第16話 初接続〜亜衣の場合〜

接続コネクト!」


 自分の声と同時に訪れた、ジェットコースターが急降下するかのような浮遊感。その瞬間、亜衣は真っ暗な空間に、ひとり漂っていた。


竜宮パラレルゲートRPGにようこそ」


 それから続いて、落ち着いた雰囲気の女性の声が響き渡る。


「私は精霊AIのセーレー。これよりあなたをナビゲートします」


 そのとき亜衣の目の前に、ソフトボール程の大きさの、光る立方体キューブが現れた。


「先ずは、お名前を登録してください。そのまま向こうの世界での、アバターネームとなります」


「なんでも良いの?」


「登録は可能ですが、向こうで仲間内が認識し易い名前を推奨します」


 セーレーの発言に、亜衣は「むー」と口を尖らせる。…が、これはセーレーの言うことを聞くしかない。


「亜衣」


「アイ……、登録完了。次は職業を選択してください」


 次の瞬間、アイの前方に、四個のウインドウがパッと開いた。そのそれぞれに、職業の解説文が表示されている。


 剣士[片手剣セイバー

 付与スキル「ファントム」

 敵視を集める幻影を設置


 剣士[両手剣グレートソード

 付与スキル「カタパルト」

 対象を任意の方向に射出する力場を設置


 神官[斧槍ハルバード

 付与スキル「ヒール」

 アバターの自己修復を促進するナノマシンを照射


 銃士[短銃ハンドガン

 付与スキル「バーストバレット」

 対象のエネルギーを利用した特殊弾を作成


「アバターは、職業に見合うよう生成されますので、途中で変更出来ません」


 セーレーから告げられた注意事項は、本来なら決断に影響を及ぼす重要なものだ。


 しかし、アイは悩まなかった。


「私、銃士にする!」


「了解しました。支給武器の確認を行いますか?」


「…? した方が良いの?」


「確認のうえ、今なら他の職業への変更が可能です」


「じゃあ、そうする」


「了解しました」


 その直後、アイの右手に、手のひらより少し大きな、黒い短銃が現れる。


「おおおおお!」


 形状はグロック26。いわゆるオートマチックタイプで、リボルバーは付いていない。


[クイックモード]

 持ち主の生体エネルギーを弾丸に変換して攻撃する。連射が可能。アバターの成長とともに攻撃力が上昇する。

[バーストモード]

 バーストバレットが装填そうてんされた状態。弾数は単発のみ。様々な特殊攻撃を行う。


「スゴいスゴい、かっこいい! 絶対これにする!」


「了解しました、…登録完了。戦闘時は『ハンドガン』と音声入力により、瞬時に利き手に転送されます」


「ホントにアニメみたい! あ、ちなみに、ハンドガンって名前は変更出来るの?」


「……可能です」


「じゃあさ、『ライトニング』でお願い」


「ライトニング……、登録完了」


 セーレーの確認音声に、アイは満足そうに笑みを浮かべた。


「次はアバターの設定を行います」


「見た目は変えられるんだよね?」


「可能ですが、サトーの注意にあった…」

「あー、そー言うのいいから」


 アイはひらひらと右手を振って、セーレーの言葉を途中で遮る。


「髪型は同じで良いけど金髪にして。瞳の色はあお。耳はエルフみたいに尖らせて」


「服装はどうしますか?」


「服装?」


 全然考えてなかった。とは言え、だんだん面倒になってきた。


「このまま制服で良いよ。どうせ向こうで着替えるし」


「ここで設定するアバター着衣は、生体部と同様、時間経過とともに汚損や破損を自己修復します。転位者の皆さまには、アバター着衣の着用を推奨します」


「え⁉︎ アバターって、勝手に傷が治るの⁉︎」


「切断等による部位の欠損は修復出来ませんが、自己修復機能は搭載されています」


「ちなみに…、欠損したらどうなるの?」


「そのまま継続使用するか、初期アバターに戻るかを選択します」


「……そうなんだ」


 アイの口から「うー」と声がもれる。どうやら、そう簡単な話ではないらしい。


「まあとにかく、制服のままでいいや」


「了解しました。アバターの外観をかんがみて、微調整はこちらで行います。最後に、同行する補助端末の外見を変更しますか? 変更しない場合は、初期設定の立方体キューブです」


「何でも…」

「検索可能なものなら、何でも構いません」


「……」


 特別スーパーなチートAIは、どうやら亜衣と言う人間を、猛スピードで学習し始めているようであった。

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