作者 武緒さつき♀
第43話 虚ろ
「ドリゼラ姉さん!ドリゼラ姉さん!?」
「……」
「昔いじめられた怨みをここで晴らそうか!!」
「っっひぇ!?」
「あはははっ! 『ひぇ』だって!? 可愛いなぁ、ドリゼラ姉さん!」
シンデレラ様が急に恐ろしいことを言うからびっくりしてしまった。
「もう……、あんまり驚かさないでよ? 心臓止まっちゃうかと思ったわよ?」
私が文句を言うとシーラちゃんは、何度も話しかけてるのに返事がないから、と言った。考え事をしていて上の空になっていたみたいだ。
「どったの、ドリゼラ姉さん!悩み事なら相談のるよ?」
私の頭を支配しているのは、先日のアメシストさんとダークの話だ。
王妃様がハ星魔王の生贄なんてとんでもない話だ。だけど、それは明確に否定できる。
だけど、代々の王妃様のお姿を見ないことや、シーラちゃんの言っていた「写本を通して会話できる」が説明できてしまうのだ。
もしそれが事実なら、天書の啓示によって成り立っているこの国は、王妃様の犠牲によって成り立っていると言い換えられる。少なくとも王政廃止勢力の人間はそう信じている、そして、今目の前にいるシーラちゃんにもいずれその運命が待っていると思っているのだろう。どうにかしてその間違いを正さなければならない。
私はアメシストさんたちの話を否定する証拠がほしかった。一番わかりやすいのはエリザベート様やナザリア様といった、不老不死で生きているはずの以前の王妃様全員とお会いすることだ。どうにかしてそれができないかをずっと考えている。
アメシストさんの仲間になるなんてもちろん言っていない。ただ、代々の王妃様について調べてみるのだけは約束した。なにより私自身がそれについて知りたいからだ。
「ひょっとしてコンサドーレのこと? ワタシがあいつの好みとか聞いてやろうか?」
「ちっ、違うわよ、もう!」
一瞬締め殺してやろうかと殺意が走ったがやめた。
シーラちゃんはけらけら笑いながら、お部屋のベッドに転がっていた。
王宮にある王妃様の私室。限られた時間だけど、ここへの出入りを許されるようになっている。ご公務に出る前のちょっとした合間を彼女と話しながら過ごしていた。
「シーラちゃんは王妃に選ばれてからエリザベート様に会ったことある?」
「エリザベート様? うんと……、任命式のときに顔を合わせたくらいかなぁ。あの人めちゃくちゃ美人だよね! その後継がワタシなんて罰ゲームみたいよね?」
彼女の例えがおもしろくて思わず笑ってしまう。この子と話していると本当に飽きないな。そういえば、「王妃」じゃないときのエリザベート様ってどんな人だったんだろう……?
「実はエリザベート様も、普段はシーラちゃんみたいに粗野な話し方とかしてたりしてね?」
「ワタシみたいに、って……、ドリゼラ姉さん、なかなかヒドいこと言うなぁ。けど、もしそうならめっちゃ楽しいよね? 絶対仲良くなれんじゃん!?」
「エリザベート様は、ご公務を離れたときも慎ましく、気品高いお方でした。シーラ様も見習いましょう」
コンサドーレ様の声が急に飛んできて私もシーラちゃんも扉の方へと顔を向けた。
「オラッ! コンサドーレ!乙女の部屋にいきなり入ってくるとはどういう了見だよ!?」
「申し訳ございません。何度もノックしたのですが、返事がないようでしたので無礼を承知で入らせてもらいました」
ノックの音、全然聞こえなかったな。お互いお話に夢中になり過ぎてたみたい。
「ドリゼラ様、そろそろご公務の時間です。シーラ様はご写本の時間になります」
シーラちゃんは一度ベッドに反り返るように倒れてから、勢いよく起き上がった。
「わーったわーった。またあとでね?」
「うん、またね。シーラちゃん」
「エリザベート様のような王妃を目指すなら、まずそのお言葉使いから直していきましょう、シーラ様?」
コンサドーレ様は部屋を出る去り際にそう言った。
「うっせえ、とっととドリゼラ姉さん連れて行ってこい!」
閉まる扉の隙間にシーラちゃんの台詞が挟まるように響いてきた。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
いじめの怨みは妙にリアル(笑)。
サフィール…(´・∞・`;)むむっ
内通者の件も気になるけど…(´・∞・`;)油断できない…
作者からの返信
コメントありがとうございます!
教団内の内通者は、とても地味に登場していたりします……。