第21話 いちにちめ、よる②


 寝る前の話し合いで、男性と女性で寝る部屋を分けることにした。せめてもの配慮だ。僕は椅子に縛り付けられているので、必然的に目覚めた部屋で男が寝て、「ホール」の方で女性陣が寝る。ここからではうまく視認できないが、「ホール」の方がずっと居心地自体は良さそうで、贅沢は言っていられないのだが少しだけ羨ましい。


 足利さんは小さな女の子みたいにいやいやしながらミホさんに引きずられ、勅使河原さんはツガムラと少し会話らしきものを交わしてから消えていった。それで今に至る。


 修学旅行の夜、とは別の意味で非日常的な緊張感がある。好きな女の子のことを話す余力というか気力もないし他の二人は寝ている。僕だけだ。妙に冴えた意識で、幼馴染みが焼け死んだ白い部屋で現実という悪夢に魘されているのは。


 こういうときはあれだ、女の子の事でも考えよう。足利さんはかわいいけど、年下はちょっとな。まだ女子高生だし。ミホさんは大人しい割には発言力も行動力もある。意外と芯は強い人なのかもしれない。けれどあれで薬物の売人だ、腹に一物も荷物もため込んでいそう。怖い。勅使河原さんは、正直とっても好みだ。年上で物腰柔らかで、厳しいけどなんだかんだ歳下には優しそうだし。元・水商売なんて気にしたら負けだ。過去も含めて愛さないと。ああでも子持ちだったか、それは倫理的にちょっとまずい。僕は何を考えているんだろう。


 羽衣里の事を考えまいとしても炎に包まれ苦痛に歪む末期の表情が脳裏に焼き付いて離れようともしてくれない。未だに熱が籠っていて、喉の奥、肺にまで沁み込んだ悪寒が冷めない。逆に皆、なんでこんな状況で寝静まれるのだろう。僕以外に起きてる人の気配はない。

 

 考えても仕方がないけど、これからのことを茫洋とでも考えよう。情報を与えられないと言うことはただそれだけで多大なストレスになる。結局、第一のゲームとやらが終わり新たな部屋が解放された後、期待を持てるような新情報は《声》からは告げられなかった。またもや放置プレイ。一応、一日目とやらが終わり二日目に突入したとの事なのだろうか。気が遠くなるほど時間の進みが遅い。


 朦朧とした意識。酷く現実感がない。置きながらにして夢を見ているような心地で、現実と妄想の乖離していく様がない面で加速してゆき僕の意識を蝕む。夢か、これは夢なのか。VRとかメタバースとか、作中作みたいなオチなのか? だとしたら話としては最悪だと思う。


 試験管の中に浮かぶ脳を六つ思い浮かべたところで、後ろからちゃかちゃか音がすることに気が付いた。気のせいだと思う。僕の後ろには誰もいない何もないはず、後ろに部屋はない。何かをこすり合わせるような金属音が聞こえ、背筋で小さな虫が這いまわっているかのような感触があり、


 ああ幻覚かな。


 そろそろ僕の精神も限界なのかもしれない。軋みをあげて、何とか動く頭をもたげた。



 琴琶がいる。


 

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