第25話 だいにのげえむ③
ミホさんは頬を緩ませ、椅子に深く腰掛ける。それから、少しさびしそうに微笑んだ。
今はただ、彼女の勇気ある行動に敬意を表したい気分だった。
《続いて第二問です。前方のスクリーンをご覧ください》
どうやら、休ませてはくれないらしい。そのとき、少しだけだが、何か、決定的な意地の悪さみたいなものをこのもんだ回から感じ取ったが、今はそれよりも目の前の課題に注力したかった。この形式ならば、僕にだってチャンスはある。
「Q.2
十枚ずつ九つの袋に分けられた九十枚のコインがあります。
コインの重さは10グラムですが、一つの袋のコインだけ丸ごと全部偽物のコインで、重さは9グラムです。
偽物のコインが入った袋を最少の回数で見分けるには、重量計を何回使用すればいいでしょうか。」
これは少し悩んだ。
どこかで見た覚えはあるのだが、しかしそれは根拠のない既視感みたいなもので、解けそうで解けないときの言い訳みたいなもので、僕もよく分かっていないのだと思う。
知育パズルのような、ひらめき問題のような、何かうまいやり方があるだろうか。
前問が偽物のコインが一枚だけだったのに対し、今回は十枚もある。袋に分けられている。分けられている? それに、本物と偽物のコインに具体的な重さ、差異がちゃんと設定してある。はかりではなく重量計。何か、現在僕たちが置かれている状況に似通ったものを感じ取れずにはいられなかったが、僕が口を開く前に、
「一回よ」足利さんが答えてしまった。
黒幕の機先を制するように、理由まで口にしてしまう。
「九つの袋に便宜上の番号を振って、1の袋からは一枚、2の袋からは二枚、3の袋からは三枚……というようにn番目の袋からはn枚というようにコインを取り出し、それらを全てまとめて重量計にかける。全部で45枚だから、本来なら450グラムを指し示すはず」
足利さんの言はよどみない。配信で慣れているのだろう。大勢の人前で話すことに未だに慣れない身としては、素直に憧れる。
「偽物のコインは本物よりも1グラムだけ軽いのだから、偽物のコインが取り出された枚数分だけ重量計は軽くなる。たとえば443グラムを示したら、7の袋のコインが丸ごと偽物よ。nグラムだけ軽くなるのだから、n番目の袋が全部偽コイン。だから一回だけでいい」
《探偵二、足利桃子の回答を受け付けました。正解です》
声もどこか淡白な調子で応じる。
二問とも、その場では分からなくても、答えを聞けば納得するほどには易しい問題だ。
《おめでとうございます。探偵二、足利桃子、「宴会場」への入室の権利を獲得しました》
最悪わからなくても、ネットで質問するなり検索するなりすれば簡単にわかる。しかし、今ここにスマホはない。これでは答えられない。やはり自分の頭で導き出してこそ人間なのだと思う。
足利さんはほっとしたように溜息をついた。
ツガムラは訝しげに部屋の様子を見まわしている。
問題とか以前の問題だ。
隆二くんは難渋そうな表情を浮かべ、壁に浮かんだ問題を見つめている。まるで古代人の壁画を観ているかのような、不可解な表情を浮かべて。それもそうだ。彼は口を塞がれているのだから、答えが分かっていてもそもそも回答すること自体が出来ない。
勅使河原さんはもっと酷い。そもそもの話として目が見えないのだから、《簡単で良心的なゲーム》でも、問題を読むことすら、目を通すことすらできないのだ。
第二のゲームはどうしようもない違和感、判定しようのない偽のコインのようなわずらわしさを残して、終わろうとしていた。
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