第18話 だいいちのげえむ➅
《胡桃沢弥弦》
頭の真上で銅鑼でも叩かれたかのように僕の意識は一気に現実に引き戻された。『は、い』
そういえば僕の番まだだった。
幼馴染が焼死しようがゲームは続くし余波こともなしか。
ああいやだな。焼け死ぬのはすごい痛いって聞くし。だから放火は重い罪って言うし。火災保険は入れっていうし。羽衣里も痛かったろうな。
羽衣里は美人ではないけれどかわいかったし、奔放だったけど数少ない女の子の知り合いだったし、人には言いにくいことも気軽に言い合える仲だった。もう何を言っても過去形になってしまうのが悲しい。先ほどモモコちゃんに貰ったサインが書いてあるレジュメも、取り落としたカバンから奇妙な角度ではみ出て主なき無常を漂わせるだけだ。
僕への質問が始まる。鼓膜を犯すように声が響き渡ってくる。
ああ、これ、正直に答えないと僕も焼死するのか。怖いな。いやどうなんだろう。他の人はあの白いベルトの付け根辺りから火が出る構造なのかな。どんな技術だよ、ベルト型火炎放射器か?
嘘をつくとき、生理現象で呼吸に心拍数に変化が現れるとか眉唾だけど何かの本で読んだ気がする。それが正しいのならばあの首に巻き付いたベルトで測ってるのかな。羽衣里の死体に訊いてみようとしたが当然のようにもう死んでいた。黒焦げになって元型も留めず、ああ、胃の奥からせり上がってくる猛烈な嘔吐感。
《……》声が何かを聞いている。僕はそれらに対しうわの空で答えていく。意識と現実が乖離してしまって、自分が何をどう解答しているのかも明瞭としない。
ああ僕はとても悲しいよ、焼死体を観るのは初めてじゃないけれど他の人には堪えるだろうなあ。正直観られたもんじゃない。
あ、声がまた何か僕に聞いている。
《あなたが最初に解決した事件の犯人は、》
言うな。
《……●●、ですか》
全身の血が沸騰する。わけは常識的にないんだけれど、そう錯覚してしまうほどに強い激情の波が押し寄せ一瞬の後に引いた。
『はい』
今のことだけど後から振り返ってる風に未来形を使おう。何度も何度も始まる始まると抜かしてきたけれど、僕にとってのゲームの始まりは、ココだったのだと思う。
《……以上で第一のゲームを終了します。現状の確認を行います。探偵数、六。被害者数、一》
一、の部分で、如実に終わってしまった取り返しのつかない現実と向き合わせられる。
椅子に磔にされたかのように、高梨羽衣里は焼け死んでいた。あのふざけた会話をすることはもう二度とない。
「次のゲームも頑張ってkyダサい」
歪に歪んだ、嬉しそうな子どもの発生。少女が弾んで丘をかけていく様を、連想させるような響きだった。
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