。


「ま、悩んでも良いことないよ」

「そうだなぁ」


 と、その前に、カバンに入ってた別のアイテムだ。

 金属の手甲?? コレが武器。


≪ ガントレット ≫

 ATK+8

 DEF+5



 つっよ!


 うわっ、恥ずかしい。

 スケルトンとの死闘で長剣を手に入れて、開幕かなりのアドバンテージを手に入れたつもりだった。さながら気分はエクスカリバー。

 それが、タダのゴミとはね。


 ドヤ顔で、コレで俺を殺せ! とか言ってたの恥ずかしくない?


「え? 木之瀬さんコレ使う? 攻撃力8なんだけど? ちなみにそっちの剣は3ね……」

「ううん、私、剣道やってたからこっちの方がいい」


 そっか、じゃあ俺はコッチを使わせて貰うこってす。


 ……なんだろう?

 女の子を助ける流れから、急にヒモっぽくなってきた。


 カバンには他に回復アイテムまで。

 カバン、ガントレット、回復薬。

 木之瀬さんは合計三つのミッションをこなしたと。


 俺がレイプ未遂のクズから回収したのは?


≪ 守備薬 ≫

 一定時間、被ダメージを半減する。


 良いねぇ。

 一定時間ってのがわからねぇ事以外はよぉ!


 ウエストポーチに突っ込む。

 よく調べたコレもやたら入るわ。容量Lv1だわ。鑑定しておけっての。


「じゃあいこっか!」

「うん!」


 松明だらけの部屋を抜け出し、再び薄暗い通路に。


「ちょっと待ってて」


 まずは、さっき木之瀬さんがレイプされそうになってた部屋にダッシュ。

 スマホの地図を見るに、この部屋は既に大半が闇に飲まれている。


 そっと、中をチラ見。


「…………」


 息を飲んだ。


 本当に、部屋の中が暗い!

 文字通り闇に飲まれている。


 あの闇に触れるとどうなるか? 毒ガス? 即死?

 このダンジョンを作ったのは、本当に死神かなにかなのか?


「なんだか、恐いね」

「うわぁ!」


 木之瀬さん!? 急に後ろから話し掛けて来ないで!


「アレに捕まると死んじゃうって事だよね?」

「たぶん、ゲームなら体力が減ってったりするけど」

「じゃあ、早く行かないと」


 そうね。前向きね。


 俺達は、地図を頼りに円の中心を目指して、駆ける。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「お前ら、どっから来た? ココはどこだ?」


 次の部屋、おっさんに声を掛けられた。


「止まれおっさん」


 ガントレットでファイティングポーズ。後ろでは木之瀬さんが剣を構えた。


 すると、おっさんは目に見えてヒヨッた。


「な、なんだよ。物騒な」

「さっき殺し合いを見ちまってナイーブになってる」

「えぇ?」


 嘘だけどな。


「アプリからデスゲームに参加したんだろ? 命が軽い連中だ。そんなヤツらに金銀財宝を見せつけたらどうなると思う? 財宝を前に血みどろの殺し合いさ。俺は一つだけしか取って来れなかった」


 俺はおっさんの前に、ひしゃげた金の腕輪を転がした。


「え? こんなのが? ゴロゴロあるのかい?」


 おっさんは目の色を変えた。

 金に困って自殺しようとしていたクチだろう。


「そ、骨董品だし百万ぐらいはするかもね。金持ちが財宝をエサに、争わせて、楽しんでるんだろ。趣味が悪いぜ」


 おっさんは、まだ腕輪を見ている。


「なぁ、ソレ、くれてやっても良いぜ?」

「ほ、本当か?」

「殺し合いなんだぜ? 持って帰れるかもわからねぇよ。武器とか防具とか、安全の役にたつモノのがマシだ。俺達、遊びで参加しただけでこんなにガチとは思ってなかった」


 おっさんは、何かを後ろ手に隠す素振り。

 短剣かな?


 俺の後ろ、今来た道を気にし始めた。

 お宝に目が眩んだ証拠だ。殺し合いに飛び込む気かぁ、だから武器を渡す気はないと?


