作者 武緒さつき♀
第66話 人間
「そこまでです。シーラ様……、そしてドリゼラ・トレメイン」
扉を開けた先に待っていたのは、官房長のマッツオ様と親衛隊と思しき男性が4人。天書の存在を考慮すると、この宮殿の中でもよほど深部にいる人でないとここには来れないのだと思う。だから、とんでもない人数に囲まれるとかはないと思っていた。
マッツオ様入れて5人かぁ。私、力は人より何倍も強いけど、戦えるわけじゃないからね……。不意打ちならなんとかなるけど。
「『ご写本の間』で破裂音がしたと聞いてやって来たが、とんでもないことを仕出かそうとしているな?」
――破裂音? はいはい、私のビンタですね。思いっきりやり過ぎたわね? もうちょっと加減したらよかったわ。自らピンチを招いてしまったわね、ドリゼラ・トレメイン。
すぐに組み付いてこないところを見ると、私の力を知ってる人が混ざってるのかしら。申し訳ないけど、吹っ飛ばした方のお顔は覚えていないのよ。
4人の男たちの動きを注視していると、シーラちゃんが私から半歩くらい前へ出た。
「官房長!国王は『悪魔』じゃんか? 王国ははひとりの悪魔王の助言なんかにずっと頼ってきたのかよ?」
シーラちゃんの言葉にマッツオ様は少しの間、沈黙をしていた。だけど、一度目を瞑った後に話始めた。
「シーラ様、あなたは本当にチャーミング国王が悪魔だとお思いですか?」
彼は地下の作業場を指差した。
「はぁ? どっからどう見ても悪魔だろうが、本人もそう言っていたんだ!?」
マッツオ様は、2度ほど小さく首を横に振った。
「この国の……、王国の歴史を調べていたシーラ様ならご存知でしょう? 今の王室がこの国の実権を握ってからもう1000年以上経っております。そして、その頃からずっとチャーミング王様はいらっしゃったわけではありませんよ?」
「だからなんだってんだよ?わけわかんないだけじゃんよ!?」
「シーラ様にとってはそうかもしれません。ですが……、他の誰もがそう思うでしょうか? 老いもし、普通に死ぬ彼をの『悪魔』と果たして思えるでしょうか?」
「ワタシはご写本の間で普通に天書の智慧をもらった!少なくともチャーミング王は悪魔じゃん。」
シーラちゃんの語気は強い。怒ってるんだ。チャーミング王様を悪魔じゃないと言われたことに。
「言っていいことと悪いことがありますよ、チャーミング国王はまごうことなき「人間」であり、『悪魔』などではありません。あなたはあろうことか、ご自分の夫を「悪魔」だなどと戯言を言っているのですよ。
繰り返しますがチャーミング王は人間です、悪魔などではありません。」
内閣としては『悪魔』が国を治めているなど認めるわけにはいかないのだろう。
「官房長、チャーミング王について知ってることを話せよ? 内容によっては信じてやってもいい」
シーラちゃんは心にもないことを口にしている。私も、ここにいる誰もがそれに気付いたはずだ。
「シーラ様、今のあなたが交渉できる立場にあるとお思いですか? ――と言いたいところですが、できれば穏便にことを済ませたいですので、話して差し上げましょう」
きっとマッツオ様は時間稼ぎをしたいんだわ。加勢を呼んでるのかしら? シーラちゃんにはなにか狙いがあるの? 私には残念ながらわからない。そんな作戦考えていないもの。
「とても簡単な話ですよ。王国を設立した私たちの祖先は、天書をしたためて智慧を後世に伝えた、その著者の血筋に当たるチャーミング王は妻となるものにその、写本を行わせ、天書の智慧を、周人に広げる、天書に伝えられるありとあらゆる智慧、あらゆることに関する情報を民草に読み聞かせ余ただただ『天書の智慧』の素晴らしさだけ興味を持つように」に調教してきたのです」
マッツオ様は言った。私たちが鍵を開けた「ご写本の間」の隣の作業場、あそこでは今でもチャーミング王が錠前オタク全開で暮らしている、王国のもつ鍵の情報を延々と……。何人かが交代で、ありとあらゆる錠前の知識と贅沢なお世話と一緒にだ。
とんでもない道楽、王としてバレたら国民から糾弾されるだろうが、隣で王妃がご写本を行うことでその道楽が隠されて王てしての威厳を保つことができる。
「最初は『ご写本王妃』など存在せず、ただ、錠前にのめり込むだけだった。他国の錠前の、技術情報を含め、あらゆる情報をもってオタクパワー全開だったが、国民の批判が高まるにつれ、それを、かわすために「ご写本王妃」を置いた、それが今日の王妃というわけだ」
膨大な智慧を書き込まれた天書の答えは、政治的判断から些細な悩み事まで解決していった。
その存在をバックに「天書の智慧」として据えて、妻となる女性を「ご写本王妃」として祀り上げる、こうして王宮は王の道楽を隠しながら威厳を保っていたのである。とマッツオ様は語った。
「いつしか天書は、別の偽天書を用意して王の都合の良い状態を維持するため、偽天書が与える国民への情報を流すようになった。シーラ様? あなたもそうして選ばれたのです」
「王宮の人間がこれまでどんな不正をしてきたかしんないけどさ、きっとチャーミング王様は自分を助けてくれる、鍵を全て開けてくれる人を探していたんだ! オタクから抜け出すきっかけを、途方もない年月をずっとだ……」
「まだチャーミング王が悪魔だという妄想を?そんなことがあるとは思えませんが? 何度も言いますが、チャーミング王は人間です、悪魔ではありません。」
あくまでチャーミング王は人間だと言い張るつもりだ。
コンサドーレ様といい、この人たちどうして涼しい顔でそんなことが言えるの? どうかしてるわよ、絶対。
「チャーミング王はたしかに『鍵を開けて欲しい』って言った! それが願いなんだよ! 国王様の願いだけ聞けないなんて不公平だろ!?」
「冷静になって下さい。仮にチャーミングが悪魔だとしても、です。それを隠し通すことで国民は救われるのです。現実にそうやってこの国は栄えてきました。チャーミング王の威厳を失えば、この国は滅びてしまうかもしれません」
「それが本当に……、国民のことを想ってだけなら王政廃止も一考に値すると思うわ!」
廊下の向こう、出口側の方から別の声が響いてきた。まったく予想していなかったけど、聞き覚えのある声だ。足音を軽く響かせながらこちらに近付いてくる。
「けど、違うでしょう!? 偽天書様を利用して国民を縛って、内閣の一部の人間、つまりあなた方が甘い汁を吸ってるだけじゃない!?」
どうやってここまで入って来たのかわからない。だけど、間違いなく現れたのはアメシストさんだった。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
悪魔の登場に戸惑う世界……。
年を取らない…(´・∞・` )…むむ? この子…
ガーネットさん、来るって信じてたっ!(´・∞・` )内通者のおかげ?
作者からの返信
コメントありがとうございます!
歳をとらない人は、過去作にひとり登場してますね!