第25話 代々の聖女への応援コメント
聖女と主要キャラは色や宝石の名前なのね
歴代の聖女様の行く末が気になる!
作者からの返信
コメントありがとうございます!
登場人物の名前は統一感を出したくてそうしてます。過去の聖女さまの話は少し先に出てきますね!
編集済
第71話 ふたりへの応援コメント
第71話 ふたり
ワタシを助けてくれたミッドレイ商会は2050年現在では世界的なグローバル企業「ミッドレイ」になっていた。
その陰の総帥はあのナザリア・ミッドレイ、そう、チャーミング王の何代目かの王妃だった人だ。
王妃になり、悪魔の鍵を開けたことで不死となり、今でもその天書の智慧を利用して世界的巨大財閥を切り盛りしている。
悪魔のチャーミング王そのものはかなり昔のフランス革命により、その時の王妃とともに首を落とされた。
その時の名前は確か「ルイ16世」、王妃はマリー・アントワネットだったかな?
そのきっかけは偽造された天書に書かれた一節。
「パンがないなら菓子を食べなさい」
それを真面目に天書の智慧だと信じて話してしまったものだから国民が暴動を起こした。
アメシストさんやダーク、王政廃止勢力の悲願が成就したと言うことかしら。
それにしてもルイ16世も錠前オタクだと伝説に残ってる、死ぬまで錠前好きだったのね。
流石の悪魔も首を落とされてはどうしようもなかったのか、もう生きるのに飽きたのかはよくわからない、それからは不死の王妃が誕生することは無くなったが、チャーミング王が死んだ後、楽園天国の不死の王妃たちは世界中に散らばり、各国の政府や大企業を陰で牛耳った。いわゆる「陰の政府フリーメーソン」とはこの王妃たちのことである。
ドリゼラ姉さんはそれから姿を消し、連絡が取れなくなっていたのですけど、なんの気なしに見ていた動画サイトにワタシと瓜二つの少女がサイファをしている姿を見付けた。
通り名は「なりそこない王妃」
ワタシはドリゼラ姉さんだと確信した。
ミッドレイ系列の知り合いにお願いして連絡をとってもらった。
ドリゼラ姉さんはその後20年間王妃を務め上げ、楽園天国でのほほんと暮らしていたそうだ。
その後チャーミング王が処刑されたタイミングで中気ままな旅を1000年続けたらしい。
ドリゼラ姉さんらしいよね。
私はまたミッドレイの助けで短い期間ではあるけれど、フランスに足を踏み入れる機会を得た。
自分の生まれ育った国に再び足を踏み入れた時、内から込み上げてくるものがあった。だけど、目的を果たすまでは我慢すると決めていたから、そこはぐっと堪えた。
変装の必要もないけれど気持ちの切り替えもあって、私は髪をバッサリと切っていた。
ショートヘアにして黒いクローシュを被り、白のブラウスと黒のパンツの組み合わせで、以前に何度も通った街のバザールを歩いた。
1000年以上の月日が経っていたけど、この街に大きな変化は感じなかった。自撮り棒とスマホを持った動画配信者と思われる人とすれ違うときは無意識に顔を伏せていた。
羊雲が追いかけっこするように浮かぶよく晴れた日で、とても暖かい。ここに暮らしていた時の私なら、ご機嫌に鼻歌でも歌いながら楽しくお買い物をしていただろう。
「あのスーパースター『なりそこない王妃』が首都ハミシバに出没したらしいぞ?」
「まじか?手分けして探せ探せ!動画にとるだけで10万いいねもらえるぞ!」
横を通り過ぎた動画配信者らしき人の会話が耳に入った。
なんだろう……、このとても懐かしい感じ。何年経ってもドリゼラ姉さんは全然変わらない。どこか遠くから彼女の姿を確認するつもりだったのに、どうやら行方をくらましているみたいだ。
ドリゼラ姉さんと宮殿のお部屋でいろんな話をした記憶が頭を過ぎった。そして、私は急にあることを思い立った。なにか確信があったわけじゃない。ただ、言葉にするなら「直観」としか言いようのないものだった。
この国に住んでいた頃、よく行き来した街のバザールと家を繋ぐ道、1200年経っても相変わらず舗装されていないその道に向かって歩いた。
急になにかを思い出したように小走りになったり、後ろを気にしながらゆっくりと歩いたりもした。
そう……、この道で私は彼女を追って来たんだ。それがドリゼラ姉さんとの再会。あの日、彼女の顔を久しぶりに見た瞬間は今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。
雲が太陽を覆ったのか、あたりが少しだけ暗くなった。私は空を見上げながら、独りで呟いた。
「……さすがにそう都合よく会えるわけないよね?」
大きな雲が陽の光を遮っていた。ゆっくりと流れている雲はもう一時すれば再び明るい光を届けてくれそうだ。
その時、ひと際強い風が吹いた。御座候の香ばしい匂いとともに。私は帽子を飛ばされないように左手で頭を抑えた。風はそれを私に伝えに来てくれたのか、後ろから近付いてくる白い頭巾をした女性の姿が目に入った。
いつか見た光景が記憶に蘇る。まるであの時をそのまま再現するかのように彼女は小走りで迷わずこちらにやってくる。
そして、表情が視認できる距離まで来ると、勢いよく被っていた頭巾を外した。
彼女の顔が目に映った時、ちょうど陽の光が2人の間を照らすように射し込んできた。
美しいブロンドの髪がよりいっそう輝いて見えた。碧い宝石のような瞳の中で、虹彩が美しく煌めいている。
彼女は、私が思っていたよりずっと変わってなかった、御座候を咥えて歩くのはワタシの専売特許だったのに完全にそこにいるのはワタシね。「そっくりさん」の面目躍如かしら。
お互い口に馴染んだその名を呼びかけようと口を開いた。御座候がポロリと地面に落ちた。そして言葉より先に目から溢れる涙を抑えきれなかった。
-- Ende --
作者からの返信
コメントありがとうございます!
時は流れ現代までやってきた……!?
編集済
第70話 旅立ちへの応援コメント
第70話 旅立ちと交差
首都ハミシバを出てから1200年ほどが経った。
100年ほど前から一人の少女と暮らしている。
彼女はワタシのことをシーラお姉ちゃんと呼ぶ、ワタシにも妹ができて少し嬉しかった。
彼女はソフィアと言い、どこか違う世界から来たと言っていた。
悪魔の呪いで不死となったワタシは「そんなものだろうな」と思い、深くは聞かなかった。
ソフィアはいい子であり物識りであった、ただ、物識りでありながら、こちらの世界のことは何も知らないという、少しへんちくりんな少女だ。
へんちくりんと言えば、彼女もほとんど歳を取らなかった。
少しずつは成長しているので不死とは違うようだが会って100年、見た目はほとんどかわっていない。
それでも不死の私から見れば短命種ということになるのかな?
不死のワタシ、シンデレラが「へんちくりりん」などというと他の人から笑われそうね。
そんなことを感じていた。
そんなある日。
「本当に大丈夫なの? 私に気を使わなくていいんだからね?」
シーラお姉ちゃんは、私の目を真っすぐに見つめてそう言った。私が1人で旅に出たいと相談したからだ。
お姉ちゃんと私とでは、時の流れの感覚が違う。シーラお姉ちゃんと一緒に過ごした時間は100年ほど。だけど、お姉ちゃんにとってはとても短い時間なんだと思う。
なにより、お姉ちゃんと過ごした時は短いけど、今まで生きてきて一番濃密な時間だった。これまでのすべてを忘れさせてくれるほど、幸せでかけがえのない記憶として私の脳裏に刻まれていった。
本当ならもっともっと……、これからもずっとお姉ちゃんと一緒にいたい。
だけど、お姉ちゃんと私は同じ「時」を生きることができない。なにより私の存在がお姉ちゃんを縛っていることにも気付いている。
私が生まれた国「グランソフィア」、そこには今でも私を牢獄から逃してくれた人を知る人がまだ暮らしているかもしれない。
お姉ちゃんは違う世界の人だけどここに暮らすようになってからお姉ちゃんはお姉ちゃんでその人たちと連絡を取る方法を探していた。
そして、どれくらい前だったかしら……。お姉ちゃんははじけそうな笑顔で私に話してくれた。
『ドリゼラ姉さんが!元気にしてるって!』
一緒に暮らしているからわかる。お姉ちゃんは大切な人に会いに行きたいんだ。あんな曇りのない笑顔はこれまで見たことなかったから……。
お姉ちゃんがお姉ちゃんのお姉ちゃんに近づかないのは、私を気にしてのことだ。
どこからきたかもわからない私を引き取って妹として家族として受け入れてくれている。
そういえばワタシの故郷、グランソフィア、聞いた話では、「聖ソフィア教団」はまだ残っているらしい。神託という導を失ったとしても、これまでずっと信じてきたものを急に捨て去るのは簡単ではないのだろう。
それでも、1000年の時を経て教団の権力は以前と比べてずいぶんと弱まり、国を解放する動きが広まっているそうだ。すぐにはむずかしいかもしれないけど、そう遠くない未来には、自由に出入りできるようなっているかもしれない。
私は誰よりもシンデレラお姉ちゃんに幸せになってほしい。それに、お姉ちゃんのお姉ちゃんにもだ。
その枷に私はなりたくない。
シーラお姉ちゃんと一緒に過ごせたおかげで私は、「人」として生きていけるようになったと思う。
お姉ちゃんと一緒に料理をした。とても楽しかったし、うまくできるとお姉ちゃんはとても喜んでくれた。
お買い物をしていてスリにあった時、私は怒った。シーラお姉ちゃんはもっと怒って、その犯人を捕まえて機関銃のような口撃をくらわしていた。すごい悪口が響いて人が集まってきたのでふたりで慌ててその場から逃げ出した。その後はいっぱい笑った。
なんだか懐かしいな、そういえばパーラ様やノアラ様だっけ、もう今は亡くなっているだろうけど私を自由にしてくれた恩人だ。
何も恩返しできなかったのだけが心残り。
そういえばシンデレラお姉ちゃんが大切な人たちのことを調べてうまくいかなかったとき、夜に独りで泣いているのを見かけた。私も悲しくてベッドで泣いた。
シーラお姉ちゃんと一緒に生活していろんな感情を知った。長い長い時間の中、それとは逆に「忘れる」こともできるようになった。暗い部屋でずっと私が聞いていた「知識」は、私に必要なものだったのか。少なくとも、こちらの世界では、それはいらないものだった。
頭に入ってくるものを初めて「いらない」と思えた。そうすると、それがなんだったかわからなくなった。お姉ちゃんと話をして、それが「忘れる」だと知った。
長い時を同じ場所で過ごすと奇妙に思う人も出てくるかもしれない。だけど、今の私ならひとりでも生きていけると思った。全部、シンデレラお姉ちゃんのおかげだ。
「シーラお姉ちゃん、私はもう十分お姉ちゃんに守られてきたよ? お姉ちゃんには私のためじゃなくて、自分のため、お姉ちゃんのお姉ちゃんのために時間を使ってほしいの」
「ソフィア……」
「私はお姉ちゃんたちみたいに不死じゃないけど、ふつうのみんなよりずっと長生きだから、また多分この姿でお姉ちゃんにも会えるよ? だけど、不死のお姉ちゃんにとっての、この時間は私よりずっと軽いものなのかな。」
お姉ちゃんは下を向いて、一度息を吐き出した後、改めて私の目を覗いてきた。
「私のためじゃなく……、ソフィア自身がそうしたいのなら止めないわ。よく考えたら私が不死だと言っても、これまで生きている時間は私よりずっとあなたは大人なんだしね?」
お姉ちゃんは本当に優しい。きっと本物の「聖女」とはこういう人のことを指す言葉なんだ。
「ありがとう。シーラお姉ちゃんは、お姉ちゃんの幸せのために生きて。私も自分の生きる道を自分で見つけてみせる。そうしたら、きっとどこかで私たちの道は交差すると思うんだ」
お姉ちゃんは少しの間、私の顔を見つめた後にそれ以上なにも言わなかった。
ただ、眩しいくらいの笑顔を向けてくれた。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
時の流れが神の領域に至っている……。
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第69話 旅路への応援コメント
武緒さつき♀ギブアップしたので帰ってきた七星剣先生にバトンタッチです。
著者 七星剣 蓮
第69話 時の旅路
一人で、王都ハミシバを出てから私は隣りの国でこっそり荷馬車を降りた。予め、貯めていた金貨をアメシストさんに渡していて、それを馭者さんが預かってくれていた。もちろん、この危ない仕事を請け負ってくれた分のお代を差し引いてだ。
それからは宿を転々としながら、また別の国へと移っていった。王宮の追っ手が来るかもしれない、という恐怖と、王都ハミシバから離れすぎるとドリゼラ姉さんやアメシストさんたちと連絡が付かない、という不安との葛藤に苛まれた。
だけど、私は安全を最優先にして王都ハミシバから距離を置くことを選んだ。一人旅は楽ではなかったけど、決して辛いものでもなかった。これが二人だったら早々に心労で心が折れていたかもしれない。
100年の月日が流れた。
王都ハミシバの首都名すらほとんど聞かない遠くの国へとやってきた。
悪魔の呪いはドリゼラ姉さんだけではなくワタシにも及んでいるようだ、ワタシも100歳をはるかに超えても歳をとることもなく17歳の姿を維持していた。
そこで私は周囲の人にバレないように転々と小さな空き家を見つけて一人暮らすることにしている。
昔天書の写本をした経験を生かして、経営コンサルタントのようなことをしながら、生計を立てて、時々王立図書館の情報がないかを探ったりもした。
ドリゼラ姉さんも歳を取らないのだから多分もう楽園天国に移されてまた新しい何人もの王妃がご写本を継いでいるのだろうな。
◇◇◇
首都ハミシバから遠く離れた国に留まるようになって、300年以上の月日が流れた。
50年に一度ずつくらいの頻度でチャーミング王子(のような人)が現れて各地の美しいと評判の娘を王妃に迎えている、まるで人形のような顔のチャーミング王子があの悪魔なのかどうかはわからないが、シンデレラはあの錠前オタクのチャーミング王だと思っている。
私以外の誰でもよかったんだな、彼がかつて「素敵な王子様」だったと言っても笑い話にもならなそうだ。
今でもきっと、想像も及ばないくらいの膨大な魔力をもっていると思うのだけど、あえてそれと気付くような行動を民衆の前ではしなかった。とても頭がよくて、周りにいる人に合わせて、不自然に見えないよう振るまっているんだと思う。
チャーミング王子、王と話して気付いたのは、おそらく彼は成長の「時」がおそらく1000年単位くらい緩やかということだ。ほんの少しずつだけど身長が伸びたり、身体が大人になっている自覚はあるみたい昔そんなことを話していた、彼が人間だと思っていた少女時代には冗談だと思っていたけど。
チャーミング王が王妃を何人も迎えていくにつれて私は、楽園天国の中にいる人と連絡を取る手段を探すようになっていた。ドリゼラ姉さんも必ずいるだろうし。目立ったことをするには、まだ過ぎた時間が「短すぎる」と思ったけど、気にしないではいられなかった。
チャーミング王にシンデレラの話をしても覚えてないだろうな。
王妃になって楽園天国にいるだろうドリゼラ姉さんにも会いたいなあ。
ドリゼラ姉さん、約束したもんね? 私たち仲良し姉妹だって、ずっと一緒だって……。
ワタシにも悪魔チャーミング王の呪いで不死になっているとは知らないだろうけど、でも気持ちは変わらないからね?
1000年かかっても絶対に会いに行くよ。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
時の進み方がヤバい……。
第68話 別離への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第68話 別離
王立図書館に私たちは辿り着いた。ここには天書の智慧を求める一般の人もたくさんいる。すごい勢いで扉を開けて、駆け込んできた私たちは中にいた一般の人たちの注目の的になった。
「ドリゼラ姉さん、おろしてて?」
シーラちゃんは、私がおぶってきた手をぶんぶんと上下に揺すった。手の力を抜くと、すり抜けるように彼女は背中からずり落ちた。
シーラちゃんは走る私たちを追わずにその場で立ち止まった。最後尾にいたダークが声をかけている。
「王妃シンデレラすぐに追っ手が来るぞ?」
「ワタシに任せろって言ったろ? 王妃様なめんなよ?」
私も少し距離を置いたところで思わず立ち止まってしまう。そして、考えるより先に叫んでいた。
「シーラちゃんっ!!」
私の方を向いたシーラちゃんは笑ってウインクをした。その表情は、初めて出会って別れた際に見せてくれたものと同じだ。
「ドリゼラ・トレメイン!叫ばせてはダメだ!いまはお前が王妃なんだぞ。!?」
私のとこまで来たダークが強く手を引く。
「シーラちゃん、ごめん。王妃に選ばれたのはワタシなの、『お飾り』かもしれないけど、ワタシはみんなが憧れる王妃様になりたいんだ」
ドリゼラ姉さん、今、この状況でなに言ってるの? 追っ手の人が扉をくぐってもうそこまで来ている。なんで立ち止まってるの!?
「ワタシは王妃シンデレラ、ここに集まっている皆さま! どうかワタシの話を聞いて下さい!」
ドリゼラ姉さんの声が王立図書館に響き渡る。今、この瞬間に彼女は「王妃」へと変わったんだ。ここにいたすべての人の視線が、彼女一点に集中した。
追っ手の親衛隊がドリゼラ姉さんを捉えようとしている。けど、それを止めたのは名前も知らない王立図書館にいた誰か……。きっと、たまたまここに来ていただけの人。その人に続くように、王妃シンデレラ様の周りに人が集まってくる。
「なるほどな、大勢の前で呼びかければ人々は王妃の味方をする。内閣が王妃をどう思っていようとも、この国の人間にとって王妃は、象徴であり、憧れの存在なんだからな」
私を引っ張るダークがそう言った。
「シーラ様、急ぎましょう!」
アメシストさんの声が響いた。そうだ、私が立ち止まったらいけないんだ。ドリゼラ姉さんならワタシより王妃やるの大丈夫よね?
ワタシは自由になるわ。
◇◇◇
王宮を出てからは早かった。
外には、ミッドレイ商会の荷馬車が待っていた。私たちはその荷台へと潜り込んだ。
「この荷馬車は、この国でも数少ない他国との交易に使われているものです。常日頃行き来をしておりますから、検問もほとんどなく外へと出られます。ですが、私たちの情報が門の衛兵に伝わるまで……、の話です」
陽の光がほとんど入らない荷台の中でアメシストさんは諭すような口調でそう言った。
「馭者にはある程度の事情は伝えてある。隣りの国までは難なくいけるはずだ」
続いてグレイもそう言うと、2人揃って私に背を向けた。
「待って! アメシストさんもダークもどこへ行くの!?」
アメシストさんは背を向けたまま、顔だけこちらに向けて返事をした。その横顔に、荷台の隙間からかすかに漏れた光が射しこんでいる。
「お話したように、私にはドリゼラ様を見届ける責任がありますから」
彼女はそれだけ言うと、先に荷台を降りていった。残ったダークがこちらに歩み寄って来る。
「王妃シンデレラはもうドリゼラ様なんだ、そのためにはここに残る人間が必要だろう?」
なにこれ? 外へ出るのは私だけなの?
「王妃入れ替わりの秘密を守ってくれ、そして、王妃となったドリゼラやアメシストあとは両親のことも心配するな。残った人間で必ず守る」
私の不安をすべて見透かしたようにダークは言った。
私の目の前でいきなり人を刺しだと聞いた、でもそれはドリゼラ姉さんを守るためで、その後は優しく介抱してくれて……、だけど、その後は嫌味を言ったりデリカシーが無かったり……、彼のことはなんだかよくわからない。
「ダークは……、やっぱり優しい人なのかしら?」
「さあな? とにかくこっちは任せろ」
その言葉を最後に彼もまた、背を向けて荷台から降りていった。
追いかけたい衝動に駆られる。だけど、ここで出ていったら、全部意味が無くなっちゃう。私は荷台の隅っこで大きな布を被って荷物に紛れた。
ほどなくして、荷台が揺れて荷馬車が動き始めた。私は目を瞑って頭の中に、身代わりとなったドリゼラ姉さんやアメシストさん、ダーク……、みんなの顔と言葉が繰り返し過ぎってくる。
『――ドリゼラ姉さんとなら絶対うまくやれると思ってるよ! だけど、ダメになってもドリゼラ姉さんとならワタシは納得できると思うんだ』
街を見下ろせる高台でドリゼラ姉さんに言った台詞だ。今頃になって私は気付いた。私は同じように思って欲しかったんだと……。それはきっと、「ダメになってる」かはわからないけど、最初から一緒に逃げるつもりはなかったからだ。
私を逃がして、自分は王妃としてこの国に残る……、ドリゼラ姉さんは最初からそのつもりでいたんだ。
私はそれで納得できる? ううん、全然納得できないよ、ドリゼラ姉さん。
だから……、絶対もう一度会おうね?
そのときは思いっ切りギタギタに引っぱたいてやるんだから!
作者からの返信
コメントありがとうございます!
入り代わってしまった……。
第67話 接触への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第67話 逃走
「ドリゼラ様が宮殿の奥の見取り図を描いてくれたでしょう? とても助かりました」
たしかに私はここの見取り図を彼女に渡していた。けど、シーラちゃんの記憶を頼りに私が描いたもので、わからないところも多くて心配だった。それにここまで入ってくるには警備とかのいろいろ邪魔がありそうだけど?
「王宮は組織が大きくなり過ぎて、教育が行き届いていないのではないですか? ずっと以前に王宮から離れた私なんかの適当な命令に、表の警備は騙されてくれましたよ?」
マッツオ様は険しい顔でアメシストさんを睨んでいる。そして、今ここでようやく最初に彼女に出会ったときの違和感の正体がわかった。
「家出娘が……、今まで一体なにをしていた? アメシスト!」
アメシストさんの面影は、どことなくマッツオ様に似ていたんだわ。まさか親子だったなんて……。
「『なにをしていた?』ですって? アクアを使ってこちらの動向を探っていた癖によくそんなこと言えるわね? まさか彼女が最初から私たちを探るために送り込まれた者とは思っていなかった……。ですが、私の顔を見て捉えようとする人間がいないところを見ると、一人娘が反内閣王政廃止勢力いるとは言ってなかったようですね?」
侍女のアクア、やっぱり彼女が反内閣王政廃止勢力の間者であり、同時に内閣側の内通者だったのね。消去法で彼女くらいしかいないと思っていた。
「親不孝者めが……、この私にどれだけ恥をかかせるつもりだ?」
「官房長……、お父様が他国との貿易の品を横流しして私腹を肥やしていると知らなければ、私が内閣に疑いをもつこともなかったと思います」
アメシストさんが見せてくれた舶来品ってまさか官房長の物だったの?
「なるほどな、ドリゼラ・トレメインを唆してこんな真似をさせたのはお前の仕業だったわけか?」
「今の王立図書館は、天書の智慧を一部の人間が利するように使用しています。そんなものを守ろうとするくらいなら、私は彼女たちの意思を尊重したいと思います」
私がアメシストさんの方に目をやると、彼女はまるで顔に陽が射したような仕草をして見せた。一度、それで連れ去られているからわかる。私は咄嗟に半歩前にいるシーラちゃんの顔を覆うように掌を思い切り開いて前に出した。
「「「うわっ!!」」」
男の短い悲鳴がいつくか重なって聞こえた。私の視界は真っ暗闇からゆっくりと光を取り戻す。目の前には、なにかに怯えるように体を丸めた親衛隊とマッツオ様の姿があった。
アメシストさんの仕草で、きっと私もくらった視界が真っ白になる「なにか」を起こすんだと思った。その瞬間は目を瞑っていたからよくわからないけど、さっきの悲鳴からきっと鋭い光がこの場を襲ったんだと思う。
私の手だけではその目を光から守れなかったみたいで、シーラちゃんも身を丸めてうずくまるような姿勢になっていた。
アメシストさんが出口側の廊下を指差している。私はシーラちゃんを改めておぶってそっちを目指して走った。
アメシストさんと並んだところで後ろにダークが隠れていたことに気付いた。
「いっ、今なにをしたんですかっ!?」
「閃光弾です、ダークが少しですが王宮の武器庫から拝借したんです!」
私が連れ去られた時も、先端技術を使っていたのね? MCバトルの時といい、海外の技術が禁忌の国にいるのに案外遭遇率高いわね?
