作者 武緒さつき♀
第31話 声東撃西の計
「シーラ様が進んでご写本をしようとなさるとは……珍しいこともあるものですね?」
コンサドーレの小言、というか嫌味が聞こえてくる。
「うるさい。昨日の罪滅ぼしだよ! 一晩経って頭冷やしたの! アクアには怖い思いをさせたしさ、反省してんだよ!?」
ワタシはいつものように目隠しされ、コンサドーレに手を引かれて階段を下っている。周りの空気が徐々に冷たくなっていくのを感じる。ワタシの大きな声は何度も反響していた。
「良い心掛けです。公にはドリゼラ様ではなく、シーラ様が連れ去られたことになっています。外に顔を出すわけにはいきませんが、『ご写本はたまる一方ですから。少しでも減らしておく必要があります」
「ドリゼラ姉さんの捜索、ちゃんとやってんだろうな?」
「どうかお言葉使いを改めて下さい……。もちろんです。王宮総出で、昨夜から今なお続けております。必ず無事に救出しますので、我々を信用して下さい」
コンサドーレの口調はいつだって変わらない。ドリゼラ姉さんはこんなやつのどこがいいんだろう? ワタシにはさっぱり理解できない。
「昨日はワタシが悪かったよ。けど、ドリゼラ姉さんの件を隠してたのは許さないかんな? ことが片付いたら絶対ぶん殴ってやるから覚悟しとけ?」
「王妃ともあろう方が暴力など……、すべてはシーラ様を想っての判断です」
「なんならワタシの代わりに戻ったドリゼラ姉さんに殴ってもらうか? 後方に三回転半して壁に激突するだろうがな。」
「お戯れを……。さぁ、階段はここまでです。お気を付け下さい」
目隠しが取られ、施錠された鉄扉が視界に入った。薄暗くて、いつもと変わらずとても静かだ。ご写本の間……、自分の意志で進んでここに来たのは初めてかもしれない。
王立図書館のご写本の間の中はとても広い、ワタシが使っている部屋と同じくらいの広さかな? 入って正面にワタシの顔より少し小さいくらいの羊皮紙の掛け軸がある。そこの向かいにご写本用の古びたテーブルがあり、監視役の侍女が見張る中ご写本を行うんだ。
前にテーブルから叩き落として少し破れ目が見える天書を机の上に置く。
「あら?」
王立図書館ご写本の場のテーブルの足の陰に小さな羊皮紙の紙切れが落ちている。(第一話参照)
「こ、これは」
そこにはシンデレラがいま最も欲しがっている情報が書き込まれていた。
これまで天書の書き込みの教えをいくつも実行してきた。
王宮脱走の時には、
金蟬脱殻の計
あたかも現在地に留まっているように見せかけ、主力を撤退させる。
を使ったし。
ドリゼラ姉さんをコンサドーレに近づけて懐柔する。
美人計
土地や金銀財宝ではなく、あえて美女を献上して敵の力を挫く。
普段から悪い言葉使いや暴力的な態度をして愚か者に見せかける。
仮痴不癲の計
愚か者のふりをして相手を油断させ、時期の到来を待つ。
今もコンサドーレに対して従属しているように見せかけている。
反客為主の計
一旦敵の配下に従属しておき、内から乗っ取りをかける。
瞞天過海の計は昨日使ったわね。
天書には本当になんでも載っている。
羊皮紙を見張の侍女に見つからないよう懐に仕舞う。
ワタシは服の中にその羊皮紙を隠す。
これでドリゼラ姉さんのことはなんとかなる。
そう確信した。
声東撃西の計
ワタシの声が外に聞こえているのかはわからない。けど、そんなのを確かめる必要もないと思った。たったひとつだけの欲しい情報さえもらえればあとは天書を信じて計を実行するのみ。後から処罰とかあるかもだけどワタシは構わない。
ワタシには……、そして囚われのドリゼラ姉さんには今この兵法36計が大事なんだ!
どんな「お悩み」にだって応える天書、王妃のお悩みに応えてくれてありがとう。
ワタシは意を決して、声東撃西の計の本質たる偽情報の語りかけを行った。
「ドリゼラ姉さんはそんなところに囚われているんだね、よしわかった、ワタシの大切な姉さんドリゼラ・トレメインを今すぐに救出なさい。」
ワタシが突然語り始めたことを怪しんで、見張の侍女は慌てて精細の報告のためコンサドーレの下へ走り去った。
作者からの返信
コメントありがとうございます!
囚われの場所がわかってしまった!
おおっ…!(´・∞・`;)これで答えが返ってきたら…っ
作者からの返信
コメントありがとうございます!
パーラが知恵をしぼったうえで導き出した答え!
果たして、聖女の「お悩み」に女神はどう応えるのか!?