異世界支援課

第3話 異世界支援課 ①

【求人募集!


 あなたの正義の心で

 世界を救ってみませんか?


 特別な資格や年齢の制限なし

 やる気と正義の心のある方大歓迎!


 4時間以上勤務出来る方

 日給 五千円~ 応相談


 竜宮市役所 異世界支援課】


「何これ…、ゲーム?」


 不思議そうに小首をかしげる亜衣。


「でもこれ、市役所よ。ゲームなんてあるかしら?」


「だったら近いし、市役所で聞いてみよう」


 言うが早いか、お菊の手を取って、亜衣がそそくさと歩き出す。


「ちょ…ちょっと、亜衣!」


 あまりの胡散臭うさんくささに、お菊は若干の抵抗を試みる。…が、手を引く亜衣に止まる気配はない。


「本気でこんな内容を信じるの⁉︎」


「だから直接、確認するんだよ」


「う…」


 ぐうの音も出ない正論である。


 二の句も継げずに悩んでいると、既にそこは市役所の前。


 ここまで来たなら仕方ない。


 お菊は腹を決めた。


「分かった、行こう」


「そう来なくっちゃ」


 無邪気な笑顔を浮かべる亜衣に、お菊は小さな溜め息を吐いた。


 そこには、


 少しの不安と、たくさんのワクワク感が詰まっていた。


 〜〜〜


 入り口の自動ドアを通過すると、左右に広がる広いロビー。


 筆記台で何やら書いてる人や、ソファに座っている人、カウンターの向こうには沢山たくさんの職員が動き回っていた。


 ほぼ初めての訪問である。


 お菊は思わず、息を飲んだ。


 そんなお菊の手を引いて、亜衣がスタスタと真正面の案内カウンターへと歩いていく。


 座っていたのは、眼鏡をかけた、少し丸めの女性職員。


「すみません、異世界支援課ってとこに行きたいんですけど」


 亜衣のその質問に、女性職員の柔和な笑顔が一瞬強張こわばった。


「恐れ入りますが、そのような部署の名称を、どこでお知りになりましたか?」


 それから物腰柔らかく返された質問に、お菊は妙な違和感を覚えた。


「あ、えと…」


 亜衣も同じく感じ取ったのか、彼女にしては珍しく口籠くちごもる。


 そんな出鼻をくじかれた亜衣に変わって、お菊は意を決して一歩を踏み出した。


「私たち、駅前広場の掲示板を見て来たのですが、こことは関係ありませんでしたか?」


「駅前の掲示板⁉︎」


 お菊のそのひと言に、女性職員の表情が一変し、声が上擦うわずる。


「しょ、少々お待ちください」


 その後、慌てた様子で内線電話の受話器を取った。


「ロビーです。駅前の例の掲示板を見たと言う方がいらっしゃっています」


 いきなりの展開に戸惑いながらも、亜衣とお菊は、女性職員の様子を黙って見守る。


 電話口で相手から何か指示でも受けているのか、「はい」「はい」と繰り返していた女性職員が、そのとき言葉に詰まった。


「それが…」


 それからチラリと二人に目を向け、


「中学生くらいの女の子が二人なんです」


 困った様に、そう告げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る