「そんなに多くは持ってきてない、閃光弾の効果は長くないが、なんとかこの隙に出口まで駆け抜けるぞ!」
アメシストさんが先導して、続いて私はシーラちゃんを背負って走っている。追っ手を気にしながらダークが最後尾を走っていた。シーラちゃんは何度も瞬きをしながら視界を確認しているようだった。
「ドリゼラ様に言われてまさかとは思いましたが……、本当に国王が悪魔で、天書は偽造、ここまでひどいとは思いませんでした」
「私も急に言われたら信じられなかったかもしれませんが、シーラちゃんがそう言ったのと皆さんから聞いていたお話で信じられたんです!」
「シッ、シーラちゃん?」
「えっと! 王妃シンデレラ様のことです!」
「つまらん話をしている余裕はないぞ? 追っ手が来ている」
私たちの会話にダークの冷静な声が割り込んでくる。
唖然とした表情をしたり、驚いたりしている司書や職員といった王宮関係者を後目に私たちは、いくつも扉を開けて走っていく。
「このままだと出口までに追い付かれるぞ?」
私たちは、ロコちゃんを背負って走っている。速さでで劣ってしまうのは仕方ない。
「しゃーねぇな! 王立図書館ホールまでいけたらワタシに策があるから任せてよ!」
シーラちゃんに策? 私はそんなの聞いてないけど頼っていいのよね?
私がちらりとアメシストさんの顔を見ると、なんか不思議なものを見つめるような表情でしーらちゃんを見ていた。
「おっ、思っていた以上に個性的な方なのですね、シーラ様は」
「おい! ぺらぺら話してるほど余裕はないぞ!? 次の扉を抜けたら王立図書館に出る。それでなんとかなるんだな? 王妃シンデレラ!」
「任せなよ! ここまで足引っ張てんだから挽回してやんよ!」
後ろには追っ手の親衛隊とマッツオ様が迫っていた。次の扉くらいまではなんとかなりそう。けど、その先はわかんない! ホントに任せるよ? シーラちゃん!?
作者からの返信
コメントありがとうございます!
閃光弾は妙にリアル(笑)。
第66話 人間への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第66話 人間
「そこまでです。シーラ様……、そしてドリゼラ・トレメイン」
扉を開けた先に待っていたのは、官房長のマッツオ様と親衛隊と思しき男性が4人。天書の存在を考慮すると、この宮殿の中でもよほど深部にいる人でないとここには来れないのだと思う。だから、とんでもない人数に囲まれるとかはないと思っていた。
マッツオ様入れて5人かぁ。私、力は人より何倍も強いけど、戦えるわけじゃないからね……。不意打ちならなんとかなるけど。
「『ご写本の間』で破裂音がしたと聞いてやって来たが、とんでもないことを仕出かそうとしているな?」
――破裂音? はいはい、私のビンタですね。思いっきりやり過ぎたわね? もうちょっと加減したらよかったわ。自らピンチを招いてしまったわね、ドリゼラ・トレメイン。
すぐに組み付いてこないところを見ると、私の力を知ってる人が混ざってるのかしら。申し訳ないけど、吹っ飛ばした方のお顔は覚えていないのよ。
4人の男たちの動きを注視していると、シーラちゃんが私から半歩くらい前へ出た。
「官房長!国王は『悪魔』じゃんか? 王国ははひとりの悪魔王の助言なんかにずっと頼ってきたのかよ?」
シーラちゃんの言葉にマッツオ様は少しの間、沈黙をしていた。だけど、一度目を瞑った後に話始めた。
「シーラ様、あなたは本当にチャーミング国王が悪魔だとお思いですか?」
彼は地下の作業場を指差した。
「はぁ? どっからどう見ても悪魔だろうが、本人もそう言っていたんだ!?」
マッツオ様は、2度ほど小さく首を横に振った。
「この国の……、王国の歴史を調べていたシーラ様ならご存知でしょう? 今の王室がこの国の実権を握ってからもう1000年以上経っております。そして、その頃からずっとチャーミング王様はいらっしゃったわけではありませんよ?」
「だからなんだってんだよ?わけわかんないだけじゃんよ!?」
「シーラ様にとってはそうかもしれません。ですが……、他の誰もがそう思うでしょうか? 老いもし、普通に死ぬ彼をの『悪魔』と果たして思えるでしょうか?」
「ワタシはご写本の間で普通に天書の智慧をもらった!少なくともチャーミング王は悪魔じゃん。」
シーラちゃんの語気は強い。怒ってるんだ。チャーミング王様を悪魔じゃないと言われたことに。
「言っていいことと悪いことがありますよ、チャーミング国王はまごうことなき「人間」であり、『悪魔』などではありません。あなたはあろうことか、ご自分の夫を「悪魔」だなどと戯言を言っているのですよ。
繰り返しますがチャーミング王は人間です、悪魔などではありません。」
内閣としては『悪魔』が国を治めているなど認めるわけにはいかないのだろう。
「官房長、チャーミング王について知ってることを話せよ? 内容によっては信じてやってもいい」
シーラちゃんは心にもないことを口にしている。私も、ここにいる誰もがそれに気付いたはずだ。
「シーラ様、今のあなたが交渉できる立場にあるとお思いですか? ――と言いたいところですが、できれば穏便にことを済ませたいですので、話して差し上げましょう」
きっとマッツオ様は時間稼ぎをしたいんだわ。加勢を呼んでるのかしら? シーラちゃんにはなにか狙いがあるの? 私には残念ながらわからない。そんな作戦考えていないもの。
「とても簡単な話ですよ。王国を設立した私たちの祖先は、天書をしたためて智慧を後世に伝えた、その著者の血筋に当たるチャーミング王は妻となるものにその、写本を行わせ、天書の智慧を、周人に広げる、天書に伝えられるありとあらゆる智慧、あらゆることに関する情報を民草に読み聞かせ余ただただ『天書の智慧』の素晴らしさだけ興味を持つように」に調教してきたのです」
マッツオ様は言った。私たちが鍵を開けた「ご写本の間」の隣の作業場、あそこでは今でもチャーミング王が錠前オタク全開で暮らしている、王国のもつ鍵の情報を延々と……。何人かが交代で、ありとあらゆる錠前の知識と贅沢なお世話と一緒にだ。
とんでもない道楽、王としてバレたら国民から糾弾されるだろうが、隣で王妃がご写本を行うことでその道楽が隠されて王てしての威厳を保つことができる。
「最初は『ご写本王妃』など存在せず、ただ、錠前にのめり込むだけだった。他国の錠前の、技術情報を含め、あらゆる情報をもってオタクパワー全開だったが、国民の批判が高まるにつれ、それを、かわすために「ご写本王妃」を置いた、それが今日の王妃というわけだ」
膨大な智慧を書き込まれた天書の答えは、政治的判断から些細な悩み事まで解決していった。
その存在をバックに「天書の智慧」として据えて、妻となる女性を「ご写本王妃」として祀り上げる、こうして王宮は王の道楽を隠しながら威厳を保っていたのである。とマッツオ様は語った。
「いつしか天書は、別の偽天書を用意して王の都合の良い状態を維持するため、偽天書が与える国民への情報を流すようになった。シーラ様? あなたもそうして選ばれたのです」
「王宮の人間がこれまでどんな不正をしてきたかしんないけどさ、きっとチャーミング王様は自分を助けてくれる、鍵を全て開けてくれる人を探していたんだ! オタクから抜け出すきっかけを、途方もない年月をずっとだ……」
「まだチャーミング王が悪魔だという妄想を?そんなことがあるとは思えませんが? 何度も言いますが、チャーミング王は人間です、悪魔ではありません。」
あくまでチャーミング王は人間だと言い張るつもりだ。
コンサドーレ様といい、この人たちどうして涼しい顔でそんなことが言えるの? どうかしてるわよ、絶対。
「チャーミング王はたしかに『鍵を開けて欲しい』って言った! それが願いなんだよ! 国王様の願いだけ聞けないなんて不公平だろ!?」
「冷静になって下さい。仮にチャーミングが悪魔だとしても、です。それを隠し通すことで国民は救われるのです。現実にそうやってこの国は栄えてきました。チャーミング王の威厳を失えば、この国は滅びてしまうかもしれません」
「それが本当に……、国民のことを想ってだけなら王政廃止も一考に値すると思うわ!」
廊下の向こう、出口側の方から別の声が響いてきた。まったく予想していなかったけど、聞き覚えのある声だ。足音を軽く響かせながらこちらに近付いてくる。
「けど、違うでしょう!? 偽天書様を利用して国民を縛って、内閣の一部の人間、つまりあなた方が甘い汁を吸ってるだけじゃない!?」
どうやってここまで入って来たのかわからない。だけど、間違いなく現れたのはアメシストさんだった。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
悪魔の登場に戸惑う世界……。
第65話 間者への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第65話 間者
決して疑ってたわけじゃない。それでも、実際この目で見ると驚きを隠せなかった。宮殿の地下でせっせと錠前をいじるチャーミング王、部屋の中に鎖でつながれている数々の錠前、短く刈られた髪、よれよれにくたびれた作業服、でっぷりとした体……、ここで「生きてる」というより、「活き活きしている」んだと感じた。
彼の目に私たちはどう映ったんだろう?
同じ顔した王妃が2人、目の前に現れてびっくりしたかな?
彼は驚きを発しなかった。何もかも知っているのだろう、悪魔?だとも言ってたけど、その表情は悪魔の鍵の解錠を求めていると感じた。シーラちゃんの話の通りなら一体どれだけの期間ここでせっせと作業していたというの?
「むんっ!」
身体に力を入れてみる、無限の寿命を与えられたというが、まだ実感はない。
「どうだね、寿命がなくなった実感というものは。」
彼女は鍵と壁を繋ぐ鎖についた悪魔の鍵を次々と開けてしまう。シーラちゃんが準備のいい子でよかった。手袋がないとさすがに手が錆だらけになる。
鍵前は思っていたよりずっと簡単に外れた。時の流れによる風化で弱くなっていたのかもしれないし、古い時代のものなら構造も簡単なのかもしれない。
ここにいる彼はそれと一緒か、それ以上の時間をここで過ごしていたんだ。
「悪ぃけどドリゼラ姉さん、あ、しまった!」
シンデレラはうっかりと「入れ替わり」をバラしてしまった。
しかしチャーミング王?悪魔?は特に何も言わなかった。
きっと、姉妹のどちらでもほとんど気にしていないんじゃないかな。当たり前だ。鍵さえ開けられれば悪魔にとってはどちらでもいいのだ。ずっとこんな狭い部屋にいて錠前をいじるオタク悪魔だ、それでも永遠の命をあたえてくるたんだ。私は無意識に彼を抱きしめていた。
シーラちゃんはさっき投げ捨てていたウィンプルを拾ってドリゼラ姉さんの頭に被せた。
二人は悪魔に別れを告げ、作業場から出る。
「そのにやけた顔はちょっと目立つからね? ここを出たらドリゼラ姉さんが王妃だね……」
それからシーラちゃんは私に目をやると、にこりと笑ってこう言った。
「一応、服はこのままでいっか、こっから先は『シーラ様』なんだから。」
「さすがにいきなりは。」
「そしたら交換すっよ。」
うーん……、どっちでもいいような気もするけど、躊躇なく彼女が服を脱ぎ始めたのでそれに従うことにした。もうちょっと恥じらった方がいいと思うんだけどなあ……。
着替えて、職員の姿になった私は元王妃のシーラちゃんをおんぶした。これまでの重積から解放され、粗暴なシーラちゃんはなりを潜めていた。そして、背丈は私と同じなのに……、まるで中身が詰まっていないみたい。
「やっぱワタシ歩こうか?ドリゼラ姉さん、重くね。?」
「大丈夫よ。シーラちゃんお疲れだし普通の人じゃこの階段上がるだけでバテちゃうからね? 私に任せて!」
私は背中の彼女を軽く揺すって位置を整えた。
「えっーと、まだシーラちゃん、でいいのかしら? シーラちゃん! 一気に駆け抜けるからね!」
部屋を出て、階段に差し掛かったところで気絶している(多分死んでいる)コンサドーレ様が目に入った。
とてもいい人だと思っていた。いいえ、きっと私が偽天書について深く知ろうとしなかったら、いい人のままだったんだと思う。
けど、アメシストさんたちに聞いた話や、シーラちゃんの言ってたことを含めて考えると、この人はきっと「反内閣王政廃止勢力」の人を見つけて潰すために私を利用したんだわ。
アメシストさんは、王宮内に間者がいると言った。その人が王妃様のご公務の予定とか情報を流して、王妃様誘拐は実行された。だけど、それは反内王政廃止勢力の中心人物、カノンさんを失う結果になってしまっている。
最初は深く考えなかったけど、反内閣王政廃止勢力の人たちはずっと以前から活動していて、王妃様と接触する機会を窺っていたみたいだ。それを実行したら、実は影武者の私でしたって……、彼らにしてみたら運が悪すぎるし、内閣側からしたら運が良すぎるのよね?
他にも、私がアメシストさんたちの話を聞いて内閣に疑いをもった時、それを解消するかのようにコンサドーレ様は楽園天国へと連れて行ってくれた。私の疑いはキレイさっぱり無くなったんだ。
めぐり合わせ……、と言ったらそこまでだけど、この「タイミングの良さ」に不自然さを感じた。そして、アメシストさんの間者の話を聞いたとき、ふと思った。
それが「逆」だったらどうだろうって……。
アメシストさんが反内閣王政廃止勢力側の間者と思っている人が、そう見せかけて内閣側の内通者だったら?
情報を流しているフリをして、罠にはめているとしたらいろいろと辻褄が合ってくる。影武者の私を襲わせて、反内閣王政廃止勢力を潰す名目をつくったりできる。アメシストさんたちが私を味方に付けようとしていると知っていたら、それを遠ざけることもできる。悪魔ならそれくらいやりかねないわ。
コンサドーレ様はきっとその「間者」のことを知っていた。ひょっとしたら仕向けた張本人かもしれないわ。ご公務の調整をしているんだから、あえて警備を手薄にするのもわけないでしょうからね。
涼しい顔してやってくれたわね、ホント。
内通者の目星も付いている。影武者について知っている人自体が限られているから、絞り込むのは簡単だわ。けど……、それはもうどうだっていい。
私……、いいえ、シンデレラはもうここを出て行くんだから!
シーラちゃんを背負って階段を駆け上る。彼女を背負ってなお、足は私の方がシーラちゃんより速いようだ。彼女の荒い息がこだましていた。お疲れ具合、ちょっと大変そうだけど、今はゆっくりしてられないからシーラちゃんを背負いながらここの出口を目指す。
なんとか一番上まで辿り着いた。ここの扉を抜けた先が問題だ。誰にも見つからずに外までいけるかな? 私1人なら窓ぶち破ってでも外へ逃げるけど、2人じゃそうもいかないからね。
シーラちゃんが落ち着くのを待ってから、意を決して扉を開けた。
「そこまでです。シーラ様……、そしてドリゼラ・トレメイン。」
作者からの返信
コメントありがとうございます!
デ……デブなのか!?
編集済
第64話 正体への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第64話 黒幕
扉の向こうに「彼」はいた。
立派な玉座に座っていたけど、背はワタシと同じくらいに見えた。王宮の騎士みたいに髪は刈り込まれている。汚くはないけどくたびれている黄ばんだ作業服を着た、見覚えのある姿がそこにはあった。
「チャーミング陛下⁈」
「やあ、シンデレラ、君なら必ず謎を解き、コンサドーレを出し抜き、ワタシの作った悪魔の鍵を開けてくれると信じていたよ。」
顔はどこからどう見ても「国王陛下」だ。ただ、作業服姿をしている彼は国王には見えなかったが、まごうことなき錠前オタクの国王陛下だった。
◇◇◇
ドリゼラ姉さんが連れ去られたと知った時、ワタシは天書の智慧を頼った。ワタシの問い掛けに答えてくれた天書の記述だけど、その時疑問に思ったことがある。
なんていうか、「天書」ってなんでもお見通しで智慧をくれると思ってたけど、その記述は勉強を教えてくれる「教科書」みたいだった。
思い切って天書の著者は?って項目探してけど見当たらない。
それから、ワタシはちょくちょく天書の外れのほうの記述を読むようになった。怪しまれないように、毎日ご写本の途中でちょっとだけ別ページをめくって知ろうとした。
他にも歴代の王妃様、王国の歴史を調べて、天書の著者の正体を探った。
過去の王妃様にはまったく共通点がなかった。
最初はそんなもんか、と思っていたけど、後から別の発想が浮かんできた。「共通点がない」のに理由があるんじゃないかって……。
天書そのものからはなにも教えてくれない。ただ、知りたい智慧には応えてくれる。そして、ワタシはある日、小さな羊皮紙に書かれた内容の意味を知ることになる。
「鍵を開けて欲しいの?」
天書は「鍵を開けよ」と書いてあった。
天書の著者いや、偽天書の著者は、この鍵を開けることができる王妃を待っていたんじゃないかな? だからばらばらの女性を「王妃」として選び続けたんじゃないの?
普通に考えるとおかしいところはたくさんある。天書の著者が普通の人間なら、何歳なんだよって話になるし、ずっとここにいるんならなんで王妃を選べるんだよって話にもなる。
だけど、ドリゼラ姉さんの居場所について時の答えをワタシは思い出した。
天書の智慧ってひょっとして、この王宮にある会員の情報や日々のお悩み事といったあらゆる情報をもっているんじゃない?
何年生きてて何歳かわかんないけど、わけわかんないくらい膨大な情報の蓄積から「最適解」を導ける人なんじゃないかなって……?
でも今回は違った。
おそらく錠前オタクの国王が天書を偽造して王妃に開けさせたかった、つまり趣味の錠前に興味を持ってもらいたかっただけの、それだけのことなのかな?
王妃が死ななくなることとの関係は?
天書の智慧でもっているこの国。
天書の偽造って国民に対する裏切りよね。
真の天書の智慧ならそれでいい。だけど、「偽天書」ってことは、おかしなことやらされてるんだよね?
この国のみんなのお悩みを解決し続けた天書の智慧なのに、その天書を偽造なんて理不尽だよね? ワタシが王妃に選ばれた理由がこれなら怒らなきゃいけない。
お部屋でドリゼラ姉さんとふたりきりのとき、思い切ってこの話をしてみた。
錠前部屋に辿り着くにしても、ワタシ1人で、この頭じゃどうしていいかわかんない。ワタシが力を借りれるとしたら彼女しかいなかった。
そして、ドリゼラ姉さんがもしこの話を信じてくれなかったり、協力できないって言われても……、ドリゼラ姉さんが無理だったら誰だって無理だと思えるんだ。
そしてドリゼラ姉さんはワタシの期待を裏切らなかった。
偽天書の著者が、多分鍵を開けてもらいたがっている、それを実現してあげたい……、こんな話をあっさり信じてくれて知恵を絞ってスキルも使ってくれた。
やっぱ最高だぜ、ドリゼラ姉さん。
ドリゼラ姉さんの「宮殿で迷子作戦」のおかげで、偽天書の著者が待っていると思う場所へ続く「道」だけはわかった。元々は隙を見て侵入しようて話してたんだけど、やっぱり警備がきついのなんの。
結局、いろいろと考えて偽天書の著者の居場所と思われる場所の警備が一番緩むのは、「ご写本」のときだとわかった。そりゃ王妃が話聞いてんだから、逃げ出すわけないもんね?
――と、考えた末に本日、開錠作戦を実行に移したわけ。
ドリゼラ姉さんの殺人ビンタがコンサドーレに決まるとは思わなかったけどね……。
「チャーミング国王陛下!鍵を開けた私シンデレラに永遠の寿命をいただけるのですよね。」
突然、ドリゼラ姉さんがワタシの「本物の」身代わりに進み出た。
「よかろう、シンデレラよ、我、八星魔王オクタグラム筆頭、原初の悪魔ルージュの名において永遠の命を授ける。」
こうして妹になりすまして王妃の座におさまろうとして失敗した「なりそこない王妃」ドリゼラは、二度目のなりすましでは大成功し、リベンジを果たしたのである。
もちろんこれは妹のため、ということにしておこう。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
終盤にかけて急展開きた!?
第63話 全力への応援コメント
武尾さぬきさん。コメント失礼します。
私の稚作に、心の籠ったレビューをありがとうございます(つд⊂)エーン
私の方こそ、毎朝の楽しみでずっと拝読させて頂いていているのに、先にレビューを頂いてしまって恐縮です><
密かに、七星剣 蓮さんのパロディコメントも楽しんでおります笑
パーラ様とノワちゃん(覚醒中)のお話も最終章でございますね。
こちらも大好きでした幸福の花は静かに笑うが幸せに終わって、(1週間程同時連載であったと記憶しておりますが)もう63話(2か月)になるのですね(しみじみ
終の章最後まで毎日の楽しみとして拝読させて頂きます(#^^#)
応援しております。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
ついに最終章まで来ました。サフィールさんをぶっ飛ばしたわけですが、この先になにが待っているのか……。
第63話 全力への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第63話 全力
ご写本の間とよく似た地下へと続く長い階段を私とシーラちゃんは下っていた。湿気が多くてひんやりとした空気が流れている。さっき上がってきた階段と比べると幅は広くて、大人数で行き来したり荷物を運んだりもできると思った。
シーラちゃんと頻繁に顔を合わせるけどお互い無言でいる。声も音も反響が凄そうだからだ。ただ、次の瞬間私たちの短い悲鳴がここをこだましていた。
「なにを企んでいる知りませんが、お戯れは終わりにしましょう? おふたりとも?」
コンサドーレ様が階段の一番下、ご写本の間のように扉があるところの前でこちらを向いて待っていたのだ。
戸惑っている私に反してシーラちゃんは頭のウィンプルを投げ捨てずんずんと彼の元へと向かっていく。
「やるじゃん? ドリゼラ姉さんの神演技に気付いてたのかよ?」
長身のコンサドーレ様はいつも通り表情を変えずにシーラちゃんを見下ろしている。
「確信はありませんでしたが、あなた方がなにか企んでいるのは薄々感づいていました。ですから、逆にどこまで知っているのか確かめたくなりまして」
「ワタシらを出し抜いたつもりかよ?」
「そうですね。ただ、ドリゼラ様も一緒に来ているのは想定外です。親衛隊に捕まえておくよう命じたのですが……」
その方々は裏拳をくらって気絶していると思われます……。
大きな扉を背にして立ち塞がるコンサドーレ様、私たちは揃って彼の顔を見つめた。いいえ、睨みつけていた。
「ここまで来てしまった以上、おふたりにはそれなりの覚悟をしてもらわねばなりません。特に……、本物の王妃ではないドリゼラ様にはです」
彼は一歩こちらに踏み出してきた。同じ分だけシーラちゃんが後ずさる。コンサドーレ様の表情はいつもと変わらない……、けど、とても冷たい顔に見える。
「シーラ様は『王妃』です。監視はこれまでの何倍にもなるでしょうが、今後も役目を果たしてもらう必要があります」
一呼吸おいて彼は私の顔に目を向けた。
「ドリゼラ・トレメイン!まずは大人しくここで捕まりなさい。そうすれば悪いようにはしません。私からキシーダ様にそう進言しましょう」
「捕まったら楽園天国行きですか!?」
私は語気を強めて言った。捕まる意思なんてこれっぽっちもない。
「いろいろご理解されてるようですね? よければ楽園天国でお母様とお姉様と暮らせるよう計らいましょう。ですが、逆らうようなら」
「痛っ! 離せよ、堅物野郎っ!!」
彼はシーラちゃんの手を捻るようにして掴んだ。相変わらずの無表情でだ。
――ありがとう、コンサドーレ様。今のあなたの行いのおかげで、全部吹っ切れたわ!
ちらりと胸元のネックレスに目をやる。今付けているのは白い宝石、ロコちゃんから借りたものだ。以前もらった黒い宝石のネックレスは、先日ロコちゃんと街を眺めた高台の崖から投げ捨てた。
あなたが……、王妃様の身代わりとなった私を利用してるって気付いたから!
