第11話 亜衣とイオ

「何これ、鉄砲?」


 亜衣は、モデルガンのような、プラスチック製の鉄砲を興味深そうに眺めた。


 グリップの下から伸びているコードが、ゲームの本体に有線接続されている。


「ガンコン。これをテレビに向けて撃ちまくって、モンスターを倒していくゲーム」


「何それ、面白そう!」


 とは言え、やった事のないタイプの初めてのゲーム。いくらゲーム好きの亜衣でも、最初は少し難しかった。


 何とかクリアは出来たけれど、画面に表示されているのは『ビギナー』の文字。


「ビギナーって?」


「スコアの評価。ビギナーは一番下手っぴってこと。上には『プロ』『マスター』『ライトニング』ってのがあって、オレはマスターだけど、姉ちゃんとは違って…」

「貸して、もう一回やる!」


「え⁉︎」


 イオの説明を遮って、亜衣が右手をグイッと伸ばした。その先には、イオが握っているガンコンがある。


「いや、次、オレの番…」


「いいから貸して」


「は、はい」


 亜衣の強い圧力に屈したイオ。序列が決まった瞬間だった。


 元々、ゲームセンスの高い亜衣。何度目かの挑戦で、画面に表示されたのは『ライトニング』の輝かしい文字。


「え、コレって…」


 思わず亜衣は、亜衣の勉強机で頬杖ほおずえついてる、イオの顔を見た。


「イオくん確か、マスターランクだって言ってなかった…?」


「…言ったよ」


「やった…、やったーー!!」


 その返答に、まるで飛び上がるように立ち上がって、亜衣はガッツポーズで大きな歓声をあげた。


「喜んでるとこ、悪いけどさ…」


 ところがイオは、悔しがるどころか、余裕の笑みを満面に浮かべる。


「難易度ってのがあるんだ」


「…難易度?」


「そう。下から順番に、『ノーマルモード』『ハードモード』『ヘルモード』。そんでもって姉ちゃんは、ノーマルのライトニング。オレはヘルモードのマスターランク」


「…ぐぬぬ。だったらもう一回、今度はヘルモードでやる!」


 しかし結果は散々。最初の一面さえもクリア出来なかった。


 亜衣は一度、大きく深呼吸をすると、ガンコンをゆっくりと床に置く。


 それからニッコリ笑顔をイオに向けると、


「イオくん、これからちょくちょくウチに来るんだよね?」


 グイッと顔を近付けた。


「う、うん。たぶん」


「だったら毎回荷物になるし、このゲーム、ウチで預かっててあげる」


 〜〜〜


「アイ姉も、ヘルモード、クリア出来るようになってきたな」


 遊びから帰ってきた亜衣に交代させられたイオが、現状の亜衣のプレイに素直な感想を述べる。


「でも、毎回ビギナーランク。全然スコアが伸びない」


「このモードになると、安全策で敵を倒してるだけじゃダメだからな」


「…どう言うこと?」


「命中率とプレイ時間だけじゃなくて、カウンター要素も重要になってくるんだ」


「カウンター?」


「そう。敵の必殺の一撃にカウンターを合わせると配点がデカイ。ちょっと貸してみて」


 言われるがままにガンコンを手渡す亜衣。負けず嫌いなだけでは越えられない壁があることは、とっくに理解している。


 イオは実際にプレイをしながら、ゲームのコツを亜衣に伝えていく。


 そうして一瞬つまらなそうに、


「バイト、か…」


 口の中で、ボソリとひとり呟いた。

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