第13話 だいいちのげえむ①
2
白い部屋に声が響く。
《……
探偵把握。「探偵は悪」とも聞こえた。
初めに動いたのは足利さんだった。通学カバンから素早くセルカ棒(外国人観光客とかキラキラしている人たちがよく街中で持ってるやつ)を取り出し、配信の準備をし始める。慣れた手つきに感心していると、どこからか視線を感じた。
先ほどの放送で全員の名前を聞いたからだろうか。
ツガムラがこちらを見据えていた。
名前を知られれば、それはそうなるよな。
胡桃沢という苗字。ミツルという名前。それは否応なしに過去の惨劇を想起させる。
……まあそうなるなあ。
「スマホがない」これからゲームが始まる段だというのに、足利さんが早くも悲壮な表情になっている。
「ねえ、誰かあたしのスマホ知らない? スマホスマホスマホ。あれがないと何もできないよ……」
慌てふためきぶりは観ていて可愛そうになるくらいだった。
「あれ、モモコちゃんもでしたか。実は私もスマホなくて」羽衣里が言う。「そう言えば私も」ミホさんも言う。「まあ、こういう状況じゃお決まりですよね」
「ねえ、誰かスマホ貸してよ。あたしのアカウントでログインすれば……」ツガムラは首を振り、少年は下を向いた。僕も否定の意を示した。
足利さんは生気が抜けた絶望的な表情をしている。やはり彼女も、推理法を封じられていたみたいだ。
「あらあら、先ほどまでの勢いはどうしたのかしらねえ」勅使河原さんが呆れたように言う。哀れむような口調ではなく、どこか優しさを感じる。
僕たちの様子に関係なく状況は進行していく。白い部屋の白い床に亀裂が走り、これまた白い椅子がいくつか駆動音を立てて姿を現し始める。それが六つ。
《各自、好きな座席に着席してください。全員の着席が確認でき次第、第一のゲームを始めさせていただきます》
どうやらこれに座れと言うことらしい。いや僕は既に椅子に座りいや縛り付けられているから、実質残りの六人へ向けた指示だった。
スマホを奪われたか失くしたかして茫然自失の足利さんは、覚束ない足取りで手近な椅子に座った。憔悴しきってる感じだった。
先ほど僕がミホさんとかち合って指摘したかったのは「外部との連絡手段」の有無だった。主にスマホや通信機の類を持っている人はいないか最初にどうしても確認したかったのだ。
嵐の山荘、絶海の孤島、SF映画観たいな白い部屋。クローズドサークルみたいな狂った空間に閉じ込められたら、まず率先してやるべきことと言えば外部への連絡だろう。
しかしそんなこと僕が指摘するまでもなく全員が織り込み済だろう。念のための確認だったのだが、足利さんの反応を見るに、あまりに自明過ぎて失念していた人もいたらしい。
結果としてミホさんの「七つの課題と脱出の問題は別にあるのではないか」という指摘の方がこの状況においては正鵠を射ていて、僕が指摘するチャンスはなかったが。
愚かな僕が思考を巡らしている間にも、ツガムラ、八朔という少年、羽衣里の順で手近な席に座る。ミホさんは目の見えない勅使河原さんを優しく座らせてあげ、最後に席に着くと、
《全員の着席を確認しました》とのアナウンス。
《第一のゲームの概要を説明いたします。これからあなたたち全員に、質問をします。その質問に、『はい』、『いいえ』、【沈黙】のいずれかで答えてください。ハンデとして回答が出来ない方は、首を縦に振って『はい』、横に振って『いいえ』で回答してください。なお、【沈黙】は一回までとし、『はい』と『いいえ』のどちらにもなりません。定められた方法以外の解答や【沈黙】を二回以上行った場合は対象にペナルティを課させていただきます》
まだ覚醒して十分足らず、臨戦態勢を構えるのには些か早すぎる、ゲームの始まりだった。
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