「悪いが、有るのはこの汚い鞄ぐらいだ」

「はぁ? 百万はする腕輪と、この小汚い鞄で交換かよ、馬鹿にすんなっての」


 アタリだ。

 木之瀬さんが持っていた容量Lv2の鞄。


 初期装備みたいなモンなのかもな。


「ちょっと待ってくれ、あと、薬もある!」

「へぇ……」


 薬が二個。

 回復薬と、攻撃薬。

 攻撃薬は一定時間与ダメージが倍。

 使い所次第だが、倍のバフはヤバいぞ。


「おっ、良いじゃん。この傷薬、効くらしいぜ? 怪我に塗ると出血が止まるとかさ」

「ほぉ、そうなのか」

「ああ、怪我で死んじゃ元も子もないからな、これ二本と鞄と交換で良いぜ?」

「た、頼む」

「よっしゃ、じゃあなおっさん! 長生きしろよ!」

「あの、お元気で……」


 俺と木之瀬さんは、おっさんの横を通り過ぎて、次の部屋に向かう。

 ここも次の収縮で闇に沈むからだ。


「あ、ああ! やってやる!」


 だが、何も知らないおっさんはホクホク。

 更には、俺の嘘を信じて、短剣片手に俺らが来た道を目指すらしい。財宝狙いだ。


 だがな。


 ――ピキッピキキ


「え?」

「あ、心配しないで下さい。ただのスケルトンなんで」


 俺と木之瀬さんの進む先、スケルトンが立ち上がる様子に、目を丸くした。

 このスケルトン、近付くとスグに起動してしまう。


 つまり、このおっさんはこの部屋でずっと塞ぎ込んでいたのだ。一歩も動かずに。


 でも、きっと、コレが普通だ。


 突然にワープさせられて、よっしゃーデスゲームだぁ! と動ける方がどうかしている。

 もちろん木之瀬さんも普通の人間で、ぼんやりしていたら、どっからか逃げてきたデブにレイプされそうになったんだと。


 つまり、動けるのはこの手のゲームに慣れた奴か、頭のネジが抜けてる奴だけ。


「君、そ、それは?」

「いや、タダの雑魚ッスよ?」


 どのクチで、って話だけどな。

 実は、ここに来るまで、通路でも二回戦っている。

 今となっては余裕だ。


「いっちょやりますか!」


 拳と拳を付き合わせ、ガントレットをガンガンと鳴らす。


 スケルトン相手は、タイミングが重要だ。立たせてしまうと結構強い。


 俺はスケルトンが組み上がる前に密着。頭蓋骨が所定の位置にセットされると同時、ショートアッパー。顎をブチ抜いた。


 ぐゎん。


 ガントレットと骨が奏でる金属音。


 スケルトンは一撃で機能停止。

 やっぱ、この武器強いわ。ATK+8は伊達じゃない。


「じゃ、そう言う事で! あっ、動くとコイツ起動するんで危ないッスよ?」

「えっ? あっ!?」

「頑張ってください」


 木之瀬さんがお辞儀して、おっさんとお別れ。


 特に何もなさそうなので、扉を開けて次の部屋に。


「なんか、悪い事したね」


 薄暗い通路を進むと、背後から木之瀬さんの浮かない声。


「いや、良い方でしょ。問答無用で殺して奪うよりずっとさ」

「そうだけどさ、騙したみたいで」


 鞄は貴重だし、薬も重要だからね。

 一方で、あの腕輪みたいな換金アイテムはそこそこ落ちている。


「それに、あの短剣、攻撃力2だったし」

「そうなんだ」


 良かった。わざわざ殺さないで。

 チラリと頭に過ぎってしまった。


「きっと、死んじゃうよね」

「まぁね」


 闇に飲まれて死ぬと思う。

 でも、俺達には事情を説明している時間すらないのだ。


「円満に解決するためにも、換金アイテムも積極的に集めていこう」

「うん……」


 この鞄にはそれなりの重量軽減もあるっぽい。

 金の財宝なんて、そうでなければとても持ち運べないからな。


 俺達は壺や木箱を破壊しながら、先を急ぐ。

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