第10話 母の説得〜亜衣の場合〜
「ただいまー!」
亜衣の自宅は、どこにでもありそうな、ありふれた二階建ての一軒家。
お菊と別れて急いで帰宅した亜衣は、母の居るであろう、一階の奥にあるリビングへと飛び込んだ。
「お母さん! 私、バイトしたい!」
どんなに反対されても絶対に
「いいよ」
返ってきたのは、思わず拍子抜けする程の呑気な声。
食卓に座ってテレビを観ていた母は、振り返りもせずに了承した。
「……え、ホントにいいの⁉︎」
「だってアンタ、毎日ゴロゴロしてるだけじゃない」
せんべい片手に振り返った母は、戸惑う亜衣に真顔で告げる。
「ハッキリ言って邪魔なのよ。バイトでもしてる方が、よっぽど建設的だわ」
「う…」
望み通りの展開のはずなのに、何故だか素直に喜べない。
「じゃ…じゃあさ、説明会があるから、明日一緒に市役所に来てよ」
「バイトって、市役所なの?」
「うん」
「それなら尚更安心だわ。いいよ、聞きに行ってあげる」
そこまで言って、母は再びテレビへと視線を戻した。話はここで終わりという事なのだろう。
とりあえず、目的は達成した。
何だか腑に落ちない点も有るには有るが、それはまた別の話だ。
今は許可が下りたことを、素直に喜ぼう。
気を取り直した亜衣はリビングを出て、二階にある自室の扉を開ける。
すると、
「アイ姉、バイトするのか?」
部屋の中にいた少年に、いきなり声を掛けられた。
「イオくん、来てたの? …って、勝手に私のゲーム始めてる!」
「いや、これ、オレのゲーム!!」
「今は借りてるから、私のゲーム!」
「何だよそれ、しょーがねーなあ」
悪態を
短く刈り上げられた黒い髪、やや吊り上がった目の生意気そうな男の子。余談ではあるが、身長は既に亜衣を越えている。
亜衣の母親とイオの母親は、最近スーパーで知り合ったママ友だ。夏休みに入った辺りから、両親共働きで留守番の多いイオのことを、時々こうして家に招いていた。
「早く、代わってよ」
「はいはい」
あれは、イオが初めて、亜衣の家にお呼ばれしてやって来た日、
その日のイオは、今時珍しいゲームを
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