「ドリゼラ・トレメイン!抵抗はやめなさい。貴女が他の女性と比べてずいぶんと力自慢なのは存じています……が、所詮は女性の腕力です」
私は迷わず彼の前に踏み込む。
私は、一度だけご写本の智慧から「お悩み書きの返事」すなわち「ご智慧」をもらったことがある。それは、人よりずっと強い『力』の使い方についてだ。
女の子らしく、非力なフリをして生きてもいいと思っていた。どうしたものかと迷った末に、ダメで元々のつもりでご写本の智慧を頼ってみた。
すると、それまでどんなお悩みにも返事はなかったのに、これに限ってすぐに返事が届いたのだ。そこには、こう記されていた。
『迷わず、思う存分その力を振るいなさい』
コンサドーレ様……、残念でした。
そうね、あなたはシーラちゃんの口から私が「ストリート上がり」だって聞いたんでしょう? ご公務の帰りに襲われた時もあっけなく連れ去られたもんね。その程度の「力」って認識なんでしょう?
甘すぎるんだからっ!!
「女の子に手を出す男なんて最っっ低!!」
きっと私の動きは彼の想定よりずっとずっと速かったんだと思う。私の目に映ったのは、特に身構えず、ただ目を大きく見開いた彼の表情。その頬から顎をなぞるように私は平手を振り抜いた。彼の表情が歪んでいくのがスローモーションのようにゆっくりと見えた気がする。
頭が飛んでいくんじゃないかと思うくらいのストリート上がりの全力のビンタ。彼は後ろ向きに三回転半して吹っ飛んだ。「破裂音」と言っても差し支えない轟音が同時に響き渡る。
あっちゃー……、死んでないよね?
コンサドーレ様は受け身もとらずにその場で倒れた。どうやら、手の力は抜けていたみたいでシーラちゃんは解放されていた。
「うっわー……、コンサドーレ死んだんじゃね? 白目むいてんじゃん?」
私は、頬の感触が残る手のひらを見つめていた。とっても痺れているけど……。
「シーラちゃん、手袋持ってない? 素手は私もちょっと痛いわ?」
痛いのは手じゃなくて心かな? 全部振り切ったつもりだったのに自然と涙が出てくる。おかしいなあ?
「ドリゼラ姉さんに今必要なのはハンカチでしょ?」
彼女はハンカチと皮の手袋、両方を差し出してきた。手袋も持ってたのね……。
涙を拭った私は手袋をはめて、次の戦いに挑む。目の前の扉には鍵がかかっている。きっとコンサドーレ様がどこかに鍵を持っているのだろうけど、目を覚まされてもイヤだし、いろいろと面倒になってきた。
うふふ、「面倒」だなんて……、シーラちゃんがどんどん心に浸食してきているみたい。
「こちょガチャ。」
ストリートで会得した扉の錠前を針金一本で解錠するスキル、もう法より正義なのよ、ドリゼラ・トレメイン、ここにきて覚醒したわ。
鍵の開いた扉を前に、私とシーラちゃんはお互いの意思を確認するように目を合わせた。小さく頷いてから、その扉を開けた。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
まさかのピッキング!?
第62話 初動への応援コメント
作者 武緒さつき♀
終章 ふたりの王妃
第62話 初動
私はご写本の間にいた。いつものご神託を聞く時間だ。だけど、今日はある決意をもってここに来ていた。
聖女として人前に立ち続けた私であっても、かつてないほど緊張をしている。静寂が包むこの空間で、気持ちの整理をした後に私はここを飛び出した。
「コンサドーレ! おかしい、この天書は偽物よ!」
扉を出てすぐのところにいた彼は目を見開いて見つめてきた。私の声が階段を反響して上っていく。暗くて薄気味悪い空間に声が吸い込まれていくようだった。
「天書が偽物だというのですか?」
「うん、著者名が違う!本はそっくりだけど著者が八星〜と書かれている、こんなの初めてだよ? これまでは七星〜と書かれていたし、ひょっとして天書、すり替えられている?」
彼は腕を組んで虚空を見つめた後、急に私に顔を近付けてきた。
「まさかと思いますが……、『ドリゼラ様』ではありませんよね?」
――ぎくっ……。
「コンサドーレよ、いくら私だってそこまでの悪ふざけはしないっての? ドリゼラ姉さんにご写本まで身代わり頼めるかっての?」
ご明察です、コンサドーレ様。ドリゼラ・トレメインでございますよ。
ここに来るまでの道中、私は心の中で100回以上多分呟いた。
『今の私はシンデレラ・トレメイン私はシンデレラ・トレメイン私はシンデ……』
コンサドーレ様は、私の胸元のネックレスに目をやった後に軽く首を捻っていた。私の首には白く輝く宝石がぶら下がっている。
「失礼致しました。王妃様の衣装をしてお化粧をしているともはやあなたとドリゼラ様は同一人物なのです」
よしっ! 内心凄まじく動揺してたけど、乗り切ったわ! 世界の劇団から引っ張りだこよ、ドリゼラ・トレメイン!」
「しかし、天書が偽物とは……。なにか引っかかります。私は官房長に急ぎこの件を伝えて参ります」
「私はここで待ってたらいいわけ?」
「申し訳ありませんが私は急ぎますので、目隠ししてのシーラ様と一緒にはいけません。すぐに迎えをここに呼びますのでお待ちいただけますでしょうか?」
彼はもう一言、「おひとり残して申し訳ございません」と付け加えて私に目隠しをした。
「こんなときくらい目隠しどうこう言わなくてもいいと思うけど、コンサドーレはやっぱり堅物過ぎんよね?」
「私どうこうではなくこれは規則なのです。心細いと思いますが、すぐにお部屋までの案内を呼びますからお待ちください」
そう言い残して、彼の階段を駆け上がる音は遠ざかっていった。
大丈夫です。連れ去られたときはこれとは比にならないくらい怖くて心細かったですからね?
「むん!」
私は目隠しを軽く引きちぎり、足音を殺してご写本の間からの階段を上っていった。すると上から、王妃様の親衛隊? と思われる人が2人ほど降りてきた。
「シーラ様、勝手に上って来られては困ります。ここへ至る道はいかに王妃様でも知らせてはいけない規則なのです」
2人の親衛隊さんは、それぞれ私を挟むように左右に分かれて各々で私の腕を掴もうとした。
――ごめんなさいっ!
全力ではないけど、それなりに力を込めた私の裏拳が親衛隊さん2名の顔面に直撃する。さすがに王妃様に殴られるとは思っていなかったのか、まともに命中し、揃って階段を転げ落ちていった。
「本当にごめんなさい、これでもストリート上がりのワルなんです。だけど私もう躊躇わないって決めたんです」
階段を少し上った後に、下の2人が追って来ないことを確認してから駆け上がる。一番上まで来ると、両開きの扉があった。そこを開くと光が差し込んできた。それと同時に聞き慣れた声も飛び込んでくる。
「ドリゼラ姉さん!こっちだよ!」
待っていたのは、シーラちゃん。私に演じる才能があるなら、彼女には変装の才能があるのかもしれない。私が宮殿に入るときに着ている王宮の職員の服に身を包んで私を待ってくれていた。
「コンサドーレの行き先はばっちり確認したよ、着いてきて!」
シーラちゃんの背を追って、大神殿の見知らぬ廊下を駆け抜ける。もう後戻りはできない。私たちはコンサドーレ様の向かった先へと走っていった。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
ストリート上がりのワルは笑う!
第61話 使命への応援コメント
著者 武緒さつき♀
第61話 使命
「シーラちゃんの決意は揺るがないんだね?」
私は目の前の街並みに見つめながら、隣りの彼女に問い掛けた。今、目に映っている街のほとんどの人が天書の智慧を信じ、王妃シンデレラ様を慕っているんだ。
「うん、足りない頭でワタシなりにいっぱい悩んで考えたんだ。けどさ、やっぱり今のまんまはおかしいと思う」
「そうね……。私だってそう思うわ」
シーラちゃんは街の光の反射を受けて神々しいほど輝いて見えた。私、ホントにこの子とそっくりなの? と疑いたくなるほど王妃シンデレラ様の姿は美しかった。この街の人にとって彼女はいつだってこうして光り輝いているんだろうな。
「きっとすんごく大変なことになると思う。この国から出て行かないといけないかなあ? むずかしいことわかんないし、無責任とも思うけどさ……。あれこれ考えてなにもしないのはワタシ、嫌なんだ」
「私たちがうまくやったら、その後は助けてくれる人たちがいるの。ちゃんと全部話した上で協力してくれるって言ってるから安心して?」
「ははっ! ワタシそんなに心配はしてないよ?」
明るい笑顔をこちらに向けてシーラちゃんはそう言った。心配は……してないんだ?
「ワタシだけだったら絶対無理だけどさ、ドリゼラ姉さんが一緒なら……、ふたりだったらなんだってやれる気がするし全然怖くないよ?」
「シーラちゃんは私を過大評価してるわよ? そんなに頼られたらそれこそ責任感じちゃうわ?」
「ドリゼラ姉さんのことはワタシ、この世で一番信頼してるよ!? それにドリゼラ姉さんと一緒なら最悪、失敗してもいいかなっとも思ってるし」
私となら失敗してもいい? ちょっと意外な感じがした。
「なんてーかさ、ドリゼラ姉さんとなら絶対うまくやれると思ってるよ! だけど、ダメになってもドリゼラ姉さんとならワタシは納得できると思うんだ。他人に対してこんなふうに思ったのドリゼラ姉さんが初めてだよ?」
この人とならダメでも納得できる、か……。シーラちゃんてすごいな。人に対してそんなふうに考えたことないかもしれない。だけど、それはとてもとても素敵なことだ。
「ありがとう、シーラちゃん。私もシーラちゃんとだったら絶対うまくいくと思ってる! 失敗なんてさせないわ!」
「うん、どっか別んとこに行くことなってもワタシとドリゼラ姉さんはずっと一緒だからね?」
彼女は左手の小指を差し向けてきた。そういえば、再開した時に仲良し姉妹になる約束をしたっけ……。
その指に私の左手の小指を絡める。お互いにきゅっと力を入れた。お互いに絡み合った指を見つめた後に、街の光景を見下ろした。
「この街の……、いいえ、この国の人たちを天書の智慧はずっと救ってきたんだよね?」
私の問い掛けにロコちゃんは無言で頷く。
「うん、そうだよ。だから……、内閣を倒して偽天書を焼き捨て、天書の本当の著者、七星の賢者様を救ってあげるのがワタシたちの使命なんだ」
第60話 哀愁への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第60話 哀愁
「コンサドーレ? 前に街を見下ろせる高台に連れてってくれたことあったじゃん? 私とドリゼラ姉さんをそこにまた連れてってくれない?」
ワタシがドリゼラ姉さんと会えなくて癇癪起こした時、コンサドーレがご公務の帰りに寄り道して眺めのいいところに連れて行ってくれた。
その時はワタシのご機嫌取りが見え見えだったから素直に喜べなかったけど、今振り返るといいところだったんよね。
「ふむ……、ドリゼラ様がお休みの日でもよければご案内できると思いますが?」
「わーった、ドリゼラ姉さんに話しとく」
キレイな景色だって独りで見てもつまんないもん。「キレイだね?」って言い合える人が一緒にいてほしいんだ。コンサドーレはその辺わかってないんだよね?
ドリゼラ姉さんにその話をしたら即答で「いいよ」と言ってくれた。コンサドーレにもすぐにそれを伝えにいった。
「わかりました。ドリゼラ様がよろしいのでしたら、次のお休み、ご公務の場所をうまく調整しましょう。ドリゼラ様には別で迎えを送るように手配致します」
「さっすがコンサドーレ! けど、ご公務の調整とか急にできたりすんの?」
「お任せを。王妃様にあえてお伝えしておりませんでしたが、地方図書館を回る日程の調整はほとんど私でやっております。寄り道しやすい段取りをしておきますよ」
この男、こういうとこは有能なんだよね。王立図書館の司書でもかなり若いからきっと仕事だけはできるやつなんだろうな。
◇◇◇
ドリゼラ姉さんが休みの日、地方図書館巡りを終えてからワタシとコンサドーレを乗せた馬車は街から少し離れた高台に向かった。天気も良くて、上からキレイな街並みが見下ろせる予感がした。
馬車が止まり、降りたところには、先に着いていたドリゼラ姉さんが待っていた。水色のギャザーセーターに純白のスカート……、初めて出会ったときと同じ格好じゃないかな?
「ドリゼラ姉さん!お待たせー! お休みの日にありがとねー!」
「お疲れ様です、シンデレラ様。今日はお声をかけていただきありがとうございます」
周りにコンサドーレと数人の護衛がいるので、ドリゼラ姉さんはいつも通りかしこまった話し方になっていた。ただ、ワタシと目が合ったとき表情が少し緩んでいた。
「こっから先行ったとこにさ、崖になってるとこあるんだけど、そっから街を見下ろす景色がめちゃんこいいんだよね!?」
小走りでドリゼラ姉さんの手を取って進むと、後ろからコンサドーレと護衛が2人ほどついて来た。
「オラッ! ドリゼラ姉さんと2人にさせろよな! いちいちついてくんなよ!」
護衛の2人は指示を求めるように揃ってコンサドーレの顔を見ている。コンサドーレは腕を組んで考え込んでいた。
「わかりました。ここで見張っていれば近付こうとする者がいてもわかりますからね。ただ、この先は崖になっております。くれぐれもご注意ください」
「わーってるよ、子どもじゃないってんだからさ」
「大丈夫です、コンサドーレ様。私もついておりますから」
ドリゼラ姉さんがフォローするように一言添える。
「そうですね、ドリゼラ様が一緒なら安心ですね」
なんだよ? ワタシ1人なら安心じゃないのかよ?
気を取り直して、ドリゼラ姉さんと高台の天辺まで上った。崖の手前まで来ると、眼前に小さく凝縮された街並みが広がっていた。陽の光を浴びた街は白くキラキラと輝いている。美しい光景にちょっとの間見惚れてしまった。
ふと隣りを見ると、ドリゼラ姉さんも街の光に目を奪われているようだった。ドリゼラ姉さんの目も同じ輝きが映っている。
「どうどう? ドリゼラ姉さん!ここすっごいいい眺めでしょ!?」
「うん、とても綺麗……。私たちの住んでる街ってこんななんだね……」
ワタシたちは無言で同じ街の光景を焼き付けるように見つめていた。
「シーラちゃん、今日はご公務早く終わったんだね?」
前を向いたままノワちゃんが尋ねてきた。
「うん、コンサドーレがうまく調整してくれたみたい。実はあいつご公務の調整ほとんどやってるみたいなんだよね? そんならもうちょっと減らす努力しろっつうの」
「うふふ……、王妃様に来てほしいところはいっぱいあるのよ? 仕方ないわ」
「まあ、必要とされるのは悪い気しないけどね?」
ドリゼラ姉さんがワタシの顔を見つめている。その表情はとても優しくて、ほんの少しだけ哀しそうにも見えた。
ドリゼラ姉さんがちょっとだけ下を向いたと思うと、次の瞬間、急に振りかぶって崖の向こうに何かをを投げ捨てた。
「むーんっ!」
なにか光って見えたけど、なにを放ったかまではわからなかった。目で追えるほど大きいものではなかった。それを聞こうと改めて隣りに目をやるとドリゼラ姉さんは目に涙を浮かべていた。
「ちょっ! えっ!? なになに!? ドリゼラ姉さんどったの!?」
驚いたワタシが声をかけると、ドリゼラ姉さんはにっこり笑って涙を拭った。
「ううん、なんでもないよ? 街の光がちょっぴり目にしみただけ」
その笑顔も……やっぱりちょっとだけ哀しそうに見えた。
第59話 結束への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第59話 結束
「ドリゼラちゃんはじゃりコッペおっきいのにしとくよ!? お連れの方は普通のでいいのかい!?」
ご近所のお店で私は昼食をとっている。同じ席にはアメシストさんとダークもいる。お互いの情報交換は、バザールへ出て行くよりも私の家の近所の方が安全な気がしたからだ。
アメシストさんたちを追ってる人がいたとしてもここなら見かけない顔があればすぐに気付く。それは、万が一私に見張りが付いていたりしてもだ。
王妃様の影武者が公にされていない以上、私の存在自体が宮殿と内閣にとっては大きな秘密の1つなのだ。今まで意識してなかったけど、見張りとかいたとしても全然不思議じゃない。
今いるお店はパン屋さんだけど、店内にいくつかテーブル席が設けてあって食事がとれるようになっている。
私たちのテーブルに芳ばしい匂いの漂う焼きたてのパンを載せたお盆が運ばれてきた。中に明らかに1つ大きいのが混ざっている。
私が迷わず大きいじゃりコッペパンに手を伸ばすと、アメシストさんもダークも唖然とした顔でこちらを見ていた。
「え、えっと違うんです! さっきまで力仕事をしてたから、その……、お腹減ってるんです! 決していつも大きいのを食べてるわけでは」
「ドリゼラ様、たくさん食べるのはよいことだと思います。決して『すごいボリューム』とか思っておりませんから」
アメシストさん、驚くほど心の声が駄々洩れなんですけど、天然ですか?
「あのバイブスを発揮するにはそれなりに食べないといけないのだろう」
「バイブスとかリリックとか言わないでよ、もう!」
ここでカッコつけても、もう手遅れなので遠慮なくいただきます。この見た目からお腹いっぱいにしてくれる感じがたまらないわけなんです。
「ドリゼラちゃんもお連れの方も飲み物はタピオカミルクティーでいいかい!?」
店主のおばちゃんの大きな声が聞こえてくる。私は2人の顔を見やった後に同じく大きな声で返事をした。
「王妃シンデレラに協力してほしいと?」
じゃりコッペパンとタピオカミルクティーをご馳走になった後、私たちはそのままテーブルで声を潜めて話をしていた。パン屋のおばちゃんは私たちの様子を気にも留めずに常連のお客さんと世間話をしている。
「はい、シンデレラ様がなしたいことはアメシストさんたちの目的に近いと思うんです」
「たしかに今のお話が事実で、尚且つ本物の王妃様がこちらの味方をしてくれるのでしたら、目的もほぼ一致しますし、頼もしい限りなのですが……」
「王妃シンデレラ様は信用していいのか?」
ダークがじろりと私の顔に目をやってそう言った。たしかに今の話をシンデレラ様と面識のない2人に信じてもらうのはむずかしいのかもしれない。
「シンデレラ様は私に嘘なんか付きません」
「ドリゼラ様、今だから話せますが私たちは宮殿内に間者を潜ませています。ドリゼラ様を連れ去ったときも、護衛の人数が少ないことを知っていたから実行できたのです」
なんとなく予想はしていたけど、やっぱりそういうことか。間者って誰なんだろう? 王宮で私も顔を合わせている人なのかな? 護衛の人数とかは把握しているのに、王妃が影武者とかは知らなかったのかしら?
「王妃シンデレラ様はその……、破天荒といいますか、なかなか個性的なお方と聞いております。内容が内容ですし、そのまま鵜呑みにしていいのかどうか……」
個性的か、シーラちゃんを貶さないようにうまく形容するのは大変だろうなあ。いい子なんだけどね。
「たしかにお二人にいきなり全部信じてと言ってもむずかしいのはわかっています。ですが、王妃様は天書の写本を行う方です」
ダークは一瞬、虚を突かれたような顔をした。それは、アメシストさんも同じだった。
「ほう……。なかなかおもしろいことを言う」
この2人がたとえ「王政廃止勢力」であっても、天書の記述の叡智の力は知っているはずだ。内閣の意思・意向に関わらず、天書の智慧は現実に人々を導き、国を守ってきた。天書に書かれた言葉なら信じるに足るのではないか?
「ドリゼラ様、これは仮の話です。王妃シンデレラ様を信じるとして、ことを成した後はいかがするおつもりですか?」
「私は……、王妃の座に収まろうと思っています。シンデレラ様はきっともうここにはいたくないと思いますから。母と姉が心配ですしね。その母と姉にはワタシがずっと側に居ようとおもいます。」
少しの間、沈黙が流れた。パン屋のおばちゃんの笑い声がやけに大きく聞こえてくる。
「完全なる入れ替わりならミッドレイ商会を通じてなんとかできると思いますが」
アメシストさんがここまで言ったところでだーが話に割り込んだ。
「ドリゼラ・トレメイン……。最初から妹と入れ替わるつもりで、妹を国外に追放手段として協力を仰いだのではないのか? 王宮の中は自分と王妃シンデレラだけでどうにかするつもりで?」
私は小さく頷いた。
「ダークの言う通りです。ここまで話しましたが、やっぱり間違いの可能性も否定できません。ですが、私と王妃様だけなら間違っていても誤魔化せると思うんです」
「間違いじゃなかったときの……、その先が必要なんですね?」
アメシストさんは少しだけ身を乗り出してきた。力強い目で私を見つめてくる。
「はい、虫のいい話とは承知しています」
彼女たちは一度目を見合わせてお互いの意思を確認するような素振りを見せた。
「わかりました。ドリゼラ様と王妃シンデレラ様でことを成す時機を探して下さい。それに合わせてできる限り支援できるよう手配をします」
そう言ったアメシストさんの表情は笑顔だった。
「ありがとうございます! アメシストさん、それにダークも」
「おおよその目的が一致していると最初に言っていただろう? 虫のいい話とは思わん。こちらにも利があるなら協力できる」
私はテーブルの上で2人に握手を求めた。それぞれの手を固く握り、できる限りの感謝の意を示した。
――あとは私たちだよ? シーラちゃん!
これでワタシは念願の王妃に、シンデレラは国外に逃げて自由になれる。ウィンウィンの関係だねっ!
第58話 決断への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第58話 決断
「ドリゼラ様、宮殿で迷子になるなんて貴女らしくもない。王妃様には侍女をつけていますから、案内を頼めばよいのですよ?」
「ご迷惑おかけ致しました。お腹の調子が悪かったものでして……」
宮殿での「ドリゼラ・トレメイン」の捜索は、頃合いを見てひょっこり私が顔を出したことで解決を見た。
コンサドーレ様を筆頭に宮殿の人には、お手洗いを探して迷子になった、というなんとも間抜けで恥ずかしい設定を貫いた。私自身もすべてを振り切って全力でシーラちゃんを演じ切った。
恥ずかしさの波が怒涛の勢いで押し寄せて、もはや失うものはなくなったわ、ドリゼラ・トレメイン!
――とほほ……。
だけど、私が姿を現したのはシーラちゃんがしっかりと成果を上げたからだ。正確にはまだ「予想」の段階だけど。
おおよその目的を果たしたシーラちゃんはこっそりと宮殿の自室へと戻って来た。そこで王妃の衣装に着替えて、今度は私がこっそりと部屋を抜け出して、適当なところで見つけてもらった。
珍しくコンサドーレ様から軽いお説教をもらった後に、私とシーラちゃんはお部屋で二人きりになった。きっと顔を合わせると思いっきり笑われると思っていたけど、彼女の反応は意外なものだった。
「ドリゼラ姉さん!ワタシ本気で感動しちゃったよ……。マジで女優とかの道目指した方がいいんじゃね?」
「……ありがとうシーラちゃん、私もほんの少しだけど才能の片鱗を感じてしまったわ、――ってそうじゃないでしょ!?」
私は話を本来の真面目な方向へと修正する。シーラちゃん相手だと全部笑い話になっちゃうよ? まあ、それがいいところなんだけどね。
「ドリゼラ姉さんの知恵と神演技のおかげで、チャンスさえあったら確かめるのはできそうなかなぁ?」
彼女はそう言いながら、ベッドに背中から飛び込んだ。
「シーラちゃんは、確かめられたら……、その後どうしたいの?」
ベッドの天蓋を見上げるシーラちゃんに問い掛けた。
彼女がどうしたいのか……、それによっては私も決断をしなければならない。
「うーん、ワタシ頭は終わってるくらい悪いからさ、むずかしいことはよくわかんないんだけど」
「終わってるくらい」か、はさておき、ロちゃんはここで一呼吸置いた。この先の言葉には彼女にとっても相応の決意があってのものなのかもしれない。
「身分も低くて口悪くて取り柄のないワタシが王妃に選ばれた理由って『これ』だと思うんだよね? ううん、――きっと、代々の王妃様も含めてひょっとしたらこの理由で選ばれていたのかも?」
シーラちゃん、あなたは決して頭が悪いなんてことないわよ? ただ、学ぶ機会が他の人よりちょっとだけ少なかっただけじゃないかな?
