第17話 初接続〜お菊の場合〜

接続コネクト!」


 自分の声と同時に訪れた、ジェットコースターが急降下するかのような浮遊感。その瞬間、お菊は真っ暗な空間に、ひとり漂っていた。


竜宮パラレルゲートRPGにようこそ」


 それから続いて、落ち着いた雰囲気の女性の声が響き渡る。


「私は精霊AIのセーレー。これよりあなたをナビゲートします」


 そのときお菊の目の前に、ソフトボール程の大きさの、光る立方体キューブが現れた。


「先ずは、お名前を登録してください。そのまま向こうの世界での、アバターネームとなります」


「フルネームが必要?」


「向こうの世界での一般人は、ファーストネームのみが普通です」


「だったら…、お菊」


「オキク……、登録完了。次は職業を選択してください」


 次の瞬間、オキクの前方に、四個のウインドウがパッと開いた。そのそれぞれに、職業の解説文が表示されている。


 剣士[片手剣セイバー

 付与スキル「ファントム」

 敵視を集める幻影を設置


 剣士[両手剣グレートソード

 付与スキル「カタパルト」

 対象を任意の方向に射出する力場を設置


 神官[斧槍ハルバード

 付与スキル「ヒール」

 アバターの自己修復を促進するナノマシンを照射


 銃士[短銃ハンドガン

 付与スキル「バーストバレット」

 対象のエネルギーを利用した特殊弾を作成


「アバターは、職業に見合うよう生成されますので、途中で変更出来ません」


 セーレーからの注意事項を聞いて、オキクは口元に右手を添えた。後から変更が出来ないのなら、ここでしっかりと考えないといけない。


 解説を見るに、片手剣は前線での敵の撹乱かくらんが主な役割になるのだろう。両手剣は一撃離脱を絵に描いたような能力だし、神官のヒールも重要だ。唯一の遠距離戦が可能な銃士だって、どう考えても役に立つに決まってる。


 佐藤さんも人が悪い。ちゃんと前以まえもって教えてくれてたら、亜衣と二人で相談が出来たのに…。


「亜衣なら…、神官は選ばないかな?」


 愚痴りながらも思考は巡らす。


 だったら自分が神官を選べば、ある程度のバランスはたもてるかもしれない。


 そこまで考えて、オキクの思考がふと立ち止まる。


「違う、そうじゃない!」


 オキクは自分の両頬を、両手でパチンと挟むように打ちつけた。


「私は自分で決めてここに来たんだ!」


 亜衣の付き添いなんかじゃない。亜衣の援護をするんじゃなくて、横で一緒に戦いたいんだ。


「両手剣!」


 オキクは第一印象で心惹かれた職業を、勢いよく指差した。


 これで良い。その方が亜衣もきっと喜んでくれるし、おそらく佐藤さんにも、その方が良いと分かってたんだ。


「了解しました。支給武器の確認を行いますか?」


「そうね…、します」


「了解しました。確認のうえ、今なら他の職業への変更も可能です」


 その直後、オキクの両手に、1メートルを超える程の巨大な剣が現れた。


 全長は150cm。刃渡り100cmにも及ぶ両刃の剣。超音波切断の原理が利用されている。


「超音波切断…」


 聞いたことがある。詳しい原理なんて分からないけど、なんでも簡単によく切れる…って事だったはず。


「これで問題ありません」


「了解しました、…登録完了。戦闘時は『グレートソード』と音声入力により、瞬時に利き手に転送されます。実際には重量がありますのでご注意ください」


「分かりました」


「次はアバターの設定を行います。どこか変更されますか?」


「いえ、佐藤さんから注意もありましたし、特に変更はしません。ですが…、少し質問良いですか?」


「構いません」


「えっと、あの…、向こうの世界には、例えば動物の耳などが生えた人間はいるのでしょうか?」


「亜人ですね。多くはありませんが、存在は確認されています」


「だったら、あの…」


 そのとき急に、照れ臭そうにオキクがモジモジし始める。


「えっと…」


 それからスーハースーハー深呼吸して、


「黒猫の、耳と尻尾しっぽを付けてください!」


 意を決して吐き出した。


「了解しました」


「……」


 だと言うのに、セーレーの反応のなんと薄いことか。なんだか盛り上がった自分がバカみたいだ。


「服装はどうしますか?」


「え、服装?」


 全く考えてなかったけど、亜衣はそろそろ面倒臭くなってる気がする。


「制服のままで構いません」


「了解しました。ここで設定するアバター着衣は、生体部と同様、時間経過とともに汚損や破損を自己修復します。転位者の皆さまには、アバター着衣の着用を推奨します」


「そうなんですね、分かりました」


「アバターの外観をかんがみて、微調整はこちらで行います。最後に、同行する補助端末の外見を変更しますか? 変更しない場合は、初期設定の立方体キューブです」


「そうですね…」


 オキクは右手を口元に添えて、再び思案顔になる。


「マンチカン風の白い仔猫でお願いします。首に赤いリボンのチョーカーとかあると嬉しいです」


「了解しました。これでよろしいですか?」


 直後に現れた小さな白い天使に、オキクの理性が崩壊したのは言うまでもない。

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