第18話 遥かなる異郷 ①

 アイはゆっくりと目を開いた。


 最初に見えたのは知らない天井。どうやらベッドの上に寝ていたようだ。身体に力を入れてみると、問題なくちゃんと動く。ムクリと上半身を起き上がらせると、ちょうどオキクも起き上がったところだった。


「おはよう、オキク」


「おはよう…って、あなた、アイ⁉︎」


 アイのアバターの変貌へんぼうぶりに、戸惑いを隠せないオキク。


「えへへ、やっちゃった」


「やっちゃった…て、佐藤さんに怒られても知らないから」


「大丈夫だって。オキクも、そのネコミミ似合ってるよ」


「う…」


 言われてオキクは赤面する。それから両手で頭を確認すると、確かにそこにある柔らかな手触り。


「ま、まあ、やってしまったことは、仕方がないわね」


「おや、お目覚めだね。どうだい調子は? どこか身体に違和感はないかい?」


 その時ガチャリと扉が開いて、女性の声が響き渡った。部屋に入ってきたのは、小柄だが肉付きの良いひとりの女性。自分たちの母親より、もう少し歳上のように見える。


 二人はベッドから立ち上がり、女性の元へと駆け寄った。


「うん、大丈夫」


「私も特に問題ありません」


「そうかい、それは良かった。それじゃあ改めて…、ようこそ、いらっしゃい。ここはハーラング王国ランカータ市、竜宮市役所ランカータ出張所だよ」


 女性は、満面の笑みで両手を広げる。


「アタシはここの管理を任されている、マルヤってもんだ。まあ管理と言っても留守番くらいで、大したことはしてないけどね」


 それからマルヤに促されて、三人一緒に部屋を出た。外には廊下が横たわり、右奥にはもうひと部屋、左側正面には玄関扉が見えている。


「アタシの部屋は隣りだから、用事がある時は遠慮なく声をかけておくれ」


「分かりました、ありがとうございます」


 揃って頭を下げる二人に向けて、マルヤがニコニコ顔で頷いた。


「それじゃアタシは部屋に戻るけど、後でお仲間さんが表まで迎えに来てくれるから、あんまり心配しなくても大丈夫だよ」


 〜〜〜


 マルヤが部屋に戻るのを見届けて、アイとオキクはお互い顔を見合わせた。


 それから自然と笑みがこぼれる。


「本当に来ちゃったんだ」


「うん、そうね。本当に来ちゃった」


 窓から見える景色は知らない街並み。たくさんの人が歩いてるけど、所々にファンタジーな人種も見受けられた。


「それにしても…、結構思い切った格好ね、アイ。太ももまで出しちゃって」


「え⁉︎」


 言われてアイは、驚いたように自分の身なりを確認する。確かにスカートの裾丈すそたけが、太ももの半分くらいにまでになっている。


「そう言うオキクだって!」


「え⁉︎」


 今度はアイに指摘され、オキクも焦ったように確認する。


 スカート丈に問題がなかったので油断していたが、右側面に、足の付け根に届くような大胆なスリットが入っている。


「な……、何よコレ!」


「オキクはスタイル良いから、カッコよくて似合ってる」


「ま、まさかコレって…」


「戦闘時に動きやすいよう、こちらで微調整をさせていただきました。ですが安心してください。私の威信にかけましても、お二人の下着を晒すような真似は致しません」


 そのとき、突然オキクの足下に現れた純白の天使に、アイの理性が吹き飛んだのは言うまでもない。

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