「だったら、ちゃんと役目は果たしたいんだよね! ようやく王妃様としての自覚が芽生えてきたんだからさ!?」
碧い宝石のような瞳と中に煌めく美しい虹彩、初めて出会ったときと同じ目をしている。不思議と彼女の成したいことは、私が進むべき道のような気もした。
「わかったわ、シーラちゃん……。シーラちゃんの望みを叶えるために、私からもお話しないといけないことがあるの」
言葉にしたら、もう後戻りはできない。そう思った。
第57話 協力への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第9章 ふたりの決断
第57話 協力
「官房長様、大変! ドリゼラ姉さんがいなくなった!」
私はこう叫びながら宮殿の廊下を走っていた。周りにいた侍女や職員たちが落ち着くよう諭してくる。
「シーラ様、落ち着いて下さい。一体何事ですか?」
すかさずコンサドーレ様が私の元へやってきた。他の職員たちと違って表情ひとつ変えていない。
「ドリゼラ姉さんが消えちゃった。お手洗いに行くって私の部屋を出たっきりで全然戻って来ないんだよね?」
「なんと……、侍女に案内させなかったのですか?」
「うーん、と……、なんかめちゃんこ我慢してたんじゃないかな? 大慌てで部屋出て行ったからさ?」
コンサドーレ様は私の顔を一瞥した後、腕組みをして眉間に皺を寄せている。
「女性用のお手洗いは侍女たちに捜させましょう。あと何人か人を集めてきます。宮殿は広いですからね、どこかで道に迷われたのかもしれません」
「私も手伝おっか? 今は休憩時間だからいいでしょ?」
「シーラ様、お部屋を出て行かれたドリゼラ様は王妃のお姿をしていたのですか?」
「うん、たしかまだ着替えてなかったと思う」
「でしたら、念のためお部屋にいて下さい。万が一、影武者の存在を知らない者の前でお二人の姿を見られるといけませんから」
「わーった、ドリゼラ姉さん見つけたら、またお部屋に連れてきてね?」
「かしこまりました。ドリゼラ様に限って外へ出るようなことはないと思いますが、早急に捜しましょう」
ドリゼラ様に限って……、か。シーラ様だったら外に出るって言いたいのかな?――って脱走の前科あるもんね。
私は宮殿のお部屋に戻って、いつものベッドに腰掛けた。一息ついた後に身体中の温度が一気に上昇するのを感じた。鏡を見ると、酔っ払いみたいに顔が真っ赤になっている。
はっ……、恥ずかしい!
人前で王妃様を演じるよりずっと恥ずかしいわ、これ!
自分を王妃シンデレラ様……、いいえ、シーラちゃんと心に言い聞かせて完全になり切ってみた。いざ、やってみると彼女らしい言葉が驚くほどすらすら出てくるもんだ。
だけど、演じるのは恥ずかしいし、ドリゼラが大慌てでお手洗いに行ってるなんて話は、2重で恥ずかしいわ!
それでも、私はやりきったわ。ひょっとしたら女優の才能あるかもしれないわよ、ドリゼラ・トレメイン!
とりあえず、あとは任せたよわ、シーラちゃん!
◆◆◆
ドリゼラ姉さんが演じる「ワタシ」の姿を遠目で見て、ワタシはめちゃんこ驚いていた。
いやいやいや……、マジかよ、ドリゼラ姉さん?あれ、もう完全に「シンデレラ王妃」じゃん?
ワタシは、職員の衣装を着て、いつかのドリゼラ姉さんみたいに前髪で顔の一部を隠してウィンプルで包んだ。
「王妃の姿をしたドリゼラ姉さん」をみんなは捜すはずだ。見慣れない職員がひとり増えてても顔を合わせなければきっと気付かれない。
最悪気付かれたとしても、ドリゼラ姉さんのなりすましの演技含めて、ワタシがそそのかした悪戯ってことにしたらワタシが説教されるくらいで済むはずだ。
ワタシとドリゼラ姉さんが協力してこんな騒ぎを起こしたのは、この王宮のどこかにきっとある「ある部屋」の場所を突き止めたいからだ。そこを探すには、ノワちゃんより王宮を歩き慣れているワタシの方が都合がいいんだ。
そして、「ある場所」は間違っても、道に迷ったドリゼラ姉さんが行きついてはいけない場所。万が一そこに迷い込んでしまう可能性を考えて、そこを確認にいく人がいるはずだ。
そこは多分、官房長とか偉い人が見に行こうとするはず……、というのが、ドリゼラ姉さんの考えた作戦だ。ワタシはそれを追って場所を突き止める。
兵法36計のひとつ打草驚蛇の計だ。
いや、すんごいね、ドリゼラ姉さん。変装して脱走したワタシよりはるかに頭回るわ。正確歪んでなくてホントよかった。
マジであのままいじめられ続けてたら密かに殺されてるわ。
第56話 自覚への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第56話 自覚
「ドリゼラ姉さんはさ、ワタシがおかしなこと言ってるって思ってる?」
シーラちゃんは私の目を食い入るように見つめてきた。
たしかに彼女の話は盗み聞きされていないか確認するだけあって、突拍子もない内容だった。
だけど、私は迷わず返事をした。
「ううん、おかしいなんて思わないよ? 最近びっくりすることばっかりなんだけど、シーラちゃんの話が一番驚いたかも?」
シーラちゃんは茶化したり悪ふざけをすることはあるけど、嘘を付く子じゃない。とても純粋で、不器用なくらい真っ直ぐに人を思いやれるとてもいい子だ。
「やっぱりドリゼラ姉さんはマジで王妃よね? チャーミング王子もワタシを選ぶなんてセンスないよねー? ほとんど同じ顔してんだからドリゼラ姉さん選んだらよかったのに……」
さすがにこれにはカチンときた。ワタシはチャーミング王子に嫁ぐために踵まで切り落としたというのに…でもここは我慢した。
「そんなことないよ? シーラちゃんはとっても優しいもの。以前から王妃シンデレラ様は憧れだったけど、あなたに再会してからからもっと好きになったわ」
心にもないことを喋ってしまった。
シーラちゃんは枕を抱きしめてゴロゴロとベッドで転がり始めた。
「きゃー、照れるなぁ。ドリゼラ姉さん、ワタシにはけっこう直球で話してくるもんなー」
本当はナックルボールですが。
「ワタシには」になにか含みを感じる。
「でも、王妃様ってやっぱり国民の憧れで希望なんだよね。ワタシが実家にいたときもそう思ってたし。ご公務とかマジで面倒だけど、顔見せるだけで喜んでくれる人がいるんならワタシもがんばんないと――って最近は思うんだ」
彼女は急に真剣な顔つきになってそう言った。きちんとしているときは、思わずハッとしてしまうほど「王妃様」の威厳を感じる。
「うふふ、シーラちゃんも王妃様として成長してるのね? ドリ姉も嬉しいですよ?」
「ドリ姉はやめろい! いつものドリゼラ姉さんに戻れ!」
こうしていつも通りふざけた話をしているけど、シーラちゃんの話は私の心をざわつかせていた。
それは、これまで疑問に思っていたいくつかの説明がつきそうだったからだ。
だけど、そんなことってあり得るのかしら?
「ねぇ、シーラちゃん? それってどうにか確かめる方法ないかな?」
「うーん、ワタシ頭めちゃんこ悪いからむずかしいよ? 王立図書館の本に火でも放ってみる?」
なんかすさまじい答えが返ってきた。
「うん……、とりあえず、もう少し穏便な方法を考えようか?」
「うーん、ワタシもドリゼラ姉さんも大事なとこでけっこう目隠しされてるからなぁ、王立図書館の奥ってよくわかんないんだよね?」
そう……、シーラちゃんに聞くまで知らなかったけど、王妃様でもご写本をしに行く「ご写本の間」までの道中は目隠しされているんだ。よくよく考えると、王宮や王立図書館の奥って中の人にも隠したいことだらけなのね。
目隠し……か。
「シーラちゃん! それよ、目隠しだわ!」
うまくいくかわからないけど、私はある作戦を思い付いた。そして、これは私がやるしかない。
とってもカッコ悪いし恥ずかしいと思うけど、我慢するのよ、ドリゼラ・トレメイン!
作者からの返信
コメントありがとうございます!
たまに混ざる重いやりとり……。
編集済
第55話 成り立ちへの応援コメント
作者 武緒さつき♀
第55話 成り立ち
「ドリゼラ・トレメインは、『ミッドレイ商会』を知っているか?」
ダークが尋ねてきた。ミッドレイ商会、この国に住んでいる人なら知らない人はあまりいないんじゃないかな?
米や味噌から武器や衣服に至るまで、いろんなお店を出している名家「ミッドレイ家」の運営する商業組織のことだ。たしか先々代の王妃ナザリア様はミッドレイ家のご出身だったと思う。
「『王政廃止勢力』の後ろ盾はミッドレイ商会だ。――といっても、その中の一部、といった感じだがな」
「ミッドレイ家の方々は、王妃ナザリア様がお家に戻られないことに対して、内閣への不信任決議案提出していました。それゆえ、内閣の、王宮の情報をいろいろ探っていたのです。それが王政廃止勢力の元となりました」
アメシストさんの話だと、ナザリア様からの手紙はミッドレイ家に届いているそうだ。きっと彼女も不死となっていて楽園天国のどこかに住んでいるだと思う。
「ミッドレイ家の力を借りれば、王立図書館内部へ行くのも可能かと思います。もし、ドリゼラ様がお望みなら、楽園天国の情報を提供してくれた者とお伝えすれば喜んで手を貸してくれると思います」
お母さんとアナスタシア姉さんは、私に「偽天書」と言っている。最初の手紙から暗号が仕組まれていたのを鑑みると、楽園天国に入るきっかけと天書が偽物だと思わせたことは同じと考えていいと思う。
だけど、私が下手に王立図書館の閉書庫を漁れば、それこそ母や姉が危険な目に合うのでは……、と考えてしまう。
以前にアメシストさんの話を聞いたとき、天書に書かれていない世界に興味を少しもったのは事実だけど、説明なしに「天書は偽物」と言われても戸惑ってしまう。事実、私は母と姉の手紙の暗号に2年も気付かず、普通にここで過ごしていたんだから。
ダークは、親御さんが元々王宮の関係者で、不可解な死を遂げてしまい、それから内閣に疑問をもつようになったと語っていた。
「あの……、『カノンさん』はどういった方だったんでしょうか?」
王政廃止勢力を掲げる人たちの中心人物、私は少し顔を見た程度だったけど、どんな人なのか気になった。
「カノンは元々ミッドレイ家の運営するお店で用心棒をしていた男なんです。ただ、彼は悩み事をなんでも天書の教えに頼って解決しようとする、この国の人々の生き方そのものに疑問をもっていました。そして、もっと国を開け放つべきだとも考えていました」
アメシストさんは虚空を見つめながら、思い出すように語ってくれた。
「ミッドレイ商会は、この国でも数少ない外の国との交易を一部認められている組織です。外の世界の情報がより多く入ってくる環境にあったのかもしれませんね……」
人々が頼り、内閣の権力の源でもある「天書の智慧」とその「ご写本」彼は、それが具体的にどういったものかを突き止め、国民に伝えようと活動していたそうだ。私を連れ去ったのもそういうわけだったのね……。
国の在り方に疑問をもつ人や内閣を不信に思う人、そうした人たちが集まって、ミッドレイ商会という後ろ盾を得て、王政廃止勢力の組織はでき上がっていったみたいだ。
「アメシストさんは、カノンさんの考え方に共感したとかですか?」
私は今ここにいる2人についてもっと知りたいと思っていた。もしも、本当に王宮や内閣が危険だとしたら、信用できるのはこの人たちになるんだ。
「私は……、外の国への憧れと責任です。それ以上は話せません」
憧れはわかるけど、責任ってなんだろう? 彼女の話し方には追及を許さない拒絶を感じられた。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
和の雰囲気がたまに顔を出してくる。
第54話 幽閉への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第54話 幽閉
私はアメシストさんとダークに、「楽園天国」の話をした。そこでエリザベート様に会ったこと、母と姉が歴代王妃様のお世話係として働いていたことを。
彼女たちは、「不死城」について調べようとしていたが、具体的な情報は得られていなかったみたいだ。そのため、この話には驚いていた。
「なるほど……。外に秘密を洩らさないようにするための『楽園天国』――、というよりは『監獄地獄』だな」
「秘密ってどういうこと?」
私の頭はダークの理解に追い付いていなかった。
「王妃を務めた者を同じ場所に囲っているのは、おそらく『天書の智慧』について知ってしまうからなのだろう。そこで暮らしている人も同様に『なにか』を知ったために幽閉されている、と考えるのが妥当だと思う」
王妃様はその役割から必ず天書の智慧と接点をもつ。その情報を外部に洩らさないようにするのが楽園天国の存在意義。
「オレの親は王宮の職務中に、不自然な事故で亡くなっている。もしかしたら、楽園天国にいる人と同じような『なにか』を知ってしまったからかもしれん」
ダークの……、だから、私の母と姉の話のときもあんな言い方をしたんだわ。
「だっ、だけど、ダークの親御さんだってそれなら楽園天国に送られるはずじゃ?」
「聞き訳が悪かったのかもしれんな、オレの親は……、あくまで予想だがな?」
明言を避けてるけど、それって王宮の人に殺されたってことよね……? 事故に見せかけてってことなの?
「『王政廃止勢力』の人間のほとんどは、ダークのように、王宮関係者の身内を不自然なかたちで亡くしたり、行方不明のままになっている、といった者の集まりなんです」
アメシストさんはこう補足をした。最後に「私は違いますが……」と小さな声で付け足して。
「代々の王妃が揃って同じ場所に幽閉されている以上、『天書の著者の秘密』に絡んでの秘密があることは間違いない。だが、カノンの予想していたものとは違うようだ。だったら一体なにを隠してるんだ?」
アメシストさんもそれに関してはわからないようで首を捻っている。ダークも「なにか」に対しての予想は持っていないみたいだ。
だけど、私は……。
◆◆◆
『ドリゼラを連れ去った者たちの間者がきっとこの王宮の中にいるでしょう』
かつて天書に書かれた兵法の一つを実行した時を思い出した。
****
ワタシは意を決して、声東撃西の計の本質たる偽情報の語りかけを行った。
「ドリゼラ姉さんはそんなところに囚われているんだね、よしわかった、ワタシの大切な姉さんドリゼラ・トレメインを今すぐに救出なさい。」
ワタシが突然語り始めたことを怪しんで、見張の侍女は慌てて精細の報告のためコンサドーレの下へ走り去った。
****
おそらくあのとき侍女のアクア、もしくは報告を受けたコンサドーレが「間者」へ偽情報を報告したはずだ。
しかし、「天書」には過去の全てが記載されているが「未来」については書かれていないのだ。
つまり現情報を集めた予測でしか無い。
そのことを天書の智慧は教えてくれている。
天書はドリゼラ姉さんが無事だと2度も示唆した、天書の教えなんだし、間違いないよね?
ワタシは頭にとある疑問が湧いていた。これは口に出したらいけないのかもしれない。だけど、なんていうか、今天書の真髄に触れて勢いで言ってしまった。
「天書の著者とは……、何者なんですか?」
作者からの返信
コメントありがとうございます!
大いなる秘密に触れようとしている!?
第53話 決壊への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第53話 発覚
私はアメシストさんとバザールで会った後、その場で別れて家へと帰った。お買い物した食材を閉まっていると、ドアノッカーが鳴った。扉の向こうにはアメシストさんとダーク彼女には直接家に来てほしいと話していた。ダークも一緒なら彼も伴って……、と。
来客用に椅子を並べてそこに座ってもらった。彼女たちは私が話し出すのを待つように黙っている。
それはそうだろう。一度は突き放したのに、再び例の赤いスカーフをしてコンタクトを待っていたのだ。不思議に……、いや、不信に思っているに違いない。
「ごめんなさい。まさか本当に話しかけてくれるなんて……、ありがとうございます」
私は謝罪とお礼を一緒にしたお辞儀をしていた。
「ドリゼラ様、謝らないで下さい。貴女が私たちを嫌うのは当たり前で、邪険にされて当然なんです。それに先代の王妃様の行方についてきっちりと伝えてくれたわけですから」
アメシストさんの隣りに座るダークも無言で頷いていた。
「いくつか、お話したいことがあるんです。それで……、まずはこれを見てもらえませんか?」
私はテーブルに、両親から届いた手紙の束を2つに分けて置いた。
「……これは?」
「私の両親から届いた手紙です。母と姉は月に一度手紙をくれて、時々交代して書いていました。これはその手紙を母の分と姉の分に分けたものです」
アメシストさんは難しい顔をして手紙を見つめている。ダークは無表情だ。きっとまだ私がなにを言いたいか測りかねているのだろう。
「先日、両親と会ったときに、古い手紙を読み返すように言われたんです。その時は特に意味なんてないと思っていました」
私は母から届いた手紙の束を1枚ずつ並べてアメシストさんたちが読める向きに並べていった。
「最初はただの偶然と思いました。だけど、父からの手紙も同じようになるんです……。こんなの絶対におかしいです!」
私が両親の手紙を読み返して気付いたこと。1通1通は単なる近況を記した他愛のない手紙だ。ただ、それを母の分と姉の分に分けて、届いた順番に並べて手紙の最初の文字だけを拾って読んでいくと……。
『に・せ・て・ん・書』
『な・い・か・く・か・い・散』
この並びが2度繰り返されていた。
「偽天書。内閣解散、こんな並びが2度も並ぶなんて絶対におかしいんです!」
話している間に涙が溢れてきた。体が勝手に震えてくる。なんなの? 一体これはなんなのよ?
視界に純白のハンカチが映った。アメシストさんが差し出してくれていた。私は涙がテーブルに落ちる前にそれで涙を拭った。
「ありがとうございます……。私、どうしていいかわからなくて。誰に話してもいいかわからなくて……」
母と姉の手紙には「偽天書」とある。だけど、私の周りにいるのはみんな王宮と王立図書館の関係者だ。誰かに相談したくても話せば、なにか危険な目に合うかもしれない。もしかしたら私じゃなくて母と姉がそうなるかもしれない。そう思うと怖くて怖くて……、なにもできなかった。
そんな中で、唯一これについて話せると思ったのが「王政廃止勢力」のアメシストさんとダークだ。だから、一度は突き放した彼らに一縷の望みをかけて、赤いスカーフを首に巻いて何度もバザールを歩いてみた。
「よく話してくれました、ドリゼラさん。どれだけ不安だったことでしょう」
アメシストさんは涙を拭う私の余った方の手を強く握ってくれた。
「教えてもらえますか? ドリゼラさんがお母様、お姉様と会われたときのことを」
作者からの返信
コメントありがとうございます!
国家転覆を目論んでそう(笑)。
第52話 皮切りへの応援コメント
作者 武緒さつき♀
第52話 おにぎり
「ドリゼラ姉さんさ、ちょっとだけ変な話してもいい?」
今日のご公務は早くに終わり、私は夕刻前に大神殿へと戻っていた。シーラちゃんもちょうどご写本を終えたところのようで、お部屋で一緒に休憩をとっている。
彼女はいつものようにベッドで枕を抱きしめながらゴロゴロとしている。私はそのベッドに腰掛けながら話を聞いていた。
彼女がこんな前置きをするのは珍しいと思った。
「うーん……、いいけど、怖い話とかはやめてよ?」
「ドリゼラ姉さんてあの『バイブス』があって怖がりなの? 幽霊が逆に逃げ出すと思うけど?」
「二言目には『バイブス』って言うのやめてね? けっこう気にしてるんだから」
「ごめんごめーん! けど、ワタシはドリゼラ姉さんの『バイブス』に心奪われちゃったからさ! そいえば最初に見かけたときからずっとお目にかかってないやね?」
「もう! MCバトルじゃないんだからね!」
王都MCバトル大会とか出てましたけど……、はい。内緒にしときます。
「えっと、それでシーラちゃんの話ってなに?」
私は話を仕切りなおした。
「オラァッ!!」
シーラちゃんが急に大声を上げた。なになに? 全然脈略ないんだけど? 少しの間、部屋に静寂の時が流れた。
「よし! この声で誰も入って来ないってことは盗み聞きしてるやつはいなさそうだね!?」
なるほど、――というか、すごい確かめ方をするなあ……。
しかし、話す前に前置きはするし、誰かに聞かれてないかも確かめてるし、いつものシーラちゃんらしくない感じがする。一体どんな話をするつもりなんだろう?
◇◇◇
お買い物用のバッグの中には、おにぎり、トマト、パプリカ、お肉の燻製……、他に買わないといけないものあったかしら?
私はバザールで食品をいくつか買い揃えていた。別にここまで出て来なくても簡単なものは家の近所で十分揃えられる。だけど、今はここまで来ることに意味があった。いいえ……、ひょっとしたら無意味かもしれないのだけど。
お休みの日は、もう何日も続けてバザールまで来ている。それほど見たいものがあるわけじゃないのに適当にお店を物色して回っていた。今日がその何日目だったかはわからない。
お品を買うのは、切り上げて家に帰ると決めたときだ。今もそのつもりでバッグの中身を確認していた。
その時、待ち望んでいたことが起こってくれた。私の横に立った女性が話しかけてきた。
「ドリゼラ様……、その赤いスカーフは話しかけてほしい、ということでよろしいのですよね?」
声の主はアメシストさん、ダークに話して私が突き放したはずの「王政廃止勢力」の人だ。
「気付いてくれてありがとう、アメシストさん。そろそろ諦めようと思っていたところだったわ」
作者からの返信
コメントありがとうございます!
米を混ざて行くスタイル……。
第3話 怪力少女ノワラ・クロンへの応援コメント
キャラ設定がしっかりしていていいですね。
ダブル主人公は難しいと思いますが、頑張ってください!
作者からの返信
コメントありがとうございます!
それぞれの個性を前面に出して書いていけたらと思います!
編集済
第51話 手紙への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第51話 手紙、毛紙、于紙、天紙、モ紙、テ紙
楽園天国を訪れてからずいぶんと時は流れた。私は変わらず、王妃様の影武者を続けている。私が連れ去られた一件から警備はずっと厳しいままで、それが功を奏してか、ご公務でのトラブルはあれから一度もない。
もっとも、あんなことがそう何度もあっても困るし、それを仕出かそうとする人たちも鳴りを潜めていると思う。
ダークにエリザベート様と会ったことを伝えてから、彼ともアメシストさんとも一度も会っていない。
彼らは、私にただ危害を加えただけの人たちだ。それなのに、どこか情が移ってしまっているのはなぜだろう?
きっと……、飛躍した考え方だったけど、その一部には真実もあると思ったからだ。天書の著者の存在と天書の智慧は、この国を守っている一方で縛り付けている存在でもある。
彼らの話を聞くまではそんなこと考えすらしなかった。アメシストさんが話していた、「夜の街を照らす灯り」ってどんなんだろう? 私も実はあの話を聞いて、かすかに国の外へ憧れを抱いたのかもしれない。
シーラちゃんは最初に出会ったときより、ちょっとだけ大人っぽくなった気がする。言葉使いは相変わらず凄まじいものがあるけど、駄々をこねたりわがままを言わなくなった。外では元々「王妃様」の威厳をもっていたけれど、宮殿の中でも少しずつ「らしさ」が芽生えているように思えた。
夕刻、家から少し離れたところでいつも通り馬車を降りて、歩いて帰っていた。赤い空を見上げてゆっくりと歩く。時折吹く風は涼しくて、お仕事の疲れを癒してくれるようだった。
楽園天国に行ったことで、心の靄が晴れてスッキリしている。それからのご公務も何事もなくて、「王政廃止勢力」の人たちの接触もない。とても平和で充実した日々が続いている。
家に帰って郵便受けを覗くと、手紙が1通届いていた。母さんとアナスタシア姉さんからの手紙だった。あの日顔を合わせてから初めての手紙だ。私はうきうきしながら家に入って、手紙の封を切った。
今回はお母さんの字ね。この間たくさんお話をしたからか、いつもの手紙よりちょっと量が少なめだわ。
手紙の内容は、アナスタシア姉さんの様子とか近頃の天気の話とかだった。今までの手紙もそうだったけど、きっと楽園天国のなかについては書いてはいけないのだろう。
2度ほど手紙に目を通した私は、楽園天国でお母さんとアナスタシア姉さんとで交わした会話を思い出していた。
『――寂しくなったら古い手紙も読み返してみてね?』
本当に寂しかったわけじゃない。単なる気まぐれで、私は古い手紙を引っ張り出した。20通を超える母さんとアナスタシア姉さんからの手紙。
『ドリゼラに送っている手紙、お母さんとアナスタシアが時々替わって書いてるんだけど気付いていたかい?』
字の違いで、どちらが書いているのかの区別はついていた。
「どうせなら1回の手紙で両方書いたらいいのに……」
私はそう独り言して古い手紙も読み返していた。特になにか意味があったわけじゃない。ただ、なんとなくお母さんからの手紙ばかり読んで、そのあとにアナスタシア姉さんからの手紙をまとめて読んでいた。
『ドリゼラに送っている手紙、お母さんとアナスタシアが時々替わって書いてるんだけど気付いていたかい?』
『――寂しくなったら古い手紙も読み返してみてね?』
あれ……? なにこれ?
