初接続

第13話 初日の朝 ①

 今日は亜衣とお菊の初仕事の日だ。


 亜衣が、二階の自室で、何を着ていくかで悩んでいたら、


「いつまで悩んでるの! 職場体験なんだから制服で良いでしょ! 遅刻するわよ!」


 階段の下から、母親の怒鳴り声が響いてきた。


 お菊との待ち合わせは、市役所の入り口前に八時半。気が付けば、結構ギリギリになってしまっている。


 それに、母親の言い分も確かに正しい。


「あー、もう!」


 亜衣は、壁に掛けてあった制服に慌てて着替えて、ドタドタと階段を駆け下りた。


「ちゃんと、皆さんの言うことを聞くのよ」


「分かってる。行ってきまーす!」


 母親の言葉に振り返りもせずに応えると、急いで玄関から飛び出した。


 市役所までは自転車だ。


 道中、自分だけ制服姿なことを想像して、少し気恥ずかしい気分になった。こんな事なら服装のことも、事前にお菊と相談しておけば良かった。


 自転車を駐輪場に停めて、待ち合わせ場所に駆けていく。するとそこには、既にお菊の姿があった。


「ごめん、待った?」


「ううん。私も今、来たとこ」


 お決まりの消化もシッカリこなし、


「あ、制服!」


 そこで亜衣は、お菊の服装に気が付いた。


「たぶん、そうじゃないかと思ってね」


 お菊は得意げに胸をらす。


 その時、白い半袖ブラウスの襟元を飾る、赤いリボンが小さく揺れた。


 水色チェックのベストとスカートは、暑い夏空の下でも、涼しい気配を漂わす。


 ちなみに、


 亜衣のスカート丈は膝上くらいで、お菊は膝が隠れるくらい。


 だから何だと、言われそうだが。


「じゃ、行こ」


「うん」


 亜衣はお菊の手を取ると、裏手の駐車場へと駆け出した。


 〜〜〜


「二人とも、おはよう。九時からなのに、随分と早いね」


 亜衣とお菊が異世界支援課の事務室内へと入室すると、自席に座っていた佐藤がゆっくりと立ち上がった。


「えへへ、何だか待ち切れなくて」


 佐藤の言葉を受けて、亜衣が少し照れ臭そうに首の後ろをく。


「まあ良いか。今なら皆んな居てるから、この機会に紹介しとこう」


 佐藤は亜衣とお菊に近寄ると、二人に一歩前に出るよううながした。


「今日から一緒に働くことになった、上尾うえおさんと植岡うえおかさんだ。皆んな、よろしく頼むよ」


 そのとき、事務机に座っていた三人が、合わせたように立ち上がる。面識のある水戸を除いて、あとは男性と女性がひとりずつ。


上尾うえお亜衣あいです。マイネームイズ、アイウエオ。皆さん、よろしくお願いします!」


植岡菊うえおかきくです。早く皆さんのお役に立てるように頑張ります」


 そうしてお菊は、ペコリと頭を下げた。


 そんなお菊の挨拶に、「え⁉︎」と亜衣が驚いたような顔をする。


「やる訳ないでしょ!」


 察したお菊が、小声で怒鳴った。


 亜衣が亜衣なのはいつもの事だが、それをお菊に求められてもハードルが高すぎる。


 しかし、それが亜衣だから仕方がない。


 お菊の口からこぼれた溜め息には、少しの諦めと、たくさんの友愛が詰まっていた。


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