第4話 異世界支援課 ②

「はい、かしこまりました」


 電話の応答が終了したのか、受話器を置いた女性職員がスックと立ち上がった。


「お待たせしました。担当の者がご用件を伺いますので、あちらのソファで少々お待ちください」


 指示されたソファで待つこと数分。白のポロシャツを着た、三十代半ばくらいの男性が姿を現した。身長が高く肩幅も広い。オールバックの黒髪で、黒縁眼鏡を掛けていた。


「お待たせしました。私は、課長の佐藤と申します」


 にこやかに微笑むと、お尻のポケットから名刺ケースを取り出し、亜衣とお菊にそれぞれ名刺を手渡す。


「こんなの初めて貰った!」


 亜衣は浮かれて飛び跳ねるが、


(世界、支援課…?)


 素早く内容を確認したお菊は、その表示に小首をかしげた。


「あの…」

「悪いけど、ちょっと場所をうつそうか」


 佐藤は笑顔でお菊の言葉を制すると、「ついて来て」と前を歩き出した。


 何だか胡散臭い匂いがプンプンする。


 とは言え、佐藤の後ろを楽しそうに追いかける亜衣の背中に、掛ける言葉は何も見つからない。


 そのまま佐藤は奥へ奥へと廊下を進み、とうとう裏口から外へ出た。


 どうやらそこは、職員用の駐車スペース。


 その向こう側にある、コンビニの様な平屋の建物にたどり着いた。


 ここに来て、さすがの亜衣にも不安感が押し寄せる。


 入り口に掛けられている「世界支援課」の表札を指差し、


「あの、ここ…?」


 亜衣は、佐藤の表情を伺った。


「ああ、そうか。ここは出来たばかりの秘密の部署でね、堂々と『異世界支援課』とは名乗れないんだ」


「え、秘密っ⁉︎」

「秘密…」


 魅力的なそのひと言に、キラキラと瞳を輝かせる亜衣と、考え込むお菊。


 そんな対照的な二人の反応に興味を示しながら、佐藤はIDカードで入り口のロックを解除した。


 中に入ると右側に部屋が広がっており、四個の事務机が置かれている。その内のひとつには四十代くらいの男性が座っているが、他に人は見当たらない。


 外見よりも狭く見える部屋の奥には扉があり、隣にもうひと部屋ありそうだ。


 入り口正面にはパーテーションで区切られた区画があり、二人はそこに通された。来客用のスペースなのか、小さな机と三個のパイプ椅子が用意されていた。


「名前を聞かせて貰えるかな?」


 佐藤は二人を座らせると、自分も着席して笑顔を見せる。


上尾うえお亜衣あいです」


植岡菊うえおかきくです」


「では、上尾さんと植岡さんに知って貰いたい、大事なことがひとつ…」


 佐藤は手帳にメモを取ると、今度は真剣な眼差しを二人に向けた。


「さっきも言ったけど、ウチは仕事内容がかなり特殊でね、ここの事は誰にも秘密にして貰いたいんだ」


「特殊な仕事って?」


 好奇心いっぱいの亜衣の瞳が、キラキラと光り輝く。


「君たちが見たあの掲示板そのまんま、危機にひんした異世界の手助けをするんだ」


「ホントにホントなの⁉︎」


「…いい加減にしてください」


 そのとき、ずっとこらえていたお菊の堪忍袋の緒が、とうとう盛大にブチ切れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る