違和感が私を襲った。そして手紙を何度も……何度も何度も読み返した。
「なによ……、なんなのよ、これ……?」
背筋からなにか冷たいものが這い登ってくる感じがする。吐き気も伴ってきた。私は思わず口を抑えていた。
お母さん、アナスタシア姉さんどういうことなの? 私わかんないよ……。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
タイトルに狂気を感じる(笑)。
第50話 秘密への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第50話 秘密
「シーラ様、なにか良いことでもあったのですか?」
ご写本の間での写本を終えて、部屋に戻るワタシにコンサドーレが問い掛けてくる。
「いんやー? 別に、いつもの可愛いシンデレラ様だけど?」
コンサドーレはワタシの顔を少しの間じっと見た後、首を捻ってから前を向きなおした。こいつマジで殴ってやろうか?
「以前はあれほど嫌がっていたご写本に、最近はずいぶんと前向きに赴いているようですから」
「ワタシだってそれなりの期間やってりゃさ、王妃様としての自覚も出てくるわけよ、ご理解頂けますか、コンサドーレさまぁ?」
あえて憎たらしい言い方をしているのにコンサドーレは表情ひとつ変えやしない。ドリゼラ姉さん、マジでこいつの魅力教えてくれよ?
「国の歴史や天書の著者についてのお勉強もずいぶん熱心にされているそうですね? もしやドリゼラ様に王妃の座を奪われてしまうと焦ってらっしゃるのでは?」
珍しくコンサドーレが冗談とわかる口調で話をしている。
たしかに、ここ最近はお部屋に天書のさまざまな資料を持って来させて読み漁っている。内閣の中でも一部の人たちから、「シーラ様が心を入れ替えられた」と噂になっていると聞いた。
ドリゼラ姉さんが連れ去られた件がきっかけになったのは事実だ。ワタシの身代わりになって危険な目に合ってしまった。それなのに今でも影武者を続けてくれている。
もちろん、内閣からの報酬とかコンサドーレに会えるとかドリゼラ姉さんなりの事情もあるかもしれない。それでも、傍にいてワタシを支えてくれているドリゼラ姉さんにワタシは、ワタシなりのやり方で応えたいと思った。
それは、誰が見ても……ドリゼラ姉さんから見ても立派な「王妃」になることだ。このワタシがこんなマジメくさい考えをするなんてホントに驚きだ。一緒に過ごしている時間とともにドリゼラ姉さんの影響を受けているのかな?
「ドリゼラ姉さんが王妃様の役目を全部代われるんならその方がお国のためかもね? だけど、現実として『ご写本』ができるのはワタシなわけじゃん? ドリゼラ姉さんがいる分、今までの王妃様より絶対楽できてんだから、ワタシももうちびっとくらいがんばんないと、って思ってるわけよ?」
「良い心掛けだと思います。是非ともお言葉使いから優先的に学んでいただきたいものですね?」
コンサドーレの話はいっつも「お言葉使い」に帰結する。もう諦めろってんだ。今でも内閣の外にはバレてないんだから一種の才能じゃんよ?
「うっせえ! コンサドーレに言われるとやる気無くすわ!」
いやー、ドリゼラ姉さんはすっごいわ。この国に「働きたくない選手権」あったら優勝できると思ってたワタシを変えていくなんてね。
けどね……。ワタシがご写本を嫌がらなくなったり、お勉強するようになったのは他の理由もあるんだ。これはまだドリゼラ姉さんにも話せてないけど……。
いつかきっと……、いいや、必ず伝えるからね?
第49話 機会への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第49話 機会
休日、私はバザールに出掛けていた。目的は当然、お買い物、――と、もうひとつ別の用もあった。ヘアバンドで髪をまとめて丸い眼鏡をかけている、ここ最近のお出掛けスタイルだ。今日はさらにアクセントで首に赤いスカーフも巻いている。
最近はお金に余裕ができてきたから、新しいアクセサリーでも見てみようかしら……、そんなことを考えながら、露店を眺めて歩いていた。コンサドーレ様にもらったチョーカーはご公務のときにだけ付けている。
織物の露店を見ていると、フードを被った男の人が私の横に立った。ちらりと横目で「彼」の顔を確認してから声をかける。お店に並んだ綺麗な柄のハンカチを手に取り、視線はそれを見つめたままにした。
「……ダーク?アメシストさんはいるの?」
「今日はいない、赤を巻いてきたということは、なにか情報があったのか?」
私とグレイはお互い顔を合わせず、たまたま同じ方向へ歩いているようにバザールの道を歩いた。途中、冷たいレモン水のお店を見つけて、そこのパラソルの下の席に座り、レモン水を2つ注文した。
「そのフード外したら? 逆に目立つと思うんだけど?」
私は首に巻いていたスカーフを取って、お買い物用のバッグの取っ手に巻き付けた。
「たしかに、オレの顔を覚えているやつは少ないだろうしな」
彼が顔を晒したときに、ラフな格好をした店員さんがゆず水を運んできた。私は口の中を湿らせるように一口だけそれを飲んだ。ゆずの爽やかな香りが口いっぱいに広がる。
私は先日、アメシストさんとダークと話した時に、代々の王妃様についてなにかわかれば赤いスカーフを巻いて外へ出ると約束していた。もし、それを見かけたら話しかけてほしい、と……。
「――それで……、早速だが、なにかわかったのか?」
私は軽く息を吸って、意を決してから話を始めた。
「先に断っておくわ。これ以降、私に関わってこないで下さい。今日のお話もこれ以上関わり合いたくないからするんです」
ダークは小さな声で、迷惑をかけてすまない、と言った。一応、そういう自覚はあるんだ……。
「この前聞いた、王妃様がハ星魔王オクタグラムの生贄……、みたいな話は妄言もいいところです。今日はそれを伝えにきました」
彼はゆず水を一口飲むと、先を促すように私の目を見た。
「先日、エリザベート様にお会いする機会がありました。詳しくはお話できませんけど、とてもお元気そうでした。そして、私の母と姉とも会いました。お母さんも姉さんも元気で健在です」
「エリザベートに会えたのか? 彼女は今どこにいる?」
私はひとつため息をついた。
「それは誰にも……特に、あなたたちなんかには話せません。ですけど、間違いなくエリザベート様ご本人で、なにもおかしなところはありませんでした」
彼の返事はないので、そのまま私は続けた。
「内閣のすべてが正しい、……とまでは言いませんけど、あなたたちの天書の著者や王妃様に関する話は単なる妄言です。ダークは一応、手荒な方法とはいえ、襲われそうな私を救ってくれましたし、アメシストさんも手荒なことはしなかったので、こうしてお伝えだけはしますけど」
そもそも「王政廃止勢力」の人たちが王妃様を連れ去るなんて暴挙を起こすのがいけないんだけど……、と心の中で呟いていた。
「あなたたちの話は私の不安を煽るだけのものでした。はっきり言ってとても迷惑です。少なくとも、お二人が悪い人には見えないので、治安維持隊に突き出すとかはしません。ですからもう私と関わらないで下さい。アメシストさんにもそう伝えて下さい」
ダークは視線を落とし、特に反論もしてこなかった。
「そうか……。母親の話は申し訳なかった。無事だったのならなによりだ。いろいろと巻き込んですまない。今の話をしてくれただけでも感謝している。アメシストにはオレから伝えておこう」
彼は一度にそれだけ話すと、ゆず水2杯分のコインをテーブルに置いて、席を立った。遠ざかっていく彼の背中になにか言おうとしたけど言葉が見つからなかった。
いいえ、突き放すのが正解なのよ、ドリゼラ・トレメイン
たしかに国が閉鎖的だったりするのはよくないのかもしれない。だけど、天書の教えによって私たちはずっと守られてきた。だからこそ、今のこの国があるんだもの。その天書の著者を悪く言ったりするのはやっぱりどうかしているわ。
彼らの話によってもやもやしていた私の心は、先日楽園を訪れたことによってキレイに晴れ渡っていた。まるであの日の天気そのものといった感じだ。
ただ、「偶然」と言ってしまえばそこまでだけど、疑問がまったくないわけでもなかった。
タイミングが、良すぎるのよね……。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
柑橘類に微妙な違い!
第48話 至福への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第48話 至福
「おっ、お母さん!?アナスタシア姉さん!?」
後ろにいたのは紛れもなく私の母親と姉だった。
「ドリゼラ!まさかここに来てくれるなんて! 会いたかったわ!」
お母さんは私の右手を両手で強く握りしめた。感触を確かめるかのように何度も握りなおしている。目の前にいるのが、本物の私だと確かめているかのようだ。その後ろにはアナスタシア姉さんが笑顔で立っている。
「ドリゼラ!元気そうでなによりよ。」
「うん! お母さんも姉さんも元気でよかった!」
私は少しの間、母親と姉の顔を見つめて微笑みあった後、振り返ってコンサドーレ様に問い掛けた。
「コンサドーレ様……、これは一体?」
彼は一度咳払いをした後に話し始めた。
「実は、以前にドリゼラ様の住所を調べたときに『トレメイン』の名が気になっていたのです。楽園に住まう方のお世話係りにその名の母娘がいたと……」
コンサドーレ様の説明はおおよそこんな感じだった。
楽園で暮らしているのは代々の王妃様だけではない。王宮のさまざまな功労者や、その方々のお世話係の人もこの中で暮らしている。
ただ、楽園の存在は外に知られてはならないため、専属で働く人たちは対外的に「他国へ行く」とされるようだ。
「先日、ドリゼラ様がエリザベート様の話をされたときに思い出したのです。そういえば、彼女がここへ入ってからお世話をしているのは『トレメイン母娘』ではなかったか、と……」
彼は以前から、楽園での務めによって外界との交流が途絶えてしまう人を気にかけていたそうだ。そして、私もそのような境遇にあると知り、官房長様へ掛け合って、母親と姉と会えるように取り計らってくれたようだ。
お母さんとアナスタシア姉さんがエリザベート様のお世話係をしていたのは、本当に単なる偶然だったみたい。
「私は先にお屋敷へ戻りますね。トレメイン夫人とアナスタシアはドリゼラさんとゆっくり過ごしてください。午後は休暇にしておきますから」
エリザベート様はそう言うと、優雅な所作で一礼をしてここを離れていった。
「この陽気ですから、どこかへ行くより庭園の方が過ごしやすいかもしれませんね。私はここへお茶を運ぶよう係りの者に申し伝えてきます。また、迎えに参りますので、お母さんとお姉さんとの時間を楽しんで下さい」
コンサドーレ様もそう言って、私と母と姉さんにそれぞれ深くお辞儀をしてから去っていった。
ああ、コンサドーレ様ってなんてお優しい方なのかしら……。まさかこんな最高の贈り物を準備してくれているなんて。
私たちは庭園にあったテーブル席に腰掛けて、お互いの近況を報告し合った。離れて暮らした期間はたったの2年だったけど、それまではずっと一緒に過ごしてきてたので、その2年はとてもとても長い時間に感じられた。
コンサドーレ様がここを離れてから少しすると、給仕の方が2名ほどやってきてティーセットと焼きたてのスコーンとジャムをいくつか差し入れしてくれた。
お茶もお菓子もとても美味しい。シーラちゃんにもらったビスケットのときも思ったけど、王宮の関係者ってこんなにおいしいものをいつも食べてるの?
コンサドーレ様の言う通りで、外の陽気はぽかぽかしてとても気持ちよかった。陽の光に照らされて、庭園の草花もとてもキレイに光って見える。目の前には、会いたかったお母さんと姉さんがいる。
今この瞬間はきっと、私の心にキラキラと輝く記憶の1ページとして刻まれると思う。
お話していると時間が過ぎるのはあっという間だった。2年の隙間を埋めるように私はいっぱいお話をした。お母さんもいろんな話をしてくれて、アナスタシア姉さんは、私たちに圧倒されてか聞き役に回っていた。
「お手紙はちゃんと届いているかい?」
「うん、仕送りもちゃんと一緒に届いてるよ。だけど、私も働いてるから無理しなくていいんだよ?」
「いいのよ、楽園にいるとお給金もらっても使うところがあんまりないのよね。お屋敷にはちゃんと私たち専用のお部屋もあるし、お料理の食材もほとんど準備してくれるのよ」
なんと至れり尽くせりなのか……。それなら遠慮なく使っちゃおうかな?
「ドリゼラに送っている手紙、お母さんと姉さんが時々替わって書いてるんだけど気付いていたかい?」
「もちろんよ、字が全然違うもの」
「本当はもっとたくさん手紙を出せたらいいんだけど、楽園は人だけでなく『物』の出入りもとても厳しいの、ごめんなさいね?」
「いいのよ、元気でいてくれたらそれで十分だし、今日はこうして顔も見られたんだから」
そのとき、庭園の入り口あたりからこちらに向かって歩いてくるコンサドーレ様の姿が見えた。表情を確認できる距離に来ると、申し訳なさそうな顔をしているのがわかる。それを見て私は、そろそろ時間なのだと察した。
「お母さん、アナスタシア姉さん!今日はありがとう! そろそろここを出ないといけない時間みたいだわ」
私は席から立ち上がると、できる限りの笑顔をつくってそう言った。
両親も私の視線の先のコンサドーレ様に気付き、察したようだ。
「ドリゼラ、会えて本当によかったよ。これからも手紙は書くからね。寂しくなったら古い手紙も読み返してみてね?」
ここでお別れすると、またきっとしばらく会えない。私も両親もそれをわかっているから笑顔でいるけど、視線を逸らしていた。目が合うとお互い泣いちゃいそうな気がするからだ。
両親も立ち上がったところで、コンサドーレ様がこちらに歩み寄って来た。そして、両親に向かって大きく頭を下げている。
「大変心苦しいのですが……、そろそろ私もドリゼラ様もここを出ないといけない時間です」
「いいえ! 司書様、今日は本当にありがとうございました! 娘と会えるのはまだずっと先だと思っていましたので、なんとお礼を言ったらいいか……」
コンサドーレ様と母と姉さんはいくつか言葉を交わして、それから私は彼の後を追って庭園を出た。陽はオレンジ色に変わっていて、時の経過を感じさせた。
後ろ髪を引かれる気持ちを振り払いながら、私は黒い壁を通り抜け、楽園をあとにした。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
主役不在の家族対面。
編集済
第47話 楽園への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第47話 天国
「官房長は、いつから政治家やってんの?」
ご公務に出る前の準備中、ワタシは近くにいた官房長に話しかけていた。
「王室内閣閣僚に就いての期間ですか? 『官房長』になってからおよそ10年ですから、政治家としてはもうずいぶんになりますな」
「今のコンサドーレみたいに王妃様のお世話係りとかやってたの?」
官房長は、記憶を辿るように虚空を見上げてから答えてくれた。
「ええ、そういった経験もあります。もっともシーラ様ほど荒々しい王妃様は初めてですが……」
「ふんだ! 退屈しなくていいだろ!?」
「さあさ、そろそろ切り替えて下さい。そのお言葉使いはここだけの約束です」
さすがに官房長のマッツオ様相手だとワタシも気圧されてしまう。一度、目を瞑って大きく息を吐き出した。
――よし……、気持ちが整った。
「では、参りましょうか。ワタシを待っている書物があるところへ」
表情を引き締め、背筋をスッと伸ばしてワタシは歩き出す。宮殿の一室を出ると、親衛隊がすかさず周りを囲んで共に進んでいく。
結局ドリゼラ姉さんとコンサドーレがどこ行ってるかは知らないけど、本物の王妃様がドリゼラ姉さんに見劣りしたらマズいからね。しっかりご公務に励むとしましょうか。
なんだか、どっちが「身代わり」かわかんなくなってきたなぁ……。
◆◆◆
不死城の壁を抜けた先に見えたのは……、いくつも並んだ綺麗なお屋敷。
街の位の高い人たちが住んでる居住区みたいな雰囲気だ。
「……ここは?」
コンサドーレ様に問い掛ける、――というよりは、ほとんど独り言だった。けど、それに彼は答えてくれた。
「不死城は、かつて王妃を務め上げた方々の居住区なのです」
「おっ、王妃様のですか?」
もう、ここ最近ホントに驚いてばっかりだ。私の寿命まだちゃんと残ってるよね?
「はい。王妃様はそのお立場上、役割を終えられた後、天書の効果で寿命が無くなるのです。
死ぬこともなくなり若さも保たれます、あなたは数百年前の王妃が若い姿でそこに存在したらどうですか?
あまりにも目立ち過ぎる存在ですよね。
そのため、普通の生活を送れません。ただ、この国や教団への貢献度合いでいえば計り知れないものです」
たしかに若さを保つエリザベート様やナザリア様を街で見かけたなら、たとえ王妃を退任された後であっても注目を集めることになるだろうなあ……。それに100年前の王妃が出現したら大騒ぎになるよね。
「また、天書の智慧と接触している数少ない人物であるため、居所がわかれば他国の者から狙われる可能性すらあるのです。不老不死を欲している人物は数多いますからね。
そのため、彼女たちは任期を終えた後ここで匿われ、生活をしております」
国や国民のために尽くしてくれた王妃様だからこそ、役割を終えられた後もしっかりと保護されているということか……。
「外の人間からは『不死城』と呼ばれていますが、中の人間は『天国』と呼んでおります。ここのゾンビを連想する不気味な言い伝えも、外の人間が近付かないようにあえて流しているのです」
私はコンサドーレ様の話を聞きながら、彼の後ろを追って歩いた。綺麗に整備された石畳みの道を進むと、これまたしっかりと手入れされた庭園が見えてきた。色とりどりの季節の草花が視界に入ってくる。
植物のアーチを潜った先には小さな噴水とベンチがあり、そこにはひとりの女性の姿があった。白いワンピースを着た大人の女性だ。
肩のあたりまで真っすぐ伸びた金色の髪は、陽の加減で翡翠のような色にも見えた。庭園にあるどの花も羨むような美しい姿……。
そこにいるのは間違いなく、先代の王妃エリザベート様だった。
「ご機嫌麗しゅう、コンサドーレ。」
「ご機嫌麗しゅうございます、エリザベート様。本日は急なお呼び立てに応えて頂き誠にありがとうございます」
「いいえ、構いませんわ。ここでの生活は不自由こそありませんが、退屈ですから……。来客は大歓迎ですよ」
「ドリゼラ様、ここはどこよりも秘密が守られる場所ですから、エリザベート様には貴女が王妃シンデレラ様の影武者とも伝えてあります」
呆然として口が半開きになったままエリザベート様を見つめていた私は、コンサドーレ様の言葉で正気を取り戻す。すると、エリザベート様が私の元へ歩み寄ってきた。
「現王妃シンデレラ様とは彼女の任命式でお会いして以来ですけど……、『ドリゼラ』さんでしたか……、本当に驚くほど似ている双子ですわね?」
彼女は、鼻と鼻がぶつかりそうな距離で私の顔をマジマジと眺めている。こんな近くでお目にかかったのは初めてだ。なんて綺麗な人なんだろう……。女性の私でも見惚れてしまう。
「えっ…と、お初にお目にかかります! ドリゼラ・トレメインと申します!」
私は、頭をぶつけないように一歩下がってからエリザベート様に向かって大きく頭を下げた。
「そんなにかしこまらなくてもよくてよ、ドリゼラさん? 私はもう王妃を引退して隠居した身ですから」
お辞儀をしたまんまで私はいろいろと考え事をしていた。
代々の王妃様のお姿を見かけないのは内閣が護ってくれていたからなんだ。アメシストさんやダークの言っていた「八星魔王オクタグラムの生贄」なんて話が急にバカバカしく思えてきた。
あんな話を信じかけていた私はどうかしていたんだわ。
それに……、これでシーラちゃんが生贄にされるなんてこともないってわかった。なんだか胸のつっかえが無くなってとてもスッキリしてきた。
「あの! コンサドーレ様は私をエリザベート様に会わせるためにここへ?」
私は顔を上げて、コンサドーレ様に問い掛ける。先代の王妃様の無事が確認できたのはよかったけれど、私がここへ連れて来られた理由がよくわからない。
「それはですね、実はエリザベート様もなのですが、そのお世話をしている人と会ってもらいたかったからなのです」
「お世話の人……ですか?」
「うふふ、コンサドーレに言われてちゃんと呼んでおきましたわ。もうすぐここへ来ると思いますよ?」
そう言ってエリザベート様はにこりと笑っている。私にはなんのことかわからない。
そのとき、後ろに人の気配を感じた。
「こっちですわ! トレメイン夫人!アナスタシア!」
エリザベート様が大きな声で呼びかける。
――あれ? 「トレメイン夫人」と「アナスタシア」って……。
後ろを振り返った私は、こちらに来る2人の顔を見て思わず叫んでしまった。
「おっ、お母さん!?アナスタシア姉さん!?」
作者からの返信
コメントありがとうございます!
たしかに100年前の人が当時のままの姿で闊歩してたら驚く……。
編集済
第46話 禁足地への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第46話 不死城
この国のある一角に、黒くて高い石壁で隔離された地域がある。そこは「不死城」と呼ばれ、近付くことを禁止されている。
罪人の隔離施設、または処刑場、魔法によって呪われた人を隔離している、女神様のご加護が届かないところ……、いろんな噂がある場所だ。ただ、どれが正解なのかどれでもないのか私は知らない。そして、私の身近にいる人でそれを知っている人はきっといないと思う。
ただただ幼い頃から「踏み入ってはならない」と教わってきた場所だ。
「ドリゼラ様、ご安心下さい。私……、いや我々は貴女を信用してここへお連れしました。ですから貴女も私を信用してついてきてください」
馬車は途中、幾重もの警備を抜けて黒い壁の真ん前まで辿り着いた。コンサドーレ様がそこで降りたので私も続いて地面に足を付けた。
初めて近くで見た「黒い壁」、それは首都ハミシバ王宮の屋根よりさらに高いのでは……、と思うほど高く、何者の侵入も逃亡も許さないようにどこまでも続いているようだった。
陽射しが強くて暖かかったはずなのに、壁の前にくると急に背中がうすら寒く感じた。それに踏み入ってはいけないような圧迫感を感じる。それは幼い頃からの刷り込みで私が拒絶しているのか、それともこの壁が私を拒絶しているのか、どっちなのだろう……?
私が壁の迫力に気圧されてる横をコンサドーレ様は、一切の躊躇なく進んでいく。独り残されそうで怖くなって、慌てて彼の背中を追いかけた。
壁の間近まで来ると、門があって、そこには治安維持隊の制服と似た格好をした人が数人立っていた。
私の知っている治安維持隊の制服は白が基調の服だけど、ここにいる人たちは服の色も壁に溶けてしまいそうな黒だった。腰には剣を収めた皮の袋をぶら下げている。
コンサドーレ様の背中にくっついて門に近寄ると、格子状になった鉄の門が上に引き上がっていく。そこを潜ると同じような鉄の門がもうひとつ見えてきたが、それも近付くと勝手に上がっていった。
私は今、陽の光が届かない壁の中を歩いている。視界の先には光。黒い壁の向こう側が眩しく輝いている。心臓がとても高鳴っていた。私は無意識にコンサドーレ様の袖の端っこを掴んでいた。恥ずかしかったけど、今は得も言われぬ恐怖の方が勝っている。
一方のコンサドーレ様は、後ろの私を振り返る様子もなくずんずんと「向こう側」を目指して進んでいく。
壁を抜けると、強い光が視界を奪った。目がこの光に慣れたとき私の前には一体どんな光景が広がっているのだろう?
