第16話 だいいちのげえむ④


 足利さんが呆然としたように僕を見ている。今日はやたらと女の子に見つめられる日だ。


「いや、本当に下らないって。苦労して密室創って探偵七人も攫って閉じ込めてクローズドサークルだかソリッドシチュエーションだかやってやることが暴露大会って。黒幕は馬鹿なんですかね? あはははは」


 ツガムラの「下らねえ」に同調するわけではないけれど、僕もまあ、閉じ込められておかしくなってるかな。まあしかし、突如笑い出した僕に同調して笑いだしてくれる人は当然のように誰もいなくて、そこは少し寂しいなあとか感じる。本当におかしいのに。ガキの悪戯あそびみたいだ。 


「……だよねーっ。私も思ってた。小学校の学級会みたい。いたよねーっ、些細な問題を無駄に長引かせて紛糾させて、そんでみんな帰り遅くなるの。誰が得するのって思ってたもん」


 羽衣里が顔を上げ、それからほんの少しだけ僕に向け微笑んだ「暗いの嫌だよね」「ああ、まったくだ」視線で会話する「まかせて」ただの幼馴染みだからできる芸当「よろしくね」。


「おーし、こうなったらもう自棄やけだーっ、次は多分私の番だけどもう自分から黒歴史を開陳しちゃうから、耳をかっぽじっよく聞けぇ黒幕―っ」


 羽衣里が捲くし立てる。こうなったら奴はもう止まらない。


「えー、私っ、高梨羽衣里はーっ、ついこの前、高二から付き合ってた彼氏にふられましたあっ原因は相手の浮気ですーっ。おかしいだろーっなんで私がふられる側なんだーっ」


「あはははっははは有責配偶者からの離婚請求ってやつ?」正直めちゃくちゃ笑える。


「笑うところかーっミツル、もうそんなだからいい年して彼女の一人もできなんだぞーっ」


「小二からの付き合いだから分かるだろ僕はそういうの興味ないんだよ、はははっははは」


「違うーっ、幼稚園年中のモモ組さんからでしょーっ、積み木でひとりぼっちしてるミツルに私が声かけたんだよ」


「そうだったっけそれにしてもまた浮気されたんかよ、中二から付き合ってた前の彼氏にもされてなかったっけハイリお前男運なさ過ぎだろ、ははは」


「なんなのこいつら本気で頭おかしい」足利さんはドン引いている。まあこんな空間で笑い転げているなんて傍目から観たら完璧狂人だしなぁ、あはは。「若いっていいわねぇ」勅使河原さん。「きみらほんと面白いよこの部屋出たらコンビ組め」ツガムラ。「ふふふふ」ミホさんは口許に手を遣ってお上品に笑い不良少年は苛立たしげに僕とハイリを見つめている。


「うるさぁいっ話はここからだあっ、なんと浮気相手は私と元カレと同じゼミに内定した女でゼミは必修で取らないと卒業できないから、これから卒業まで三人で顔つき合わせなきゃいけないんだーっ、股かけた男と寝取った女と寝取られた女で仲良くゼミ旅行だーっ」


「はははっ、ははは、あは、ははっ、いや地獄過ぎんだろ」僕なら大学辞める。


「ちなみに私の専攻は文化人類学ぶんかじんるいがくで、ゼミは『文化人類学的見地から観た一夫多妻制』」


「あはっはっはははっははもう無理、無」


《高梨羽衣里》僕の笑い声は掻き消された。



 

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