第24話 だいにのげえむ②
《第二のゲームはとても簡単で良心的なゲームです。この言葉に嘘、偽りはありません》
数時間ぶりに聞く《声》は、くぐもった、ここにいない誰かを嘲笑するような声だった。
《これから二題、問題を出します。答えを誤っても、ペナルティは課されません。ただし、解答の権利は一度のみです。正解者の二名には、「宴会場」への入室の権利を付与します》
飢餓感が漂う一方で、場の奇妙さにも拍車がかかっていた。誰もが声に続きを促しているように思えた。そもそもの話、死以外に僕たちが命令に従う明白な理由などないハズなのに。
《前方のスクリーンをご覧ください。問題を表示します。それでは第一問》
じっ、と前方へ目を凝らす。よく見ると白い壁に、半透明のフィルムらしきものが貼り付けられた一角があり、そこに映像が投影されるようだ。霞がった視界に飛び込んできたのは、小学生が解くようなシンプルな文章題だった。
「Q.1
八枚のコインがあります。
そのうち一枚だけが偽物のコインで、本来の重さよりも少しだけ重さが軽いです。
偽物のコインを最少の回数で見分けるには、天秤を何回使用すればいいでしょうか。」
少しだけ頭を巡らせてみる。しかしそんな悩んでるふりをするまでもなく即座に答えが出てしまい、もう一度よく文章を眺める。縛られたままで小首をかしげる。それでも違和感は特に感ぜられない。ガラス窓についた汚れみたいに拭うまでもなく明瞭としている。
再び奇妙な沈黙が場を支配した。
「……なにこれ。こんなの、で、いいの?」足利さんが拍子抜けしたような表情で、怪訝そうな声音で、問題に疑問を投げかける。もちろん《声》の返答はない。
誰もが押し黙った。答えを口にすれば、「宴会場」とやらへのパスを手に出来るのに。遠慮でも韜晦でもない、状況そのものに対する困惑のようなものが白い室内を満たしていた。不信感、不安感。何らかの罠ではないのか。あるいは続く第二問への何らかの布石なのか。解らないことだらけだ。先ほどの問題の解答以外は。
「私、答えても良いですか? ……二回です」
ミホさんが遠慮がちに手を上げると、周囲からの返答も待たず躊躇いなく答を口にした。
「ちょっと、あんた何普通に答えてんの? 罠か引っかけかもしれないでしょ」足利さんがすかさず食って掛かる。
「罠かもしれないし、罠じゃないかもしれませんよね? 「引っかけ問題であること」が断定できないのと同じように「引っかけ問題じゃないこと」もこの場では断定できませんよね。二つの事象の確率は同等です。だから、普通に答えてみました」
てへ、とでも語尾に付けくわえたら可愛かったと思うのだけれど、あくまでミホさんは淡々と受け答えた。余裕はないかもしれないが、自信はあるようだ。といったものの、彼女も疲労がたたっているのか、語気は荒く、苛ついているようにも見える。女性は怖いなあ。
《探偵四、苺谷美穂の回答を受け付けました。念のため理由も併せてご回答ください》声の方が続きを促す。
「八枚の中からコインを三枚ずつ二組選んで天秤にかけます。釣り合ったなら残りの二枚を天秤にかけて、軽かった方が偽物です。傾いたら軽かった方の三枚から二枚を選んで天秤にかけて、釣り合ったら残りの一枚が偽物です。傾いたら軽かった方が偽物です。二回です」
《正解です》
あっさりとした答えだった。面白みもない。けれど答えたのはあくまでミホさんで、沈黙を保ったのは僕らだった。正解したのはあくまでミホさん一人だ。実際に答えなければ答えられないのと同じ。述べられた言葉だけが真実だ。実は解っていたんだ、は通用しない。
《おめでとうございます。探偵四、苺谷美穂、「宴会場」への入室の権利を獲得しました》
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