作者からの返信
コメントありがとうございます!
いざ不死城へ乗り込まん!
第45話 遠出への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第45話 不死の歴代王妃の神殿
「うーん、違う……。これじゃ自然な感じがしないわ」
私は午前中に荷下ろしのお手伝いを済ませた後、家にある一番大きな鏡の前で昨日の帰りに買い込んだ服を取っ替え引っ替えしていた。
「ドリゼラ・トレメイン」としてコンサドーレ様の前に立った経験はほとんどない。王立図書館には、支給されている王妃のドレスで入っている。その後はいつも王宮内専用の純白のドレスに着替えている。
制服のある学校に通っている女の子が気になる男の子とデートするときってこんな気持ちなのかな?
家にいるときの服や荷下ろしで着ている服はお世辞にも「かわいい」とは言えない。だけど、行き先がわからない状況で思いっきりおしゃれして場違い感が出てしまっても怖い。それに、なんていうか……、張り切ってる感を出したくない、という変なプライドがよりいっそう服装選びを難解にさせていた。
「どうしましょ……、あーそういえば靴も考えないと。いっぱい歩くかもしれないから底が厚いのは避けた方がいいわよね、やっぱ、ローファーかしら。」
誰かいるわけでもないのに疑問形の言葉を投げかけながら、部屋を右往左往している。気が付くと空き巣が入った後のように、床やらテーブルにカラフルな衣装が散らかっていた。
髪は美容院に行って今風の髪型にしてもらってメイクもしてもらってる。シーラ様とは違った雰囲気になってるから気が付かれないだろう。司書様と共に行動する以上、王妃様と勘違いされる可能性はあると思ったからだ。
結局私は、部屋を散々散らかした挙句、白い長袖のブラウスと濃い茶色のパンツという普段着とさほど変わらない恰好に落ち着いたのだった。
いいのよ、ドリゼラ・トレメイン、今日案内される場所はそんな気合を入れていくようなところではないわ。わかんないけど……。
荒ぶる自分の心を諭すようにしながら、私は引っ張り出したたくさんの服を仕舞っていた。ほんとなにやってるんでしょう……。
すると、ドアノッカーの音が部屋に響き渡った。びくっと両肩が少し上がった。びっくりして寿命が縮むんだったら、私ここ最近で数年は早く死ぬようになってる気がするわ。
最後の確認をするように、鏡の前で一度くるっと回った後に私はドアを開けた。
迎えに来てくれたコンサドーレ様はいつもの司書様の制服姿だった。やっぱり今日向かう場所もご公務に関係あるとこなのかな? 熱く踊っていた心がほんのちょっとだけ水を差されたようだ。
彼に案内されて家から少し歩くと、いつも宮殿からの帰りで使う馬車が待っていた。家の真ん前まで来てもらうと目立ってしまうので、いつもあえて離れた場所で乗り降りしている。
陽射しが真上から降り注いでいる。長袖を選んで正解だったかな。
先に馬車に乗り込んだコンサドーレ様の手に引かれて、私も馬車に乗った。握られた手を大事なもののようにもう片方の手で無意識に包んでいた。
コンサドーレ様の雰囲気はいつもとあまり変わらず、私たちは馬車に揺られていた。まだ今日の目的地についても全然聞けていない。この馬車はどこに向かっているんだろう?
「ドリゼラ様、こんなところで失礼かもしれませんが、改めてお礼を言わせて下さい」
「えっ? お礼ってなんのお礼ですか?」
「シーラ様の影武者を務めてくれていることへのお礼です。1日とはいえ、王政廃止勢力の連中に襲われ監禁されていたわけです。あのような目に合って、なお続けて頂いていることに感謝の言葉もありません」
彼は馬車の席に座ったまま数秒に亘って頭を下げていた。
「いいえ、たしかに襲われたときは怖かったですし、同じようなことがまた起こるかもしれないと思うと今でも怖いです」
私がここで区切ったためか、コンサドーレ様は頭を上げて私の顔を見た。
「ですが、私が影武者をやめたら、シーラ様が危険な目に合うかもしれないのでしょう? 私はその方が辛いですから」
これは本心から出た言葉だ。シーラちゃんが危険な目に合うのは自分がそうなるよりずっと怖くて恐ろしく思える。
それに、私なら……今度は自力でなんとかできるかもしれないしね?
「ドリゼラ様は王妃の影武者ですが、その内にある心はシーラ様よりむしろ王妃に相応しいとすら思えてきます。シーラ様が貴女と再会したのも天書のお導きかもしれませんね?」
「そんなこと言うとシーラ様に怒られてしまいますよ?」
「シーラ様に怒られるのが私の務めと心得ておりますから」
彼は苦笑しながらそう言った。
「ご公務」と言われていないため私の緊張がほぐれていたのか、普段よりコンサドーレ様と軽い気持ちでお話ができていた。ロコちゃんのお世話係としての苦労話を彼の口から聞くのは新鮮でとても楽しかった。
時間を忘れて話をしていると、外の景色はずいぶんと変わっていて眼前に「あるもの」が迫っていることに気が付いた。
それは高く積まれた豪華な石造りの壁……、この国に住んでいる人なら誰もが知っている歴史的遺構、神々の神殿と呼ばれている場所だ。一般人からは完全に隔離されているものだ。
「コンサドーレ様? ここってもしかして……?」
「ええ。近付いて来ましたね? 今日ご案内したい場所……、『歴代王妃の不死城』です」
作者からの返信
コメントありがとうございます!
ラスボスとかいそうな名前(笑)。
第44話 お誘いへの応援コメント
作者 武緒さつき♀
第7章 壁の向こう側
第44話 デートのお誘い
王立図書館内巡りをして今日のご公務は終わった。陽は沈みかかっている。夜の涼しさを風が少しずつ運んできているようだった。
以前より多い人数の護衛に囲まれて私は馬車に乗り込んだ。続いて、コンサドーレ様も乗って馬車は走り出す。
私が影武者を務めている時は、彼と一緒が多いので隣りにいてもあまり緊張しなくなっていた。あまり口数の多い人ではないみたいで、馬車に二人きりでもそれほど会話が弾むわけじゃなく、お互い気まずくならない程度に話をするだけだった。
もう少し距離を縮めたいような気もするけど、シーラちゃんみたいに気さくに話せる感じではない……。困った困った。
「ドリゼラ様、少しよろしいでしょうか?」
「はっ、はい! なんでしょうか!?」
なんだかいつも心の隙を付くように、物思いに耽ってる時に話しかけられる。なんだか落ち着きがない子と思われていそうだわ。
「明日はシーラ様がご公務に出られる予定で、ドリゼラ様はお休みの日だったと思うのですが……」
「はい、官房長様からそのように伺っております」
「もし明日のご予定がなければご案内したいところがあるのですが、いかがでしょう?」
えっ!? なにこれ――って期待してる私はバカなのか……。どう考えても今のお仕事絡みの話に決まっている。
「あしたー……、明日ですか? 明日はうんと、はい……、空いております」
最初から運送屋のお手伝いとお買い物くらいしか予定はないのに、ほんのちょっとだけもったいぶってしまう。なんか即答したらカッコ悪い気がした。
「でしたら、お昼を過ぎた時間にお家までお迎えに上がります。少し遠方に参りますが、陽が沈む前には戻れる予定でおります」
「えっと……、それは、どこへ行くか伺っても?」
「申し訳ありませんが、今は詳しくお話できません。ですが、明日は『王妃シンデレラ』ではなく、あくまで『ドリゼラ・トレメイン様』としてお連れしたい場所がございます」
シーラ様としてではなくて、ドリゼラとして? いよいよその場所の見当が付かなくなってきた。ドリゼラとしてなら、襲われたりする心配もないだろうけど。
「わかりました。明日お待ちしておりますね」
◇◇◇
「えー! なんかわかんないけどドリゼラ姉さんチャンスなんじゃないの!?」
宮殿に戻ってから、コンサドーレ様に言われたことをそのままシーラちゃんに話してみた。彼女は大きな声でそれに反応した。
「シーラちゃん声大きいよ? もうちょっと静かに……」
2人だけしかいない部屋で私はきょろきょろしながら、人差し指を唇に立てている。誰も聞いてるはずないんだけど、変な汗を搔いてしまう。
「コンサドーレのやつ、仕事に託
けてドリゼラ姉さんをデートに連れ出すつもりか? 意外とやるじゃんよ?」
「そんなんじゃないわよ……、きっと。だけど、どこに連れて行ってくれるのかしら? 本当にわからないのよね?」
「ドリゼラ姉さん!コンサドーレが変な真似するようだったら、頸椎以外ならへし折ってもいいからね?」
一体なんの許可なのよ、それ?
「コンサドーレ様に限ってそんなのないわよ、多分?」
「わっかんないぞー? あの堅物も一応『男』だかんな? まあ明日あいつがバキボキになってたら察するよ?」
シーラちゃんと話していつも通り笑いあった後、私は帰りの馬車に乗せてもらった。すっかり暗くなった外の景色を眺めながら、なにもないのに顔が自然とほころんでくる。
そんな浮かれた話じゃないと頭ではわかっているつもりなのに、どこかで期待している私がいるみたいだ。
明日来ていく服があったかしら、お化粧も、下着も、ちょっと可愛いのを買って帰らないとだね。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
後半の付け足しが多い!
第43話 虚ろへの応援コメント
作者 武緒さつき♀
第43話 虚ろ
「ドリゼラ姉さん!ドリゼラ姉さん!?」
「……」
「昔いじめられた怨みをここで晴らそうか!!」
「っっひぇ!?」
「あはははっ! 『ひぇ』だって!? 可愛いなぁ、ドリゼラ姉さん!」
シンデレラ様が急に恐ろしいことを言うからびっくりしてしまった。
「もう……、あんまり驚かさないでよ? 心臓止まっちゃうかと思ったわよ?」
私が文句を言うとシーラちゃんは、何度も話しかけてるのに返事がないから、と言った。考え事をしていて上の空になっていたみたいだ。
「どったの、ドリゼラ姉さん!悩み事なら相談のるよ?」
私の頭を支配しているのは、先日のアメシストさんとダークの話だ。
王妃様がハ星魔王の生贄なんてとんでもない話だ。だけど、それは明確に否定できる。
だけど、代々の王妃様のお姿を見ないことや、シーラちゃんの言っていた「写本を通して会話できる」が説明できてしまうのだ。
もしそれが事実なら、天書の啓示によって成り立っているこの国は、王妃様の犠牲によって成り立っていると言い換えられる。少なくとも王政廃止勢力の人間はそう信じている、そして、今目の前にいるシーラちゃんにもいずれその運命が待っていると思っているのだろう。どうにかしてその間違いを正さなければならない。
私はアメシストさんたちの話を否定する証拠がほしかった。一番わかりやすいのはエリザベート様やナザリア様といった、不老不死で生きているはずの以前の王妃様全員とお会いすることだ。どうにかしてそれができないかをずっと考えている。
アメシストさんの仲間になるなんてもちろん言っていない。ただ、代々の王妃様について調べてみるのだけは約束した。なにより私自身がそれについて知りたいからだ。
「ひょっとしてコンサドーレのこと? ワタシがあいつの好みとか聞いてやろうか?」
「ちっ、違うわよ、もう!」
一瞬締め殺してやろうかと殺意が走ったがやめた。
シーラちゃんはけらけら笑いながら、お部屋のベッドに転がっていた。
王宮にある王妃様の私室。限られた時間だけど、ここへの出入りを許されるようになっている。ご公務に出る前のちょっとした合間を彼女と話しながら過ごしていた。
「シーラちゃんは王妃に選ばれてからエリザベート様に会ったことある?」
「エリザベート様? うんと……、任命式のときに顔を合わせたくらいかなぁ。あの人めちゃくちゃ美人だよね! その後継がワタシなんて罰ゲームみたいよね?」
彼女の例えがおもしろくて思わず笑ってしまう。この子と話していると本当に飽きないな。そういえば、「王妃」じゃないときのエリザベート様ってどんな人だったんだろう……?
「実はエリザベート様も、普段はシーラちゃんみたいに粗野な話し方とかしてたりしてね?」
「ワタシみたいに、って……、ドリゼラ姉さん、なかなかヒドいこと言うなぁ。けど、もしそうならめっちゃ楽しいよね? 絶対仲良くなれんじゃん!?」
「エリザベート様は、ご公務を離れたときも慎ましく、気品高いお方でした。シーラ様も見習いましょう」
コンサドーレ様の声が急に飛んできて私もシーラちゃんも扉の方へと顔を向けた。
「オラッ! コンサドーレ!乙女の部屋にいきなり入ってくるとはどういう了見だよ!?」
「申し訳ございません。何度もノックしたのですが、返事がないようでしたので無礼を承知で入らせてもらいました」
ノックの音、全然聞こえなかったな。お互いお話に夢中になり過ぎてたみたい。
「ドリゼラ様、そろそろご公務の時間です。シーラ様はご写本の時間になります」
シーラちゃんは一度ベッドに反り返るように倒れてから、勢いよく起き上がった。
「わーったわーった。またあとでね?」
「うん、またね。シーラちゃん」
「エリザベート様のような王妃を目指すなら、まずそのお言葉使いから直していきましょう、シーラ様?」
コンサドーレ様は部屋を出る去り際にそう言った。
「うっせえ、とっととドリゼラ姉さん連れて行ってこい!」
閉まる扉の隙間にシーラちゃんの台詞が挟まるように響いてきた。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
いじめの怨みは妙にリアル(笑)。
編集済
第42話 生け贄への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第42話 生け贄
仲間? 仲間ってなに?
アメシストさんもダークも「王政廃止勢力の一味」で、私を連れ去った人たちで、シーラちゃんを危険な目に合わせるかもしれない人でしょ?
「あっ、あなたたちのことは親衛隊の人から聞きました! 以前から治安維持隊に追われてるんでしょう!? そんな危ない人たちに協力なんてできません!」
そうだ。アメシストさんは普通に話をできる雰囲気だけど、この人たちは危険な人たちなんだ。私がどうこうよりも、シーラちゃんにとって危険な存在なんだ。
だけど、それがわかっているなら、なんで私は彼女たちのことをマッツオ様に伝えずに隠してしまったのだろう? 自分の中にどこかシンデレラを憎んでいる部分が残っているのかもしれない、どうしたいのかよくわからなくなってきた。
「危険なのは王国の方だ。『治安維持』を名目にやつらはカノンを殺した」
「!? 私は捕まったあとに自殺したって聞いたわよ!?」
ダークは小さいため息をついたあと、話し始めた。
「王国の連中ならそう説明するだろうな? だが、カノンは殺された。あいつはオレたちを逃がすために自ら囮になって治安維持隊の目を引き……、捕まって殺された」
なに言ってるかわからない。どっちかが真実でどっちかが嘘なんでしょうけど、マッツオ様が私に嘘を付いてるというの?
「ドリゼラ様……、私たちは王妃シンデレラ様と思っていたわけですが、貴女をおいて逃げたあの日、私たちの動向は王国の治安維持隊にバレているようでした、ですからシンデレラもろとも爆殺しようと爆弾を仕掛けたのです。
アメシストさんは、私が救い出された日のことを詳しく話してくれた。
あの日、私をおいていったのは、治安維持隊に彼らの居場所がバレてしまったと情報が入ったからみたい。きっと内通者とかいたりするんだろうな……。
「カノンさん」は、私が捕まったときにガーネットさんとグレイともう1人部屋にいた男性の名前だった。彼は「王政廃止を掲げる組織」の中心人物で、治安維持隊も「組織」というより、彼を捕まえることに躍起になっていたようだ。
カノンさんはそれを逆手にとって、自分を囮にして組織の人間を逃がす行動に出た。当然、彼自身も逃げ延びて後から合流するつもりでいたのだと思う。だけど、彼は逃げ切ることができなかった。
王政廃止を掲げる人たちにとってカノンさんの存在は非常に大きかったようだ。治安維持隊が彼に執着したのは、彼さえ捕まえられれば、組織は求心力を失い、勝手に消滅すると考えられているから……、とアメシストさんは語った。
「悔しいですが、治安維持隊……、いいえ、王宮の目論見は当たっていました。組織は自壊して散り散りになり、私とダークの他にまだ志を持っている者がいるかはもうわからなくなっています」
「カノンが自ら命を絶つなど考えられない。ただ、敵対する者を容赦なく殺したとなると王室の印象を悪くするからな。そんな言い方をしたのだろう」
話を聞けば聞くほど、王国内閣が怪しく思えてくる。けど、落ち着いて、ドリゼラ・トレメイン、ここにいる2人は「王政廃止勢力」王室を悪く言うのは当たり前のこと。それを鵜呑みしてはいけないわ。
「王室をそんなに悪く言わないで下さい! 私だって王国図書館の会員をしていますし、母だって今でも関連部署で働いているんですよ!」
アメシストさんとダークは少しの間、お互いの顔を見合っていた。そして、アメシストさんがこちらを向き尋ねてくる。
「失礼を承知で申し上げます。実は数日前からドリゼラ様の動向を追って接触できる機会を伺っておりました。ですが、その間お母様のお姿は一度もお見かけしておりませんが?」
「母は、王宮のお仕事で他国へ出ているんです!」
「本当なのか? 親に直近で会ったのはいつの話だ?」
ダークも話に割って入ってくる。
「もう2年くらい会ってませんけど、お手紙は月に1度の頻度で届いています」
「間違いなく親からの手紙なんだな? 誰かのなりすましとかではなく?」
「いい加減にしなさいよ! 私の母がどうかしたって言いたいの!?」
グレイの問い掛けは、とても恐ろしい想像を掻き立てる。突然、家に侵入してきた人たちになんでこんな不快にさせられないといけないの?
「ダーク!やめなさい! ドリゼラ様、本当に申し訳ございません。今のお話は取り消します。後でダークを好きなだけ殴ってもらってけっこうです」
「おい待て? それは困る……、というか死ぬ」
――別に殴りはしないわよ、まったくもう。
私もアメシストさんもダークも黙り込んでしまった。私はこの人たちの仲間になんてならないし、もう帰ってくれないかな……。
「ドリゼラ様? 先日ダークが尋ねていましたが、以前に王妃をされていた方とお会いしたことはないのですよね?」
沈黙を破ったのはアメシストさん。捕まったときにされたのと同じ質問だ。
「はい……、ですが、エリザベート様について尋ねてみましたら、王宮の裏方のようなお役目をなされていると聞きました」
私は先日、マッツオ様から聞いた内容をそのまま口にした。これを尋ねたのも代々の王妃様の姿を見ないのはたしかに不自然と思ったからだ。
「ドリゼラ様は『天書の著者』をどのような存在とお考えですか?」
「それは……、神様のような方ですから、お空の上にいるとか? ごめんなさい、あんまり深く考えたことなくて……」
「いいえ。『天書の著者』について具体的なイメージをもっている人は少ないと思います。ただ、漠然と私たち庶民とは違った存在……、例えば目に見える範囲、声が聞こる空間といった、その深い思索は普通に認知できる存在ではないと考えていると思うのです」
シーラちゃんのいつかの言葉が記憶を過ぎる。それと同時に「×」のマークもだ。
「カノンは、天書の著者を『八星魔王オクタグラム』ではないかと考えていました。そして、王妃はその『魔王の言葉の代弁者』として選ばれているのではないかと……そしてその役割を一度負ったものは永遠の命を授かり死ぬことはないと。」
魔王の代弁者?わかるようなわからないような……?
「過去に王妃として選ばれた者がいないのは、不老不死となっているからでは? 王妃の交代はすなわち不老不死であることを隠すための交代、いや、代替わりというべきかもしれません」
えっと、つまりどういうこと? 今、シーラちゃんがご写本をしていることで魔王の力を得て不老不死を授かり、先代の王妃エリザベート様も、その前の代々の王妃も不老不死となっているって話であってる?
それに「交代」って……。
「不老不死になっている王妃は20年が経つと交代しなければならない理由がある……、皆まで言わなくても察しが付くだろう?それとも同じ王妃が歳も取らず100年存在したらどうなる?」
私は急に背中に悪寒を感じた。思わず後ろを振り返ってしまう。
「今の話はあくまで予想です。ですが、残念なことに代々の王妃様のお姿が見つからない説明がついてしまうのです。もしも、この予想が当たっていたら、『王妃』は天書の著者ハ星魔王オクタグラムの『生贄』と言い換えることができるかも知れません。
ハ星魔王オクタグラムの「生贄」? 生贄ってなによ……?
シーラちゃんが生贄になっちゃうの?
いや、そもそも根本的に間違ってるわ、天書の著者は八星魔王オクタグラムではなく、七星の賢者様だもの。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
魔王出てきた……。
第22話 教団の意思への応援コメント
心配の矛先が保身というあたり、如何にも『組織』という感じで生々しいですね
大丈夫です……寧ろ読者はノワラちゃんのことしか心配していません( ノД`)…
何か勝手に1人で助かりそうな娘ですけど🤣
作者からの返信
コメントありがとうございます!
大きな組織ゆえの闇が垣間見えます。
殴ったら大体解決しそうなノワラちゃんではありますが……。
第41話 気付きへの応援コメント
作者 武緒さつき♀
第41話 気付き
『エリザベート・グリーンヒル、高位神官の息女。15歳で王妃に選ばれ、以後20年間務める……』
太皇妃エリザベート様って15歳から王妃やってたんだ、ワタシより歳下じゃんかよ……。次は、と。
『ナザリア・ミッドレイ、大商人ミッドレイ家の一人娘。20歳で王妃に選ばれ、以後20年間務める……、か』
ナザリア様まではなんとなく記憶にあるなぁ、顔とかはっきり覚えてはいないけど。そいえば、最初の王妃様ってどんな人だったのかな?
『ザハミシバロック・フレイリー」記録上残っている最初に選ばれた王妃、出自や細かい任期は不明……、ふーん』
この人ってあれよね? 首都ハミシバの名前の由来になった人。すっごく昔の話だし「記録上」って書いてあるから、ひょっとしたらもっと前にも王妃様はいるのかもしれないけど、どうなんだろ?
過去の王妃様についての記録を見ながらワタシは考え事をしていた。聖女は女神様が選んでいる。なにか共通点とかあったりしないかと思ってみたけど、さっぱりだ。
若い人か幼いくらいの人からいつも選ばれているけど、年齢はみんなばらばら。出自にも共通するとこは全然見当たらない。ワタシみたいに孤児院育ちの親なしもいなかった。
ワタシが王妃様についてや国の歴史について調べているのは、突然「王妃」の自覚をもったからじゃない。
この前、ご写本の間にて手にした一枚の羊皮紙。ワタシは自分の解決策を天書に求めた。本来の使い方ではないし、こんな個人的なことをして許されるかもわからなかったけど、ドリゼラ姉さんを救う方法がそれしか思い付かなかった。
ワタシが天書のその記述に気がついたあと、長い思考を行った、やっぱりダメかと諦めかけたとき、その羊皮紙を運命のように手にした。
それは決して、ドリゼラ姉さんの居場所という直接的な答えではなかった。ただ、羊皮紙は2つ、ワタシの問いに対して答えをくれた。
『あなたの大切に思うドリゼラは、心配しなくてもすぐに見つかり、無事に帰ってきます。ご安心なさいと、呼びかけられているような気持ちになった。」
1つはこれだった。それを聞いたとき、最初はとても嬉しかったけど、やや遅れて、天書も戦争のための計略ばかりではなく「気休め」の言葉もあるのかと思った。
だけど、2つ目の記述を見たとき、考えが変わった。天書はやっぱり他の兵法とは違う、と……。
実際に、ドリゼラ姉さんは一晩明けた翌日の昼間に無事救出されたと聞いた。ワタシは飛び上がるほど喜んだ――というか、ホントに飛び上がっていた。
あとからドリゼラ姉さんと顔を合わせたときは、泣きそうなほど嬉しくて、体当たりするみたいに抱き着いちゃったくらいだ。
ドリゼラ姉さんとたくさん話してスッキリした後、ワタシは天書が記すもの、「2つ目」について調べようと思った。そして、天書の著者と王妃についても、もっともっと知りたいと思うようになっていた。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
歴長め(笑)。
編集済
第40話 目的への応援コメント
第40話 悪魔の誘惑、天使の迷い
聞こえたのはワタシを爆殺しようとしたアメシストさんの声。
だけど、この声に安心している私は本当に頭がおかしい。
彼女は「王政廃止勢力の一味」で、私を連れ去り、葬ろうとした人たちで、シーラちゃんを危険な目に合わせるかもしれなくて――って……。
あれ……、そういえば、なんで「シーラ様」じゃなくて、「ドリゼラ」の家に現れたの?
