第31話 決意

「パーラ様が進んでご神託を聞こうとなさるとは――、珍しいこともあるものですね?」


 サフィールの小言、というか嫌味が聞こえてくる。


「うるさい。昨日の罪滅ぼしだよ! 一晩経って頭冷やしたの! マリンには怖い思いをさせたしさ、反省してんだよ!?」


 ワタシはいつものように目隠しされ、サフィールに手を引かれて階段を下っている。周りの空気が徐々に冷たくなっていくのを感じる。ワタシの大きな声は何度も反響していた。


「良い心掛けです。おおやけにはノワラ様ではなく、パーラ様が連れ去られたことになっています。外に顔を出すわけにはいきませんが、『お悩み書き』はたまる一方ですから。少しでも減らしておく必要があります」


「ノワちゃんの捜索、ちゃんとやってんだろうな?」


「どうかお言葉使いを改めて下さい……。もちろんです。教団総出で、昨夜から今なお続けております。必ず無事に救出しますので、我々を信用して下さい」


 サフィールの口調はいつだって変わらない。ノワちゃんはこんなやつのどこがいいんだろう? ワタシにはさっぱり理解できない。


「昨日はワタシが悪かったよ。けど、ノワちゃんの件を隠してたのは許さないかんな? ことが片付いたら絶対ぶん殴ってやるから覚悟しとけ?」


「聖女ともあろう方が暴力など……、すべてはパーラ様を想っての判断です」


「なんならワタシの代わりに戻ったノワちゃんに殴ってもらうか? 頭吹っ飛ぶかもしれないけどな!」


「お戯れを……。さぁ、階段はここまでです。お気を付け下さい」


 目隠しが取られ、施錠された鉄扉が視界に入った。薄暗くて、いつもと変わらずとても静かだ。ご神託の間……、自分の意志で進んでここに来たのは初めてかもしれない。



 ご神託の間の中はとても狭い。ワタシが使っているベッドと同じくらいの広さかな? 入って正面にワタシの顔より少し小さいくらいの空洞がある。そこに向かって話しかけると女神様の声が返ってくるんだ。


 お悩み書きの束を備え付けの簡易な机の上に置く。神殿に届けられてるものすべてではなくて、ある程度選別されてワタシの手元に来ているようだけど、その基準はよくわかってない。


 ワタシは服の中に隠し持っていた小さな木の棒を扉の取っ手に引っ掛けた。かんぬきの代わりになるはずだ。そこまで丈夫ではなさそうなので、力任せに扉を押されたら折れちゃうだろうけど……。


 ワタシの声が外に聞こえているのかはわからない。けど、そんなのを確かめる必要もないと思った。たったひとつだけの神託をもらえればワタシは構わない。後から処罰とかなんとかあるかもしれないけど――、それは後からの話。


 ワタシには……、そして囚われのノワちゃんには今この時間が大事なんだ!


 どんな「お悩み」にだって応える女神様だったら、聖女のお悩みにだって応えてくれなきゃ不公平だよね?


 ワタシは意を決して、空洞に向かって問い掛けた。



「女神ソフィア様、どうかお応え下さい! ワタシの友達、ノワラ・クロンは今どこにいるのですか!?」

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