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作者 武緒さつき♀
第47話 天国
「官房長は、いつから政治家やってんの?」
ご公務に出る前の準備中、ワタシは近くにいた官房長に話しかけていた。
「王室内閣閣僚に就いての期間ですか? 『官房長』になってからおよそ10年ですから、政治家としてはもうずいぶんになりますな」
「今のコンサドーレみたいに王妃様のお世話係りとかやってたの?」
官房長は、記憶を辿るように虚空を見上げてから答えてくれた。
「ええ、そういった経験もあります。もっともシーラ様ほど荒々しい王妃様は初めてですが……」
「ふんだ! 退屈しなくていいだろ!?」
「さあさ、そろそろ切り替えて下さい。そのお言葉使いはここだけの約束です」
さすがに官房長のマッツオ様相手だとワタシも気圧されてしまう。一度、目を瞑って大きく息を吐き出した。
――よし……、気持ちが整った。
「では、参りましょうか。ワタシを待っている書物があるところへ」
表情を引き締め、背筋をスッと伸ばしてワタシは歩き出す。宮殿の一室を出ると、親衛隊がすかさず周りを囲んで共に進んでいく。
結局ドリゼラ姉さんとコンサドーレがどこ行ってるかは知らないけど、本物の王妃様がドリゼラ姉さんに見劣りしたらマズいからね。しっかりご公務に励むとしましょうか。
なんだか、どっちが「身代わり」かわかんなくなってきたなぁ……。
◆◆◆
不死城の壁を抜けた先に見えたのは……、いくつも並んだ綺麗なお屋敷。
街の位の高い人たちが住んでる居住区みたいな雰囲気だ。
「……ここは?」
コンサドーレ様に問い掛ける、――というよりは、ほとんど独り言だった。けど、それに彼は答えてくれた。
「不死城は、かつて王妃を務め上げた方々の居住区なのです」
「おっ、王妃様のですか?」
もう、ここ最近ホントに驚いてばっかりだ。私の寿命まだちゃんと残ってるよね?
「はい。王妃様はそのお立場上、役割を終えられた後、天書の効果で寿命が無くなるのです。
死ぬこともなくなり若さも保たれます、あなたは数百年前の王妃が若い姿でそこに存在したらどうですか?
あまりにも目立ち過ぎる存在ですよね。
そのため、普通の生活を送れません。ただ、この国や教団への貢献度合いでいえば計り知れないものです」
たしかに若さを保つエリザベート様やナザリア様を街で見かけたなら、たとえ王妃を退任された後であっても注目を集めることになるだろうなあ……。それに100年前の王妃が出現したら大騒ぎになるよね。
「また、天書の智慧と接触している数少ない人物であるため、居所がわかれば他国の者から狙われる可能性すらあるのです。不老不死を欲している人物は数多いますからね。
そのため、彼女たちは任期を終えた後ここで匿われ、生活をしております」
国や国民のために尽くしてくれた王妃様だからこそ、役割を終えられた後もしっかりと保護されているということか……。
「外の人間からは『不死城』と呼ばれていますが、中の人間は『天国』と呼んでおります。ここのゾンビを連想する不気味な言い伝えも、外の人間が近付かないようにあえて流しているのです」
私はコンサドーレ様の話を聞きながら、彼の後ろを追って歩いた。綺麗に整備された石畳みの道を進むと、これまたしっかりと手入れされた庭園が見えてきた。色とりどりの季節の草花が視界に入ってくる。
植物のアーチを潜った先には小さな噴水とベンチがあり、そこにはひとりの女性の姿があった。白いワンピースを着た大人の女性だ。
肩のあたりまで真っすぐ伸びた金色の髪は、陽の加減で翡翠のような色にも見えた。庭園にあるどの花も羨むような美しい姿……。
そこにいるのは間違いなく、先代の王妃エリザベート様だった。
「ご機嫌麗しゅう、コンサドーレ。」
「ご機嫌麗しゅうございます、エリザベート様。本日は急なお呼び立てに応えて頂き誠にありがとうございます」
「いいえ、構いませんわ。ここでの生活は不自由こそありませんが、退屈ですから……。来客は大歓迎ですよ」
「ドリゼラ様、ここはどこよりも秘密が守られる場所ですから、エリザベート様には貴女が王妃シンデレラ様の影武者とも伝えてあります」
呆然として口が半開きになったままエリザベート様を見つめていた私は、コンサドーレ様の言葉で正気を取り戻す。すると、エリザベート様が私の元へ歩み寄ってきた。
「現王妃シンデレラ様とは彼女の任命式でお会いして以来ですけど……、『ドリゼラ』さんでしたか……、本当に驚くほど似ている双子ですわね?」
彼女は、鼻と鼻がぶつかりそうな距離で私の顔をマジマジと眺めている。こんな近くでお目にかかったのは初めてだ。なんて綺麗な人なんだろう……。女性の私でも見惚れてしまう。
「えっ…と、お初にお目にかかります! ドリゼラ・トレメインと申します!」
私は、頭をぶつけないように一歩下がってからエリザベート様に向かって大きく頭を下げた。
「そんなにかしこまらなくてもよくてよ、ドリゼラさん? 私はもう王妃を引退して隠居した身ですから」
お辞儀をしたまんまで私はいろいろと考え事をしていた。
代々の王妃様のお姿を見かけないのは内閣が護ってくれていたからなんだ。アメシストさんやダークの言っていた「八星魔王オクタグラムの生贄」なんて話が急にバカバカしく思えてきた。
あんな話を信じかけていた私はどうかしていたんだわ。
それに……、これでシーラちゃんが生贄にされるなんてこともないってわかった。なんだか胸のつっかえが無くなってとてもスッキリしてきた。
「あの! コンサドーレ様は私をエリザベート様に会わせるためにここへ?」
私は顔を上げて、コンサドーレ様に問い掛ける。先代の王妃様の無事が確認できたのはよかったけれど、私がここへ連れて来られた理由がよくわからない。
「それはですね、実はエリザベート様もなのですが、そのお世話をしている人と会ってもらいたかったからなのです」
「お世話の人……ですか?」
「うふふ、コンサドーレに言われてちゃんと呼んでおきましたわ。もうすぐここへ来ると思いますよ?」
そう言ってエリザベート様はにこりと笑っている。私にはなんのことかわからない。
そのとき、後ろに人の気配を感じた。
「こっちですわ! トレメイン夫人!アナスタシア!」
エリザベート様が大きな声で呼びかける。
――あれ? 「トレメイン夫人」と「アナスタシア」って……。
後ろを振り返った私は、こちらに来る2人の顔を見て思わず叫んでしまった。
「おっ、お母さん!?アナスタシア姉さん!?」
作者からの返信
コメントありがとうございます!
たしかに100年前の人が当時のままの姿で闊歩してたら驚く……。
おおぅ!?(´ ゜∞ ゜`;)これは、いったい…
作者からの返信
コメントありがとうございます!
意外にも普通に両親が登場しました!