私は無言で立ち上がった。家の扉は閉められており、玄関にはアメシストさんとダークの姿がある。アメシストさんは床に目を落とした後、転がったトマトを拾って、落とした袋に戻して手渡してくれた。
「本当に申し訳ありません。ですが、こうでもしないと貴女と落ち着いて話ができないと思いまして……、『ドリゼラ・トレメイン』さん?」
今、ドリゼラ・トレメインって言った。やっぱり王妃シンデレラ様じゃなくて、ドリゼラに会いに来たんだ。
「とりあえず、その拳を下げてくれないか、怪力? 手荒な真似はしない」
「どの口が言ってるのよ、ワタシを爆弾で爆殺しようとしたのを忘れたの」
ダークの図々しく呆れた発言に思わず反応してしまう。でも、彼の前で力を振るったことなんてあったかしら?
「なんで!? なんで私が力持ちって知ってるのよ!?」
「ドリゼラ様、私たち実は……、MCバトル大会のときからあなたを追っていまして……はい」
ええーっ!! なんか急に恥ずかしくなってきちゃった……。
「あんな言葉の魔術があるなら、そもそもなぜ捕まった? あの弁舌を振るわれたら我々など赤子の手をひねるより易しく言いくるめることができただろうに。」
ちょっと……、一度にいろいろ言わないで。情報の大洪水が起こっているわ。落ち着いて、落ち着くのよ、ドリゼラ・トレメイン。
「うん…と、とりあえず、お部屋で話しましょうか? 食材も片付けたいし」
私は普段滅多に使わない来客用の椅子を2つ引っ張り出して、爆殺未遂犯の彼らに座ってもらうよう伝えた。一応、私が逃げ出さないかを警戒しているのか、食材を仕舞って私が座るまで、2人とも立ったままだった。
少し間をとったので、頭の整理ができた。
「おふたりは、『ドリゼラ』に会いに来たんですよね?」
自分で言っていて、ものすごく変な問い掛けと思ったけど他の言い方を思い付かなかった。
「はい。あなたが王妃様の身代わりだったと後から知りました。そうとも知らず先日は怖い思いをさせてしまい、本当に申し訳ございません、あの血も涙もない王妃ではないと知っていれば爆弾など仕掛けませんでした。
身代わりの話は公に伝わっていないはずだから、きっと彼らの中に独自の情報網があるんだと思った。シーラ様が本物でも爆殺されてはダメなんだけどね?
「魔法でリリック強化された、というのは?」
「この国の人間はほとんど気付かないと思うのですが、MCバトルの主催者は魔法を使って、ノワラ様の対戦相手の耳に語彙を囁きリリックを強化をしておりました……、まぁ、それでもドリゼラ様は勝ってしまったわけですが」
たしかにゴリラさん(仮称)の右耳は淡い光を放っていた。そうか、あれって「魔法」なんだ……。
「おそらく彼らは他国からやってきた者です。魔法を使うなんてイカサマ。きっと、不当な方法で一儲けしようと企んで入国してきた者どもなのでしょう」
「天書、写本……、と言っているが、魔法や他国の技術から隔離されたままでいると、近い将来、ああやっていいように搾取される時代がくる。力で魔法をねじ伏せるなんて普通はできない……。普通は」
ダークは最初に介抱してくれた時こそよかったけれど、女の子に対するデリカシーが欠けているわ。私の力(悪態)を強調するような言い方はやめてほしい。
「それで……、私を身代わりの『ドリゼラ』と知った上でどんなお話があるんでしょうか?」
アメシストさんとダークは一度お互いの意思を確認するように顔を見合わせた。そして、問い掛けてきたのはアメシストさんの方だった。
「ドリゼラ・トレメイン様……、率直に言います。私たちの仲間になってくれませんか、姉のあなたをさしおき一人だけ王妃に、幸せになったシンデレラをこっそりと亡きものにすればもはやあなたが王妃に座るしかありません。
他の誰にも代役は務まらないのですから。
あなたにとっても悪い話ではないはず。
あなたは悔しくないのですか?
あなたより劣る無能で粗暴な妹が王妃の座に収まり、有能なあなたは踵を切り落としまでしたのに王妃になり損なった。
これは間違っています。
是非ともあなたをお支えするワタシたちに協力お願いします。」
作者からの返信
コメントありがとうございます!
最後たたみかけてくる!
編集済
第39話 お勉強への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第39話 資料調査
「この国の歴史と歴代の王妃様について知りたい……、ですか?」
コンサドーレは腕組みをして、怪訝そうにワタシの顔を窺っている。
「なんだよ? ワタシが国や王妃様がたについて知ろうとしたらいけないのか?」
「いいえ、そのようなことはございません。正直、これまでのシーラ様からはあまり想像できないお言葉ゆえに、どういった風の吹き回しかと思いまして……」
ぶん殴ってやろうかこのやろうかこのやろう。
マジでそう思った。
コンサドーレは一度、咳ばらいをしてからそう言った。いちいち癇に障る男、ホント。マジでドリゼラちゃんの好みがわかんない。
「ワタシだって王妃の自覚はあるんだよ? もっと勉強して『らしさ』を身に付けたいと思ったらいけないわけ?」
「わかりました。シーラ様のお考えは我々としてもうれしい限りです。できれば、そのお言葉使いから直してほしいのが本音ではありますが……」
「うっさいな、もう! 一言多いんだよ!」
「失礼致しました。それでは、後程資料をお部屋に運ぶよう侍女に申し伝えておきましょう」
コンサドーレは深く一礼をして、部屋の扉を音もなくゆっくりと閉めた。
「まったく堅物なんだからよ……」
しばらくすると、侍女のアクアがワゴンにたくさんの書物を載せて部屋へ入ってきた。
「シーラ様、お勉強をなされるのですか?」
書物の1つに手を伸ばしたワタシを見て、アクアが問い掛けてくる。
「みんなして……、ワタシが進んで勉強するのがそんなにおかしい?」
「いいえ! そんなことはございません! 申し訳ございませんでした!」
アクアは、天辺に重しが付いてるかと思う勢いで頭を下げた。テーブルの角に当たったりしたら大変そう……。
「そいえば、アクアって王妃の侍女はけっこう長いの?」
「私ですか!? 今21で…18のときからですので、3年になります!」
「へぇー、つまりエリザベート様のときからか!?」
「左様でございます」
「エリザベート様ってワタシの憧れなのよね? ここではどんな感じの人だったの?」
「それは……。申し訳ございません! 王妃様のお部屋にあまり長居しておりますと怒られますので、これで失礼致します!」
アクアは本日2度目の危ないお辞儀をして、ぱたぱたと部屋を出ていった。ワタシは少しの間、彼女が出て行った部屋の扉を見つめていた。
「さーて……、王妃シンデレラ様もたまにはお勉強するんだから!」
ワタシは、たくさんの書物の中から歴代の王妃とその出自について記された資料を手に取り、ベッドに寝そべった。
あれ、書物の山の下に封筒のようなものがはみ出している。
「これは?」
作者からの返信
コメントありがとうございます!
なにか発見した……
第38話 再会への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第38話 再会
賞金の金貨3枚をもらった私は、ほくほくになってお買い物を楽しんでいた。
ORBラップMCバトル大会の主催者さんとゴリラさんは悪いことでもしてたかのように、そそくさと退散していった。
集まっていた人たちから、嬉しいのとそうでない両方の賛辞を浴びながら私は、内側にくすぶっていたものが減って心が軽くなっているのを感じていた。
心なしか、大会中の私は、まるでシーラちゃんが乗り移ったような思考をしていたような気がする。一緒にいるとどんどん似てきてしまうかも?
バザールのお店で簡単な昼食をとって、食品を少し買い込んだ後、私は帰り道の眺めを楽しみながらゆっくりと歩いていた。
――そういえば、初めてシーラちゃんと会ったのはこの辺だったわね?
「ドリゼラ・トレメイン」と「王妃シンデレラ」2つの顔を使い分けての生活は、あの日の出会いから始まったんだ。怖い思いもしたけど、彼女と出会ってからの生活はとても楽しい。
むずかしいことは考えないようにしよう。
連れ去られた一件以降は、ご公務の際の警備がとても厳しくなっている。こうして身代わりの私でもきちんと守ってくれているんだ。裏でなにかしてるとかは知らないけど、少なくとも王国警備兵は今の私の味方だ。
夕日を眺めながら、のんびり歩いていると思ったより帰宅が遅くなってしまった。家で待ってる人はいないから関係ないけど……。
石造りの白い壁をした1階建ての、なんの変哲もない自宅の鍵を開け、私は家の中に入った。
そのとき……。
背中を強く突き飛ばされた。
バランスを崩して、玄関に倒れ込んだ。買ってきた食材の袋を落として、トマトが何個か床に転がってしまった。
開いたままの扉から誰かが家に入ってきて、それはゆっくりと閉じられた。
どうする? 大声をだす? それとも戦う? 今度はもう臆さない!
――両方だ!
大きく息を吸うと同時に、大声のために腹に力を込める。
MCバトル大会優勝のこの口を舐めないでよね!
「申し訳ありません! ですが、どうか落ち着いて下さい!」
耳に飛び込んできたのは、知っている声だった。この声は……たしか。
「ワタシを爆弾で爆殺しようとしたアメシストさん!?」
作者からの返信
コメントありがとうございます!
爆弾魔、再登場!?
第37話 破格への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第37話 ストリートの王者
「兄ちゃん、この女の鼻っ柱折ってもいいのか?」
「こっ、こら……、ここで『兄ちゃん』って呼ぶんじゃない!?」
主催者さんの仕込みは弟さんなのね? わかりやすいというかなんというか……。
酒樽を間に挟み、正面には本当に人間かと疑うほどの「巨人」みたいな人が立っている。私の縦に2倍……、はさすがに言い過ぎかもしれないけど、1.5倍は本当にありそうな大きい男。主催者さんの兄弟なのか確かめていないけど、顔は1ミリも似ていないわ。
「はいはい! 皆さん! いよいよ決勝戦ですよ! まさか女の子が勝ち進んでくるなんて予想外の展開ですね!」
周囲から歓声が上がる。私の応援をしてくれる声が多いのは嬉しい……、けど、たまに「ゴリラ」って聞こえてくる。
だから、「ゴリラ」ってなんなのよ?
まさか対戦相手のお名前が「ゴリラさん」じゃないわよね?
「勝たないと兄ちゃんからご褒美もらえないからな……。言っとくが」
「『手加減できない』、『凹んでもしらない』でしょ!」
「おっ…おう、それだ! 覚悟しろよ!」
対戦相手のゴリラさん(仮称)は、言いたいことを先に言われてなのか、煮え切らない顔をしていた。
「では、魔導マイクを握って下さい! 余らせたらダメですよ!」
私はゴリラさんと向き合い、お互いしっかりとマイクを握った。過去2戦と違い、ここで彼はなにも言わなかった。手の大きさが違い過ぎて、小さなマイクは巨大な生き物に丸呑みされてるみたいだった。
「それでは……、先攻!血塗れドリセラ、レディ……ゴー!!」
私は一気に片を付けようと言葉にバシバシ力を込めた。その時、彼の異変に気付いた。
なんか耳が……光ってない?
◆◆◆
MCバトル大会の主催者と、決勝まで勝ち上がった大男は兄弟だった。主催の男は、弟の怪物じみたバイブスを利用してうまく儲けようと企んでいた。適当にいくつかの街を回り、MCバトル大会を催して金を集めていた。
彼の弟のバイブスは見た目同様、人間離れしており、負ける姿は想像できなかった。
しかし、万が一同等の力を持つ人間が現れたときの「秘策」も念のため準備していた。
それは、「魔導イヤホン」
彼ら兄弟は、他国からやってきた人間だった。高額な裏取引によって、正式な手続きを経ずにこの国へと入り、ズルい商売で一儲けした後はすぐに出て行くつもりでいた。
主催者の兄は、大した練度ではないが魔法の心得があった。腕相撲で、もしも弟が負けそうな相手に遭遇した際には、耳に入れた魔導イヤホンから補助魔法によってわずかな時間、リリックの入れ知恵をすることにしていた。
そして、今……、「万が一」の事態を迎えてしまっていた。
彼は弟の右耳に魔法をかけた。この国が魔法を禁忌としていることを知っていたので、使っても誰もそれに気付かないと思っていたのだ。
弟の右耳は淡い光をまとい、対戦者の少女のアンサーを押し込んでいく。
彼は、この国に入ってからお金で雇い入れた人間を使い、MCバトル大会の賭け事を並行していた。そして、弟の優勝に多額の投資――、いや、投機をしていたのだ。ゆえに弟を負けさせるわけにはいかなかった。
◆◆◆
ゴリラさんの耳が光ったと思ったら、それから明らかにリリックが増した。じりじりと……、だけど確実に私のマイクを握る右手のは「敗北」に近付いている。
周りの歓声が大きくなる。よく見たら、前に戦った四角いおじさんと丸いおじさんもそこに混ざって声援を送ってくれていた。自分を負かした相手に、どうせなら優勝してほしい、といったところなのかな?
ゴリラさんの表情はとても険しい。すでに頭の血管が数本切れていそうな凄まじい形相をしている。なんで耳が光ってるのかわからないけど、とにかくとってもバイブスの強い男の人だと思った。
――そうなんです。私にはまだ、周りを気にする程度の余裕はあるんです。
だけど、さすがにあんまり油断すると危ない気がしてきたので……。
本気で畳み掛けるわよ!ドリゼラ・トレメイン!
「オマエにはシンネンがネー!!バシバシ」
残りの12小節、周りの観客全員が理解できるほどの韻を叩き込んだ。
歓声の大きさがドリゼラの勝利を確定する。
私は渾身の悪態を右手に込めた。全力でゴリラさんのアンサーを押し返すと、それは一気に150度くらいまわって彼の心をへし折り、彼のマイクは悔しさのあまり酒樽の天板にめり込ませた。
「勝者!血塗れのドリゼラ!」
板が砕ける音がしたけど、ゴリラさんの手は無事かしら? ――だけど、散々、怪我はどうこう言われてたから、無事でなくても仕方ないかな?
次の瞬間、周りからすごい歓声が上がった。なんかよくわからないけど、デッカい男の人に囲まれて何度も宙に放り投げなれた。宙を舞いながら私は叫んでいた。
「やったーっ!! 優勝したわよー!!」
作者からの返信
コメントありがとうございます!
ここではゴリラさん継続(笑)。
第36話 無双への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第36話 国士無双
ORBラップバトル大会の会場は沸いていた。なんだか集まっている人の話だと、1回戦で私と戦った四角いおじさんは、この辺りで有名なラッパーだったみたい。
それを見た目の大きさは半分くらい、体重で比較したら、三分の一くらいかもしれない女の子が破ったのだ。それは驚くし、盛り上がりもするよね。
「‥…お嬢さん、あのドリゼラってのは本当なのかい?」
主催者さんが尋ねてきた。
なりそこない王妃って……、私は何者なんだろう? 今は王妃様の身代わり? ううん……、違う違う。
「ただの、ちょっとだけ足のおおきい可愛い女の子ですよ!」
「いや……、『ちょっとだけ』って」
「ほらほら! 私が参加したからこんなに盛り上がってるんでしょ? もっと感謝してくれてもいいのよ?」
見物の人たちへ向けて軽く手を振ると、そこは大きく沸き立った。
「ドーリゼラ!ドーリゼラ!」
なにこれ!? すっごく楽しい!
「たしかに……、盛り上げてくれるのはありがたいんだけどね」
主催者さんと話をしていると、私の前に丸々と太った男の人が現れた。急にここらの気温が上がったような気がする。
「お嬢ちゃんがあの『悪垂れガンツ』に勝ったのか? けどよ、おいらをその辺の男と一緒にするなよ?」
四角いおじさんが悪垂れガンツさんだったのかしら? だったら丸いおじさん、あなたはお名前は? 逆にスクエアさん? そんなことを心で思いながら、私は笑顔で挨拶をした。
「2回戦はおじさまがお相手ですか? お手柔らかお願いしますね?」
「悪いけど、おいらは女だろうと手は抜かないからよ。その細い唇が萎れてもしらないからな?」
さっきの悪垂れガンツさん……だっけ? 四角いおじさまも似たような話を試合前にしてたけど、この人の力はどの程度なのかしら?
「はいはい! それでは、2回戦を始めますよ! 魔導マイクを握って下さい!」
丸いおじさんの手がマイクを奥までしっかりと握る。これまた四角いおじさまのときと同じで表情が変わった。
「お嬢ちゃん……、一体どこで場数を踏んだんだよ?」
「うーんと、わかんない。ストリートかな?」
「それでは……、絶壁ダカール先攻!レディ……ゴー!!」
ラップバトル開始の瞬間、私の顔の真ん前を羽虫が横切った。ほんの一瞬だけど注意が逸れてしまった。丸いおじさんの言葉のバイブスが私のリリックに襲い掛かる。
――だけど‥…。
「……ヘイヨウ!お嬢ちゃんは……、岩か!?山かヨーヨーよー」
私のフリースタイルラップは90度の角度で立った音域のまま静止している。押し倒そうとする丸いおじさんのアンサーが小刻みに震えている。顔には脂汗がにじみ出ていた。
「バシバシ砕く!ドリセラスタイル!」
私が言葉に力を込めると、彼のアンサーは全身をひっくり返しそうな勢いで途切れた。丸いおじさんは汗だらだらで全力疾走した後みたいに呼吸を乱していた。
「勝者!血塗れドリセラ!」
勝負が終わった後は、少しの静寂。
そこから堰を切ったように歓声が沸いた。
「スッゲー!! お嬢ちゃん化け物かよ!!」
「マジで無敵だよ!? 無双だよ!?」
「なんでそんな華奢なのに強いんだよ!?」
「あの口撃すごすぎるって! キツツキの血でも流れてんじゃないの!?」
なんか、褒められてるのか貶
けな
されてるのかわからない声が私に向かって飛んでくる。――というか、「キツツキ」ってなによ? なにかわからないけど語感で貶されてる気がするわ。私、キツツキ・トレメインじゃなくて、ドリセラ・トレメインですからね?
とりあえず、あと1勝で優勝ね! 相手は主催者さんの仕込みかしら?
作者からの返信
コメントありがとうございます!
キツツキの異名。
編集済
第35話 可憐への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第35話 紅蓮の口撃
「お嬢さん、参加するのは構わないけど、これストリートの本物のワルが集まるMCラップバトルだよ?」
主催と思われる、蝶ネクタイをした男が問い掛けてくる。
「わかってるわ! 別に参加条件とかないんでしょ?」
私は人だかりから前へ進み出て逆に主催へ問い直す。
「条件はないけど……、女の子だからってハンデとか付けられないよ?」
「それもわかってるわ! ほらほら、あと1人で締め切りだったんでしょ? これで始められるじゃない?」
私が主催を説得していると、その後ろから縦にも横にも大きい男の人がぬっと現れた。顔の形含めてすべてが四角形を思わせる人だ。
「いいじゃないか!? 可愛い子が1人くらい混ざってる方が盛り上がるだろうよ!?」
「あら? おじさまわかってらっしゃる! その通りよ、主催さん!」
主催の男は、笑顔の私に目を合わせて頷いた。
「怪我しても責任とらないからね?」
「それも大丈夫! それじゃ最後の1人は私で決まりね!」
こうして私は、たまたま見かけた王都ORBMCバトル大会に出場することができたのだ。
一応は、女の子なのでお仕事の荷下ろしを除いて、できるだけ目立ったところで力を振るわないようにしていた。身の危険を感じた時は別として……。
だけど、今回――というか、今日はなんていうか、思い切り口撃を使いたい気分になっていた。
アメシストさんから、王宮の裏の話を聞いて心の中がなにかもやもやしていた。それをどこか発散できる場所を無意識に探していたのかもしれない。
なんであれラップバトルだったら、口先を振るうのに遠慮はまったくいらないもんね。全力でいくわよ、ドリゼラ・トレメイン!
「それじゃお嬢さん、参加費用の銀貨5枚もらうよ?」
主催の人が参加費を回収にきた。彼が手に持っている麻袋に銀貨5枚を入れる。
このMCバトル大会のルールはとても簡単だった。参加費用は銀貨5枚、参加人数は8人でトーナメント方式、最後まで勝ち残った人が金貨3枚を手にする。
勝敗は観客の声援の大きい方で決まる。
誤魔化すことはできない。
金貨1枚の価値は銀貨10枚と同一。つまり、主催は8人から銀貨5枚を回収するので40枚手に入れたことになる。優勝賞金の価値が銀貨30枚と一緒なので、人さえ集めれば主催者は無条件に儲けられる仕組みだ。
だけど、どうやら今回はもう少しおまけの要素もあるらしい。
銀貨を払うと主催の人が私の手にピンクの組み紐を巻いた。他の参加者にも同様に、それぞれの色の組み紐を巻いている。よく見ると、色ごとの対戦表がすでにでき上がっていた。
そして、この会場のすぐ隣りでどうやら優勝予想の賭け事を催してるようだ。色で区別して予想をしているみたい。
こんな光景を見ると、頭の回転がいいドリゼラちゃんは気付いてしまいます。
この腕相撲大会の参加者には、間違いなく主催者が連れて来た「ラップの王者さん」が混ざっています。彼に優勝させて、掛け金含めてがっぽり儲けようという魂胆かと思われます。
主催者さんの目のやり方を見ていたら、そういう人がいるのもすぐわかりました。余程のことがない限り負けない自信がある人を連れて来たんでしょう。
余程のことがない限り、はね……。
「はいはい! それじゃ1回戦を始めますよ!」
私は自分のピンクの組み紐と同じ色の印の付いた酒樽の前に立った。すると、それを挟んで向かい側に、さっきの四角いおじさんが立っていた。
それぞれに魔導マイクを渡す。
「お嬢ちゃん! 1回戦からオレと対戦なんてついてないなあ!?」
「さっきはありがとうございます、おじさま! お手柔らかにお願いしますね!」
「おーい、おっさん!煽られてるぞー!アンサーしろー!」
「悪いけど、オレはどんな相手でも勝負事では一切手加減しない主義なんだ。まあ、泣き面にだけはさせないようにしてやるよ?」
「対戦者同士、魔導マイクを握って下さいね! 先攻!悪垂れガンツ!12小節の3ターン!」
「レディ!ファイト!」
主催者さんの合図で四角いおじさんがラップで悪態をつきはじめる。
四角さんが終わるとワタシのターン、12小節全部韻を踏んでやった。
そのとき、おじさんの顔つきが明らかに変わった。
「こ、コイツ只者じゃねえ!」
私も経験あるんだけど、ラップ強さって対面したときに、ある程度わかるものなのよね?
「ヒャヒャ!お嬢ちゃん……。いや、あんた! かなりできるな!?」
「おじさまが言った通りyo〜、可愛い子が混ざってる方が〜盛り上がるわよね!ユアアンダスタン!」
「それでは……、判定に入ります!」
「悪垂れガンツ!」
wa〜
「なりそこない王妃ドリゼラ!」
WWWA〜!
