第15話 初日の朝 ③
「水戸さんも言っていたように、向こうの世界でも、異世界人の存在は
何故か自分の方に向けられている佐藤の目線に疑問を感じつつ、
「はい!」と亜衣が、返事を返す。
「とは言えこれは、相手国からの了承を得た正式な支援だ。少数だが、事情を知っている協力員たちもいる。現地での生活は、その人たちに頼ると良い」
「分かりました」
「それと、もうひとつ」
「水戸さんを見て分かるように、向こうの人たちの見た目も、僕たちとほとんど大差がない。絶対に、奇抜なアバターを作ったりしないように!」
言いながら、佐藤の目線が、再び亜衣の方に注がれる。
「……佐藤さん、さっきから私の方ばっかり見てない?」
どうにも佐藤の視線が気になった亜衣は、ジト目で口を
「そんな事はないぞ。ちゃんと、二人ともに言っている」
「……ホントかなあ…」
それでも納得出来ないような亜衣の声に、お菊は顔を
〜〜〜
「それじゃ、次はお待ちかね、奥の部屋に案内しよう」
佐藤は席を立ち上がると、亜衣とお菊を奥の部屋へと案内する。
そこは、一種異様な空間だった。
正面から右奥にかけて、壁一面に、大きな機械がL字型に並んでいる。
部屋面積の半分ほどは使っていそうだ。
亜衣もお菊も、こんなに機械が敷き詰められた部屋を見たことがない。
手前のスペースには四個のリクライニングシートが並んでいて、奥側の二個は既に使用されていた。
シートに座る二人の頭部には、ヘルメット型のヘッドマウントディスプレイが装着されており、パッと見、誰だか分からないが、
「浅野さんと坂下くんは、既に向こうに渡っている」
そんな事は、当然分かりきっている。
それよりも…
「残りの二個は…」
「もしかして、使っていいの⁉︎」
佐藤の説明を途中で遮って、亜衣の興奮が爆発した。
「ああ、もちろん。今日から君たち二人が使う分だ」
「私、コッチー!」
大はしゃぎで、亜衣が右側のシートへと飛び込んでいく。
そんな亜衣とは正反対に、お菊はその場から動かない。
しかし、まるでお預けをくらった飼い犬のように、両目を輝かせたままグッと
「ほら、植岡さんも、早く」
「は、はい!」
佐藤のお許しを得て、お菊も小走りで残りのシートへと向かう。
「ああ、そうだ」
そのとき佐藤が、何かを思い付いたように声をかけた。
「このまま始めることも出来るけど、どうする? トイレにでも行っておくかい?」
〜〜〜
市役所本館にしかないトイレから戻った亜衣とお菊は、佐藤の指示で、リクライニングシートの角度を自分好みに調節していく。
その作業がひと段落ついた頃に、佐藤が二人に声を掛けた。
「シート横に掛けられているヘッドマウントディスプレイを
説明を受けて確認すると、確かに左手側のシート横に、ヘルメットが掛けられている。
「今日は初接続なので、まずはアバターを作るところから始まる。4時間が経つころにセーレーから連絡が入るので、帰りはセーレーの指示に従うといい」
「分かりました」
とうとう始まるという実感からか、亜衣とお菊の表情に緊張の色が見て取れた。
佐藤は少しの思案の末、腰に手を当て、笑顔を見せる。
「君たち二人に与えられた任務は、とても重要なものだ。とは言え、せっかくの異世界体験だ。思う存分楽しんでくると良い」
思いもよらない佐藤のエールに、亜衣とお菊は顔を見合わせた。それから思わず、笑みをこぼす。
「よし、行ってこい!」
「はい!」
二人は一斉にヘッドマウントディスプレイを装着すると、
「
大きな声を、元気いっぱいに張り上げた。
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