第3話 はじまり③


 どうすることもできずに椅子に縛り付けられている(一応、多少の抵抗は試みた)間に、僕の一番近くで横たわっていた女子高生らしき人物が緩慢な動作で白い床に手を付き、起き上がり始めようとしていた。どうやら、漸く状況が動き始めるらしい。


 短くまとめた黒髪に赤のメッシュが入った頭部。群青色の制服にやたらとごてごてとマスコットやキーホルダーで装飾された通学カバン。いつの世も女子高生は着飾りたがるものだなあとか思いつつ、この真っ白い部屋における彼女の存在は些か以上に僕を刺激した。漸く自分だけでなく周囲の状況に気を巡らせる暇が出来たとも言えるかもしれないが。


「ん、ぁ、ここ、どこ……?」


 やけに色っぽい声で瞼を擦りながら、彼女はきょろきょろと辺りを見回していた。素直にそうして見せた後、眉根を寄せ、今度は警戒の色を含んだ視線で周囲に視線を巡らす。辺りに転がっている人物を眺めまわし、溜息をつく。やや順応が早いものの、非常にノーマルな反応と言える。


「やあ、おはよう。漸くお目覚めだね。良い夢は見られたかい?」

 取り敢えず挨拶してみた。発話してから気が付いたけれど、これじゃ僕が黒幕みたいだ。

「はぁ? なにあんた。てか起きてたの」

 女子高生は何か気持ち悪いものでもみるように僕を見つめた後、僕が置かれている状況を確かめ、

「それ、何かのプレイ?」

 と呆れたように口にした。

「僕もよく分からないよ。きみに余裕があったら、これ、解いてくれないかな」

 駄目もとで。

「やだ。あんた何か怪しいもん」

 こともなげに呟いた後、やけに鋭い視線で、

「それに、他ならぬあんたがあたしたちを閉じ込めた犯人かもしれないし? 状況が解らない以上、迂闊に行動するのは危険」

「それもそうだね、まったくだ」

 流石。というか、視線と不自然なまでの落ち着きを観るに、彼女もなのだろう。

「まあ、自己紹介くらいは構わないでしょ。そこらに転がってるのも、観たとこ何人か知ってるのがいるし」

 短くため息をついた後、彼女は言った。

「あたしは足利あしかが桃子ももこ

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