「勝者!なりそこない王妃ドリゼラ!」
――木材を強い力で叩く音があちこちでこだました。
すごい歓声である。
私の右手は、魔導マイクを天にかかげ、勝利の雄叫びを上げる。
おじさんの手は悔しさのあまり体ごとよじりながら酒樽の天板に叩きつけられていた。
そこから、かすかに木の粉が立ち上っている。
おじさんの顔は目玉が飛び出るかと思うくらいに見開いていた。
「なっ……なんてリリックとバイブスだ…」
「失礼ね? 誰がブスやねん!」
誰も突っ込んでくれなかった。
「おい、なりそこない王妃ドリゼラって、あのドリゼラか?」
「妹をさんざんいじめ抜いた挙げ句、妹になりすますために踵を切り落としガラスの靴を血まみれにしたという。血塗れのドリゼラ!」
「オイ!筋金入りのワルじゃねえか、ガンツごときがかてるはずがないぜ!」
「俺はドリゼラに賭けるぜ。」
「俺もだ!」「おれも!」
ドリゼラのオッズは限りなく1.0倍に近づいた。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
倍率元払い、驚異のお姉さま。
第34話 大会への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第34話 MCバトル大会
王妃シンデレラ様が連れ去られた事件は、人々に周知の事実となっていた。一度はかん口令も敷かれたようだが、現場の目撃者があまりに多く、意味をなさないと判断されたようだ。
王妃様は1日で無事に救出された。主犯の男は治安維持隊によって捕まり、自ら命を絶った。こうした結果も合わせて情報は人伝に広がっていったようだ。そこに「捕まった王妃様は身代わりだった」という情報は存在しない。
王妃のご公務は警備こそ厳しくなっていたが、以前と同じように行われ、その半分は私が入れ替わっていた。
カノン率いる王室廃止勢力は、ずっと前から治安維持法違反の罪で治安維持隊が追っている組織だったそうだ。今回の事件は結果だけ見ると、王妃様は無傷――、というより、本物は関わってすらおらず、危険視されていた組織のリーダーを消し去ることができたわけだ。
巻き込まれた私からすれば、とても「よかった」の一言では済ませられないけど、王宮としてはとてもよかったのだと思う。
今日のご公務は、シーラちゃん本人の日。私は午前中に荷下ろしのお手伝いを終えた後に、バザールまでお買い物に出かけていた。
王妃様の影武者を務めるようになってから私は、ヘアバンドで髪をまとめ、丸っこい淵の眼鏡をして外を歩いていた。
街にいるときは、シーラちゃんと出会う前となにも変わっていない。外の陽射しを体いっぱいに浴びて、鼻歌を歌いながら屋台の並ぶ道を歩く。時には、お肉の串焼きだったり、冷えたフルーツ、最近はシンデレラ様が好きな御座候を買って食べたりもする。
まずはバザールを一通り歩き回って楽しんだ後、最後に必要なものをまとめて買って帰るのがいつもの決まりだ。
軽い足取りで歩いていると、広場の辺りに人だかりができているのに気が付いた。路上で楽器を奏でる人や見世物をする人がよくいるところだ。今日もなにかやっているのかな?
人込みをかき分けて先頭に顔を出してみると、大きな酒樽がいくつかあって、そこに体の大きい男の人が並んで立っていた。
「はいはい! あと1人! どなたかいませんか!? ラップ界の発明王、言葉の魔術師、韻の精密機械を自称する方はまたとないチャンスですよ!?」
黒いスーツに赤の蝶ネクタイをした男が大きな声で叫んでいた。手にもってる看板になにか書いてある。
なになに……?
【次世代のラッパー求む! 第三回王都MCバトルORBイベント。】
「あと1人で締め切りですよ! 我こそはという方おりませんか!!」
「あと1人で……! おっと! 手が上がりましたね!? そこの……おや?」
蝶ネクタイの男は、私を指差して顔を見た後に首を捻っていた。私の周りにいる人たちもびっくりした表情をしている。
それに反して私は、内側から溢れる自信に顔が歪みそうになるのを必死に堪えていた。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
まさかの超展開!
第33話 反・聖ソフィア教団への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第33話 王政廃止勢力
宮殿に戻った翌日、私ドリゼラ
は官房長マッツオ様とコンサドーレ様のおふたりに呼ばれて質問を受けていた。王妃様のご公務は、今日までお休みする予定になっているそうだ。
「昨晩はよくお休みになれましたか?」
マッツオ様はこんな話から始めた。
「はい、お陰様で疲れもとれました。元々体力だけが自慢ですから」
「ふっ……、それはよかったです。シーラ様も貴女のことをずいぶんと心配しておられましたから」
マッツオ様はわずかに口元を緩めそう言って……、さらに話を続けた。
「ご無事でなになりでした。――そして、この度は我々が不甲斐ないためにドリゼラ様を大変危険な目に合わせてしまいました。なんとお詫びしてよいものか……」
マッツオ様もコンサドーレ様も席を立ちあがり、私に向かって頭を下げた。
「あっ…あの、やめてください! 王妃様の影武者を仰せつかったときから多少の危険は覚悟しておりました。むしろ、今回の件に巻き込まれたのが私でよかったくらいです!」
正面のおふたりは、私の顔を一度見据えた後、改めて椅子に腰を下ろした。
「ドリゼラ様は……、本当にお優しい方ですね。シーラ様が貴女に心を開くのも頷けます」
コンサドーレ様はいつもの落ち着いた声でそう言った。
「危険な目に合って早々にこんなお話をするのは気が引けるのですが、我々は貴女を連れ去った者たちの行方を追っております」
この話はいずれ訊かれると思っていた。王妃様の安全を考えれば当然だと思う。
「主犯と思われる男を治安維持隊が捕らえたのですが、隙を付かれ、自ら命を絶たれたのです」
コンサドーレ様は淡々と語った。私はとても驚いた。
誰かが自殺したってこと!? なんで? 仲間の居場所とかをもらさないようにするために……?
――主犯って誰だろう?
今、「男」って言ったから少なくともアメシストさんではないよね……?
だったらダーク? それともあの部屋にもう1人いた男の人?
「『カノン』という男でして、実は以前から治安維持隊が追っていた者でもあるのです」
カノン……、初めて聞く名前だ。
アメシストさんやダークの名前じゃなかったことに安心している私がいた。
「カノンは、『王政廃止』を掲げる組織を率いている男でした。今回、彼と組織の数人を捕らえることができました。ですが、彼は死に……、残りはどうやら末端の者のようなのです」
「王政廃止」アメシストさんの話が頭に蘇ってくる。
『――私たちが生きるうえでの選択の権利を奪っていると思うのです』
「ドリゼラ様、貴女が囚われていた時、彼らについてなにか見聞きしておりませんか? どんな些細なことでも構いません。思い当たることがあれば話してほしいのです」
「えっ…と、私、目隠しをされていて会話とかも全然聞こえなくて……、その、なんていうか、お役に立てなくてホントごめんなさい」
私はどうしてこんなふうに言ったのだろう?
あめかさんやダークのこと、ひょっとしたら本名じゃないかもしれないけど、話したら彼らを捕まえる手がかりになるかもしれない。
彼らを野放しにしていたら、王妃様に……シーラちゃんに危険が及ぶかもしれない。なのに、どうして彼らについて隠してしまっているのだろう?
私の返事があまりに早く……、その後すぐに黙ってしまったせいか、マッツオ様もコンサドーレ様も困った顔をしているように見えた。
「恐怖で周囲を気にする余裕すらなかったことでしょう。その心中は察するに余りあります」
気まずくなりかけた空気を払うようにコンサドーレ様は言った。
「思い出して気持ちのいいことのはずがありません。無粋な質問をどうかお許しください」
「いいえ、私は大丈夫です。もし、なにか思い出したら必ずお伝え致します」
「ご協力痛み入ります。王妃様のご公務は明日から再開の予定ですが、警備体制は万全を期します。貴女にも、シーラ様にも、万が一もないよう致しますのでどうかご安心ください」
囚われていたとき、聞かされた話について尋ねてみたかった。だけど、真正面から問いかけてまともな返事をもらえるはずがない。
ちょっとだけ考えた末、私は1つだけ当たり障りのない程度に質問を投げかけた。
「あの……、エリザベート様は今どうされているのですか?」
場違いの質問だったせいか、一瞬だけ時が止まったように静かになった。
「シーラ様の前の……、王妃エリザベート様のことですかな?」
マッツオ様が改めて私に問い掛けてくる。
「はっ、はい! 実は私が一番憧れていた王妃様でして……、退位されてからどうなされているか気になっていたんです」
「ふむ。立場上、簡単にお会いするのがはむずかしくなっておりますが、元気にされておりますよ」
「そっ、そうなんですね! よかった!」
「たしかに彼女は、歴代の王妃のなかでもひときわ人気のあるお方でしたからな。王宮の表舞台からは退いておりますが、今でも陰で我々を支える役割を担っておられます」
今でも王宮内にいらっしゃるのね。元々、「王妃様」だったがゆえに人目に付きにくいお仕事を割り振られるのかな?
「ドリゼラ様について彼女に詳しくお話はできませんが、気遣っている者がいることは伝えておきましょう。彼女も喜ぶはずです」
マッツオ様はそう言った後に席を立ち、一礼をして先に部屋を出て行かれた。
「シーラ様もエリザベート様にとても憧れをもっているようでした。貴女たちはもしかしたら、お姿以外にも似ているところがあるのかもしれませんね?」
コンサドーレ様はにこやかな表情でそう言った。
たしかに、シーラちゃんとよく話すようになってから、彼女の気持ちが今までより理解できたり、お話の次の一言が先にわかるときもある。
「似ている」というより、無意識に内面までもが歩み寄っているのかもしれないな……。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
先代王妃様の行方はいかに……。
第32話 帰還への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第32話 仕組まれた帰還
「ドリゼラ姉さんっ!!」
シーラちゃんは私の顔を見るなり、大声を上げてすごい勢いで抱き着いてきた。私だから受け止められたけど、普通なら一緒に倒れちゃうから気を付けないとね?
◇◇◇
私は手足の拘束を解いて爆弾の導火線をフッチした後、囚われていた建物を出るかしばらく迷っていた。外に出て急に襲われたりしたらどうしよう、とかいろいろ考えてしまってなかなか一歩を踏み出せずにいた。
ベッドのある部屋のなかで思案しながらうろうろと歩き回っていると、外から複数の人の声が聞こえてきた。程なくして足音が聞こえ……、そしてついには人が入ってくる気配を感じた。
その人たちが、王都の治安維持部隊と気付くのにそう時間はかからなかった。彼らの服には皆共通して、36を意味する古代文字を模した紋章が記されているからだ。
私は、彼らに保護されて無事に王宮へと送り届けられた。アメシストさんやダーク……、他にいた人たちがどうなったかはわからない。
王宮の馬車で宮殿に送られた私は、まず医務室に連れていかれ、お医者様から容態をいろいろと尋ねられた。
長い時間拘束をされたり、目の前で人が刺されたのを見たりと、心に傷を負った感じはあるけど、身体的な怪我はほとんどなかった。
特に後者は……、忘れたくても忘れられそうにないけど、時間が経てばきっと自然と傷は癒えると信じることにした。
「肉体的にも、精神的にもお疲れかと思います。我々もドリゼラ様に尋ねたいことがいくつかございます……が、まずはシーラ様に会って下さいませんか?」
医務室で休んでいたところへコンサドーレ様がやってきてそう言った。
「お恥ずかしい話ですが、ドリゼラ様が無事と知らせたところ、会わせろと騒ぎ出しまして……。貴女がお疲れである旨もお伝えしたのですが」
シーラちゃんらしいなと思って、思わずにやけてしまった。
「かしこまりました。私もシーラ様にお会いして、早くご安心して頂きたいですから」
彼に案内されて神殿内にあるシーラちゃんの自室に向かう。
「おふたりで話したいこともあると思いますので、しばらくしたら改めてお迎えに上がります」
シーラちゃんの部屋をノックする。元気のいい返事が聞こえ、コンサドーレ様は扉を開けてから、私に一礼して立ち去っていった。
部屋の中に入ると、シーラちゃんは走って私に抱き着いてきたのだった。
「ドリゼラ姉さんならぶん殴ったら勝てるんじゃないの?」
私とシーラちゃんは並んでベッドに腰掛けながら話をした。彼女は忙しくなく足をパタパタと動かしている。
「私は力持ちだけど……、そんなに勇気はないから」
いつかバザールで王宮の人を吹っ飛ばしてしまったことがあるけど、間違っても危害を加えられる心配はないと思っていたから抵抗できたんだと思う。身の危険を感じると、できそうなことでもできなくなるもんだ。
「そっかー……、ワタシ、ドリゼラ姉さんは最強無敵だと思ってたよ?」
――うん、それはかなり間違っているわ……。
心の中で苦笑していると、シーラちゃんがまた抱き着いてきて、私の胸に顔をうずめてきた。
「ごめんなさい、ドリゼラ姉さん、ワタシの代わりなんかやったからこんな目にあったんだよね? ホントごめん……」
彼女の声は涙声になっていた。本当に優しい子なんだ、この子は。
「ううん、影武者をするって決めたのは私だし……、なにも悪いことされてないから大丈夫だよ?」
彼女の頭を、綺麗な髪をなぞるように撫でながら私は話しかけた。
一時、私もシーラちゃんもなにも言わなかった。まるでお互いの存在を確かめるように少しの間、抱き合っていた。
囚われていた時は正直怖かった。けれど、私が怖い思いをした代わりにこの子があんな経験をせずにすんだのならそれでいいとすら思えた。
口は悪いけど、心は優しくてキレイなこの王妃様を守れたのだから……。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
爆弾爆発しなくてよかった!
第31話 決意への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第31話 声東撃西の計
「シーラ様が進んでご写本をしようとなさるとは……珍しいこともあるものですね?」
コンサドーレの小言、というか嫌味が聞こえてくる。
「うるさい。昨日の罪滅ぼしだよ! 一晩経って頭冷やしたの! アクアには怖い思いをさせたしさ、反省してんだよ!?」
ワタシはいつものように目隠しされ、コンサドーレに手を引かれて階段を下っている。周りの空気が徐々に冷たくなっていくのを感じる。ワタシの大きな声は何度も反響していた。
「良い心掛けです。公にはドリゼラ様ではなく、シーラ様が連れ去られたことになっています。外に顔を出すわけにはいきませんが、『ご写本はたまる一方ですから。少しでも減らしておく必要があります」
「ドリゼラ姉さんの捜索、ちゃんとやってんだろうな?」
「どうかお言葉使いを改めて下さい……。もちろんです。王宮総出で、昨夜から今なお続けております。必ず無事に救出しますので、我々を信用して下さい」
コンサドーレの口調はいつだって変わらない。ドリゼラ姉さんはこんなやつのどこがいいんだろう? ワタシにはさっぱり理解できない。
「昨日はワタシが悪かったよ。けど、ドリゼラ姉さんの件を隠してたのは許さないかんな? ことが片付いたら絶対ぶん殴ってやるから覚悟しとけ?」
「王妃ともあろう方が暴力など……、すべてはシーラ様を想っての判断です」
「なんならワタシの代わりに戻ったドリゼラ姉さんに殴ってもらうか? 後方に三回転半して壁に激突するだろうがな。」
「お戯れを……。さぁ、階段はここまでです。お気を付け下さい」
目隠しが取られ、施錠された鉄扉が視界に入った。薄暗くて、いつもと変わらずとても静かだ。ご写本の間……、自分の意志で進んでここに来たのは初めてかもしれない。
王立図書館のご写本の間の中はとても広い、ワタシが使っている部屋と同じくらいの広さかな? 入って正面にワタシの顔より少し小さいくらいの羊皮紙の掛け軸がある。そこの向かいにご写本用の古びたテーブルがあり、監視役の侍女が見張る中ご写本を行うんだ。
前にテーブルから叩き落として少し破れ目が見える天書を机の上に置く。
「あら?」
王立図書館ご写本の場のテーブルの足の陰に小さな羊皮紙の紙切れが落ちている。(第一話参照)
「こ、これは」
そこにはシンデレラがいま最も欲しがっている情報が書き込まれていた。
これまで天書の書き込みの教えをいくつも実行してきた。
王宮脱走の時には、
金蟬脱殻の計
あたかも現在地に留まっているように見せかけ、主力を撤退させる。
を使ったし。
ドリゼラ姉さんをコンサドーレに近づけて懐柔する。
美人計
土地や金銀財宝ではなく、あえて美女を献上して敵の力を挫く。
普段から悪い言葉使いや暴力的な態度をして愚か者に見せかける。
仮痴不癲の計
愚か者のふりをして相手を油断させ、時期の到来を待つ。
今もコンサドーレに対して従属しているように見せかけている。
反客為主の計
一旦敵の配下に従属しておき、内から乗っ取りをかける。
瞞天過海の計は昨日使ったわね。
天書には本当になんでも載っている。
羊皮紙を見張の侍女に見つからないよう懐に仕舞う。
ワタシは服の中にその羊皮紙を隠す。
これでドリゼラ姉さんのことはなんとかなる。
そう確信した。
声東撃西の計
ワタシの声が外に聞こえているのかはわからない。けど、そんなのを確かめる必要もないと思った。たったひとつだけの欲しい情報さえもらえればあとは天書を信じて計を実行するのみ。後から処罰とかあるかもだけどワタシは構わない。
ワタシには……、そして囚われのドリゼラ姉さんには今この兵法36計が大事なんだ!
どんな「お悩み」にだって応える天書、王妃のお悩みに応えてくれてありがとう。
ワタシは意を決して、声東撃西の計の本質たる偽情報の語りかけを行った。
「ドリゼラ姉さんはそんなところに囚われているんだね、よしわかった、ワタシの大切な姉さんドリゼラ・トレメインを今すぐに救出なさい。」
ワタシが突然語り始めたことを怪しんで、見張の侍女は慌てて精細の報告のためコンサドーレの下へ走り去った。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
囚われの場所がわかってしまった!
編集済
第30話 解放への応援コメント
作者 武緒さつき♀
第30話 兵法三十六計の第32計、空城計
『アメシストは見かけによらず腕は確かだ。下手な真似をしたら鮮血の雨が降ると思え?』
夜、私はベッドに寝かせてもらえた。部屋に入る前にダークが一言残していった。私の眠るベッドにもたれるようにしてアメシストさんも眠っている。囚われの私の方が待遇いいようで変な気を使ってしまう。
手足の拘束は変わらずそのままだ。自由のきかないストレスが溢れそうなところまできていた。思わず縄を引きちぎってしまいそうな衝動に駆られる。だけど、抵抗したと思われると、今は襲ってくる気配のないアメシストさんも豹変するかもしれない。
私って、自分が思っているよりずっと臆病だなと心の中で呟いていた。
ベッドに横たわりながら、カーテンのかかった窓に目を向けた。上の方にあるわずかな隙間から月明かりが漏れている。
王宮の人たちは私を捜してくれているのかしら?
シーラちゃんは……、コンサドーレ様はどうしてるかな?
物思いに耽りながら、徐々に瞼が重たくなっていく。極度の緊張を強いられて身体は限界を迎えていたのかもしれない。体温で暖かくなったベッドに溶けていくような感じがする。
そうして私はいつの間にか眠りについていた。
◇◇◇
「起きてください、シーラ様」
私はアメシストさんの声で起こされた。こんな状況でも身体は正直というか、疲労には勝てないというか、ぐっすりと眠っていたようだ。だけど、彼女の声に緊急性が漂っていたので、すぐに意識は覚醒した。
あれ? 私、目を覚ましたよね?
目覚めたはずなのに、視界にはなにも映っていない。
「申し訳ありません、目隠しさせてもらいました。できればずっとその状態でいて、なにも見聞きしてないことにしてほしいのですが……、シーラ様のご判断にお任せします」
なんだか今の生活になってから目隠し多いなあ……、――というか、今のアメシストさんの言葉はどういう意味だろう?
「行くぞ、アメシスト。もたもたするな?」
「女は準備に時間かかるのよ」
「隠れ家に仕掛けた爆弾はあと15分で爆発する、巻き込まれたくないだろう。」
なにも見えないけど、なにか慌ただしい雰囲気を感じる。
「少し心細いかもしれませんが、時機に王宮の人間がここに来るかと思いますのでご安心下さい。それでは、ご無礼致しました。王妃様」
「ご安心?さっき爆弾仕掛けて15分で爆発するとか物騒なことを言ってなかったか?」と心の中でつぶやいてみた。
アメシストさんの声と足音が遠のいて行くのが聞こえる。残されたのは静寂だけだ。
――ひょっとして、今、私ここにひとり?
耳を研ぎ澄ましてみても、話し声や足音はまったく聞こえてこなかった。
「むんっ!」
思い切り手足を広げると、私を拘束していた縄はあっけなく引きちぎれた。目隠しを外して周囲を伺ってみる。
人の気配が完全に消えていた。
私は、肩をぐるぐると回して、その場で2,3度飛び跳ねた。手足を自由に動かせるのがこれほど気持ちいいとは思わなかった。
ほんの少し前に聞こえてきたやりとりを思い出す。
『行くぞ、アメシスト。もたもたするな?』
『女は準備に時間かかるのよ』
『隠れ家に仕掛けた爆弾はあと15分で爆発する、巻き込まれたくないだろう?』
『――時機に王宮の人間がここに来るかと思いますのでご安心下さい』
察するに、王宮の人たちがこの居場所を突き止めたのかな? その情報を掴み、踏み込まれる前に爆弾を仕掛けて退散した、と考えるのが自然な気がした。
もしそうなら、王妃である私を殺す気満々じゃない。
人を無理やり連れ去るやり方が正しいなんて思わない。しかも爆弾でワタシごと吹き飛ばすとかゴリゴリの悪人たちじゃん。
「とりあえず爆弾の導火線ブチっと。」
いろんなことを考えながら、昨日の夜、月明かりが漏れていた窓のカーテンを開けた。眩しい朝日が目に飛び込んでくる。
陽は思ってたより高い位置にきている。連れ去られた身だというのに、ずいぶんと熟睡していたんだと少し自分に呆れてしまった。
「なんだか……いろんな話聞いちゃったなあ」
作者からの返信
コメントありがとうございます!
唐突に時限爆弾は笑う。
第30話 解放への応援コメント
とりあえずは無事で何よりです。
元から聖女パーラ様に危害を加えるつもりはないから放置はありですが、教団がやってくる前に結構余裕をもって逃げることができるのは、教団内部から情報が漏れたと思うのが一般的。
そしてガーネットの関係者が教団内に繋がりがあると言ってましたが、すべて一方的な情報ですし、ひねくれた見方をすると、教団内に裏切り者がいると思いこませるのが目的とも考えられますね。
さてノワラちゃんが持ち帰る情報(どの程度話すかは分かりませんが)を教団がどう処理するのか。
そしてロコちゃんはノワラちゃんのためにどんなことしたのか。
特に後者へ興味津々です。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
あっさり解放されたノワラですが、この聖女連れ去り事件にはいろんな事情の人が絡んでいますね、ちょっとずつ明かされていきます。
第29話 閉鎖国家 への応援コメント
鎖国政策は外部からの干渉がなければ、それなりにうまくいくでしょうね。
特に女神様からのご神託という、どこにもない(と思われる)アドバンテージがあれば尚更。
だけど鎖国が絶対悪いとは言い切れないの確かで、周りの状況によっては最善策という事もあり得ると思います。
ノワラちゃんはその見極めができるか、そしてパーラ様の助けは間に合うのか?
この事件が二人の関係性を深めるのは確かだと思うのですが、袂を分かつきっかけにならないことを祈るばかりです。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
過去に他国の侵攻もあるので、それで危機に瀕していれば多少は変わったのでしょうが、女神様のご神託で、それすら乗り切っているのがこの国。閉鎖的になるのもある意味で仕方ないのかもしれませんね?
第27話 パーラの力への応援コメント
安心して報告を待てとな。
いやサフィール君、今更それを真に受ける人はいないと思いますよ。
パーラ様は自身の、聖女の立ち位置を確認できそうですね。
これにより教団の事をより知ろうとするかも?
教団には良い事ではなさそうですが、ご神託をきける唯一の女性。
折り合いがつくのか、教団が押し切る(正体を見せる)のか。
実はノワちゃんよりロコちゃんの方がやばい?
作者からの返信
コメントありがとうございます!
サフィールは案外、事務的というかドライなのかもしれませんね?
第29話 閉鎖国家 への応援コメント
>たくさんの人を一度に運ぶ馬車より速い乗り物
路面電車?まさかスガワラさんが来る前の世界?
作者からの返信
コメントありがとうございます!
先のお楽しみですね!