第15話 だいいちのげえむ③


 次は少年だった。猿轡のせいで発言が出来ないため、パーソナリティーが見えてこない。


《八朔隆二》少年は首を縦に振る。『はい』の意志表示。


 まあ、普通に酷かった。窃盗詐欺強盗強姦、その他軽犯罪だか重犯罪だか銃犯罪だかわからない細々としたものまで。それらすべての告発めいた質問に、少年は首を縦に振り続けた。僕は非力だし犯罪少年とか怖すぎるから近付かないでおこう、と思ったんだけど、僕は椅子に縛り付けられていて一歩も動けないの……でした。近づくも遠ざかるも僕に選択権、なし。

 

 それからの黒幕のお手並みは見事なものだった。密室に閉じ込められた探偵たちの偉大な業績を次々に暴いていった。


《栂村司》『はい』

《あなたは職務上請求を利用し取得した個人情報を第三者に横流ししていますか》

『はい』ツガムラは引き攣り笑いつつ答える。

《あなたは不動産を反社会勢力に……》『はい』

《あなたは遺産整理業務の際に……》『はい』

《あなたは依頼人に過払い請求額を故意に低く申告し……》『はい』《……以上で質問を終了……》


《勅使河原杏香》『はい』

《あなたには子供がいますか》『はい』

《あなたの子供は嫡出子ですか》『いいえ』

《あなたは昔性風俗店に勤務していましたか》『はい』


 以下略、以下略。ほんと露悪。

 脳内で描写するのも嫌だなあ。 

 ミホさんは見事なものだった。


《苺谷美穂》『はい』

《あなたは違法薬物を個人売買していますか》『はい』

《あなたは薬物を使用し人生が壊れた方々に対し罪悪感を覚えていますか》『いいえ』

《あなたは自身の行いが薬機法に抵触することを自覚していますか》『はい」

《あなたの薬物の売買売り上げ月収は100万円以上1000万円未満ですか》『はい』

《あなたには交際相手がいますか》『いいえ』

《あなたは数年前から不眠症を患っており睡眠薬を内服していますか》『はい』《以上で質問を終了します。30秒のインターバルの後、次の方への質問を開始します……》


 薬の売人に悪徳司法書士に有り余った非行少年に元お水系、か。風俗はまだしも他は全員フツーに捕まるな。実質、『はい』と言わせ罪を告白させるだけのゲームになってる。というかゲームなのかこれは。ゲーム性とか特に何もないけど。回答者以外が他人の秘密知れて嬉しー、くらいか?

 

 ……犯罪者の品評会か何か、ココは。よくもまあこれだけいかがわしいメンバーを集めたものだ。黒幕の手際に感心してしまう。のっけから殺伐とし過ぎる。


 まともなのは足利さんくらいか。元いじめられっ子なんていまどき別に珍しくもない。罪悪感を抱くことなんて何もない。腐らずに配信者として大成しているだけ立派だ。 


 気付かないうち把握してしまったのだけれど、どうやら、みんな脛に傷持つ人種みたいだ。だから探偵なんて汚れ仕事やってるのかもだけどね。


 部屋の中は先ほどとは打って変わって白々しい空気に満ちていた。「おかしい」足利さんが言う。「ほんとおかしい……」 


 その様子を見ていて、何か、人として感じちゃいけない気持ちが込み上げてきた気がして、僕は少し吹き出しそうになってしまったああこういうのはよくないな、彼ら彼女らも必死で生きているんだから黒幕もそれをわかった上で挑発したり侮蔑したりしてるんだから僕は堪えるんだ、ああでも無理、もう無理、というわけで、ぷっ、と吹き出してしまった。


「あはは、いや、すみません。なんかおかしくって。本当に下らないなって。皆さんそう思いません? おかしいな、本当におかしい。ははは、あは、あっはははは、はははっははは」


 僕は壊れたラジオみたく笑った。縛られながら笑っているので当然ながら縄が全身に食い込んでとても痛い。ぶ厚い椅子の背に寄り掛かるようにして笑った。閉じ込められてから初の笑いだった。 

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