第11話 こくはつ④

 

《まずはゲームの目的です。これからあなたたち七人には、99時間で七つの課題を解いて戴きます。それらはいずれもあなたたちの探偵としての適性を図るためのものになります》


 余計な飾りを吐き捨てて、述べるべきことだけを淡々と《声》は読み上げていた。


。なお、あなたたちの探偵としての技量、実績差を考慮し、個々人によって幾ばくかのハンデを設けさせていただいております》


 こちらの意味することは明らかだった。勅使河原さんの目隠し、猿轡の少年、そして僕の椅子。視界全てを奪われている勅使河原さんはともかくとして、僕は椅子に縛り付けておかなければならないほどに大層な探偵であるようには思われないのだけれど、それは黒幕の判断とやらがそうさせているのだろうか。足利さん、ツガムラ、紫のワンピースの女性、そして羽衣里には傍目でわかるほどの制約は課せられてはいないようだが、彼女らにも何かしらの枷があるのかもしれない。よく分からない。果たしてどんな基準だろうか。


《また、本ゲームの過程において現代医療で治癒不能な重篤な怪我、今後の人生に関わるような深刻な後遺症、著しい人格の迫害による精神的苦痛、その他あなたたちの「探偵」としてのキャリアに二度と消えない傷を負わせる危険性がある旨を予めご承知ください》


 一気に雰囲気が剣呑になった。それでも口を差し挟む隙すら与えられない。反論の余地も認められない。過酷な内容にも思えるが、どこかふざけた調子も感じさせる。部屋の皆も取り乱すというよりは、どこか呆れているように見えた。


《説明は以上です。三十秒後、参加者名を読み上げ、ゲームを開始させていただきます》


《声》は僕たちの反応を窺っているのだろうか、それとも単なる焦らしか。再度時間を設けるようだった。 


「99時間で七つの事件? 七時間で99個じゃなくて? 余裕過ぎない? 舐めてるの?」

 足利さんは笑い飛ばすように言った。強がりには見えなかった。彼女には実績がある。

 

「まだ「事件」と決まったわけではないでしょう。詳細な形式が解らない以上油断は禁物よ」勅使河原さんは落ち着いた声で言う。視覚を塞がれた今、彼女の情報収集手段は主に聴覚に限られる。他の六人と比べてもかなりの制約だというのに、微塵も焦燥は感じ取れなかった。


「99時間ねえ……。丸四日間もか。体力が持つかねぇ」

 ツガムラは弱弱しく呟いた。一理ある。「七つの課題」の全容が解らない以上、早く解いたからと言って早く脱出できるとは限らないのだ。


「食糧や睡眠の確保も大事ですよね。不眠不休で推理するわけじゃないし。あったかいシャワーも欲しい。ちゃんと用意してくれてるのかなあ。あっ、あとトイレ!」

 羽衣里はどことなく嬉しそうだ。まあ、「皆で何かする」なら大抵のことを楽しめる猛者だからなあ。憧れのモモコちゃんと一緒なのも一因かもしれない。「ちょっと! 生々しいこと言わないでくれる?」と思ったらその桃子ちゃんから窘められていた。行き先が不安だ。

 

 少なくとも今のところ、探偵たちに動揺や恐怖はあまり見受けられない。状況それ自体を低く見積もっているのではない。ちゃんと自覚したうえで、危険性を承知したうえで、事件に挑んでいる。

 でも何故だろう。背筋の裏から這い上がってくるような悪寒が、どうしても消えなかった。


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