第14話 だいいちのげえむ②

 


《声》は説明を続けながらも、椅子に座った僕以外の六人をも有無を言わさずベルトらしきもので拘束していく。腕、足、首。各々の身体が白い包帯のようなもので覆われていく。車のシートベルトをかけるのが子どもの頃、酷く億劫だったのを不意にふと思い出した。あの車の中の何とも形容しがたい匂いも苦手だった。椅子に接地している背中が空寒くなった。

 

《一つの質問の回答時間は15秒とします。何も回答しなかった場合一度目は【沈黙】と見做され以降はペナルティが課されます。ゲーム開始後ランダムに参加者の名前を読み上げますので、呼ばれた方はまず初めに『はい』と受け答え、それから回答を開始してください》


 あくまで淡々とした説明だった。疑問を差し挟む余地は特にはない。  


《本ゲームのルールは一つ、「質問に対して正直に答えること」です。違反した場合対象をゲームオーバーと致します。では、30秒のインターバルの後、第一のゲームを開始します》


 永遠にも思える三十秒。なんて重苦しい表現はなく、「こんなんでいいのか」といった、軽蔑とも困惑とも取れぬ曖昧な空気が拡がっている。誰かが口を開くかと思ったが、全員が沈黙を保ったままだった。三十秒経過。 


《足利桃子》


「『はい』」トップバッターは足利さんだった。

 

《あなたは、「インフルエンサー探偵・あしかがももこ」として、二年前からSNSにて活動していますか》


《はい》こんな感じなのか。


「『あなたは中学三年生の三月まで栃木で過ごし、高校一年生の春から上京しましたか?』」


《はい》ちょっと妙な質問だな、と僕が妙に思った矢先に、


《あなたは中学生の時クラスでいじめを受けていましたか》


「……、…………。……」足利さんの顔がこわばる。言葉を出そうにも、声がかすれて出ないようにも見えた。「………………。」見えない堰が彼女の声を澱ませているかのような。


《15秒が経過したので【沈黙】と見做し次の質問へ移ります》


〈あなたは異性との交際経験はありますか〉


「ちょっ……と! なんでそんなことまで答えなきゃいけないの?」足利さんが弾けるように発声する。

                   〈足利桃子。『はい』、『いいえ』、【沈黙】以外の回答は禁じられています。棄権と見做しペナルティを課しますが宜しいですか〉


「……『いいえ』」答えをミスらなかったのは巧いな。


〈あなたは処女ですか〉


「『はい』」

 

 右斜め下あたりを観ながら、足利さんは解答する。


 茶番だなあ。

 羽衣里は「意図が解らない」というように目を丸くしている。

 思うに。知られて恥ずかしいことを聞いているんじゃなかろうか。傷が広がる。劣等感を掻き立てられる。罪を暴き立てられる。外目と中身は必ずしも一致しないことを受身で突き付けられる。《声》はその後も足利さんの黒歴史を並べ立てては彼女の口から間接的にそれを語らせ、ネットに。転がってる。デジタルタトゥーっていうか。その。まあ。何か。……この辺にしておこう。誰にだってそういうのは一定時期あるものだし。


 足利さんは人ごみに素っ裸で放り込まれたみたいに真っ赤になって縮こまってしまって、ここは同年代しかいない教室じゃないしそこまで恥ずかしがることないと思うけれども、彼女の年齢を考慮すれば仕方ないなあとか感じた。


《……以上で質問を終了します。30秒のインターバルの後、次の方への質問を開始します》

 

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