第7話 業務内容 ②

「アバター!!」


 その瞬間、亜衣の瞳が最大限にキラキラと光り輝いた。


「もしかして、自由に創れるの⁉︎」


「容姿に関してはそうだが、性別や体格は変えない方がいい」


「…なんで?」


「これも様々な検証の結果だけど、普段の自分と違いすぎると、本来のパフォーマンスが発揮出来ないと判ったからだ」


「でも…、見た目は変えて良いんだよね?」


「まあ一応。だけど、変えた容姿が特別な能力を発揮することは全くないよ。あくまで見た目だけ」


「充分だよーー!」


 元々ノリ気だった亜衣が、今ので完全に陥落したと、お菊は悟った。


 亜衣がこの仕事を受けるのなら、自分も別に受けても良い。だけど、本当に危険がないのかは、しっかりと見極めないといけない。


 お菊は、更に慎重な目線を佐藤に向ける。


 その瞬間、ずっとのらりくらりだった佐藤の視線と、真正面からぶつかった。


 続いて浮かんだ、佐藤の優しい微笑み。


 その笑みに、お菊は内心を見透かされたようで、気恥ずかしい気分になった。


「さて、肝心の仕事内容だけど…」


 そこで佐藤はたっぷりめて、亜衣とお菊の顔を交互に見る。


「魔物の総大将、魔王の撃破だ」


 しかし、亜衣もお菊も驚かない。


「驚かないね。それもそうか」


 当然だ。


 異世界の生活ぶりを調べてきて、なんて言われた方が逆に驚く。


 とは言え、きちんと確認しなければならない事が、お菊にはある。


「もう一度、確認いいですか?」


 お菊は佐藤の目を、ジッと見つめた。


「どうぞ」


「魔物との戦いで死んでしまっても、本当に危険はないんですか?」


 彼女の中でこればっかりは、何度確認しても足りないくらいだ。


「ない。ただ単に、意識体がこちらに戻ってくるだけで、人体に影響も何もない」


「本当に? ノーリスク?」


「僕たちだけの、視点で見ればね」


「……?」


 意味深なその言葉に、お菊の頭上にハテナマークが浮かぶ。


「僕らが魔物との戦闘にやぶれれば、その分あちらの世界の住人に被害が出る」


「あ…⁉︎」


 佐藤の言葉の意味が、お菊にもやっと理解が出来た。


「それに、アバターの問題もある。失ったアバターは復元出来ないんだ」


「じゃあ、どうするの?」


 口をつぐんでしまったお菊の代わりに、亜衣が疑問を投げ掛ける。


「初期状態から作り直すんだ。あのアバターの優秀なところはね、使えば使うほど強くなるところだ。しかし敗北を繰り返すと、場合によっては、状況が進展しないと言う事態に陥ってしまうかもしれない」


「それだと…、どうなるの?」


「犠牲者が増えるのは勿論だけど、最悪の場合は、世界が滅んでしまうかもしれない」


 何となく考えないようにしていた結論を佐藤にハッキリと言われ、亜衣もお菊も蒼い顔で俯いた。


 そんな二人の頭を、佐藤が優しく撫でる。


「怖がらせてしまったね。大丈夫、失敗しても良いんだ。あっちの世界にだって、水戸さんのように戦っている仲間がたくさんいる。そう簡単には滅んだりしない」


「はい、そうです」


 その言葉に、水戸も力強く頷いた。


「私たちは少数のところを襲われ、こんな結果になりましたが、強い仲間はたくさん居ます。安心してください」


「リスクがないからって、安易なゲーム感覚でやって欲しくない。ただそれだけなんだ」


 そう言う佐藤の表情も、優しい笑みで満ちていた。

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