作者 武緒さつき♀
第65話 間者
決して疑ってたわけじゃない。それでも、実際この目で見ると驚きを隠せなかった。宮殿の地下でせっせと錠前をいじるチャーミング王、部屋の中に鎖でつながれている数々の錠前、短く刈られた髪、よれよれにくたびれた作業服、でっぷりとした体……、ここで「生きてる」というより、「活き活きしている」んだと感じた。
彼の目に私たちはどう映ったんだろう?
同じ顔した王妃が2人、目の前に現れてびっくりしたかな?
彼は驚きを発しなかった。何もかも知っているのだろう、悪魔?だとも言ってたけど、その表情は悪魔の鍵の解錠を求めていると感じた。シーラちゃんの話の通りなら一体どれだけの期間ここでせっせと作業していたというの?
「むんっ!」
身体に力を入れてみる、無限の寿命を与えられたというが、まだ実感はない。
「どうだね、寿命がなくなった実感というものは。」
彼女は鍵と壁を繋ぐ鎖についた悪魔の鍵を次々と開けてしまう。シーラちゃんが準備のいい子でよかった。手袋がないとさすがに手が錆だらけになる。
鍵前は思っていたよりずっと簡単に外れた。時の流れによる風化で弱くなっていたのかもしれないし、古い時代のものなら構造も簡単なのかもしれない。
ここにいる彼はそれと一緒か、それ以上の時間をここで過ごしていたんだ。
「悪ぃけどドリゼラ姉さん、あ、しまった!」
シンデレラはうっかりと「入れ替わり」をバラしてしまった。
しかしチャーミング王?悪魔?は特に何も言わなかった。
きっと、姉妹のどちらでもほとんど気にしていないんじゃないかな。当たり前だ。鍵さえ開けられれば悪魔にとってはどちらでもいいのだ。ずっとこんな狭い部屋にいて錠前をいじるオタク悪魔だ、それでも永遠の命をあたえてくるたんだ。私は無意識に彼を抱きしめていた。
シーラちゃんはさっき投げ捨てていたウィンプルを拾ってドリゼラ姉さんの頭に被せた。
二人は悪魔に別れを告げ、作業場から出る。
「そのにやけた顔はちょっと目立つからね? ここを出たらドリゼラ姉さんが王妃だね……」
それからシーラちゃんは私に目をやると、にこりと笑ってこう言った。
「一応、服はこのままでいっか、こっから先は『シーラ様』なんだから。」
「さすがにいきなりは。」
「そしたら交換すっよ。」
うーん……、どっちでもいいような気もするけど、躊躇なく彼女が服を脱ぎ始めたのでそれに従うことにした。もうちょっと恥じらった方がいいと思うんだけどなあ……。
着替えて、職員の姿になった私は元王妃のシーラちゃんをおんぶした。これまでの重積から解放され、粗暴なシーラちゃんはなりを潜めていた。そして、背丈は私と同じなのに……、まるで中身が詰まっていないみたい。
「やっぱワタシ歩こうか?ドリゼラ姉さん、重くね。?」
「大丈夫よ。シーラちゃんお疲れだし普通の人じゃこの階段上がるだけでバテちゃうからね? 私に任せて!」
私は背中の彼女を軽く揺すって位置を整えた。
「えっーと、まだシーラちゃん、でいいのかしら? シーラちゃん! 一気に駆け抜けるからね!」
部屋を出て、階段に差し掛かったところで気絶している(多分死んでいる)コンサドーレ様が目に入った。
とてもいい人だと思っていた。いいえ、きっと私が偽天書について深く知ろうとしなかったら、いい人のままだったんだと思う。
けど、アメシストさんたちに聞いた話や、シーラちゃんの言ってたことを含めて考えると、この人はきっと「反内閣王政廃止勢力」の人を見つけて潰すために私を利用したんだわ。
アメシストさんは、王宮内に間者がいると言った。その人が王妃様のご公務の予定とか情報を流して、王妃様誘拐は実行された。だけど、それは反内王政廃止勢力の中心人物、カノンさんを失う結果になってしまっている。
最初は深く考えなかったけど、反内閣王政廃止勢力の人たちはずっと以前から活動していて、王妃様と接触する機会を窺っていたみたいだ。それを実行したら、実は影武者の私でしたって……、彼らにしてみたら運が悪すぎるし、内閣側からしたら運が良すぎるのよね?
他にも、私がアメシストさんたちの話を聞いて内閣に疑いをもった時、それを解消するかのようにコンサドーレ様は楽園天国へと連れて行ってくれた。私の疑いはキレイさっぱり無くなったんだ。
めぐり合わせ……、と言ったらそこまでだけど、この「タイミングの良さ」に不自然さを感じた。そして、アメシストさんの間者の話を聞いたとき、ふと思った。
それが「逆」だったらどうだろうって……。
アメシストさんが反内閣王政廃止勢力側の間者と思っている人が、そう見せかけて内閣側の内通者だったら?
情報を流しているフリをして、罠にはめているとしたらいろいろと辻褄が合ってくる。影武者の私を襲わせて、反内閣王政廃止勢力を潰す名目をつくったりできる。アメシストさんたちが私を味方に付けようとしていると知っていたら、それを遠ざけることもできる。悪魔ならそれくらいやりかねないわ。
コンサドーレ様はきっとその「間者」のことを知っていた。ひょっとしたら仕向けた張本人かもしれないわ。ご公務の調整をしているんだから、あえて警備を手薄にするのもわけないでしょうからね。
涼しい顔してやってくれたわね、ホント。
内通者の目星も付いている。影武者について知っている人自体が限られているから、絞り込むのは簡単だわ。けど……、それはもうどうだっていい。
私……、いいえ、シンデレラはもうここを出て行くんだから!
シーラちゃんを背負って階段を駆け上る。彼女を背負ってなお、足は私の方がシーラちゃんより速いようだ。彼女の荒い息がこだましていた。お疲れ具合、ちょっと大変そうだけど、今はゆっくりしてられないからシーラちゃんを背負いながらここの出口を目指す。
なんとか一番上まで辿り着いた。ここの扉を抜けた先が問題だ。誰にも見つからずに外までいけるかな? 私1人なら窓ぶち破ってでも外へ逃げるけど、2人じゃそうもいかないからね。
シーラちゃんが落ち着くのを待ってから、意を決して扉を開けた。
「そこまでです。シーラ様……、そしてドリゼラ・トレメイン。」
作者からの返信
コメントありがとうございます!
デ……デブなのか!?
ですよねぇ…(´・∞・`;)うむむむ…
でも、女神様っていったい…(´・∞・`;)
作者からの返信
コメントありがとうございます!
ついに姿を見せた「女神様」ですが、その正体は一体……?