作者 武緒さつき♀
第36話 国士無双
ORBラップバトル大会の会場は沸いていた。なんだか集まっている人の話だと、1回戦で私と戦った四角いおじさんは、この辺りで有名なラッパーだったみたい。
それを見た目の大きさは半分くらい、体重で比較したら、三分の一くらいかもしれない女の子が破ったのだ。それは驚くし、盛り上がりもするよね。
「‥…お嬢さん、あのドリゼラってのは本当なのかい?」
主催者さんが尋ねてきた。
なりそこない王妃って……、私は何者なんだろう? 今は王妃様の身代わり? ううん……、違う違う。
「ただの、ちょっとだけ足のおおきい可愛い女の子ですよ!」
「いや……、『ちょっとだけ』って」
「ほらほら! 私が参加したからこんなに盛り上がってるんでしょ? もっと感謝してくれてもいいのよ?」
見物の人たちへ向けて軽く手を振ると、そこは大きく沸き立った。
「ドーリゼラ!ドーリゼラ!」
なにこれ!? すっごく楽しい!
「たしかに……、盛り上げてくれるのはありがたいんだけどね」
主催者さんと話をしていると、私の前に丸々と太った男の人が現れた。急にここらの気温が上がったような気がする。
「お嬢ちゃんがあの『悪垂れガンツ』に勝ったのか? けどよ、おいらをその辺の男と一緒にするなよ?」
四角いおじさんが悪垂れガンツさんだったのかしら? だったら丸いおじさん、あなたはお名前は? 逆にスクエアさん? そんなことを心で思いながら、私は笑顔で挨拶をした。
「2回戦はおじさまがお相手ですか? お手柔らかお願いしますね?」
「悪いけど、おいらは女だろうと手は抜かないからよ。その細い唇が萎れてもしらないからな?」
さっきの悪垂れガンツさん……だっけ? 四角いおじさまも似たような話を試合前にしてたけど、この人の力はどの程度なのかしら?
「はいはい! それでは、2回戦を始めますよ! 魔導マイクを握って下さい!」
丸いおじさんの手がマイクを奥までしっかりと握る。これまた四角いおじさまのときと同じで表情が変わった。
「お嬢ちゃん……、一体どこで場数を踏んだんだよ?」
「うーんと、わかんない。ストリートかな?」
「それでは……、絶壁ダカール先攻!レディ……ゴー!!」
ラップバトル開始の瞬間、私の顔の真ん前を羽虫が横切った。ほんの一瞬だけど注意が逸れてしまった。丸いおじさんの言葉のバイブスが私のリリックに襲い掛かる。
――だけど‥…。
「……ヘイヨウ!お嬢ちゃんは……、岩か!?山かヨーヨーよー」
私のフリースタイルラップは90度の角度で立った音域のまま静止している。押し倒そうとする丸いおじさんのアンサーが小刻みに震えている。顔には脂汗がにじみ出ていた。
「バシバシ砕く!ドリセラスタイル!」
私が言葉に力を込めると、彼のアンサーは全身をひっくり返しそうな勢いで途切れた。丸いおじさんは汗だらだらで全力疾走した後みたいに呼吸を乱していた。
「勝者!血塗れドリセラ!」
勝負が終わった後は、少しの静寂。
そこから堰を切ったように歓声が沸いた。
「スッゲー!! お嬢ちゃん化け物かよ!!」
「マジで無敵だよ!? 無双だよ!?」
「なんでそんな華奢なのに強いんだよ!?」
「あの口撃すごすぎるって! キツツキの血でも流れてんじゃないの!?」
なんか、褒められてるのか貶
けな
されてるのかわからない声が私に向かって飛んでくる。――というか、「キツツキ」ってなによ? なにかわからないけど語感で貶されてる気がするわ。私、キツツキ・トレメインじゃなくて、ドリセラ・トレメインですからね?
とりあえず、あと1勝で優勝ね! 相手は主催者さんの仕込みかしら?
作者からの返信
コメントありがとうございます!
キツツキの異名。
Gorilla…(´・∞・` )
なんか、おじさんたちが、気のいい力自慢でちょっと安心(´・∞・` )後で奢ってくれそう
作者からの返信
コメントありがとうございます!
おじさんたちにも気に入られたノワラ。
自慢の怪力を遺憾なく発揮する回でした!