第10話 こくはつ③
「閉じ込められたんだよ、俺達全員な」ツガムラは呆れたようにため息交じりで答える。
「それくらいは観れば判るよ、私も。そんなことより現在時刻は? 外部との連絡手段は? なんで人により縛られたり塞がれたりしてるの? 持ち物は何か没収されたりしてない? というかここに来るまでみんな何してた?」
嵐のような質問の流れに、多くの人が引いたようだった。
「あなた、ひとりで喋り過ぎよ。頭が痛いわ。少し静かにして頂戴」勅使河原さんに窘めるように指摘されると、「ごめんなさい、ちょっとテンパっちゃって」と素直に謝り羽衣里の質問攻めは漸く止まった。
質問の仕方自体は悪いが、確かに羽衣里の発言には感じるところがある。こういった異常な状況に置かれた場合、まず確認するべきは周囲の状況ではなく自分たちの状況だ。
状況に対し慌てふためいて対策を講じているその時点で、既に状況に乗っかっていると言える。まずはわかることから片付けていくのが、慎重な対処方法だろう。状況に対して行動する、というツガムラの行動は正しいが、どちらかというと僕は、うるさいやつが起きる前に、まず人数の少ない落ち着いた状況で話がしてみたかった。それももう叶わぬ夢だが。
分かってるならお前が指摘しろよ、という話なのだけれども、残念ながら僕は御覧の通りの有様で、またこの場における発言権もそうは強くない。率直に言って、かなり弱い。コミュニケーション能力に乏しい人、あとで「あの時ああいえば良かった」って脳内一人反省会延々とやりがちだよね。今まさにやってるところです。
状況が解らない。解らないことだらけだ。先ほどのブザーも何の意味があったのか。整理する暇もなく、状況が変わり始めている。僕はまず、何を考えるべきなのか。
「……ねえ、ミツル」
独りの殻に閉じ籠ろうとしたタイミングで、ほんの少ししゅんとしたハイリが話しかけてきた。
「
閉じ込められた自分たちのことよりも、他人が気になるのか。本当に、形は歪だとしても彼女は間違いなく強い人間だ。
「大丈夫だよ。あいつなりに上手くやるさ。僕たちなんかよりよっぽどしっかりしてるだろ」
無理に笑顔を形作って、少しでも元気を取り戻そうとする。変えられない過去に拘泥するよりも、これからの未来に期待する方が、よっぽど有意義だ。僕もこの空間で知人を観て、少なからず安心したのだろう。漸く安堵のため息がこぼれ出る。
「うん、ミツルが言うのなら、そうだね。きっと今も……」
羽衣里の言葉を遮るように、唐突に室内に再度、音が充満する。先ほどよりも強く、激しい音だった。内に秘めた何かを吐露するかのような、攻撃的な予兆を孕んだ音の波。頭が割れるかと思うほどの轟音。耳を塞ごうにも僕にはそれが叶わない。
《要素が揃いました。これよりゲームの説明を始めます》
人工的な合成音。感情的な機微の感ぜられない、無機的な口調。
「始まった、か……」
誰に向けるでもなく、僕は小さく呟いていた。
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